崩落世界 再起動世界7
崩落世界 再起動世界7
「さて。あたしが話すより、あんたの疑問に答えた方が早そうだから、そっちから質問どうぞ」
アイスコーヒーで一度、喉を潤わせた後で、雪乃はそう切り出した。
一からすべてを説明するよりも、遠矢の質問に答えた方が効率はいいだろう。
「さっき『コア』が砕けたって言ってたよな……。それは、いつなんだ?」
遠矢は、固い口調で尋ねた。
彼の前にも紅茶が用意されてはいるが、とても飲む気にはなれないのか、沈んだ面持ちの下で静かにたゆたっている。
「ん~。一週間ほど前かなぁ。ほら、買い物の帰りに乗った終電の中で、あたし急に変になった時があったでしょ?」
「……ああ、おれにめちゃくちゃ荷物を持たせて、お前だけ一日中遊び回った日な。最後、ぼうっとして心ここに在らず、みたいになってたな」
記憶を呼び起こすように促せば、そんな嫌味が投下された。
(荷物持ちにしたこと、まだ根に持ってたか)
悄然としていながらも直後に吐露された文句に、雪乃は心の奥で呟く。
「まぁ、荷物持ちはともかくとして、あの時に『コア』がぱりーんと割れてあちこちに飛び散っちゃったみたいなのよね」
脱線する恐れを含んだ遠矢の発言を横に置き、話しを本線へと戻しながら、雪乃は脳裏に過去の映像を再生させる。
正確には、リィィィン、という鈴の音にも似た小さな音だったけれど、あの時『コア』が砕け『カケラ』が生まれたのだ。
予兆もなく、突然砕けてしまった『コア』。
成す術もなく、結果だけを受け止めるしかなかった雪乃は、砕けた『コア』が小さな『カケラ』となって各地に、異世界までにも散らばったことを察知した。
「待てよ。それ、おかしくないか?一週間も前に砕けていたなら、その時に世界は終わるはずじゃないのか?」
遠矢が、腕を組み疑問をぶつける。
『コア』とは世界を成すために必要なエネルギーを凝縮している、球体だ。
巨大な力によって形成された世界は、『コア』のにより生かされている。
故に『コア』の力が失われるような事態に陥れば、世界のバランスは瞬く間に崩れ落ち、跡形もなく消滅する。
しかし、遠矢の世界は崩壊してしまったとはいえ、一週間という長い時の中で、ゆっくりとその存在を消し去っていった。
「ひとつ誤解しているようだけど、砕けたくらいで世界は消滅したりしないわ。たとえ『カケラ』だったとしても『コア』であることは変わりないんだし、力が衰えるわけじゃない。だから十分に効果を発揮することは出来るの」
そう。
たとえ球体という形が失われ細かくなったとしても、力そものもが消滅するわけではない。
すべての『カケラ』が正常に機能してさえいれば、それは『コア』としての役目を果たせるのだ。
「だったら、何で消えんだよ」
遠矢が、ムスっと、不満そうに聞く。
「本来なら砕けた程度では問題にはならないんだけど、運の悪いことに飛び散った『カケラ』が人に宿ったり邪気を纏ったりしちゃったのよね……」
「ああ。アーシェミリアが邪気があるとか言ってたな……」
真剣な表情で、遠矢は頷く。
「しかも、よ!それだけじゃなく、いくつかが別の世界に飛んで行っちゃったのよね……。そうなると、当然のことながら世界のバランスは保たれなくなるわ。本来ならばそのまま消滅への一途を辿るんだけど、砕けた時にあたしがいた事が、不幸中の幸いよ」
「不幸中の幸い?」
「そ。つまり、あたし自体が『コア』の役割を果たしたってこと。だけど、あたしがちょくちょく別の世界に行くもんだから、結局形を維持できずにじょじょに弱り、滅んだってわけ」
「…………つまり、お前のせいってことか?」
遠矢が、半目で見つめてくる。
「何でそうなるのよ。あたしは、あんたの世界だけの物じゃないのよ」
「それはそうだけどよ~。だいたい『コア』ってすげー力があってめちゃくちゃ頑丈なモンなんだろ。そう簡単に砕けるものなのか?」
それまで、しゃん、と伸ばしていた背を崩し、遠矢が、憮然と問う。
『コア』の複雑な構造を、なまじっかな知識しか身に付けていない遠矢には、なかなか理解しづらいようだ。
「簡単に言うと、雪美ちゃんの仕業、かな」
「っ!」
雪乃が唇に乗せた『雪美』という名前を耳にして、遠矢は呼吸を詰まらせた。
「まさかあの人が黒幕?でも、何でそんなことをするんだよ……」
遠矢は複雑な表情を浮かべ、キュッ、と下唇を噛み締める。
すべての元凶ともいえる者の正体が、はるか高みからこちらを見下ろす、触れられない存在だと知り、遠矢は愕然とする。
責めることも、激怒することも相手が雪美では、それは叶わない。
心の中に渦巻く感情のはけ口を完全に失った遠矢は、発散できないモヤモヤとした感情を内に秘めたまま、乱暴に髪をかく。
「くそっ」
苛立たしげに、吐き捨てる。
「遠矢くんの怒る気持ちもわかるけど……」
雪乃は、複雑な思いで遠矢を見つめる。
彼女にしてみれば、行動に移すに値する十分な理由が生まれてしまったが故の力の行使だ。
はじめから、世界の消滅を望んでいたわけではない。
けれど、結果的に雪美の振るった力が消滅に繋がったのは弁解の余地もなく、巻き込まれ犠牲になってしまった者たちは、たまったものではない。
そして遠矢は、巻き込まれた側だ。
自身に被害が及ぶことはなかったが、これまで生きて来た世界と命をすべて失ったのだ。
雪美に対し、冷静ではいられないだろう……。
「聞いて、遠矢くん」
じっとしていながらも、その内に激しい感情を宿す遠矢へ、雪乃は口を開いた。
もうひとつ、大事なことを伝えなくてはならない。
「『コア』を砕いたのは雪美ちゃんで間違いない。だけど、そうさせた奴がいたのよ」
「え?」
遠矢が、目を瞠る。
『コア』の破壊に直接的ではないけれど、間接的に関わり、世界の消滅へ導いてしまったのは、決して雪美だけではない。
もう一人、いる。
そしてその一人こそ、雪美に『コア』の破壊を選択させた張本人なのだ――――――――。
ここまで読んで下さって、ありがとうございます。
私の文章でちゃんと伝わっているか、かなり不安ですが、まだ説明は続きます(ーー;)
誤字、脱字がありましたら、申し訳ありません。




