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無限ワールド  作者: 水原まき
第7章 崩落世界 再起動世界
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崩落世界 再起動世界10

崩落世界 再起動世界10







 女神に雪乃の素性を知られる。

 それは同時に、これまでの静かな生活が終焉するという意味をも含んでいる。

「ただでさえ遠矢くんと一緒に生活している人間として意識されてるのよ。それが実は『管理者』でした!ってことになってみなさい。女神が満面の笑みで会いに来るに決まってるじゃない」

 雪乃は、本当に嫌そうな顔をする。

 人間として好き勝手に生活している雪乃にとって、天界との関わり合いは面倒臭いだけでしかない。

 もちろんそれは、彼らと決別している遠矢も同じはずだ。



「事をスムーズに進めるためとはいえ、あんたに黙って裏で動いていたことは、謝るわ」

 当事者である遠矢に真実を隠し、秘密裏に動いていた。

 それは喪失感とは別の、一種の疎外感のようなものを遠矢へと与えてしまったのかもしれない。

「…………。別に、いい」

 雪乃が素直に謝ると、遠矢はそっぽを向いてすっかり冷めてしまった紅茶を手に取り、一気に飲み干した。

 カシャ、とやや乱暴にソーサーへと戻す。

 不機嫌さは拭えていないものの、遠矢とて雪乃が『管理者』としての仕事を円滑に進めるために必要な行動だったとわかれば、執拗に責めたりはしない。


「で。これから、どうなるんだ?『コア』が戻ったんだから、俺の世界は元の状態になるんだよな?」

 こぽこぽ、と湧き上がってくる紅茶を眺めながら、遠矢が希望の込められた言葉を発する。

「ん~。『コア』はあくまで世界を持続させるためのエネルギー体であって、世界そのものを創造するほどの力は有していないから……」

「元に、戻るんだよな?」

 曖昧な言葉を述べる雪乃に、遠矢は真剣な眼差しで願望を押し付ける。



 じぃぃぃぃぃぃぃぃ。


 瞬きもせず、唇を真一文字に結び、遠矢が雪乃を眼光鋭く直視する。



「…………………………」

「…………………………」

「…………………………」

 三人の沈黙が、白の世界で続く。



「……………………………………はぁぁぁ……」

 それを破ったのは、雪乃の深いため息だった。

「わかってるって。心配しなくても、ちゃんとどうにかするよ」

「ホントか!」

 遠矢の表情がぱぁぁ、とほころび、歓喜を宿す。

「ホントホント」

 雪乃は、うんうん、と頷く。

 『コア』を修復しているので見捨てるつもりはないのだけれど、どうやら遠矢にはそれが伝わらなかったらしい。


「だったら、今すぐにどうにかしてくれ!」

 遠矢は勢いよく立ち上がる。

 こんなところでお茶など飲んでいる暇はない、と雪乃に行動を急かす。

 そんな遠矢に、

「落ち着け」

 イッサーが再び口を挟みたしなめる。

 すぅ、と金の瞳が細められる。

「な、何だよ、その目は……」

 責め立てるような冷涼なる眼差しに、一人、浮かれていた遠矢がたじろぐ。

「話しはまだ終わっていない」

 透き通る静かな声は、遠矢へ着席を命じる。

「………………」

 一人、騒ぐ自分にいたたまれなくなったのか、遠矢はしずしずと椅子に座り直す。

 

「はしゃいでいるところを悪いんだけど、これまだ完成しているわけじゃないのよね」

 落ち着いたところで、雪乃は話しを再開させた。

「へ?」

 遠矢の表情が一気に変わり、素っ頓狂な声が上がる。

 顔中に、完成していない? という言葉を貼り付ける。

 雪乃は遠矢の疑問に答えようと『コア』を転がし、側面となっていた場所を、上に移動させる。

 遠矢は身を乗り出して、まじまじ、と『コア』を凝視する。

 そこには、小さな溝が刻まれていた。

 傷は5センチほどのごくごく小さなものだったけれど、『コア』にとっては大きな欠陥だ。

 この状態では、本来の力を発揮することは出来ない。


「何だよ。『カケラ』探し、終わってるんじゃなかったのかよっ。残りは、どこにあるんだっ」

 遠矢が、焦りを滲ませながら叫んだ。

「その前に、遠矢くん。今からカイキのところに行って、やってもらいたい仕事があるの」

 騒ぎ出した遠矢を鎮めるように、雪乃は脈絡なくそう言って、背後に『黒異の門』を出現させた。

 白の中で、美しい二人の少女を宿す漆黒の門が、ドドン、と圧倒的な迫力を放つ。

「な、なな何でおれがカイキの所になんて行かなきゃいけねぇんだよ。今は関係ないだろ。俺の世界を優先してくれよ!」

 そびえ立つ『黒異の門』に気圧されながらも、遠矢は下された命令に反発する。

 自分の世界を後回しにされた、と感じたのだろう。

 けれど、己の思うがまま感情を表に発露する遠矢の姿に、雪乃はムッとした。


「つべこべ言わないの!元に戻してあげるって言ってるでしょっ。あんたはあたしの命令を黙って聞いてればいいのよっ」

 目を吊り上げて、雪乃の叱責が飛んだ。

 終始、自分の世界のことばかり気にする遠矢に、雪乃の中に一輪の苛立ちが芽吹いた。

 そして、いきなり声を荒らげた雪乃に、遠矢は目を見開いて黙り込む。

「……………………」

 ピリリとした感情を放つ雪乃に、遠矢の表情が強ばる。

 何とも言い難い、空気が流れる。



「遠矢……」

 イッサーが、その空気を破るかのように、呼ぶ。

 ただ名を呼んだだけだというのに、彼の声色には注意を宿し、反省を促しているように聞こえた。

「あ~~。もう、わあったよ!」

 ガシガシ、と頭を乱暴に掻き乱し、吐き捨てた。

 子どものように牙を剥き駄々をこねたところで、雪乃の考えが変わり己の主張が通ることなど有りはしない、と遠矢は理解している。

「……で。カイキのところに行って、何をすればいいんだ?」

 紅茶を飲み干し立ち上がり、目的を問う。


「行けばわかるわ」

「行けばわかるって、いくら何でもアバウトすぎだろ……」

 返された簡素すぎる言葉に、詳細を説明されないまま送り出される状態に陥ってしまった、遠矢は渋い顔をする

 けれど、さきほどの険は消え去り、素直に命令に従う態度を示している。

「あたしは別の用があってすぐには行けないけど、終わり次第、ちゃんと合流するから。それまで遠矢くんのやりたいようにやりなさいってことよ。簡単でしょ?」

 ゆっくりと開く扉の前で、雪乃がにやり、と笑う。

「はぁ……。それが一番、難しいんだっつの……」

 遠矢は心の底から絞り出すような声で言い、渋々といった様子でテーブルから離れた。

「いってらっしゃ~い♪」

 『黒異の門』をくぐる遠矢に、雪乃は手を振って見送った。








ここまで読んでくださいまして、ありがとうございます。

やっと遠矢くんサイド終了です。こんなに長くなろうとは……。

しかもまだ未回収の『カケラ』あり。


次回は、彼らが登場します!


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