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無限ワールド  作者: 水原まき
第9章 そんな穏やかな日々…
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そんな穏やかな日々…1

そんな穏やかな日々…1







「だ~か~ら~。話しは後日、ちゃんとするからって言ったでしょうっ。ホント、しつこいなぁ!」

 コの字に曲がった白のソファの上で、隣に座っているイッサーに寄りかかっていた雪乃は、苛立たしげに言い放った。

 雪乃に体重を預けられているイッサーは、不機嫌な彼女を気にする風もなく優雅に紅茶の入ったカップを口元へ運び、飲んでいる。

 その姿は、どこぞの貴族のように優美だ。

 今、雪乃たちがいる場所は、カイキの世界からもセツナの世界からも遠く遠く離れた別の世界にある、城い壁紙に囲まれた、一室。

 さほど広くない部屋の中にはソファの他にガラステーブルや壁掛けテレビ、腰の高さほどの棚が置かれ、小さなリビングのような空間が出来上がっていた。

 

『あらかた仕事は片付けましたし、ユキも時間はあるのでしょう?別にいいじゃないですか……』

 己の感情を隠しもせず不機嫌さを表へ出し続ける雪乃に、カイキはどこか拗ねたような口ぶりで返してきた。

 雪乃の眼前に表示されている、厚紙一枚分ほどの厚さを持った半透明なパネル。

 その中に、カイキは映像となって映っていた。

 雪乃の見やすい位置を保ち、空中に浮遊している映像は、言わばテレビ電話のようなもの。

 雪乃の力によって生み出されたそれは、異世界と異世界を繋ぎ言葉を交わすことを可能とした。

 そして今、映し出されている彼との会話は、かれこれ15分ほど続けられている。

 その内容は『黒異の門』(こくいのもん)を開いてくれ、という要望で、つまり雪乃と会って話しがしたい、という申し出だった。

 話しの内容は、もちろんゴードンの身に起こったことについて、だ。

 別れ際、詳細は後日、と言ってしまったがために、カイキの追及は執拗なまでに続いている。


『今からでしたら、少し抜け出す時間があるんです』

 お願いします、とカイキは手を合わせ懇願する。

「話しだけとか言って、こっちに来た途端、何だかんだで絶対に長居する気でしょ。あんた」

 雪乃の指摘に、

『そっ、それは……』

 思うところがあったのか、カイキは口ごもる。

 彼が、あらかた仕事を片付けたと言ってもゴードンの後始末は色々大変なはずだ。

 そんな中、城を長時間も留守にすることに、あまり賛成できない。

 もう少し落ち着いてからでも、いいだろう。

 雪乃はそう判断したのだが、どうやらカイキはお気に召さないようだ。

 何度も要求を繰り返すカイキと、断り続ける雪乃との押し問答はいっこうに終わりを見せず、だらだらと続けられている。

 いい加減、面倒臭くなってきた。

 一方的に会話を切ろうか。

 そういう思いが雪乃の心に生まれたまさにその時、小さな声が上がった。


「ねぇねぇカイくんカイくん。みもりね、そろそろあきらめたほーがいいと思うんだ。じゃないと、ママが怒ってつーしん切っちゃうんじゃないかなぁ?」

 水守が、可愛らしい声音で口を挟んだ。

 その声を受け、雪乃がちらり、と視線を向ければ、深々とソファに座りながらも、何もすることがなく手持ち無沙汰な様子で足をプラプラさせている水守の姿が目に付いた。

 用意していたジュースはすべて飲み終え、空になったお菓子の袋がテーブルの上に並んでいる。

 先ほどから幾度となく繰り返される会話に辟易しながらも断固として譲渡を許さない雪乃と、それに負けじと食い下がるカイキ。

 お互いが己の主張を緩めないがためにまったく進まない展開に、すっかりやることがなくなってしまった彼女は、飽きてしまったようだ。


「ほらね。水守ちゃんもこう言ってるんだから、今日は諦めて自分の仕事に……」

『私は、自分の部下が起こした不祥事の詳細を、早く知りたいんです。直接会って、説明して下さい』

 水守を味方に付けさらに言葉を続ける雪乃に、真剣な表情を浮かべたカイキが遮った。

「何度も言うように、説明はするって言ってるでしょ。あんたは腐っても王様なんだから。捕まえた魔族たちから、競売のことをちゃんと聞いて彼を処罰するのか先でしょう」

 画面の上から、こつん、とカイキを突く。

 ゴードンの身体に宿っていた『カケラ』を回収し、魔族による人間の人身売買が行われていた会場の場所を教えたのが、三日前。

 無事に保護された人間たちから詳しい事情を聞く、と話していたのが、二日前。

 

 捕らえられた水守が暴れたことにより、暴露されたゴードンの所業と哀れな末路。

 さすがの魔族たちの間にも驚きや動揺が駆け巡り、一通りの指示はすでに出し終えているのだろうが、騒動の熱はまだ冷めてはいない。

 

 混乱は、未だくすぶっている。

 まずは、そちらを優先するべきだ。

 もしもそんな状態でカイキをこちらへ出迎えでもしたら、留守を知った家臣たちから、後日、グチグチと嫌味を言われるに違いない。

 それは――――ひどく面倒くさい。


『わかっています。今、捕えた魔族たちから詳しい話しを聞いている最中なので、それが終わり次第彼らを処分するつもりです』

 カイキは、こくり、と頷く。

 競売に直接的な関わりを持っていた貴族は10数人にも及んでいるらしく、カイキが名を知る者も多かったと言う。

 このことから、実は上流階級に身を置く魔族の間では、密やかにではあるが競売がかなり浸透していたようで、一種の嗜みのような扱いになっていたらしい。

 よくぞ今まで表に出ず、隠されていたものだ。

 これまで犠牲となってしまった人間たちのことを思うと、何ともやるせなさが残るものの、これ以上の被害が出ないようにしただけで良しとするしかない。



(とか思いつつ、適当な落とし所を見つけ終了、って可能性もあるのよね……)

 雪乃は内心で囁く。

 ここまで貴族連中が関わっているとなると、追求すればとんでもない大物へと繋がる可能性もある。

 カイキは芋蔓式に捕えるつもりでいるようだが、貴族たちがペラペラと喋るとは限らないし、彼らの間には嘘で固められた関係、というものもある。

 もし、深淵で蠢く真の闇があったとしても、そこへ辿り着くのは難しいかもしれない。

 どちらにせよ、後はカイキが片付けるべき仕事であり、雪乃がどうこう言って関わるべき問題ではない。


『ユキ。ひとつ、お伺いしてもよろしいですか?』

「……ん?」

 唐突な問いかけに、考えに浸っていた雪乃の意識は引き戻される。

『ゴードンの身体から『カケラ』が出て来たと伺ったのですが、本当ですか?』

「あ~。まぁ、そうね」

 雪乃は、知っていたのか、と内心で呟きながら、曖昧に頷く。

 『カケラ』を回収する時、カイキはその場にはいなかったはずで、雪乃も言う必要はないと思っていたのだが、どうやらカイキの耳に入ってしまったようである。

 遠矢あたりが伝えたのかもしれない。

『となると、その悪影響でゴードンは姿のみならず、人格までも変わった、ということはないのですか?』

 カイキは、一縷の望みを期待するかのように、言った。








ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

いきなりですが、城での騒動からすでに三日ほど経過してます。

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