崩落世界 再起動世界13
崩落世界 再起動世界13
おそろしくスタイルのいい美形の男は間違いなく魔族だが、黒髪少女は魔族ではない。
十分に美少女に分類される容姿の持ち主だが、人間だ。
肉体的にも精神的にも圧倒的に優れているはずの魔族が、人間の小娘相手にヘコヘコしている姿など見たことがなく、つい先ほどまで漂っていた殺伐とした空気が一転し、妙な空気が流れはじめる。
その後ろでは、芋虫化した魔族たちが唸りながら、必死に鎖から抜け出そうとうねっている。
展開が、予想を反しとんでもないところへ向かおうとしていることに、ツバキは言い知れぬ危機感を覚えた。
「何を考えてるのっ。あたしを襲った魔族たちを逃がそうとするとか、マジで有り得ないから!あんたのそのド派手な頭は、単なる飾りなわけ!」
「すみません……」
「あんたはもともと感情を優先して動くようなタイプじゃないでしょ?ちゃんと周囲の状況を観察してから、適切な行動を取ることっ。わかった?」
「はい。肝に銘じます……」
ツバキの危惧もよそに、尚もなかなかの強烈な言葉で責め立てる黒髪少女に、それを受ける男は本気で落ち込んでいるのか、見ているこちらが、思わず居たたまれない気持ちを胸に抱いてしまうほど、しゅん、と項垂れ、ひたすらに反省をしている。
「あ、あの~。お忙しいところすいません……」
何とも言い難い空気が漂う中で、遠慮がちな声が聞こえた。
すっかり二人の世界に入り込んでいる中で話しかけるとは、なかなか勇気のある奴だ。
ツバキが声の主へと視線を向ける。
薄汚れた服を着た男女の一団が、そこにいた。
「あの、貴方たちは、私たちのことを助けてくれたんですよね?……ありがとございました」
先頭に立っていたそばかすの少女が礼の述べ、頭を下げた。
間に入った声は、どうやら彼女のようだ。
「あ、え……君たちは、一体……?それにその格好は……?」
黒髪少女へと謝り続けていた男が、そばかす少女の薄汚れた服装を、驚きを持った眼差しでまじまじと見つめる。
「ああ、気にしないで。あいつらのやってることが面白くなくて、ぶん殴ってやっただけだからさ」
男の疑問を邪魔するように、黒髪少女は大したことではないように、パタパタと手を振った。
その一言で、彼らの目的が自分と同じだったことを、ツバキは知る。
「あの、貴女とてもお強い方なのですね。私、驚きました」
「え、そう?それほどでもないよ~」
そばかす少女が憧憬のような眼差しを黒髪少女へと注ぎ、その賞賛をまんざらでもない様子で甘受する傍で、ツバキの双眸と心が冷たさを増す。
先ほどのフザけたやり取りで、一瞬、忘れそうになるが、黒髪少女は魔族の動きを封じたのだ。
たった一人の人間が、魔族を簀巻きにして捕らえてしまうなど、並大抵の術者では不可能だ。
ひょろりとした身体の内には、想像を超える魔力が潜んでいるに違いない。
敵か否か。
ツバキの中で、静かに物差しが動きはじめる。
「ちょっと、そこの人間!さっさとこれを外しなさい!」
すっかり一段落着いたような、そんな空気が流れはじめた中、怒りを滲ませた叫び声が響き、魔族が床を這いながら黒髪少女へと近付いて行く。
「人間風情が私たちにこんなことをして、許されてると思って!」
金切り声で、憤激する。
それに合わせ、他の魔族たちも、じりじり、と迫り寄って来る。
「おい、お前っ。早く外せと言っている!」
「ひっ」
口々に喚きながら迫る魔族に、そばかす少女が悲鳴を上げて後退る。
「小娘っ。今すぐにこれを解きなさい!そうすれば今回は見逃してあげてもいいわ!」
キッ、と黒髪少女を睨み付ける。
自分が捕縛され身動き取れない状況にも関わらず、魔族の高慢さは揺るぎない。
「それとも、お金が目的なの!いくら欲しいの!言いなさいっ」
尚も叫び続ける魔族に、術をかけた黒髪少女はズカズカと魔族へ近付くと、
「やかましいっ!」
ドカッ!
「きゃあ!」
その身体を容赦なく踏み付けた。
「ごちゃごちゃうっさい。解きたいなら、自分で勝手に解けばいいでしょっ」
「な、なんですって!人間の小娘のくせに、生意気よっ!早くその汚らしい足をどけなさい!」
顔を真っ赤に染めて言い返すものの、黒髪少女の案を己では実行出来ない魔族は、悔しそうに唇を噛み締める。
負け犬ほどよく吠える、とはまさにこのことだろう。
人間に取り押さえられ自由を奪われている事実が、ひどく魔族たちのプライドを傷つけているようだっ
た。
「こんなバカげた術、すぐに解いてやるわ!」
「はいはい。せいぜいがんばってね。所詮、小生意気な小娘が使った術。高貴な貴女なら、きっと解けるわよ」
ぐりぐり、とこれみよがしに足で踏み付けながら、黒髪少女は荒々しさを逃がした穏やかな口ぶりで、相手を嘲る。
「………………」
ツバキの立つ位置から黒髪少女の顔は見えず、どんな表情を浮かべ魔像を見下ろしているのかはわからない。
だが、彼女を見上げる魔族の青ざめた表情は、よく見えた。
他の魔族たちも言葉を失い、周囲を、しん、と静寂が支配する。
呑まれたな。
ツバキは、黒髪少女の勝利を確信する。
魔族を相手に、何とも度胸のある女だ。
それほどまでに、自分の力に自信があるのだろう。
「あの~。何度もすみませんが……貴女たちは一体……?」
再び、居心地の悪い空気を、そばかす少女の声が破った。
今更のように、黒髪少女の名を尋ねる。
何となく興味を覚え、ツバキも耳と頭に意識を向ける。
「ああ、あたしはユキノ。んで、このデカイ男は、カイよ」
よろしく、とユキノと名乗った少女は軽く笑みを浮かべ、ようやく魔族から足を外す。
もはや魔族たちに抵抗する気力はないのか、信じられないほど静まり返り、カイと紹介をされた男が赤銅色の髪を揺らしながら頭を下げるのを、黙って見つめている。
――――――――ユキノとカイ、か。
ツバキは、頭の中にその名を刻む。
今はどうやら敵ではないようだが、小さな警鐘が微かに震えた。
「私はソフィアと言います。ユキノさんたちのおかげで、本当に助かりました」
ソフィアと名乗った少女は、もう一度深々と頭を下げる。
「いーっていーって。怪我を負ってる人もいるようだけど、何とか無事みたいね。よかったよ」
傷口を押さえ痛みに堪えながらも何とかお互い支え合い、自分の足で立っている人間たちの姿を確認し、ユキノは小さく笑う。
「ユキ。あの、お話し中すみません。私、まったく事情がわからないのですが……?」
カイと呼ばれる男が困惑しながら口を開いた。
雪乃みたいな連中が、突然乱入してきたら、そりゃ驚くだろうな……。
だってとってもガチャガチャしてるもの……。




