表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限ワールド  作者: 水原まき
第2章 くすぶる陰謀
5/115

くすぶる陰謀3

くすぶる陰謀3





「ぐっ!」

ドムッ!

鈍い音とともに、骨の軋む振動がツバキの拳に伝わった。

容赦のない一撃を食らった金髪男はうまく防御も出来ず、まともにその衝撃を受け止めて、背後にある民家の壁に全身を打ち付けた。

外壁に激突する音が鼓膜に、ズルズルと路地に崩れ落ちる金髪男の姿が目に入る。

手加減したとは言え、まともに受けたのだ。

簡単には起きないだろう。

手応えから、肋骨の二、三本は折れているはずだ。


「やるね、あんた。早い早い」

ノビてしまった連れの様子など気にも止めず、ツバキの一連の動きを絶賛する。

「だが、俺はそう簡単にはいかない、よ!」

最後の声に気合を入れて、茶髪男が真正面から走り込む。

己の腕に自信があるのか、彼の武器は拳。

そう思った直後、拳を上げ高らかに叫んだ。

「サンダーボール」

掲げた腕を地面に叩きつけ、途端、青白い稲妻がツバキ目がけ、地を走る。


(魔術か)

バチバチバチッと雷を纏った球体が土を抉りながら飛び込んで来る。

その軌道を冷静に読み取り、タイミングよくジャンプしたツバキは、丁度、頭上にあった、アパート内から外に突き出てた鉄の棒を掴み、空に逃げる。


バシィッ!


標的を失った雷撃はそのまま後ろの壁に直撃し、ガラガラと外壁を破壊させ大人が屈んで通れるほどの大穴を開ける。

「威力は、普通だな」

トスッ、と着地して、術の感想を述べた。

「ちょこまかと。逃げるのだけは上手いようだね」

楽々と宙へと舞い上がったツバキに、茶髪男が言った。

「けど、そう何度も同じ手は……」

「フリーズ・アロー」

ツバキは男の言葉を無視し、呪文を唱え、放つ。

「くそっ!」

その声を聞き、それまで余裕の表情を浮かべていた茶髪男の顔色が一変。

まさかこちらも術を使える人間だとは、思わなかったのだろう。

動揺と焦りを滲ませた目付きで、飛び込んでくる氷の矢を避ける。


だが。

甘い!


ツバキは、すかさず指先を己の方へと引き寄せる。

と。

後ろへと流れた矢が、Uターンをはじめた。

そして。


パキィィィン。


空気を震わす甲高い音とともに。

氷の矢は無防備だった茶髪男の背中へと直撃し、声を上げる暇もなくあっという間に全身を氷漬けとした。

「無駄口の多い男は嫌いなんだ」

氷の中で、目と口を開けた表情のまま佇む男に向かい言い放つと、ツバキは何事もなかったかのように通り越す。

「やはりゴミ溜めだな」

日を追うごとに、酷くなっていく。

格差や人間の強欲によって生まれたスラム街は、表舞台が華やかになればなるほど規模を広げ、成長し続けている。

少し間を開けてやって来ると、たむろする顔ぶれもずいぶんと変わってくる。

とくに最近は、若者が多いような気がする。


ツバキは迷路のように入り組んだ道を、進んで行く。

しばらくすると突如、狭い空間がひらけ、広場へと抜ける。

そこは、公園だった。

薄汚れボロボロではあるが遊具がいくつか点在し、砂場らしき物もあった。


だが、やはりここはスラムの一角だ。

せめて雨風だけでも防げるように、とばかりに薄いシートで作られたテントがいくつも並び、その前に大人たちが何をするでもなく居座っている。

ツバキは、だらしなく暇を持て余している大人たちの脇を平然とすり抜ける。

訝しげな視線がいくつも注がれ、ヒソヒソ声が耳をかすめるが、ツバキの進行を妨げる者はいない。

みな、わかっているのだ。

ここまで無事で来れたということは、それなりの実力を持った者だ、ということに……。

ツバキはそのまま広場を横断し、再び狭い路地へと入る。

歩き続けること、しばし。

寂しい光景の中に派手な外壁の家が視界に飛び込んで来た。

いらっしゃいませ、と書かれている巨大な看板と、それを左右から支える二体の筋骨隆々な男の像が入口の前で向かい合い佇んでいる。

到底、歓迎しているとは思えないほど鬼のような凄まじい形相を刻ませている二体の像からは、圧力しか感じられない。

寂れた風景ばかりが続くスラムで、これはなかなか衝撃的な画だ。

ツバキは二体の像の間を潜り、その先にある建物の入口の前まで進む。

『商い中』とプレートが掲げられているドアが、あった。

ツバキは、ノブを回した。



ギィィ。



すっかり立て付けが悪くなり悲鳴を上げるドアを遠慮なく押し開ける。

中に入ると、店内は明かりひとつなく窓から差し込む光のみで辺りを照らし、ひどく暗い有様だった。

背の高い棚で埋め尽くされた店内。

所狭しと並べられた雑貨や書籍、緑色の得体の知れない液体が注ぐ小瓶。

埃まみれのツボ、肖像画、皿、ポスター、ぬいぐるみ、ナイフ。

上げればキリがない商品の数々がジャンル問わず、これ以上の収納は望めないほど溢れている。

棚のわずかに残されたスペースに数体の人形が陳列され、通り過ぎるツバキへと不気味な微笑みを投げかけて来る。

しかも棚に納まりきれなかった商品が、床に置かれたダンボール箱の中に、あまり扱いがいいとは言えない状態で詰め込まれている。


「また増えてるな……」

天井からぶら下がる暖簾のような布を払いながら店の状況を見たツバキは言った。

足元には陶器で出来た動物の大きな目が、ツバキを見上げている。

一体これらの商品は、どこから仕入れてくるのだろう。

ふと書かれている値札を見れば、とんでもない数字が並んでいる。

こんなふざけた値段を付けて果たして、ここの経営はうまくいっているのだろうか。

いや、スラムという最悪の立地を選ぶあたり、商売が目的ではないだろう。


「文句があるなら、来んでもいいぞ?」

立ち尽くすツバキの耳にシワ枯れた声が届き、ぬぼぅ、と薄明かりの中から皺だらけの顔が現れた。

否、薄暗さに慣れた目が、ようやく息を潜めていた老人の姿をとらえたのだ。

ぐしゃりとした顔がにんまりと歪められ、両目が弓のように曲げられる。

店の一番奥。

一段高い場所で座布団の上に座っている老人。

歳は、七〇くらいだろうか。

ここスラムで暮らす者に、彼を知らない人間はおそらく存在しないであろう。

いつからここで店を構えているのか。

何の目的でスラムに居座り続けているのか。

一切、分からない。

彼の服装や身のこなしからスラム出身者ではないことは明白だったが、どういうわけかスラム街のドンのような存在になっている。

本名を決して漏らさず素性を掴ませない、正体不明の老人。

分かっているのは、かなりの事情通、ということだけだ。

つまり、スラムで『商い中』などと、さも骨董店を営んでいるかのように見せかけているこの老人は、本当の所は『情報』という商品を専門に取り扱っているのだ。


老いて真っ白になった髪と、顎を覆う立派な髭。

背中を丸めちょこんと座る老人の背丈は立ったとしてもツバキの胸辺りしかない。

小柄で痩せ型。

どこにでもいる老人のように見えるが、こちらをとらえる目には曇りひとつなく、老いぼれて見え、実はその身のこなしからは一切の隙が窺えない。

一目で、一般人ではないと分かる。

「ついにボケたか?俺を呼んだのはそっちだろう」

雑貨で足をとられないよう注意を払い、呆れながら店主に近付いて、ツバキは手前にある椅子に躊躇わず腰かけた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ