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無限ワールド  作者: 水原まき
第8章 スノーシェリカ城の解決
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スノーシェリカ城の解決6

スノーシェリカ城の解決6







 追及者が水守から雪乃に変わっても、ゴードンの(かたく)なな態度に変化はなく、雪乃の目がスっと細められる。

「あたしを、そこらへんにいる人間その1と同じだとは、思わないほうがいいわよ?」

 やや声を絞り、雪乃が言う。

「何だと?」

「あたしは、ちゃんと知ってるんだからね」

「………………」

 くいっ、と口角を持ち上げニヒルな笑を浮かべながら意味深な言葉を紡ぐ雪乃に、ゴードンの眉根に深いシワが刻まれる。



(うわ。奴隷とか、なんかすげぇ話しになってんなぁ……)



 目の前で飛び交う奴隷や競売という言葉に、状況がまったく掴めないでいる遠矢は、不謹慎と思いながらもムクムクと湧き上がる興味を抑えられないでいた。

 やはり、自分の把握していないところで、重大な事件が発生しているらしい。

 『カケラ』に引き続き、またしても隠されていた事実の暴露に、しかし遠矢は不満を抱くことを通り越し、野次馬根性のようなものを心に芽生えさせていた。

 それはお昼のワイドショー番組にかじりつく主婦さながらで、これから先の展開を固唾を飲んで見守っている。


「はは。ワシはよく知らぬが、人間が奴隷として魔族たちに売買されていた、だと?……たとえそうだとしても、それがなんだと言うのだっ」

 これまでの、ただ否定し続けるだけだったゴードンの対応が、変わった。

 承知していない、という立場は変わらないものの、魔族の行った行為について、特に心を痛めた風もなく、くだらない、とゴードンは撥ね退ける。

 

 周りに集う兵士たちも、雪乃のセリフに驚いてはいるようだが、この場での自分の役割というものを完全に見失い、どうしたものか、と手を拱いている状態で、ゴードンの感覚に異を唱えている、という風ではない。


「なるほど。人間は、愚鈍で低俗な種族。『道具として使って何が悪い』ってのがあんたの考えってわけね」

「ふん。ワシだけではなく大勢の魔族が、そう思っておるわ。歴史的に見てもそうであろう」

 まったくの迷いを見せず、ゴードンは述べる。

「未だにそんな考えを持つ魔族が多いことは理解しているし、今、この世界がそういう思想で成り立っているとしても、それが今のシステムなら、あたしが口を挟むことではないし、どうこうする気もないわ。城を好き勝手に使うあたしのことを嫌うのも、別に構わないわ」


 雪乃の緋色の瞳の中に妖艶さが宿り、空気が冷たくなっていくのを感じた。

 怖いくらいの静寂が、周囲を包み込む。

 息巻いていた魔族たちも雪乃の放つ異様な雰囲気に呑まれ、動揺が走っている。


「だけどね、捕えられた水守や奴隷として売られようとしている人間を目の前で見るのは、とても不愉快なのよ」

 感情を伴わない冷静な声が、逆に遠矢の心を震撼させる。

 これは、かなりご立腹だ。

 遠矢は、雪乃から滲み出る静かな怒りを感じ取り、ぶるっと身を震わせた。

 


「黙れっ。人間を奴隷にして、何が悪いというのか!我らは、貧弱で愚図で無能で人間たちを使ってやっているのだぞっ!」

 完全にこの場を支配してしまった雪乃の傲慢な態度に、我慢の限界に達したのだろう。

 ゴードンは、一気にまくし立てた。

「そうだとも、まともに魔族社会に対応できない人間など家畜以下だっ。我々が好きに使うのは、当然だろう!」

 理性のタガを外し、本性丸出しの感情で、肯定した。

「む~。やっぱりトドのおじさん悪い人だ~」

 認めたゴードンに、水守が再び騒ぎ出す。

「うるさいぞ!問題でもあると言うのかっ」

「貴方たちは問題ないと思ったから、城のメイドや街の人間を攫っては売買してたんでしょ?特に、若い女性が多く誘拐されてたみたいだけど」

 水守の背中を撫で、落ち着かせながら雪乃は続ける。

「人間の女は、目を離すとすぐに子どもを産むからな。これ以上、無能な人間が増えぬように数を管理するのも、我らの仕事だ」

 にやっ、とゴードンは下品に笑う。


(サイテーだな、こいつ……)

 遠矢は、心の中で呟く。

 カイキが、人間と魔族との間にある確執を、必死でなくそうと奮闘しているその最中で、側近のこの発言。

 それはすなわち、主の行動を蔑ろにしているに等しいということを、ゴードンは気付いているのだろうか……?

 いや、ゴードンのカイキに対する忠誠心は本物だ。

 まったく気付いていないからこそ、堂々と言い放っていられるのだろう。


「失礼ね。人間の女を、何だと思ってるのよ」

 人間の立場に立って、雪乃は言う。

「鬱陶しいだけの存在に決まっておろう。貴様のような小娘が城の中をウロついていると思うだけで、イライラするのだっ。カイキ様に色目を使い、まんまと城に侵入した穢らわしい女狐めがっ!」

 憎々しげに吐き捨てた雪乃を侮辱する言葉に、それまで傍観しているだけだった遠矢の頭が、カチン、ときた。


「てめぇ、ざけんなよ!しつこく言い寄って来てんのは、どう見たってあいつの方だろっ。こっちはな、しつこく付き纏われて迷惑してんだぞっ!」

 思わず、怒鳴った。

「つ、付き纏うだとっ。貴様、カイキ様を愚弄するのもいい加減にせいっ!」

「あんだと!そっちこそ、いい加減ごちゃごちゃうっせーんだよっ!」

 一歩、前に踏み出して遠矢はいきり立つ。

 バチバチ、と二人の間に激しい火花が散る。

「遠矢……」

 肩をいからせ叫んだ遠矢を、雪乃が静かに呼んだ。

 諌めを含んだその声に、不満げに顔を見れば、雪乃は軽く首を振る。

「………………」

 その冷静な物腰に、ついつい感情的になってしまい声を荒げた自分がゴードンと同じように思えてしまい、急に恥ずかしくなった。

「……わりぃ」

 遠矢は、バツの悪そうに謝る。


「あたしが女狐だろうが泥棒猫だろうが阿婆擦れだろうが、そんなことはどうでもいいのよ。

それよりも、身分の低い者を蔑み踏みにじり、手に入れた優越感に陶酔する。そんな下らないことをしなければ己の位置を確認できない、安心できない魔族の方が、よっぽど薄っぺらくて下品じゃないかしら?」

 不遜に笑う雪乃に、ゴードンの頬が怒気により見る見るうちに赤く染め上がる。

「下劣な人間が!それ以上、我らをバカにするのなら覚悟は出来ているのだろうな!」

 言うと、ゴードンは鞘から剣を抜く。






 

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

遠矢くんの空気化を防ぐため、心の内を入れてみました。笑。

遠矢くん視点にも関わらず、彼は結構、蚊帳の外……。


誤字・脱字などありましたら、すみません。

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