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無限ワールド  作者: 水原まき
第8章 スノーシェリカ城の解決
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スノーシェリカ城の解決10

スノーシェリカ城の解決10







 カイキの瞳は、揺れていた。

 それは得体の知れないバケモノへとなってしまってもなお、家臣を心配する王そのもので、彼の心情を思うと、さすがの遠矢も同情めいた感情が胸を巡る。

「……ゴードン。これ以上、城の被害を拡大させるわけにはいかない」

 静かだが、自分を押し殺しているような声でカイキは言った。

 戸惑いや迷いはあるけれど、このままゴードンの暴走を許すわけにはいかない、と決断したようだ。

「俺が、楽にしてやる」

 言うと同時にカイキは走り出し、ゴードンを見据えたまま詠唱をはじめた。

 だが。

「止まれ!」

 ゴードンの元へ飛び込んで行ったカイキを、雪乃の制止が飛んだ。

「っ!」

 叱責にも似た声に、びくり、と肩を震わせて、カイキは足を止める。

 何故、と神妙な面持ちで振り返る彼を無視し、雪乃はゴードンを見る。

「ァ、キザマ……ヨグモッ……」

 ドクドク、と血が流れる中で、切れ切れの息でゴードンは声を絞り出す。

 イッサーと遠矢の攻撃を受けたゴードンは、未だに闘志を燃やしているものの、再び空へ舞い上がる体力は残っていないようだ。

 

 あまりの痛々しい姿に、カイキはぎゅっ、と拳を強く握る。

 もはや、虫の息。

 雪乃は、ゆったりとした足取りでゴードンの前に立ちふさがると、深紅の瞳に力を込める。

 どうするつもりだ、と遠矢が固唾を飲んで見守る中、雪乃の唇が音を発した。


「ゴードン・エーデ・ファーネス。お前の存在を、消去する」

 歌うように滑らかに。

 静かでいて、どこまでも通り抜ける荘厳な声色で『死』を宣告した。

 その瞬間、ゴードンの身体の消滅が、はじまった。

 さらさら、と砂塵が風に流れて行くように、ゴードンの身体と切断された腕が、あっという間に溶け消えていく。

 それはまるで生命体が消されている、というよりも、データが消滅されているような、そんな不思議な感覚が胸に生まれてくる。

 だが、たとえそう思ったとしても、微塵と化していくゴードンは生命を奪われているのだ。


「………………」

「………………」

 何て、呆気のない最期なのだろう。

 あれだけ絶叫し、届かない怒気を散々バラまいていた男は塵のごとく消え去り、信じられないことに、もうこの世に存在しないのだ。

 しん、と静まり返った中庭に、不自然なほど溜まっている鮮血とゴードンの所有する剣だけが、つい先程までここに彼が存在していたことを証明するもので……。

「ゴードン……」

 カイキが、小さく呟く。

 嘆きと忸怩を孕んだその声に、遠矢は、何故か居たたまれなかった。

 

「ねぇ、ママ。トドのおじさん、死んじゃったの?」

 トテトテ、と雪乃に近寄る水守が、純粋なまでの疑問を口にした。

「おう。終わったぞ」

 くしゃり、と頭を撫でながら、雪乃はにっこり笑って答える。

「ほんと~。ママすごいね!」

 目をキラキラと輝かせ、水守が羨望の眼差しを向ける。

「そーだろそだーろ」

 ひどく満足げに、雪乃は頷く。


(おいおい。少しは気を使えってのっ)


 カイキのすぐ傍で繰り広げられる無神経なやり取りに、遠矢は内心でひやり、とする。

 雪乃の無神経さは今にはじまったことではないけれど、空気を読まないにも程がある。


「イっちゃんも、ご苦労さま。すごくカッコよかったよ♪」

「ああ」

 にへら、と破顔する雪乃に、イッサーはいつもの調子で短く返す。

「水守ちゃんも、たった一人でここまで逃げてくるなんてエライわ。よくやった」

「ま~ね~」

 水守はその小さな胸を張り、えっへん、と鼻高々と言った様子を見せる。

 三人の間に、ほんわかとした雰囲気が漂いはじめる。

「待て、コラ。おれに労いの言葉はねーのかよっ」

 自分そっちのけで和む三人に、遠矢はズカズカと歩を進め割って入る。

「俺だって、城の中を走り回ったりしてたんだからな。美味しいところ、全部持っていきやがって」

 遠矢は、突然と姿を現し、一番目立つ場面を掠め取っていった雪乃に対し、面白くなさそうな表情を向ける。

「わかってるって~。遠矢くんが先に来てくれてたおかげで、あたしがスムーズに動けたんだもん。感謝してるよ?」

「……ホントかよ……」

 取って付けたような雪乃のセリフに、うんざり感は拭えないものの、これ以上続けても単なる体力の無駄遣いにしかならないことをわかっている遠矢は、仕方なく口を閉じる。

「ねぇママ。みもり、おウチに帰りたい。もう、おウチに帰れる?」

 水守が雪乃の服を引っ張りながら、帰宅をせがむ。

 監禁状態からの脱出と城の中での暴走が合わさって、疲れてしまったようだ。

「もちろん。すぐに帰れるから、落としたクマさん拾っておいで」

 雪乃が優しく答えると、

「あ!そーだ。クマさんっ。わすれてた!」

 ハッとして、水守は落としたクマのぬいぐるみをキョロキョロ、と探し出し、転がっているクマを見つけると、拾いに走り出す。


「ユキ……。あの、ゴードンのことなんですが……」

 オズオズ、とカイキが口を開いた。

「ちょい待ち」

 けれど雪乃は、続く会話を腕を上げて止めさせた。

「聞きたいことがいっぱいあるのはわかるけど、まだやることがあるから詳しい話しは後日にしてちょうだい」

「後日って、そんな……」

 眉を潜ませ、どことなく不満を宿したカイキの声が響く。

「あんただってやらなきゃいけないことが、まだあるでしょう?」

「……………………」

 ゴードンの暴走は止めたが、それ以外の騒動はまだ続いている。

 今は、城のあちこちで燻っている術から生まれた二次災害を消す方が先だろう。

 話しは、いつでも出来る。

「そう、ですね……。わかりました。私は、城の様子を見に行きます。ゴードンについては、後日改めて、絶対に教えて下さいね!」

 カイキはこくり、と頷き了承すると、念を押すように言ったのち、踵を返し中庭から走り去る。

 その背中には後ろ髪を引かれるような迷いはなく、王としての責務を全うすべく立ち向かう、男らしさが滲んでいた。








ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

何だかんだとぐーたらしながらも、最後は雪乃がちゃんと決めました。

美味しいところを掠め取った感は、凄まじいですが。笑。


そして、カイキとはここでお別れです。

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