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無限ワールド  作者: 水原まき
第8章 スノーシェリカ城の解決
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スノーシェリカ城の解決7

スノーシェリカ城の解決7







 引き抜かれた長剣は太陽の光を反射させ、血を求めるかのように、ギラリと鋭利に輝く。

 それを合図に、己の存在意義を取り戻した兵士たちがゴードンにならえ、と剣を構える。

 再び漂いはじめた険悪な空気に、イッサーはやおら身を動かし雪乃との距離を詰め、いつでも飛び出せるように戦闘態勢へと入り、遠矢の身体も自然と引き締まる。


 数では負けているが、水守を戦力に加えなくとも、戦力はこちらが圧倒的に上だ。

 制圧するのに、時間も労力もさして使うことはないだろう。

 ただ、ここはカイキの実家で国の象徴というべき場所だ。

 その中で血生臭い騒動はあまりよろしくない気もするのだが、剣を抜いた側が穏便に対処する気がないのならば、ある程度の被害は、もはやは仕方があるまい。

 遠矢にとってもっとも重要なのは、雪乃に降りかかる目障りな存在を排除することだけなのだ。



「あら、いいの?あたしに剣を向けたら、カイキが黙っていないと思うけど?」

 殺伐とした雰囲気を撒き散らしはじめた魔族たちに、雪乃は言った。

 何たって雪乃は、カイキが想いを寄せる相手だ。

 一戦交えるようなことになれば、カイキは激怒して家臣たちを叱責するだろう。


(そういえば、カイキの奴はどこにいるんだ……?)

 雪乃が現れたというのに、未だその姿はない。

 行動を共にしていたのでは、ないのか?

 今さらのように、遠矢は疑問に思う。

 彼さえこの場にいれば、無駄な力を使わずに事を鎮められるというのに……。


「ふん。残念だったな。貴様の頼みの綱であるカイキ様は、今ご不在だ!お前のたちのことは、城を襲った極悪人が故、適切に処置した、と後で報告しておいてやろう」

 カイキの行方について困惑していた遠矢の耳に、勝ち誇った笑みを浮かべたゴードンが疑問の答えを言った。

 だが、

「ぷっ。くくくっ。あんたって、ほんと~にバカよね。くくくくっ」

 雪乃は空いている片方の腕で軽くお腹を押さえ、失笑した。

 よほどおかしいのか、肩を小刻みに震わせている。

 そんな雪乃を、水守がきょとん、と不思議そうに見つめている。

「どういう意味だ?」

「このあたしが、何の準備もしないでこんなところに来るわけないでしょう?もうすでに、舞台は整っているのよ」

「何だと……?」

 ワケがわからず当惑するゴードンに、笑いによって引き起こされた潤んだ瞳を細めながら、雪乃は満足げにその唇を動かして、こう言った。

「あんたの大好きなご主人様は、はじめからここにいるのよ――――ねぇ、カイキ?」

 ゴードンに向けて語りながら、雪乃は途中で視線を銅像の方へと注ぎ、最後に最も重要な男の名を呼んだ。


「…………え……?」

 雪乃の呼びかけにいち早く反応し声を上げたのは、呼ばれた本人ではなく、ゴードンだった。

 息をのみ、動揺するゴードンの目線の先――――猛々しく佇む男の像の後ろから、ゆっくりとカイキが姿を現した。

「………………」

 唇を固く結び睨み付けるように、カイキはゴードンを直視する。


「か、かいき……さまっ」

 ゴードンは驚愕と畏怖の入り混じった表情で唇を震わせ、一歩、後ろへと下がる。

 成り行きを黙って見守っていた兵士たちは、突然の王の登場に、緊張と動揺を稲妻のように走らせ、慌てて剣を下ろして礼を取る。

 そんな兵士たちを一瞥し、一歩、また一歩と踏み出すカイキ。


「ひぃ……」

 ゴードンは喉の奥を鳴らし、先ほどまで雪乃に向けていた憤怒をすべて吹き飛ばし、今にも失神しそうなほど青ざめた顔で、手から剣を落とした。

 ゴードンと同様に、とまではいかないけれど、突然と姿を現したカイキに、遠矢も目を瞠る。

 彼が像の後ろに潜んでいたことに、今までまったく気付かなかった。


「お前が人間を毛嫌いしているのは十分に理解していたつもりだったが、人間を『奴隷』として売買し、私腹を肥やしていたとはな」

 カイキは胸を詰まらせながら、言葉を絞り出す。

 傍にいて彼の本心を見抜けなかったことに対し、苦渋の表情を浮かべている。


 カイキは、雪乃を快く思っていないことや人間に対する偏見の目は、時が経てば色を変え、和解するだろう、と漠然とした期待を抱いていた。

 それが、身近な存在によって打ち砕かれたのだ。

 彼の衝撃は、相当なものだろう。

 

「ち、違いますっ。誤解です!」

 ぷるぷる、と首を小刻みに横へと振りながら、ゴードンは悲鳴にも似た声で言った。

「何が誤解なんだ?私はこの目で確認したぞ。仮面を付けた魔族たちの集まりと、囚人のように檻に閉じ込められた人間たちの姿を」

 弁解など許さない。

 カイキの強い双眸が、そうゴードンを射抜いている。

「あ、ああっ。地下で行っていたことでしたら、実は私も最近知ったばかりのことで、只今、部下に調べさせているところです。報告はまだ上がっておりませんが、おそらく計画性はないかと……」

 もはや誤魔化せないと踏んだのか、ゴードンは手法を変えてきた。

 自分も認識はしていたが、無関係。

 彼は、そう主張をはじめたのだ。

 しかし苦し紛れのつまらない言い訳にしか聞こえず、無関係の遠矢ですら、心が急速に冷えていくのを感じる。

 何て見苦しく、滑稽なのだろう。


「よく言うね。パンフレットも配って、ずいぶん前から豪勢にやってたくせに」

 ゴードンの言い訳に心底呆れた雪乃が、やれやれ、と嘆息する。

「貴様は黙っていろ!」

「黙るのはお前だ、ゴードン。言いたいことがあるのなら、後でするがいい。お前たち、牢に連れて行け!」

 騒ぐゴードンにぴしゃり、と言い放ち、後半を兵士たちに向け命令を下す。

「か、カイキ様っ。本当に違うのです!」

 あわてて異を唱えるゴードンの傍らで、突然下された幽閉の命令に兵士たちは、困惑した表情で顔を見合わせる。


「何をしているっ。早くしろ!」

 苛立った様子でまくし立てるカイキに、けれどいち早く動いたのは兵士ではなく、ゴードンであった。

「く、くそっ!」

 このままでは捕えられる。

 その焦りから、乱された彼の頭が取った行動は、

「フリーズ・アロー!」

 術を発動することだった。

 触れた物を凍結させる氷の矢が冷気を帯びて、一直線に雪乃の方へと飛びかかる。


「ゆ、ユキ!」

 カイキの、驚いた声が上がる。

「ふん。くだらない」

 けれど呼ばれた当の本人は、自分の方へと飛んでくる術を慌てることなく見つめ、水守を抱えたままひらり、と身を翻し、それを難なく回避する。


 パキィィィン!


 標的を失った矢は、中庭の木々に直撃し、葉の先まですべてを凍結させた。

「ゴードン、お前は何てことを!」

 直撃を防いだ雪乃にホッと安堵した様子を一瞬だけ見せたカイキは、すぐに表情を引き締めて声を荒げた。









ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

ようやくカイキが像の裏から出てきたので、途中から視点を彼に変えようかなぁ、とも思ったのですが、結局遠矢くんのままになりました。

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