表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限ワールド  作者: 水原まき
番外編 ①
50/115

カモミール少年 ~雪乃の企み~

カモミール少年 (第3章7話その後。)






「あ、そうそう。遠矢く~ん。お昼ご飯、何か食べたいものある?」

 アーシェミリアが帰宅し、ケーキ皿やカップを片付けていた雪乃は、思い出したかのように、切り出した。


 時間帯を考えると、昼食はもう終えているのかとも思ったが、ケーキを出すためにテーブルを片付けた際、見つけたお弁当はまったくの手付かずだった。

 ちらり、と見たキッチンにあるゴミ箱の中には、コンビニ弁当の空箱がいくつも捨ててあった。

 冷蔵庫を開けてみれば、食材は出て行った時とほぼそのまま。

 どうやら自分が不在の間、ずっと弁当や外食で済ませていたようだ。


 普段から、ほぼ料理などしない遠矢ではあったが、ここまで何もしない姿を見せられると、食育をやり直したほうがいいかもしれない、と思ってしまう。

「今から作るのか?じゃあ……味噌汁とか、野菜炒めとか、そんなんで」

「そんなんでいいの?」

 てっきり、もっとこってりどっしりした物を要求されると思っていた雪乃は、あがった和食メニューに少し驚きを覚える。

「あ~。まぁ、ずっと弁当ばっかだったからな……」

「なるほどね」

 雪乃は、苦笑する。

 つまり、こってりどっしり系は食べ飽きた、とそういうことらしい。


「私は、肉じゃがが食べたいですね♪」

 ぽん、と背後から雪乃の肩を包み込むように手を置いて、カイキがそう囁いた。

 だが、カイキの言葉に答えたのは雪乃ではなく、遠矢であった。

「誰もお前には聞いてねぇよっ。てか、その馴れ馴れしい手を離せ!」

 遠矢は怒りのこもった叫び声を上げると同時にソファから立ち上がり、テーブルの上にあったリモコンをカイキへと投げ付けた。


 ひゅん。


 それは思いのほか勢いよく空を舞い、カイキ目がけ飛んで行く。

「おっと」

 しかし、顔面に直撃するよりも早くカイキの腕が伸び、リモコンをキャッチする。

「こら。物を投げない」

 雪乃は、遠矢の乱暴な行動を注意する。

 カイキを離させたいのなら、口だけで十分だろう。

 無事にリモコンをキャッチしたからいいようなものの、どこかにぶつかって壊れたらどうするのだ。


「それと、カイ君。今日はあまり時間がないから、肉じゃがは無理だと思うよ」

 雪乃は、遠矢によって邪魔され返せなかった言葉を向けた。

 肉じゃがは、じっくり置いて味を染み込ませたほうが美味しいのだ。

 パッと作ってパッと食べるには、向かない料理だ。

「そうですか……。それは残念ですね。では、この次にでもお願いします」

「わかった。時間ある時に、ご馳走するね」

 雪乃がこくり、と頷くと、

「はい。楽しみにしています」

 心底、嬉しそうにカイキが微笑んだ。


「こらーーー。何をのほほん、と約束してんだよ!てか、何でお前が当然のようにここにいて寛いでんだよ!」

 遠矢はどかどかと歩みを進め、カイキに詰め寄り腕を掴む。

 そのままぐいっと引っ張って、強引に雪乃から離す。

「別にいいだろう……。寛ぐくらい」

 力任せに引き剥がされて、不機嫌そうにカイキが言い返す。

「ダメっ!今すぐ自分のご立派な城に帰れっ!」

「そんなこと、お前に命令される覚えはない」

 ムッとしたように、カイキが言った。

「なんだと~。暇さえあれば来やがって。ここはお前のために用意した隠れ家じゃないんだぞっ」

「そんなこと、当たり前だろ。ここが雪の家だからこそ、会いに来ているんだ」

「なお悪いわ!」

「何故?雪は俺を受け入れてくれているんだ。俺に会いたくないのなら、お前が出ていけばいいだろう?」

「何故、そうなる!ここはおれの家だぞっ!」



(あ~あ。またはじまった……)

 雪乃は、いがみ合う二人に嘆息する。

 いつもは物腰が柔らかく、滅多に口調を荒げないカイキが強く反発している。

 遠矢は遠矢で、いつものように気に入らない様子で牙を向いている。

 こうなると、意外に長いのだ。


(今のうちに、料理はじめよ)

 止めるのも、面倒くさい。

 雪乃はエプロンを巻き、キッチンに入る。

 スーパーで購入してきたばかりの食材から、味噌汁と野菜炒めに使う分を選んでいく。

 ご飯は、今から炊くと時間がかかるので、冷凍していたご飯を、レンジでチン!だ。

「イッちゃん。フライパンと味噌汁用の鍋、出してくれる?」

「ああ」

 雪乃が誰もいないはずのキッチンでそう呟くと、どこからともなくイッサーが現れた。

 彼は収納スペースから、鍋とフライパンを取り出してコンロの上に置く。


「ありがと。あとはあたしがやるから、イッちゃんはゆっくりしてていいよ」

 にっこり笑いながら雪乃がそう言うと、イッサーは無言で頷き、ソファへと座る。



(そうだ!忘れるとこだった。料理をする前に、と……)

 雪乃は、大事なことをハッと思い出し、携帯電話を取り出した。

 アドレス帳を選択し、あ行を選ぶ。

 すぐに出てくる、彼女の名前。

(好きにすれば、とは言ったものの、さすがに見捨てるのは可哀想だしね……)

 彼女のことだ。

 完全に遠矢に拒絶され、今頃すごすごと帰宅しているに違いない。

 遠矢はあまり興味がないようだったが、正直、散らばってしまったという『カケラ』のことも気になる。

 それに、彼女とは別の話しもしてみたい。


「せっかくだし、こいつもデートに誘ってやるか」

 今日は、夏祭りの日だ。

 あと4時間もすれば、祭りに行くぞ、と騒ぎ出すだろう。

 今日の夕食は、出店のメニューで済ませるつもりだ。

 雪乃はちらり、と視線をリビングに移す。

 未だにくだらない言い合いをしている遠矢が、目に入る。

 きっと、楽しい夏祭りになるに違いない。

 だから、彼女の参加は、黙っておこう。

 雪乃は、今以上に騒ぐだろう遠矢の姿を想像し、口元を歪めた。







 終わり




こうして、遠矢くんの受難は続く……。

カモミールの花言葉は「苦難に耐える」「仲直り」「逆境に耐える」「清楚」……他。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ