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無限ワールド  作者: 水原まき
第7章 崩落世界 再起動世界
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崩壊世界 再起動世界1

崩壊世界 再起動世界1







 遠矢は、困っていた。

 ベンチに座ったまま、大いに困っていた。

 

 どうすればいいのだ、この状況!




 再び現れた仮面男に、再び『カケラ』を奪われてしまうという失態を繰り返してしまったという事態を受けて、アーシェミリアが耐え切れず泣き出してしまった。

 よほどショックだったのか、肩を震わせ静かに涙するアーシェミリアに、しかし遠矢はかける言葉が見つからず、ただ黙って見つめることしか出来なかった。

 手伝っているとはいえ、所詮『カケラ』とは無関係な遠矢にとって、奪われたことには悔しさは感じるものの、やはりどこか他人事のように感じてしまう。


 遠矢としては、あの仮面男と戦わずに済んだことが一番大事で――――


 だから、アーシェミリアの落ち込みように、戸惑っていた。



 取り敢えず、雑木林の、しかもホームレスの男がいつ目覚めるかもしれない場所に長居するのは危険だと判断し、場所を移動して、アーシェミリアと合流した場所まで戻って来たのだが……。


 ベンチに座るなり、アーシェミリアは俯き沈黙を守る。

 もう涙はおさまり泣いてはいないものの、その表情は暗く、彼女の頭上に、どんよりとした曇天が、浮いていた。

 ここは下手に話しかけない方がいいだろう、と遠矢は鎮痛な面持ちのアーシェミリアの隣へ腰を落とし、様子を見ることにした。

 ここが公園の裏手で、ほとんど人通りのない場所で本当によかった。

 はたから見たら、彼女を泣かせた最悪の彼氏、にしか見えない図である。



 それが、20分ほど前だろうか……。

 アーシェミリアは、未だ落ち込み中。

 動く気配も口を開く気配もなく、しん、と静まり返った空間で、遠矢はすこぶる居心地の悪さを感じていた。

 



 つまり、まったく動きの見せない状況に、困り果てていた。




「……あのさ、大丈夫か……?」

 意を決し、言葉を発すると、声が上ずった。

 涙を流してしまう女性の弱と儚さに、まったく免疫のない遠矢は、どう対処していいのかわからない。

 わからないが故、口から出るものは、ありきたりな言葉だけ。


「何か、飲み物でも買ってくるか?」

 気遣わしげな視線を送り、問う。

 冷たいジュースでも飲んで一息つけば、少しは心が落ち着いて、次なる行動に続くかもしれない。

 そして何よりも、そろそろ本気でこの空気に耐えられなくなってきた。

 

 遠矢は、ベンチから立ち上がる。

  

「わたくしは……これからどうすれば、よろしいのでしょうか…………」

 そんな遠矢を引き止めるように、アーシェミリアが口を開いた。

「『カケラ』は、お母様のとても大切な物だったのです……。それをあのような人にすべて奪われてしまうなんて……わたくしは、なんてことをっ」

 スカートをきゅっと握り締め、アーシェミリアは苦しそうに胸の内を吐露する。

 金色の髪が、パラパラと流れた。



 母親の大切な物――――

 そう言えば、『カケラ』について説明がほとんどなされていない中で、そんなことを言っていたような気がする。

 なるほど、母親の所有者だったこともあり、こんなにもしょげているのか……。


「あいつ、動物園の『カケラ』も取ったって言ってたよな……」

「…………はい」

 こちらを見ないまま、こくり、と小さく頷く。


「あ~。なら、別の『カケラ』を探しに行くか。これ以上、あいつにまた先を越されたくないし、な」

 頭をポリポリかきながら、遠矢はぶっきらぼうに言った。

「えっ?」

 驚いたようにアーシェミリアがやっと、顔を上げる。

 宝石箱のような瞳を丸々とさせ、じっと遠矢を見上げ続け、やがて優しく細められる。


 ゆっくりと立ち上がり、しゃんと背筋を伸ばす。

 まだ少しだけ目は赤みを宿していているけれど、もはやそこに暗い影はない。


「ありがとうございます、カズキさん」

 深々と、頭を下げる。

「別に。おれも、あの仮面男に一泡吹かせたいだけだし……」

 正面からお礼を言われると、なんだかくすぐったくて、落ち着かない。

 遠矢は熱いキラキラ視線を注いでくるアーシェミリアから逃れるように、つと天を仰いだ。


「あ。何か天気悪くなってきたな…………」

 ついさっきまで晴れていた空に、いつの間にか灰色の雲が流れ込んでいた。

 太陽も雲に覆われ、光を淡いものと化す。

 天気予報では、一日中、晴天に恵まれる、とあったのだが……。


「さすがに雨は降らないだろうけど、急いだ方がいいかもしれないな」

 遠矢は、後ろにいるアーシェミリアに声だけ飛ばすと、携帯電話を取り出す。

 雪乃に、このまま『カケラ』を探しに行くことを伝えなければならない。

 仮面男のことを話した方がいいかもしれないが、あまり悠長に話している時間もない。

 必要なことだけを伝えれば、雪乃は汲み取ってくれる。



 プルルル…………プルルル…………プルルル…………プルルル…………。


 雪乃を呼ぶコール音が、鳴り続ける。


(おかしいな。何で、出ないんだ?)


 プルルル…………プルルル…………プルルル…………。

 途切れることがなく一定の間隔をあけ鳴り続ける機械音に、遠矢は首を傾げる。

 カイキとデートをしているだけだというのに、何故電話に出ない。


 遠矢は、ちょっとイラッとする。


 プルルル…………プルルル…………プルルル…………。


 出るまで、鳴らし続けてやろうか。

 なんて思いながら、仕方がなく、アーシェミリアの方を振り返る。

 振り返って、そこにアーシェミリアの姿は何故か、なかった。



「…………はれ?」

 誰もいない光景に、間の抜けた声を出す。

「アーシェミリア?」

 きょろきょろ、と辺りを見渡して呼ぶ。

 けれど、どこにもいない。

「??????」

 状況が掴めず、遠矢はぽかん、とした顔で立ち尽くす。


 どこかへ、行った?

 いや、まさか。

 アーシェミリアが何も告げずどこかへ行くとは考えられない。

 そもそも、離れて行った気配も感じなかった。



「これは……」

 ざわり、と嫌な予感がした。

 繋がらない雪乃の携帯電話と、忽然と姿を消したアーシェミリア。

 何だか、無関係ではないような気がして、急に遠矢の胸がざわめく。



「どーなってんだ。おい、アーシェミリア!どこだっ」

 大声で、名前を叫び、周囲に視線を飛ばす。

 けれど、やはりアーシェミリアからの反応はなく、しん、と静まり返った空気が遠矢を包んだ。



 ぴしり。

 

 遠矢の聞こえない場所で、軋む音がした。




 遠矢は、もう一度携帯電話で雪乃を呼ぶ。


 プルルル…………プルルル…………プルルル…………プルルル…………。


 しかし、こちらもナシのつぶて。 

 もう、何かが起こったとしか、考えられない。

 すぐに、会うしかない。


 遠矢は携帯電話をポケットにねじ込むと、雪乃と別れた場所へと足を一歩、踏み出した。

 が。

 その瞬間。

 まるでタイミングを見計らっていたかのように、


 ぴしぴしぴしぴし!

 

 鼓膜を叩く、何かが割れたような音が響いた。

 何だ、と思う暇もなく、一気に景色にヒビが入る。

 やがてそれは大きな亀裂となり、空を、地面を、風景を呑み込んでいく。


 ぴしぴしぴし。


「え、ええっ?何々、どゆこと!」


 地割れのように、世界が、割れていく。

 目の前で広がる予想だにしない光景に、遠矢はなす術もなく戸惑い、狼狽する。

 まるで完成されたパズルからピースが弾き飛ばされるかのように、ガラガラと色を失い壊れていく世界……。



「ヤベェぞ、ゆきっ。まじで死ぬかも!」

 遠矢がそう天に向かって叫んだ刹那、



 ――――――――――――パリィィィィィィン。


 

 ガラスが割るような音が響き、世界が、吹き飛んだ。

「!」

 途端、目を灼きそうなほどの閃光が走り、遠矢はその眩しさに、腕で顔を覆う。

 それでも防ぎきれない強い光が、瞼を通し入ってくる。

 身体に、痛みや違和感は、ない。

 やがて、まばゆい光は収まる。


「………………」

 生きて、いる。

 呼吸も、できる。

 自分を取り巻く状況の異常さとは裏腹に、無傷を保つ自分に、遠矢は、恐る恐る、目を開ける。


 そこには――――遠矢の知る世界はなく、ただひたすらに白い世界が、広がっていた………………。














第7章スタートです。1話目から、遠矢があたふたしております。

さて、次はまたまた雪乃視点になります。


色んなことが交錯してて、書くのが難しいです(ーー;)

もっと文才と表現力が欲しい……。

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