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無限ワールド  作者: 水原まき
番外編 ①
49/115

スノーフレークの嘆き ~ユウキの本音~

スノーフレークの嘆き ~ユウキの本音~







 バニラ味の星。

 チョコレート味のハート。

 バニラとチョコ、ふたつの味が混ざり合う、月。

 それらは卵大の大きさに形成され、可愛らしい袋の中に入れられている。

 いわゆる、クッキー。

 しかも手作り。



「ツバキくん。あたしクッキー作ってきたの。あげる♪」

 えへへ、と恥ずかしそうに頬を緩ませて、ユウキが手の中にあるクッキーを想い人へと差し出した。

 朝早くから支度をはじめ、コゲもなく綺麗に作り上げた力作だ。

 味見はしていないが、美味しく出来上がっているのは間違いない。


「…………。」

 ニコニコ。

 受け取ってもらおうと、とびきりの笑顔を向けるユウキに、けれどそれを送られたツバキは無言でクッキーに冷めた眼差しを送る。

 そして、


「うざい」

 そう一言だけ放ち、『カズラ』を出て行った。


 カランカラン……。


 ツバキの退室を告げる乾いた音が、虚しく響く。


「う……うざいって……ひどい!せっかく作って来たのにぃ~」

 容赦なく受け取りを拒絶され、浴びせられたツバキの言葉に、ユウキはカウンターに突っ伏して、心の中で涙を流す。

 彼に冷たくあしらわれることに慣れているとは言え、4時間以上を費やし作ったクッキーを一瞬で拒まれると、さすがにダメージは大きい。

「はぁ~~。もしかして、クッキー嫌いなのかなぁ……」

 しょんぼり、と肩をだらしなく落としたままの状態でユウキは零した。

 彼の食の好みは、すでにリサーチ済みだ。

 辛いものが大好きで、甘い物も意外と好き。

 そして、酸っぱい物がちょっと苦手だったりする。

 こっそり調べて色々と把握しているつもりだったのだが、もしかしたらクッキーは苦手なのかもしれない。


(それとも、あたしが作って来た物だからイヤだった、とか……?)

 だとすると、それはかなりこたえる。

 献身的な女性は、重荷なのだろうか……?

(それはイヤすぎる……)

 自分で自虐的に言っておきながら、その言葉をあらためて形にしてみると妙にリアル感が増し、ユウキは瞳に暗い影を落とす。


 すると、

「ユウキちゃん、そんなに気にしないで。彼は、クッキーが苦手で受け取らなかったわけではないから」

 ユウキの嘆きに応えがあった。

「へ?そうなんですか?」

 ぱっと顔を上げ、今しがたの発言を生み出した人物を、直視した。

 カウンター内で料理の仕込みをしていた、妙玲の店主。

 サクラだ。


 彼女は、落ち込んでいるユウキに向けて爽やかな笑を唇に乗せ、

「ツバキちゃんは、あまり他人が作った料理が得意ではないのよ。得に、いかにも『手作りしまた!』って主張してくるものが苦手みたいなのよね」

「え、そうなんですか?」

 ユウキが驚いた顔で言うと、意外でしょ、とサクラが笑う。

 その情報は、初耳だった。

 改めて、クッキーを見つめる。

 型を使って作ったとはいえ、まばらに散らばる凹凸からは、手作り感が溢れ出ている。

 市販のならば、こうはならないだろう。

 ツバキはこの手作り感に、拒否反応を示したのだ。

 だが、ここでひとつの疑問が生まれる。


「でも、サクラさんが作った料理は平気で食べてますよね……」

 ユウキは、納得できない様子で首を傾げる。

 だってツバキは、『カズラ』で何度も食事をしている。

 手料理が苦手なんだと言われても、ピンとこない。

「ふふ。仕方ないでしょう。わたしたち、子どもの頃からの付き合いだもの」

 唇に薄い笑を浮かべ、言う。

 つまり彼女は、長年の付き合いから生まれた信用と信頼による結果、とい言いたいようだ。


「なるほど。いわゆる腐れ縁がなせる技っていうことですね」

 ユウキが大きく頷きながらそう言うと、

「幼馴染と言って」

 笑顔で、素早く訂正が入った。


「サクラさん、どうすれば、ツバキくんはあたしの料理、食べてくれるんでしょうか?」

「彼、本当に難し人だものね……」

 サクラは、黙り込んで考える。

 付き合いが長くなれば食べてくれる、そんな簡単な問題ではないような気がするのだ。

「そうね……。焦らずゆっくり、何度も渡していけば、いつかは食べてくれるんじゃないかしら?」

「……………………」

「……………………」


 考えた末、出された結論は、そんなありきたりな言葉だった。

 ユウキは、頑張ります、とだけ返し、小さく笑った。


「あの、これ、もったいないですから、よかったらどうぞ。食べて下さい」

 行き場のなくなったクッキーを、ユウキはサクラへと向ける。

 未だにツバキに食べて欲しい思いはあるが、それはほぼ100パーセント無理そうだ。

 悲しみと共に自分で食するのは憂鬱だし、かと言って、捨てるのももったいなさすぎる。

「あら、頂いていいの?」

「はい……。貰ってくれたら、嬉しいです」

 せっかくプレゼント用に作ったのだから、やはり誰かに食べてほしい。


「ありがとう。とても美味しそうだから、楽しみだわ。ツバキちゃんには、わたしからちゃ~んと言っておくから、気にしないでね」

 クッキーを受け取りながら、サクラが『ちゃ~んと』を強調させながら言った。

 しかし、その発言に驚いたのは、ユウキだった。


「あ、そんないいですいいです!ツバキくんの苦手な物を持って来ちゃったあたしが悪いんです。気にしないで下さい」

 ぶんぶん、と首を横に振る。

 サクラの気遣いは嬉しいけれど、あまりこの話題を長引かせなくはない。


「相変わらずのツバキちゃんラブなのね。幼馴染のわたしが言うのも何だけど、女にとっては天敵みたいな男よ?別の人を探した方がいいと思うのだけれど?」

 サクラは、心底、心配そうな表情で言った。

 ツバキに恋心を抱いても、辛いだけの恋で終わるのは目に見えている。

「そんなことないです!ツバキくんは、すごく素敵な人だと思います!」

 ユウキは、きっぱりと力強く言い放つ。


 確かに、サクラの言うとおり世の女性にとって、彼はけっしていい男とは言い難い。

 冷徹ともとれる行動や言動は、男女関係なく振り下ろされて、しかも容赦がない。

 ユウキも、何度、心をコテンパンに折られたことか……。

 それでもくじけず、ツバキのもとに足繁く通うのは、それだけ彼に対する思いがあるからだ。


「それにあたし、ツバキくんの彼女にして欲しい、とか、その……か、関係を持ちたい、とかそんなことは思ってませんから……」

 顎を下げ、メガネで表情を隠しながら、ユウキは恥ずかしそうに言った。

「あら、そうなの?」

「はい。今は、そばにいるだけで幸せですから」

 ユウキはスっと顔を上げ、迷いのない言葉を落とした。

 こんなふうに『カズラ』を訪ね、ツバキに会う。

 それだけで、今は満足だった。


「欲のない子ね……。ツバキちゃんがモテるのはわかるけれど、彼のどこに惹かれたの?」

「それはもちろん、顔ですよ!」

 陶然と、ユウキは言った。

「え、顔?……顔なの?」

 予想外の返答だったのか、サクラが唖然と呟いた。

「当たり前じゃないですか!あの鮮麗された顔は、奇跡に近いとあたしは思うのですっ」

「そう、ね。女のわたしから見ても、羨ましく思う時はあるわ」

 サクラは、大きく頷く。

「ですよね!ツバキくんの顔は、もう反則物です!あのカッコよくて美しい顔だからこそ、彼の冷徹さや非道さが『魅力』の一つに変わるんですよ。あの美貌にこそ、彼のすべての価値があるんです!」


 ユウキは、カウンターに身を乗り出し、きらりん、とメガネを光らせながら興奮ぎみに、まくし立てた。

 いつもより早い口調で力説する彼女は、一見本気で彼に好意を寄せいているようにも思えるが、ユウキは『顔がイイから、すべてが許される』と言っているようなものだ。

「ユウキちゃん、顔しか褒めてないけど……?」

「あは☆もちろん、すっごく強い所も大好きですよ」

 しまった、と言いたげに、付け足す。

「…………ユウキちゃんって、本当にツバキちゃんのこと……好きなの?」

 サクラの率直な疑問に、

「はい。もちろん大好きです」

 ユウキはメガネの奥で瞳を細め、にっこり笑った。







 終わり






ユウキはとってもイケメン好きで、強い人が好きなんです。笑。

スノーフレークの花言葉は「純粋」「汚れなき心」「慈愛」「美を好む」……他。

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