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無限ワールド  作者: 水原まき
第7章 崩落世界 再起動世界
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崩落世界 再起動世界5

崩落世界 再起動世界5







「受け取れ」

 雪乃の呆れのこもった困惑をもちろん感じ取っているはずの雪美は、やはり淡白な声音で言いながら、しなやかに腕を振り、こちらへ何かを投げてきた。

「おっと」

 弧を描き自分の方へと飛んでくる光の物体を、雪乃はキャッチする。

 見てみれば、女性の拳くらいの大きさの『カケラ』と呼ぶにはいささか大きいけれど、それは見慣れた『カケラ』だった。

 中央に、真紅を宿し輝く光の渦がある。

「へぇ。ずいぶん回復してるみたいじゃん」

 あれだけ小さかった『カケラ』たちは、すっかりひとつに合わさって『コア』の形に戻っている。

 中央でたゆたう力が、まるで胎動している命にように感じる

 うん。やっぱり、綺麗だ。


「傍に、置いていたからな」

「なるほど。雪美ちゃんの力を吸収したってことか……。でも、これで全部じゃないよね?」

 雪乃は未完成な『コア』を掌の上で転がしながら、言う。

 こちらが所有している『カケラ』を合わせても、完全なものにはならない。

 まだ、『カケラ』が存在している――――――――



「……ハヤテ」

 雪美が、呼んだ。

「はい」

 雪美よりも感情を掴ませない、機械的な返事が響き、何もなかった空間に、白のコートが靡き、一人の仮面男が現れた。



「や!さっきぶり」

 素顔を隠し佇む仮面男に、雪乃はほがらかな笑顔で手を振る。

「お久しぶりです。先ほどはご挨拶も出来ず、申し訳ありません」

 仮面男はイッサーには目もくれず、感情のあまり込められてはいない平淡な声で謝罪しながら、雪乃にのみ恭しく頭を下げる。

 彼にとって雪乃は、雪美よりちょっと下に位置付けされてはいるが、尊うべき存在には変わりないのだ。

「あはは、いいのいいの。近くにカイキもいたし、雪美ちゃんにあたしに関わるな、って言われてたんでしょ?」

 雪乃は、ケタケタと笑う。

 たとえ雪乃と言えども、アーシェミリアと共に行動している最中に接触を持てば『カケラ』の回収に影響を及ぼさない、という保証はなく、雪美が独断で動くことは今にはじまったことでもない。


「ハヤテ、渡してやれ」

「御意」

 雪美の命ずるままに、ハヤテと呼ばれた仮面男は懐から小さなビンを取り出した。

 それは、何度も目にしている、アーシェミリアが持っていた小ビンだった。


「やっぱり取られたか……我が下僕ながら、あっさり奪われちゃって情けないわねぇ……」

 まったく、と小ビンを受け取りながら雪乃はため息を吐く。

 遠矢とハヤテ、どちらが優っているかと比べれば、確実にハヤテの方だろう。

 抵抗して戦え、とは言わないが、すんなり奪われたとなると、主人である雪乃としてはちょっと複雑な思いが生まれる。



「そう言えばさ、ハヤテくんってうちの遠矢とこれまで会ったことなかったの?」

 思い出したように、雪乃は尋ねた。

 忽然と現れ『カケラ』を奪った相手――――その特徴の説明を受けただけで、雪乃はハヤテの存在を瞬時に察知できた。

 けれど、白コートを羽織った仮面男と会いその報告をする遠矢の驚き様――――あの時、彼の中にはイコール、ハヤテ、という答えが微塵も出ていなかった。


「ハヤテはどうか知らないが、遠矢が対面したのは今回がはじめてだ」

 雪乃の疑問にいち早く答えたのは、問われたハヤテではなく、後ろに控えていたイッサーだった。

「そうなの?てっきり会ってるものだと思ってた……」

 ちらり、とハヤテに視線を送ると、彼は小さく頷いて、イッサーの言葉を肯定する。

「じゃあ今度、改めて挨拶に来ないとね」

 雪乃は、にこりと笑う。

 今回は対峙する形となってしまったが、同じ立場にいる者同士、だ。

 別段、仲良くする必要はないけれど、やはり面識くらいはあった方がいいだろう。 


「さて、と。んじゃ、理由も『カケラ』も手に入ったことだし、そろそろあたし行くね」

 ここでの用事は、終わった。

 次なる仕事を終わらせるため、長居は無用だ。

「さっさと行け。お前にとってこここは、退屈でつまらない場所なのだろう?」

 雪美はそう言うとさっさと背を向けて、ふわり、と宙へ浮き上がり、再び桜の枝に腰かける。

「そんな意地悪なこと言わないでよ~。今日は手ぶらだけど、今度はちゃんとお土産持ってくるから」

 何がいい? と雪乃がリクエストを求めると、

「必要ない」

 これ以上話すことはない、とばかりに雪美は冷めた口調で答え視線を外す。

 もはや、一顧だにもしない。

「まったく……。せっかく可愛いんだから、もっと愛想よくしたらいいのに……」

 そっぽを向き、一人で花見をはじめてしまった雪美の素っ気無さに苦笑を零しつつも、雪乃も気持ちを切り替え振り返る。 

「イッちゃん行くよ~。遠矢くんが呼んでる~」

 ある程度の距離を保ったまま佇むイッサーを、雪乃は手招きした。







 *****       *****







 咽かえるほど恐ろしい純白が、遠矢を包んでいる。

 果てしなく続く白の世界は光の歪みをいっさい許さず、遠矢の影すら作らせない。

 自分が生み出す音以外、沈黙を守る世界は、生命力が著しく欠如していた。

 にも関わらず、ここには眩むほどの強い力が充満している。

 太陽もないというのに暖かく、空気も澄んでいる。

 いつの間にか、心地いい、とすら思いはじめている。


「俺、どうしてこんな所にいるんだろうな?てか、どのくらいいるんだ?」

 あぐらをかいて座る遠矢は、突然として現れた白の世界にひたすら困惑し自問してみるのだが、すぐに否、と考えを改める。

 現れたのではなく、自分が白の世界に放り込まれたのだ。



 そしてここは、時が止まった世界――――――――

 すべてのはじまりが存在する世界――――――――



 故に、感覚でとらえる時の流れが現実とリンクするとは限らない。

 遠矢がここに閉じ込められて、時計の針は一周すらしていないかもしれないし、すでに数日が経過しているという可能性もある。

 携帯電話で時刻を確認しようとしたのだが、どういう理屈か電源そのものが切れており、ウンともスンとも言わない。

 この携帯は特殊仕様で、滅多なことでは充電は切れないし異世界にいる相手にも繋がるというシロモノだ。

 それが、完全に黙り込んでいる。

 もしかすると、この世界が影響しているのかもしれない。


 しかしそうなると、この状況を打破できるはずの雪乃とも連絡が取れず、遠矢はただひたすらに座るという選択肢しか選べないということだ。

 試しに、と雪乃の居場所を捜そうと気配を探知をはじめたのだが、祭の夜、神社の裏手で揺らめく雪乃の気配をキャッチするような感覚は、生まれなかった。

 遠矢が雪乃の存在を感じ取ることができるのは、同じ世界にいる時だけだ。

 もしかしたら、この世界に雪乃は不在なのかもしれない。

 けれど、もしかしたら、この世界が異空間すぎて感覚が麻痺して掴めないのかもしれない、という期待のような思いもある。



「……ゆき」

 自然と、名前が零れた。

 自分ではどうしようも出来ない場面に遭遇した時、恥ずかしいことだが、つい呼んでしまうのは彼女の名前だ。

 雪乃さえいれば、すべては問題なく解決するというのに……。



「いつまでここにいなきゃならないんだ?」

 この空間では、自分は無力だ。

 歩き回って脱出できる可能性は、皆無。

 あちこち徘徊したところで、体力を無駄に消耗して終わるだけだ。

 危険はないとわかっているので長居に支障はないけれど、何もすることがなくただボーッと座るだけしか術がない遠矢は、がっくりと項垂れる。

 一人ぼっちの、孤独な世界。

 迷宮に囚われた小さな存在は、悠然と広がる純白に放り出され、困り果てていた。











ハヤテくんはイッちゃんと同じくらい無口です。

全身を白コートに包み込み、仮面を装着。まったく怪しい奴め!

でも仮面の下は、きっと美形のはず!


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