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無限ワールド  作者: 水原まき
第7章 崩落世界 再起動世界
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崩落世界 再起動世界15

崩落世界 再起動世界15







 ――――――――利発そうな可愛らしいおさげのメガネちゃん。

 その言葉に、

「え?いえ、利発で可愛いかそこまでは……」

 ソフィアもツバキと同じ引っかかりを覚えたのか、返答に窮する。

 なんせ、常に素顔を隠すように分厚いメガネをかけて根暗を背負っている少女だ。

 『利発』や『可愛い』という表現にピンとくるはずがなく、何故、ユキノがその言葉をチョイスいたのか、よくわからなかった。


「そのメガネっ子なら、心配しないで。安全な場所に避難させてあるから大丈夫よ」

 ユキノが、ユウキの行方について答えた。

「え。ホントですか?」

 ソフィアが、目を見開いて驚く。

「ホントよ。彼がちゃーんと、ね」

 そう言って、ユキノはピッ、と人指し指を横に倒す。

 彼女が指し示す方へと視線を向けたツバキは、壁に背を預けている銀髪の男を見つけた。


(っ!)


 息を、呑んだ。

 いつから。

 いつから、そこにいたのか。

 この自分が、まったく気付けなかったのだ。

 ざっとではあるが周囲を観察したというのに、彼の存在をまったく認識出来なかった。

 そんなことが、起こり得る

 ツバキは驚愕しながらも、気配を掴ませず空気のように佇む男の存在に、上から下まで視線を飛ばす。

 そして、驚きはすぐに興味へと変わっていった。

 何故ならば、男の正体が魔族なのか人なのか、読めなかったからだ。

 魔族をも凌駕する中性的な美貌と、人間が持つには神秘的すぎる雰囲気を纏う男は、まったく別の生き物のように見えた。


「あ。もしかして、ユウキちゃんを買った人?」

 ソフィアが、ぽつりと呟いた。


(ほぅ。あいつ、買われたのか)

 ツバキは、面白そうに口元を歪める。

 世の中には、奇特な奴もいるものだ。


「彼はあたしの下僕よ。つまり、彼女……ユウキちゃんを買ったのはこのあたし。貴女たちには悪いけど、ユウキちゃんは先に逃がしてあげたわ」

「え?そ、そうなんですか……?」

 拍子抜けしたように、ソフィアが言った。


(逃げた?相変わらず運だけはいい女だな……)

 安否を確認し、安心した、とも残念とも思わずに、ツバキは一足先に脱出されるという幸運を掴んでいったユウキに対し、その身に宿る強運を再確認させられる。

 たいした魔力も持たないくせに、何故か危機回避能力だけは異常に高いのだ。

 これまで幾度となく窮地に立たされているにも関わらず、ユウキはいつの間にやら逃げ出し、うまく対処している。

 そして、またひょっこり、と何事もなかったかのように、姿を現すのだ。

「きっと今頃、おウチに帰ってるんじゃない?だから心配しなくても大丈夫よ」

「えっと……。なら、いいですけど……」

 ホッとしたような、心配して損したような、そんな微妙な表情で、ソフィアは笑った。

「ごめん、何か勝手なことしちゃって……。貴女がその子のことを気にかけてるなんて、思わなかったから」

 ユキノが、すまなさそうに、謝った。

「い、いえ!私も、さっき会ったばかりの子ではあるので、気にしないで下さい」

 ソフィアがぷるぷる、と首を横に振る。


「それでユキ。これからどうします?」

 会話が一段落したところで、カイが切り出した。

「ん~。そろそろ上が騒がしくなってる頃だしねぇ。行ってみるか」

「行くって、どこへです?」

「ねぇ、お兄さん。どうせ暇でしょ。彼女たちを安全な場所まで送ってくれない?」

 カイの問いかけを無視し、ユキノはこちらを振り向いて、ツバキに声をかけた。

 ふいに話しかけられ、あまつさえ次なる行動を指示されて、ツバキはぴくり、と眉を動かすが、

「…………。どうやら俺の仕事は、誰かさんのおかげで終わったようだな」

 冷静に考えたのち、呟いた。

 突然現れたユキノたちのおかげで参加者全員を始末する、という計画の達成は、もはや不可能だろう。

 ここに長居する意味は、ない。



「え。いいの?てっきり、拒否されて血生臭い展開になるかと思ってたんだけど……」

 意外そうな、声。

「無駄な体力の使用も、タダ働きもしない主義だ」

 得体の知れない連中を相手に、勝算も見いだせない喧嘩を仕掛け、己の仕事をまっとうしようとする。

 そんな熱血バカな思考などツバキは持ち合わせてはいないし、この場を破壊するという点で言えば、半分以上その目的は達成されている。

「まぁ、お前たちにその気があるのなら、こっちも乗るが?」

 ツバキがそう意地悪く言うと、ユキノは肩をすくませる。

「やめてよ。貴方みたいな強そうな人と喧嘩したら、あたしの珠のような肌に切り傷が出来ちゃうわ」

「切り傷、か」

 ツバキと剣を交えても、その程度の怪我しか負わない。

 だが、その傷を追うことすら惜しい。

 ユキノは、そう言っている。

 ずいぶん、なめられたものだ。

 けれど、何故か嫌悪感を感じない。


「……わかった。彼女たちは、俺が責任を持ってここから出してやろう」

 ツバキは、頷く。

 この会場に入る前に、あらかた周囲の把握は出来ている。

 出口へと向かうのは、そう難しくないだろう。

「ありがとう。助かるわ。と言うことで、出口まではお兄さんに案内してもらってね。すっごく怖そうだけど、貴女たちを殺しても、一銭にもならないみたいだから、きっと害はないはず。安心して」

 ツバキに礼を言い、ソフィアたちへと伝える。

「…………は、はぁ……」

 勝手に決められていく自分たちの行き先に、しかしソフィアは曖昧に頷いてツバキを一瞥する。

 が、バチッと視線を合わせた瞬間に、あわてて逸らされる。

 先ほどの魔族との戦闘の後では、当然の反応だろう。


「ほら、カイ。ぼさっとしてないで、あたしたちはこっちに行くよ~」

 ちょいちょい、とユキノは手招きする。

「え。別行動なんで……あ、ちょっと待って下さい」

 名を呼ばれ、一瞬、当惑するカイだったが、無言で横切った銀髪青年を視界にとらえた途端、ハッとして口にしていた言葉を呑み込むと、足早に近寄っていく。

「じゃあ、みんなのことよろしくね。お兄さん」

 素直に従うカイの姿を確認したところでユキノはツバキに向けてにやり、と笑いを残し、そのまま出口の方へと歩き出す。

 それに続く、カイと銀髪男。


「変な、女だったな」

 こちらへと一片の心も残さずに、隙のない後ろ姿で去って行く彼らを見送りながら、ツバキは零す。

 変な女だったが、なかなか面白い女だった。

 魔族を従えた女。

 仕事を中途半端に終える形となってしまったが、思いもよらぬ出会いに、不完全燃焼感はない。

 彼女たちの動向が気にならないわけではないが、不思議とこれが最後の邂逅とは思えなかった。

 蛇の道は蛇、とでも言おうか。

 自分の歩く道の先に、彼女たちがいるような気がした。







 






ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

ユウキの無事も判明したところで、ツバキくん視点は終了となります。

次回は、遠矢くん視点です。

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