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無限ワールド  作者: 水原まき
第9章 そんな穏やかな日々…
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そんな穏やかな日々…2

そんな穏やかな日々…2







「ないわね。彼のあの思考は、最初から持っていたものよ」

 カイキの希望を打ち砕くかのように、雪乃はバッサリと断言した。

 ゴードンがバケモノ化してしまい暴走のきっかけとなってしまったのは『カケラ』の力が及ぼす影響だが、人格そのものを狂わせてしまう……そんな力はない。

 彼が放った発言や態度は、間違いなくもともと心の中に潜んでいたゴードンとしての感情だ。


『そう、ですか……』

 雪乃の返答に、カイキは気落ちした様子で肩を落とす。

『……姫は、競売のことや水守が捕えられているということを、以前からご存じだったのすか?』

「だから姫言うなっての。てか、ひとつじゃなかったのかよ」

 平然と続けられる質問に、雪乃は眉を寄せる。

『別にいいじゃないですか。それで、どうなんです?』

 再度、寄こされるカイキの問に、

「まぁ、知ってたといえば知っていたと言うか……」

 雪乃はイッサーの銀糸の髪を指先に絡めくるくると弄びながら、迷いの残る声で言った。


「ママ。しってたの?」

 水守が、こてりと不思議そうに首を傾ける。

『どうやって、知ったんですか?』

 カイキが、さらに聞く。

「……視えたから」

 正直に、答えた。

 主語が抜けきった言葉だったが、何を視たのか、カイキはちゃんと理解したようだった。

『予知、ですか……』

 難しそうな顔で呟くカイキに、まぁね、と雪乃は小さく笑う。

 雪乃には、己の意思とはまったく関係なく、未来の一端を視てしまう現象が起こってしまうことを、彼は知っている。


「水守ちゃんが捕えられているのが視えた時、見覚えのあるクマのぬいぐるみを持ってたからね。だから、あんたの世界で起きる未来だって思ったの」

 雪乃は、カイキの背後に置かれているクマを見る。

 ふわふわ毛並みが抱擁を誘う、円らな瞳を持つぬいぐるみ。

 カイキの自室にはやや不釣り合いなアイテムだが、これは雪乃が気まぐれに置いた物に他ならず、それを水守が抱いていたおかげで場所の特定をすることができた。

 まさかぬいぐるみに『カケラ』が宿っていたことは、実物を見るまでわからなかったが、未来予知が、雪乃の動くキッカケになったことは、間違いない。 


『……なるほど。だからあの時、水守のことを聞いたわけですね』

 カイキは、テラスでのやり取りを思い出したのか、納得した様子で言った。

「そ。場所はわかってたんだけど、日時まではわからなかったからね。ただ、幸いにも水守ちゃんたちが日数の会話をしているのが視えたから、そこから逆算して色々と動いてたわけ」

 雪乃はもたれ掛かっていたイッサーから身体を起こし、アイスコーヒーへと手を伸ばす。

 ストローをくわえ一気に吸い上げると、独特の苦味とほのかな酸味が口いっぱいに広がる。

『……つまりユキは、事態を事前に知っていながら知らないフリをしていた、というわけですね』

 カイキが、目を曇らせた。

 彼の言いたいことは、よくわかる。

 雪乃は引き起こされる未来の断片を視ていながら、水守が最終的に城内で暴れ回るまで黙っていたのだ。

 それは、避けられるべき惨劇を放置した、ということにも取れる。


「そうね。どう解釈してもらっても構わないわ。あたしは、あたしの仕事をしただけだから」

 雪乃はすました顔で言う。

 物事には、準備や順序というものがある。

 緊急だからと言って、策もなく闇雲に走ればいいというわけでもない。

 雪乃は円滑にことを進めるため、逆算しながらスケジュールを組み『カケラ』の回収を優先させただけだ。


『しかし、もっと早くに話してくれてさえいれば被害の拡大を阻止できたはずですし、ゴードンだってあんなことにはならなかったかもしれません……』

「『かもしれない』話しをしても、意味ないと思うけど?」

『それは、そうですが……』

 雪乃のようにばっさり切り捨てることが出来ないのか、カイキはグダグダと不満を述べる。

 仕方なく、雪乃は水守に向き直る。

「ねぇ、水守ちゃん。水守ちゃんは、あたしが知っていたにも関わらず見て見ぬフリされて、イヤだった?」

 なんて尋ねてみると、

「ううん。みもりね、へーきだよ。だってみもりは強いし、ママがぜったいに何とかしてくれるって、思ってたもん」

 にこっ、と屈託のない、春に咲き誇る野の花のような微笑みで水守は答えた。

「ほら、見なさい!何この天使!こ~んな小さな子が大人の寛容さを見せているのに、年上のあんたがそんなみみっちいこと言ってて、どうするのっ」

 少しは見習え。

 そう諭す雪乃にカイキは首を傾げ真面目な表情で、

『ですが水守って結構、長生きじゃ……』

 そう、のたまった。

「あん?」

 ギロリ、と雪乃の双眸が鋭利に光る。

『! い、いえ、何でもありません』

 カイキは焦ったように、手をパタパタと振る。


 その時。

 ――――コンコンコン。

 ノック音が、カイキの方から聞こえた。

『カイキ様』

 ドアの向こうから寄こされる声に、呼ばれた本人はハッとして、息を呑む。

『カイキ様、少しよろしいでしょうか?』

 応答を望む、声。

『あ、ああ。わかったが、ちょっと待て!』

 ドアの向こうにいる魔族へと、慌てたようにカイキは叫ぶ。

 今、雪乃とこういう形で話している場面を見られるのは、マズイ。

 何と言っても、別の世界から話しをしているのだ。


「やっぱり、何だかんだで忙しそうじゃないの。お仕事の邪魔をしちゃ悪いから、続きはまた今度にしましょう」

 おたおた、と動揺しまくっているカイキに向けて、雪乃は切り出した。

『えっ。待って下さい。話しはすぐに終わらせますから……』

 ここで切られては、今度がいつ訪れるのかもわからない。

 カイキは、必死に会話を続けようとする。

 けれど雪乃に、もう話しを続ける意欲はなかった。

「じゃあね、カイキ。王様業ちゃんとサボらずやるのよ~」

『いや、あのちょっと!』

 ここぞとばかりに言い放ち、驚いた顔で声を発するカイキに構わず、指を、パチン、と鳴らす。

 それを合図に、映像がプツリ、と消えカイキとの繋がりが消滅する。


「はぁ~~。ったく。やっと終わったよ……」

 雪乃はぼすり、とソファに背を預け、天井を仰いだ。

 大事な話しは終わっていないものの、取り敢えず本日の押し問答のような会話を終了することは出来た。

 ほぼ、強制終了に近い状態での別れに、次に会う時が何だか今から気が重くなってくる。

「何だ、今まで話しが続いてたのか?えらく時間がかかったな……」

 背後のドアが開く気配が生まれ、一息ついていた雪乃の耳に、シャワー室から出て来た遠矢の声が届いた。

 首を巡らせ声のした方へと視線を流せば、上半身に何も纏わず首からタオルをかけたままの状態で、遠矢が立っていた。








ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

雪乃が『未来予知』という特殊スキル所持者であることが、発覚しました。

といっても、好きに視えるわけではないのですが。



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