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無限ワールド  作者: 水原まき
第2章 くすぶる陰謀
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くすぶる陰謀4

くすぶる陰謀4





「暗いな……」

ツバキはぼそり、と呟いた。

所狭しと積まれている商品のせいで、窓から差し込む日の光がほとんど遮られている店内は、人と会話をするのにはかなり不向きな場所だった。

だが、店主に明かりを灯す気配はない。


ツバキは仕方なく、呪文を詠唱しはじめる。

すると、掌の上に光の玉が出現する。

それはまるで小さな太陽のようで……。

彼は持っていた光の玉を頭上に放り投げる。

ツバキの手から離れた光の玉は風船のようにふよふよと上昇し、天井でぴたりと止まる。

煌々と輝く光に、ようやく店全体が明かりに包まれる。

「おうおう、よう見える見える」

満足そうに、店主は髭を撫でた。

「それで?用件は何だ」

ツバキは横柄な口調で言い放つ。

明るくなったことで、それまで闇に隠れていたセンスのない家具や気持ちの悪い雑貨、小難しそうな書物が視界に溢れ、迫り来る圧迫感が倍増する。

物と色の多さに、目が痛い。

早く用を済ませ、場を離れるに限る。


「やれやれ。時間のあり余っとる小僧のくせに、老い先短いジジイを急かすでない……」 

早々に本題へと入るツバキへ店主はシワくちゃな顔をより歪めぶつくさ言いながら、曲がった背中を伸ばし固まった身体をほぐし、正座から足を崩した。

渋い声色は、老いを感じさせるが淀みない。

傍にある戸棚の引き出しを開け、中から封筒を取り出した。


「最近、行方不明者が続出しているという情報を手に入れての」

「行方不明?」

ツバキは、聞き返す。

「ちと気になって調べてみたんだが、半年ほど前からチラホラと行方不明者が出てきておるようじゃ。しかし、どういうわけかあまり世間では騒ぎになっておらんようだ……」

嘆息を含んだ声音で言うと、封筒を差し出す。

ツバキは、無言で受け取る。

「いなくなるのは、人間ばかりなんだろう」

「知っておったのか?」

「……ああ。噂で何となくだが……」

本当だったのか、と思いながらツバキはさっそく封筒を開け、中身を確かめた。

右上を綴じられた三枚の紙が出て来た。

紙には人の名前と性別、簡単な特徴と職が記載されていた。

その数、十数名。

その半数以上が、女性だと知れる。

一枚、二枚、三枚目とそこに書かれている人物のプロフィールをすべて確認していく。


「やはり人間ばかりで、魔族はいないか」

リストに名を連ねている者たちは、全員、若い人間。

一人として魔族は含まれていない。

ここにあるリストが行方不明者全員、という保証はないが、魔族がこちらに載ることはないだろう、とツバキには確信めいた自信があった。

「半分以上が『城』の使用人か……」

職業欄には空白もちらほらとしていたが、記されているほとんどが『メイド』の文字。

「の、ようじゃの」

城、という単語にあからさまな嫌悪感を示しながら厳しい目つきでリストを睨むツバキに、店主はのほほん、と頷く。

「こうも行方不明者が続出しているというのに、調べようともしないのか……」

ツバキは舌打ちする。

『人間』が姿を消したところで騒ぐ必要もない、ということなのだろう。

「何かある、と読んでいいだろうが、問題はどうやって調べるかだな」

背もたれに背を預け、天井を仰ぐ。

ツバキの頭上では、小鳥のモビールが吊り下がっている。

赤や青、黄色い羽根を持つ小鳥を何となく眺めながら、ツバキは考える。

行方不明者が王城と何らかの繋がりを持っているかもしれないが、場所が場所だ。

調べる手立てなど、一介の男にあろうはずがない。

諦めるつもりはないが、さて、どうするか。


「……よい物を、見せてやろうか?」

名案はないか、と頭を捻っていたツバキの意識が、含みのある声に引き戻された。

「……何だ?」

何となく、嫌な予感がする。

「よっこいせ。確かこのヘンに仕舞っておいたんじゃがのぉ……んん?」

言いながら重たい腰を上げ、棚の引き出しへと手を伸ばす。

中をごそごそとあさりはじめるが、なかなか目当ての物に当たらないようだ。

唸りながら、引き出しの中身を次から次へと外に出し、床へ置きだす。

どうすれば引き出しの中へそこまで収納が出来るのか、と思うほどあっという間に彼の周りには道具で溢れる。


「っと。これじゃこれじゃ」

ようやく手を離し、引っ張り出したのは、一枚の紙。

二つ折りにされていた紙を開くと、そこには『急募』が強調された使用人募集の文字と、地図が記されていた。

「そこに書かれておる場所へ行け。城の方はずいぶんと人手不足らしい。運がよければ、採用されるじゃろうて」

「この俺に面接を受けろ、と?」

ツバキは、眼力を強める。

「なんじゃ。魔族の気配を消して人になりきる自信がないのか?それとも、大勢の魔族に囲まれ使用人となるのはお前さんのプライドが許さんか?お主なら出来ると踏んだのだが、見込み違いだったかのぅ」

言いながら立派にたくわえた髭を撫で、試すような口ぶりでツバキを見る。

「悪いが、俺にそんな安い挑発は通用しないぞ。知ってるだろ」

「挑発なんぞ、しておらん。ワシは、お前さんが目的のためなら己を捨てる覚悟を持っておると、知っとるだけじゃ」

なでなで。

髭を撫でながら、淡々と告げる。


「…………」

「どうする?」

そう言われ、断るなど出来るはずがない。

「……あまり魔族と関わりたくはないが、これが一番確実な方法ではありそうだな」

ツバキは心底嫌そうな顔で小さく息を吐くと、地図をゆっくり受け取る。

店主の思惑通りに話しが運んでいることに釈然としない思いも生まれるが、己の感情で判断を鈍らせるわけにもいかない。

「ひとつ、聞いても言いいか?」

ツバキが、切り出した。

仕事を引き受けるにしても、確認しなければならないことがあった。

「このおいぼれに答えられることならばの」

何事にも動じない落ち着いた声に、ツバキはあえてすぐには続けず、間近にあった木製の傘立ての中に無造作に放り込まれている無数の剣の中から、短剣を一本抜き取った。

細い黒塗りの柄には宝石のような物が埋め込まれてあるシンプルな剣だった。

鞘から引き抜くと、奇麗に研がれた刃がツバキを映す。

ほんのり、魔力を感じる。

おそらく装飾品に魔術が込められているのだろう。

ツバキは宝石へと指先を滑らせ撫でる。


「俺に依頼をすると言うことは、つまりどういう結果になっても構わない、と解釈していいんだな?」

「ああ、構わん。好きにせい」

その返答に、淀みはなかった。

「くくっ。だいぶ、ご立腹らしいな」

穏やかな口調や表情からは読み取れないが、意外にも怒りを覚えているようで、珍しい、とツバキは思った。

「含むところがある、と言うことか」

ツバキはどこか皮肉交じりな口ぶりで真意を探ろうとするのだが、これまで積み重ねてきた経験から生まれた余裕か、店主は心情を読み取らせない表情を作らせている。

観察力には多少の自信があるツバキだが、この店主の、二枚も三枚も重ねられた仮面の下を覗き見ることは、容易ではない。

「この剣、もらうぞ。いくらだ?」

剣を鞘に納め、ツバキは立ち上がった。











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