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無限ワールド  作者: 水原まき
第7章 崩落世界 再起動世界
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崩落世界 再起動世界3

崩落世界 再起動世界3







 ――――――――――――世界が滅ぶ。

 雪乃の薄い唇は、確かにそう言った。 

「な、何を言っているのですか。この世界が滅ぶって、冗談でしょう?それに、何故私の世界に悪影響が及ぶのです。意味が、わかりません」

 さっと血の気を失い強ばった表情で、カイキが唇を震わせた。

「だいたい、世界が滅ぶのなら、貴女は何故、こんなところで傍観を続けているのですかっ。ちゃんと説明して下さい」

「それは、私がイレギュラーだからだ」

 頻りに言い立てるカイキの声を、どこかBGMのように聞きながら、雪乃は相変わらずの淡々とした口調で答えた。

 いつしか一人称も『あたし』から『私』へと変化している。


「私は本来この世界に存在しない者……。その私が好き勝手に力を使い未来を変えることは、ルール違反なのよ」

「貴女が、ルールを気にするとは思いませんでした」

「私は、『私』という存在を理解しているだけよ」


 自分の言動と行動がどれほどまでに世界へと影響を与えてしまうのか、雪乃は理解している。

 願い、口にしてしまう、たったそれだけで世界を簡単に創り変えてしまう、強大な力。

 ――――希望も絶望も、創造も滅亡も。

 世界の行く末が、雪乃の感情や思考ひとつでどちらにでも転がってしまう。


 故に、安易に使うべきものではない。

 たとえ残酷だ、と罵られようとも、だ。

 雪乃は全神経を集中させ瞳を閉じる。

 すると、崩れていく世界の音が身体の中に流れ込んでくる。

 消滅へのカウントダウンが、手に取るようにわかる。

 もう、ここは長くない。

 30分も経たない間に地上のすべての生命は死に絶え、地球も消え去っていくだろう。



 

 もうこの世界に『コア』はないのだから――――――――

 



 雪乃はゆっくりと目を開く。

 世界が崩壊しようとしているのに、己の心はこんなにも穏やかで落ち着いている。

 さざ波ひとつ立たず、緋色の瞳は粛々とその現実を映すことしかしない。


「だからこそ、貴女が動くべきではないのですか?『カケラ』のことだって、ちゃんと認識していたのでしょうっ!」

「もちろん」

「こんな状態になるまで放置することが、正しいことなのですか」

 雪乃の酷薄さに、カイキは珍しく怒った様子で牙を覗かせる。

「私は自分のやるべきことをしているだけよ。自分の『正義』を押し付けないでくれる?」

「そういうことを言っているのではありませんっ」

 カイキは悲鳴にも似た声で、思いを吐き出した。

 王としての立場からくる責任感と使命感がそうさせるのか、雪乃の不遜な態度が理解出来ず、歯痒そうに唇を噛む。

「……すべての原因――――『コア』が破壊され『カケラ』となったのは、女神のせいよ。アーシェミリアを使い『カケラ』を回収していたようだけど、もう終わりのようね」

「女神って……遠矢が昔いた?」

「そ。はるか高みにある天界から人間界を管理している連中の、元締め」

「……遠矢たちが探していた『カケラ』……あれが『コア』だったんですか……」

「そうよ。毒々しくて綺麗だったでしょう?」

「あ…………。」

 以前述べた『カケラ』の感想を蒸し返されて、彼がしまったという表情で口元に手を当てる。

 迂闊な発言をしてしまった、とオロオロと不自然に目を泳がせる。

 そのあまりの狼狽ぶり、雪乃は堪えきれず、ぷっと小さく吹き出す。


 少し、いじめすぎただろうか。

 雪乃はそっと息を吐き出して、全身から力を抜いた。


「あ~。まぁ、そー言うわけで。あんたは早く自分の世界にお帰り」

「……え?」

 ぷつり、と雪乃から険が削がれ、操る口調が元に戻る。

 と同時に、少女らしい雰囲気が放たれて、カイキがぱっと顔を上げる。



「『黒異の門』よ」

 雪乃の呼びかけに応え、目線より下に前に一枚の扉がこちらを向くように出現した。

 二人の少女が刻まれた、異世界と異世界を繋ぐ、漆黒の門。

 

 ゆっくりと、重い扉が開く。

 白い光の溢れる空間が広がり、望む世界との回廊が出来上がる。


 ぽかん、と佇むカイキの胸倉を雪乃は掴み、引き寄せた。


「ぐえっ」

 突如、強い力で引っ張られ、身長差のせいで必然的に前屈みとならざる負えないカイキは、変な呻き声を上げる。

「な、ななな何を?」

 いきなりの行動に、目を白黒させて雪乃を見る。

「んふふ。目の前に広がる光景を見ても、驚くんじゃないわよ?」

「はい?」

 ニコニコと笑みを浮かべ、意味深な言葉を送る雪乃に、カイキは戸惑うばかり。

 構わず、雪乃は腕に力を込めて、カイキの身体を扉の中へと投げ飛ばした。

「どりゃ!」

「ひ!」

 細い腕からは想像できないほどの力を発揮して、まるで荷物のように、カイキの身体は軽々と宙を舞い、やがて重力に従い落下する。


「ちょとぉぉぉぉぉっ!」

 焦りを滲ませたカイキの悲鳴が長い尾となり、響く。

 けれど、抵抗する術も暇もなく、カイキの身体は下で待ち構えていた扉が生み出す光の中へ、吸い込まれて行った。

「ふぅ。やっと帰ったか……」

 『黒異の門』へ回収されたカイキに、雪乃は肩の荷が降りたように、息を吐く。

 これでようやく、止まっていた時間を動かすことが出来る。


「さて。あたしたちも行こうか。ここに長居してちゃ、崩壊するものも崩壊できないだろうし」

「遠矢は、いいのか?」

 イッサーが、問うた。

 彼はまだ、現状について何も知らない。

 今もきっと、アーシェミリアと一緒にいるはずだ。

 もしかしたら、今もなお『カケラ』探しをしているかもしれない。


 だが。

「いい。このまま行くわ」

 雪乃は、首を横に振った。

 今は、彼に構っている時間はない。

 つまり、遠矢は見捨てて行く――――――――そういうことだ。


 その時。

 ブルルル……。

 雪乃の携帯電話が振動した。

「……………………」

 取り出し着信者を確認すると、『遠矢』の文字。

 何とまぁ、タイミングのいいことだろう。


 ブルルル…………ブルルル…………ブルルル…………ブルル…………。


 雪乃の手の中で、繋がることを促す小刻みな振動と鈍い音が、続く。

「どうやらあっちも、異変に気付いたようね」

 一行に震えの止まない携帯電話に、遠矢の焦りのようなものを感じ取る。

「でも、もう遅いのよ、遠矢くん」

 雪乃はここにはいない遠矢にそう囁くと、携帯電話を持った手を下げる。


「ばいばい」

 消えていく世界へ、雪乃は別れを告げる。

「行くよ、イッちゃん」

 くいくい、っと袖を引っ張る。

「ああ」

 イッサーは頷くと、鉄筋から足を離し空中へと踊り出る。


「――――ごめんね、遠矢」



 電話に出なくて、ごめん。

 黙ったままで、ごめん。

 見捨てて、ごめん。



 様々な意味の込められた『ごめん』を、未だに震え続ける携帯電話へ向けて小さく呟くと、雪乃は『黒異の門』へと飛び込んだ。

 雪乃を出迎え、目的を終えた扉が、静かに閉じ、やがて空気の中へと溶け消える。



 そして――――――――


 パリィィィィィィン。 


 『コア』も雪乃も失った世界は、遠矢を残したまま崩壊した。








雪乃の口調とかセリフとか、色々難しい~゜(゜´Д`゜)゜

これからもっと説明的なセリフが多くなると思うので、頑張って書かないと!

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