スノーシェリカ城の解決11
スノーシェリカ城の解決11
「ママー。クマさん、みつけたよ~」
ぬいぐるみをぎゅっ、と抱きしめ、ホクホク顔で笑う水守がカイキと入れ違うように、戻ってくる。
多少、土をかぶり汚れてはいるけれど、水守がお気に入りとしているクマのぬいぐるみが、円な瞳で雪乃を見つめていた。
このぬいぐるみは、確か雪乃がカイキに押し付けた物、だった気がする。
「水守ちゃん、ちょっとそれ貸して」
雪乃が手を伸ばし、クマのぬいぐるみを求める。
「え……うん。いいよ?」
こてり、と首を傾げながらも、水守は抱いていたクマを渡す。
雪乃は、ありがと、と短く言いぬいぐるみを受け取ると、撫ではじめる。
「んで。これから、おれたちどうすんだ?」
遠矢はガシガシ、と頭をかきながら、雪乃へと近寄る。
たいした活躍の場も与えられないままに幕を下ろされ、何となく不完全燃焼感のようなものが遠矢の胸に漂うが、カイキと別れたのだから、これ以上、城のいざこざに関わるつもりはないだろう。
水守が望む通り、どこかの家に帰るつもりなのだろうか?
「ん~。帰るよ?取り敢えず、一段落着いたしね。あんたたちに頼むような仕事も終わったし、寝るなり遊びに行くなり、好きに過ごして構わないわよ」
「好きにって言われても……。『カケラ』はどうすんだよ……」
まだ、すべて集まっていないのだ。
『カケラ』が『コア』にならない限り、遠矢の世界は絶望のまま。
そんな中で、寝るなり遊ぶなり自由だ、と言われても、呑気に休みを満喫するなど出来るはずがない。
「そこから先は、あたしの仕事だって言ってるの。もう遠矢くんたちにやれることなんて微塵もないんだから、適当にゆっくりしてな――――っと、あった」
言い終えて、雪乃はぬいぐるみを撫でる手を止めた。
開かれた掌の中には、キラリ、と赤く輝く小さな結晶がひとつ――――――――
「え~。そんなとこからかよ……」
がっくり、と遠矢は膝を折り、項垂れる。
まさか、そんな場所から残りの『カケラ』が出てくるなんて。
水守とここで再開しなければ、『カケラ』の回収がもっと遅くなっていたに違いない。
いや、もしかしたら――――。
「お前、水守がここにいることとか『カケラ』を持ってることとか、知ったのか?」
ふと生まれた疑問を、投げかけた。
水守が城で暴れていることを事前に知っていたからこそ、自分はこちらの世界へ飛ばされたのではないだろうか。
「ムフフフフ。あたしって、すごいでしょ~」
雪乃は口元を押さえ、意地の悪い笑みを浮かばせる。
「………………」
一体、何を知って、何を知らなかったのか。
はたまた、すべてお見通しだったのか。
ご満悦の表情のままゴードンの方へ歩き出した雪乃の後ろ姿から、それらを察することは、出来ない。
何だか、雪乃の手の上で転がされているような気になって、遠矢は複雑な思いに駆られる。
ゴードンの右腕が消えた辺りにまで近付いてしゃがみ込むと、土の上から何かを拾い上げるような仕草を見せた。
「それで、ここにあるのは全部か?」
イッサーの問いかけに、
「うん。これで全部」
雪乃が、答えた。
「うぇ?もしかして、ゴードンにも『カケラ』が宿ってたのか?」
「ピンポーン。右腕の中に入ってたから、イっちゃんにバッサリいってもらったの」
さらり、と述べる雪乃に、遠矢の頬が引き攣る。
ということは、雪乃が投げ放った腕がまばゆい光を発しゴードンの目を焼いたのは『カケラ』の力、ということだろうか?
「それってさ、あいつがおかしくなった原因は『カケラ』にあるってことなんじゃないのか……?」
「ふむ。まったくない、とは言えないわね」
遠矢の述べた可能性を、雪乃は否定しなかった。
『カケラ』とはいえ、その内に宿るモノは雪乃の強大な力だ。
別の生命体に異変が起きても、何ら不思議ではない。
遠矢の脳裏に、『やっぱり魔族だと、遺伝子の書き換えも早いわねぇ……』と呟いた雪乃の声が再生される。
あの言葉は、そういうことだったのだ。
「カイキに、どうやって説明すんだよ……」
遠矢は、深いため息を吐く。
『カケラ』さえ宿していなければ、ゴードンは命を失わずに済んだかもしれないのだ。
「あんたが気にすることじゃないわよ」
「………………う、ん」
わかっている。
自分が気にしたところで、どうしようもないことくらい。
けれど、迷惑をかけてしまったことは事実で――――
後日の説明が永遠に来なければいいのに。
遠矢はそう本気で思い、『カケラ』が集まったにも関わらず重苦しい気持ちを拭うことが出来なかった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
ゴードンの豹変は『カケラ』の影響を受けた故、でした。
夏祭りの会場で会ったバケモノと一緒、ですね。
遠矢くんが後味の悪さを感じている所ではありますが、第8章はこれで終了となります。




