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無限ワールド  作者: 水原まき
第8章 スノーシェリカ城の解決
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スノーシェリカ城の解決1

スノーシェリカ城の解決1







「な、なんじゃこりゃ……」

 スノーシェリカ城は、ちょっとしたパニックに陥っていた。

 いたるところから黒煙が蒼穹の空を汚し、遠矢の目の前に広がる庭園も、くすぶる炎が緑を燃やしている。

 メイドたちが悲鳴にも似た声を上げながら水の術を操り必死に消火活動を行い、原因を調べようと、兵士や家臣たちが血相を変え廊下を走り回っている。

 まるで何者かの奇襲でも受けたような惨状に、『黒異の門を』くぐって突然とこの世界にやって来た遠矢は唖然とする。

 事故か事件か。

 こちらへ来たばかりの遠矢はもちろん、周囲の魔族たちも、騒ぎ声を聞く限りでは、まだよくわかってはいない様子だった。


 混乱する、城内。

 響き渡る、悲鳴や怒号。

 慌ただしく走り回る、魔族たち。

 そんな緊迫した状況のせいか、ぽつん、と佇む遠矢に対し誰も注目することはなく、平時、注がれる冷めた視線も嫌味もお咎めも、今はない。


(何か、ヤベェ時に来ちゃったんですけど……) 


 知り合いの実家で展開されているとんでもない状況に、遠矢は焦りを覚える。

 さすがにこれは、見過ごすことは出来ないだろう。

 カイキは、今どこにいるのだろうか……?

 こちらの世界に戻って来ているのか、まだ雪乃と一緒にいるのか。

 その所在を確認したいのはやまやまだが、生憎、在宅なのか不在なのか、遠矢は知らない。

 誰かに尋ねてみたいのだが、走り去る魔族たちに声をかけるのは、はばかれた。


 他に探すような知り合いもおらず、辺りに視線を飛ばす。

 すると、廊下を慌てた様子で走り来る人間のメイドがいた。

 人間ならば!

 遠矢は、迷わず声をかけて呼び止めた。


「ちょっと君!」

 水の満たされているバケツを持ち走っていたメイドは、前方で叫ぶ遠矢の声に、足を止めた。

「あ、貴方、は……ユキノさんの、お連れの方……?」

 遠矢の姿を見たメイドが、やや息を切らせながら、驚いた表情を浮かべ言った。

「ゆきのこと、知ってんのか?」

 今度は、遠矢が驚いた。

「え、ええ。何度か、お菓子を頂いたことがありまして……」

「ああ、なるほどな……」

 納得し、遠矢は頷く。

 雪乃が城のキッチンをお菓子制作のために使い、作った物を配っていることは結構、有名な話しだ。

 彼女は、そのお菓子を何度も受け取れるだけの関係を、雪乃との間に作っているようで、この場での邂逅は、なかなか運がいい。

「とんでもないことになってるみたいだが、城の中は大丈夫なのか?」

「今、兵のみなさんが原因を調べているようなのだけど、誰かがお城の中で魔術を使っているみたいなんです。犯人を捕まえようとしているらしいのですが、至るところで爆発が起きるものだから、正直、火を消すので手一杯なんです……」

「大勢での計画された奇襲、ってわけではなさそうだよな……」

 遠矢は腕を組んで考え込む。

 被害こそ大きいが、術を発動しているらしい犯人の姿がどこにも見当たらないのを思うと、数はそう多くはないだろう。

「ええ。おそらく人数は2、3人ではないか、と兵士の方々も仰っておりました……」 

 言いながら表情を曇らせ、持っていたバケツをキュッ、と強く握る。

 彼女は城を破壊されている事実に、心を痛めている様子だった。

「ありがとう。少しだけ事情が聞けて、助かった。引き止めて、悪かったな」

 仕事を中断させてしまったことを、謝る。

「いいえ、そんなこと。……ここは危険ですから、早く避難してくださいね」

 彼女は笑顔で首を横に振り、遠矢の身を案じる言葉を言うと軽く会釈をし、メイドとしての仕事を全うすべく再び走り出した。



「さて、と。どうしたものか……」

 パタパタと走り去って行く彼女を見送った後で、遠矢は呟きながらも近くの、爆発が起きたと思しき部屋へと足を踏み入れる。

 彼女の身が心配ではあったものの、どんな被害が出ているのか、知らなければならない。

 そこは物置として使われていたような、小さな部屋だった。

 所々の壁には、一目で真新しいとわかる巨大な爪で引っ掻かれたような細い線の傷が走り、真っ黒な焦げ跡があった。

 窓ガラスは爆風で吹き飛ばされたのか、窓枠ごとなくなっている。

 焼け焦げた家具や破壊された装飾品が足の踏み場もないほど床の上に散らばり、遠矢の進行を妨げる。


「ひでぇ。誰がこんなことを……」

 何者かがここで何発もの魔術を発動させたのは、間違いないだろう。

 そしてその人物は、兵士に追われながらも城内を逃げ回り、黒煙のきっかけを作っている。

 被害は、甚大だろう。

 その時、ふと脳裏に、行けばわかる、と言った雪乃の言葉が蘇った。


「……まさか犯人を捕まえろ、とか言うんじゃないだろうな?」

 心底嫌そうに、遠矢は自問する。

 今のところ浮かぶものは、犯人捜しだ。

 一度、そう口にしてしまった途端、答えはそれしかないように思え、もしも本当に探偵まがいな仕事をしろ、ということならば、何て面倒臭い仕事なのだろう。

 そもそも、自分をここに送り込んだということは、雪乃はこの状況を、把握いているということなのだろうか……?

 『カケラ』について伏せられていた事実をようやく語ってもらったが、どうやら未だに秘密にされていることがあるようだ。


「ちっ。サボると後々うるさいし……。適当に見て回ればいいか」

 雪乃と合流するまでの間、それらしい行動を取っていればいいだろう。

 遠矢はやれやれ、と肩を落とし、部屋を出る。

 すると、ぼてぼて、と緩んだ身体を揺らし、真っ赤な顔で走るゴードンと目が合った。


 バチッ!

 

 視線がぶつかった瞬間、音のない音が、聞こえた。

「うげっ」

 思わず、心の声が表へと飛び出した。

「貴様、何故こんなところにっ!」

 カッ、と目を吊り上げ、ゴードンが声を荒げた。

 何とタイミングの悪いのだろう。

 鉢合わせした相手が、極度の人間嫌い魔族とは。

 もちろん遠矢は人間ではないのだが、人間として振る舞っているのでこの世界では、常に蔑みの対象だ。

 今も、遠矢をロックオンしたゴードンが鬼のような形相でこちらへと突進してくるではないか。

 遠矢の中で、全力疾走したい衝動が生まれ、面倒臭さがムクムクと育っていく。

「やはりこれは、貴様らの仕業だな!」

「…………はぁ?」

 大股でこちらへと闊歩しながらゴードンの口から放たれた言葉に、遠矢は目を瞬かせた。








ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

雪乃組とは違い、たった一人で城の中へと飛ばされた遠矢くんは、一人でも頑張りますよ!

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