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無限ワールド  作者: 水原まき
第7章 崩落世界 再起動世界
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崩落世界 再起動世界6

崩落世界 再起動世界6







 アーシェミリアは、無事だろうか……。

 突然、姿を消し別れてしまった彼女は、果たして、今頃どこにいるのだろう。

 自分のようにこちらに来ている可能性は、おそらくないだろう。


 だったら、どこに――――考えても、遠矢にはわからない。

 八方塞がりだ。


「ゆき~~」

 呼んでも無駄だとわかっているが、またまた名前が零れた。

 だが。

 遠矢の期待の込められていない呟きとは裏腹に、それは突如として返ってきた。



「呼んだ?」

「ひぃっ!」

 呟きに向けられた予想外の返答に、遠矢はびくり、と肩を震わせ悲鳴を上げた。

 驚いて振り返ると、背後に雪乃とイッサーが立っていた。

「よっ」

 雪乃は、いつもと変わらない笑顔で手を振った。

「ゆ、ゆゆゆゆきっ!」

 驚愕と、歓喜。

 二つの感情が混じり合い、遠矢は弾けるように立ち上がる。

 つい先程まで白にのみ占領させていた孤独の世界が、一気にいろを取り戻す。

 本物か!

 

「何よ、その変な顔。あたしに会いたかったんじゃないの?」

 雪乃が、揶揄するようににやり、と笑った。

 本物だ!

 長い間離れていたわけでもないのに、ひどく久しぶりに、その顔を見るような気がする。

 心細さから開放され、ようやく動き出しす。

 だがそう思い安堵した瞬間に、素直には喜べない感情が胸を支配した。


「今まで、どこ行ってたんだよ!おれ、ずっと電話鳴らしたんだぞっ」

 ずいっと詰め寄り、仏頂面で抗議する。  

 望んでいた雪乃との再開だが、いざ再開してみると、安心や余裕が生まれるからか、心の中に不満がムクムクと生まれ出す。


「これでも結構、早めに来たんだけどなぁ……」

 雪乃は、憤慨する遠矢に言い訳することもなく、いつものようにのほほん、と答える。

「ホントかよ……。おれ、結構長い時間ここに放置されてたと思うんだけど?」

「仕方ないでしょ。あたしは『管理業』で色々忙しいし、物事には順序ってものがあるんだから」

「つまり、おれは後回しでいい、ということかよ……」

「はっきり言ってしまえば、そうゆうことね」

「はぁ……もう、いいよ……。ンなことよりも、俺をもとの世界に戻してくれ」

 遠矢は、疲れたように言った。

 今は再会を呑気に喜んでいる時でも、雪乃に喋りかけている時でもない。

 一刻も早く、ここから出なければならない。

「いきなりこっちに飛ばされて、わけわかんねぇよ。『カケラ』探しも途中なんだ。早く帰らねぇと」

 何の前触れもなく姿を消した自分に、きっとアーシェミリアも心配しているに違いない。


「あ~。急いでる時に申し訳ないけど、もうないんだよね~」

 心を騒がせ急かす遠矢とは対象的に、雪乃はのんびりと言った。

「は?」

「だからないんだってば」

 雪乃が、繰り返す。

「……………………。何が?」

 きょとん、と遠矢は聞き返す。

 言っていることが、さっぱり、わからない。

 むしろ、微動だにせず仁王立つ雪乃に苛立ちを感じるほどだ。



「お前の世界は、すでに消滅している」

 マヌケな顔でぽかんと口を開ける遠矢の耳に、静かに通るイッサーの声が鼓膜を叩いた。

「はぁ?消滅したって、何言ってんだ?」

 けれどそれでも理解できず、遠矢は怪訝そうに眉根を寄せる。


「消えたんだって、あんたの世界は。遠矢くんがここに飛ばされたのは、世界が滅んだからよ」

 続きを、雪乃が口にした。

「はあっ!」

 遠矢の目が見開かれ、驚きに変化する。

 滅んだ?

 世界が――――――――



「何もかも木っ端微塵に消滅したわ。人間界だけじゃなくもちろん天界も、ね」

 なんてことないように、雪乃が言う。


 その、焦りも憤りもなく淡々と告げる雪乃の態度と口調が、逆に遠矢へと冷静さを与え、冗談でも虚言でもなく真実なのだと、知らしめる。



「……みんな、死んだのか?」

「うん」

「人も天使も、世界すらも?」

「うん」

「残ったのは、俺だけか?」

「うん」

 遠矢が質問するたびに、雪乃が肯定する。

 遠慮や気遣いは、やはり一切ない。

 残酷なまでに真実が、遠矢に突き刺さる。



「…………っつ」

 消えた、のだ。

 大勢の命と、昔の仲間、そして世界そのものが――――――――


 膝が、震えた。

 立っていられないほど足が竦み、今にも崩れ落ちてしまいそうになり、なりながらそうならなかったのは、雪乃の緋色の瞳に見据えられていたからだ。

 遠矢は、揺らぎかけた足に力を込め、雪乃を真正面から見つめる。



「俺だけが無傷なのは、やっぱお前の『血』のおかげなんだな?」

 遠矢は心臓の上を押さえ、自分の中に流れる雪乃の『血』を感じ取る。

 どくん、どくん、と鼓動するたびに、全身へと流れていく血。

 その中には、雪乃の血が息衝き、遠矢をいう存在をいかしている。

 契約により授かった『血』のおかげで、天使でもましてや人間でもない別の特殊な存在へと変化を遂げた、遠矢という命。

 新たな力と新たな形で存在する、血盟者けつめいしゃと呼ばれる異端の者――――。

 

 雪乃に絶対の忠誠を誓い、いかなる時でも彼女を優先させる――――その代わりに、老いることのない力と身体を与える。

 この盟約により、人間に比べゆるやかではあるが動いていた時が止められ、永遠の若さを手に入れた遠矢。

 しかし、永遠の命、不老不死を手に入れたわけではない。

 雪乃が望めば、その命を簡単に断つこともできる。

 いわば自分の心臓は、雪乃に握られているということだ。

 一見、呪縛にも似た非条理な契約だが、不思議と抵抗はない。

 それが内に流れる『血』によるものなのか遠矢にもわからないが、一度たりとも解消したいと思ったことはない。



「……世界が滅んだ原因は、何だ?」

 衝撃から立ち直ることができず、それでも何とか遠矢は会話を続け原因を求める。

「『コア』が砕けてなくなってしまったからよ」

 相変わらずの淡然さで、雪乃は言った。

「ちょっと!『コア』が砕けたって、ど、どういうことだよっ」

 もたらされた内容に、遠矢は軽い混乱を覚え、思わず、雪乃の腕を掴んだ。

 『コア』が砕けた。

 それは、とんでもないことではないか。

 何故、飄々としていられるのかわからず、遠矢の指先に自然と力が加わる。



「話し、長くなりそうだから取りあえず座ろうか」

 しかし雪乃はぐるぐるしている遠矢の様子を冷静に眺めそう言うと、おもむろに、パチン、と指を鳴らす。

 それを合図に、突然、白の世界に丸い椅子とテーブルが出現し、飲み物とお菓子が並べられた。


「あぁ?」

「お茶にしよう」

 唐突に開催されたティータイムに、何だ何だ? と戸惑う遠矢の腕から、力が抜ける。

 雪乃は素早く遠矢の腕から抜け出すと、構わず椅子を引いて腰かけた。










遠矢くんたちの存在についての説明を、間に入れてみました。

雪乃が彼らをアゴで使う傾向があるのは、こういう理由からです。笑。



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