スノーシェリカ城の解決2
スノーシェリカ城の解決2
「とぼけても無駄だっ。貴様、よくもカイキ様の深い慈悲と情けを踏みにじりよったな!恩を仇で返すこの大罪!簡単に許されると思うな!」
憤恨に震えるゴードンは、遠矢の前で立ち止まると、乱暴に胸倉を掴み上げた。
「っ。い、いきなり何すんだ!」
ぬうっ、と下から伸び上がる太い腕にがっしり動きを封じられ、遠矢は驚きつつもゴードンの暴挙に対し、抗議する。
胸を掴む腕も、鬼のような形相で迫る丸い顔面も、とても不愉快だった。
「うるさい、黙れ人間!貴様らの目的は何だっ。何故、このようなことを!」
ギラギラとした目で、憤怒をぶつける。
どうやら、一連の騒動を引き起こしている犯人を、遠矢だと思っているらしい。
とんでもない勘違いだ。
「知るかよっ。俺はカンケーないっ。証拠もないのに、人を勝手に犯人呼ばわりすんじゃねぇよ!」
言いながら、遠矢はゴードンの腕を力任せに振り払う。
冤罪もいいところだ。
ろくに調べもせず、目に止まった気に入らない人間を犯人とするなど彼らしいと言えば彼らしいが、もはやまともに付き合ってはいられない。
さらに、気に入らないのは『深い慈悲と情け』という言葉だ。
そんな迷惑なもの、誰も頼んでいない!
「しらばっくれるでないっ。あちこちで術を放ち暴れ回っているのは、人間の小娘だと、ついさっき報告を受けているのだぞっ。貴様ら、何を企んでおる!」
「人間の、小娘?」
遠矢はゴードンの述べた犯人像に、思わず聞き返した。
これだけの被害を被っていながら、それを引き起こしているのが、人間だと?
本当に?
にわかには信じ難く、遠矢は疑問を抱く。
しかもゴードンは犯人を直接見たわけではなく、他者から伝わった不確かな情報に過ぎない。
それだけで犯人を確定するのはあまりにも、尚早ではないだろうか……。
「おい、ちょっと冷静になれ。これだけの被害を出している相手がただの人間って、そりゃいくらなんでも無理があるだろ……」
遠矢は、呆れを宿した表情を浮かべる。
ここは、一国を統べる城の中。
魔族の領域といっていいほど、空気は濃密な魔力に満ちている。
守備力も攻撃力も、そこらへんの建物とはワケが違う。
あちこちに守護の術や攻撃性のある術が施され、人間が放つ術で簡単に破壊されるほど弱い構造ではない。
それは魔族たちに強固な誇りと強烈な自尊心を芽生えさせる力を持ち、彼らの傲慢さに拍車をかける効果を生み出すほどなのだ。
大勢での襲撃ならばいざ知らず、人間が少数でここまで被害を及ぼせるとは、思えない。
客観的に見れば、敵は魔族である可能性の方が高い。
「黙れ黙れっ。言い訳しても無駄だっ。貴様、この責任は取ってもらうぞ!」
「しつこいなっ。知らねぇって言ってんだろっ!」
しかし人間を犯人だと決め付けているゴードンの意識に、遠矢の疑念はカケラも響かない。
このままでは、証拠もないままに犯人の一味とされてしまいそうだ。
「ああ、マジ面倒くせぇ!」
遠矢は不満と苛立ちを声とともに吐き出して、ゴードンの横を通り抜け歩き出す。
一緒にいたら、イライラが募るだけだ。
もう、構っていられない。
「お、おい。貴様、どこへ行く。逃げるつもりか!」
ゴードンは立ち去る遠矢に向けて声をかけると、あろうことか、あわてて追いかけて来るではないか。
「あんた、この騒ぎを引き起こしている犯人を捕まえる途中なんだろ。だったら、おれも捜してやるよ!」
後を付いてくるゴードンにうんざりしながらも、遠矢はそう答えると、彼を引き離すため走り出した。
潔白を証明するためには、犯人を捕えるしかないだろう。
「こ、こら小僧っ。我らの城で、勝手な行動をするではない!」
などと叫び声を上げたゴードンも走り出し、やはりこちらへと向かってくる。
重い巨体をドテドテと動かしている割に、意外と足は速いようで、すぐに遠矢へ追い着いた。
(うわ、マジかよ……)
遠矢は、心の中でがっくりと項垂れる。
自由に城内を捜し回ることを許す気はないらしく、ゴードンは監視者のように目を光らせる。
もはや、単独行動は諦めるしかないようだ。
「逃げようとしても、無駄だからな!」
「……はいはい……」
隣で喚く彼に、どうでもよさそうに、生返事をする。
「犯人を逃がそうとしても、無駄だからな!」
「………………」
ドテドテと走りながら、よく噛まずに口を動かせる男である。
もはや返すのも面倒臭く、遠矢は無視をする。
「ところで貴様。相手がどこにいるのか、知ってて走っているのだろうな!」
遠矢の無視など気にも止めず、ゴードンは話しを続ける。
「……ンなもん、知るかよ」
一瞬、また無視してやろうかと思ったが、今度はちゃんと答えるべきだろう、と考え直し、遠矢は辟易しながらも口を開いた。
「お前、知らずに走っておるのか!」
怒鳴るゴードンに、遠矢の中で抑えていた感情が熱を帯び、ぐっと上昇する。
「当たり前だろっ。相手の気配だってしねぇし術をぶっ放してるわけでもねぇ!そのくせ捜す範囲はめちゃくちゃ広いっ。走り回る意外、何か方法があんのかよ!」
ゴードンを睨みつけ、怒鳴り返す。
「それはっ……!」
的を射た遠矢の発言に、ゴードンは返答に困り渋い顔で唸る。
城が広すぎてなかなか犯人にたどり着けず闇雲に捜しているのは、ゴードンも同じだ。
「それよりもあんた、今起きてる一連の騒動が人間の仕業だと、本気で思ってンのか?」
遠矢は、再度聞く。
「当然だ。我ら高貴な魔族が、このような下劣極まりない方法で城を破壊するわけがなかろうっ。低度な人間の仕業に決まっておるっ!」
ふん、とゴードンは鼻にかけ一蹴する。
「ああ、そーですか!」
聞かなきゃよかった。
階段を駆け上がりながら乱暴に言い放った遠矢は、二度とゴードンには話しかけまい、と決めて自分の中から彼を排除する。
その時、ふと、胸騒ぎのようなザワめきが心の中を走り抜け、遠矢は思わず足を止めた。
「む?どうした?」
突然と立ち止まった遠矢に、ゴードンが怪訝そうに声をかける。
それをBGMのように聞き流し、遠矢は胸元をキュッと握る。
神経を刺激する強い衝撃は、間違いなく魔術の気配だ。
遠矢は窓際へと移動すると、窓を開け三階ほどの高さから身を乗り出す。
ドォォン!
遠くの方で、爆発音が轟いた。
目を細め、場所はどこだ、と視線を飛ばすが、ここからでは確認できなかった。
「い、今の爆発は魔術か!」
ゴードンも急いで窓に張り付いて、何事か、ときょろきょろ首を動かす。
だが、彼の位置から見える風景は高い屋根に遮られ、魔術の気配を確認するどころか、外の状況すらも把握は困難だろう。
おそらく、爆発が起こった場所に、騒動の中心となっている人物がいるに違いない。
すぐに向かえば、捕まえることだって可能だ。
けれど、ここから城内を疾走し大回りをしていたら、確実に逃げられるだろう。
遠矢は視点を手前に戻し、周囲を見渡した。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
スノーシェリカ城は、迷路のように入り組んでいる場所があるので、移動が大変。
遠矢くんは、何度も城の中で迷子になってます。




