スノーフレークの嘆き ~ユウキの本音~
スノーフレークの嘆き ~ユウキの本音~
バニラ味の星。
チョコレート味のハート。
バニラとチョコ、ふたつの味が混ざり合う、月。
それらは卵大の大きさに形成され、可愛らしい袋の中に入れられている。
いわゆる、クッキー。
しかも手作り。
「ツバキくん。あたしクッキー作ってきたの。あげる♪」
えへへ、と恥ずかしそうに頬を緩ませて、ユウキが手の中にあるクッキーを想い人へと差し出した。
朝早くから支度をはじめ、コゲもなく綺麗に作り上げた力作だ。
味見はしていないが、美味しく出来上がっているのは間違いない。
「…………。」
ニコニコ。
受け取ってもらおうと、とびきりの笑顔を向けるユウキに、けれどそれを送られたツバキは無言でクッキーに冷めた眼差しを送る。
そして、
「うざい」
そう一言だけ放ち、『カズラ』を出て行った。
カランカラン……。
ツバキの退室を告げる乾いた音が、虚しく響く。
「う……うざいって……ひどい!せっかく作って来たのにぃ~」
容赦なく受け取りを拒絶され、浴びせられたツバキの言葉に、ユウキはカウンターに突っ伏して、心の中で涙を流す。
彼に冷たくあしらわれることに慣れているとは言え、4時間以上を費やし作ったクッキーを一瞬で拒まれると、さすがにダメージは大きい。
「はぁ~~。もしかして、クッキー嫌いなのかなぁ……」
しょんぼり、と肩をだらしなく落としたままの状態でユウキは零した。
彼の食の好みは、すでにリサーチ済みだ。
辛いものが大好きで、甘い物も意外と好き。
そして、酸っぱい物がちょっと苦手だったりする。
こっそり調べて色々と把握しているつもりだったのだが、もしかしたらクッキーは苦手なのかもしれない。
(それとも、あたしが作って来た物だからイヤだった、とか……?)
だとすると、それはかなりこたえる。
献身的な女性は、重荷なのだろうか……?
(それはイヤすぎる……)
自分で自虐的に言っておきながら、その言葉をあらためて形にしてみると妙にリアル感が増し、ユウキは瞳に暗い影を落とす。
すると、
「ユウキちゃん、そんなに気にしないで。彼は、クッキーが苦手で受け取らなかったわけではないから」
ユウキの嘆きに応えがあった。
「へ?そうなんですか?」
ぱっと顔を上げ、今しがたの発言を生み出した人物を、直視した。
カウンター内で料理の仕込みをしていた、妙玲の店主。
サクラだ。
彼女は、落ち込んでいるユウキに向けて爽やかな笑を唇に乗せ、
「ツバキちゃんは、あまり他人が作った料理が得意ではないのよ。得に、いかにも『手作りしまた!』って主張してくるものが苦手みたいなのよね」
「え、そうなんですか?」
ユウキが驚いた顔で言うと、意外でしょ、とサクラが笑う。
その情報は、初耳だった。
改めて、クッキーを見つめる。
型を使って作ったとはいえ、まばらに散らばる凹凸からは、手作り感が溢れ出ている。
市販のならば、こうはならないだろう。
ツバキはこの手作り感に、拒否反応を示したのだ。
だが、ここでひとつの疑問が生まれる。
「でも、サクラさんが作った料理は平気で食べてますよね……」
ユウキは、納得できない様子で首を傾げる。
だってツバキは、『カズラ』で何度も食事をしている。
手料理が苦手なんだと言われても、ピンとこない。
「ふふ。仕方ないでしょう。わたしたち、子どもの頃からの付き合いだもの」
唇に薄い笑を浮かべ、言う。
つまり彼女は、長年の付き合いから生まれた信用と信頼による結果、とい言いたいようだ。
「なるほど。いわゆる腐れ縁がなせる技っていうことですね」
ユウキが大きく頷きながらそう言うと、
「幼馴染と言って」
笑顔で、素早く訂正が入った。
「サクラさん、どうすれば、ツバキくんはあたしの料理、食べてくれるんでしょうか?」
「彼、本当に難し人だものね……」
サクラは、黙り込んで考える。
付き合いが長くなれば食べてくれる、そんな簡単な問題ではないような気がするのだ。
「そうね……。焦らずゆっくり、何度も渡していけば、いつかは食べてくれるんじゃないかしら?」
「……………………」
「……………………」
考えた末、出された結論は、そんなありきたりな言葉だった。
ユウキは、頑張ります、とだけ返し、小さく笑った。
「あの、これ、もったいないですから、よかったらどうぞ。食べて下さい」
行き場のなくなったクッキーを、ユウキはサクラへと向ける。
未だにツバキに食べて欲しい思いはあるが、それはほぼ100パーセント無理そうだ。
悲しみと共に自分で食するのは憂鬱だし、かと言って、捨てるのももったいなさすぎる。
「あら、頂いていいの?」
「はい……。貰ってくれたら、嬉しいです」
せっかくプレゼント用に作ったのだから、やはり誰かに食べてほしい。
「ありがとう。とても美味しそうだから、楽しみだわ。ツバキちゃんには、わたしからちゃ~んと言っておくから、気にしないでね」
クッキーを受け取りながら、サクラが『ちゃ~んと』を強調させながら言った。
しかし、その発言に驚いたのは、ユウキだった。
「あ、そんないいですいいです!ツバキくんの苦手な物を持って来ちゃったあたしが悪いんです。気にしないで下さい」
ぶんぶん、と首を横に振る。
サクラの気遣いは嬉しいけれど、あまりこの話題を長引かせなくはない。
「相変わらずのツバキちゃんラブなのね。幼馴染のわたしが言うのも何だけど、女にとっては天敵みたいな男よ?別の人を探した方がいいと思うのだけれど?」
サクラは、心底、心配そうな表情で言った。
ツバキに恋心を抱いても、辛いだけの恋で終わるのは目に見えている。
「そんなことないです!ツバキくんは、すごく素敵な人だと思います!」
ユウキは、きっぱりと力強く言い放つ。
確かに、サクラの言うとおり世の女性にとって、彼はけっしていい男とは言い難い。
冷徹ともとれる行動や言動は、男女関係なく振り下ろされて、しかも容赦がない。
ユウキも、何度、心をコテンパンに折られたことか……。
それでもくじけず、ツバキのもとに足繁く通うのは、それだけ彼に対する思いがあるからだ。
「それにあたし、ツバキくんの彼女にして欲しい、とか、その……か、関係を持ちたい、とかそんなことは思ってませんから……」
顎を下げ、メガネで表情を隠しながら、ユウキは恥ずかしそうに言った。
「あら、そうなの?」
「はい。今は、そばにいるだけで幸せですから」
ユウキはスっと顔を上げ、迷いのない言葉を落とした。
こんなふうに『カズラ』を訪ね、ツバキに会う。
それだけで、今は満足だった。
「欲のない子ね……。ツバキちゃんがモテるのはわかるけれど、彼のどこに惹かれたの?」
「それはもちろん、顔ですよ!」
陶然と、ユウキは言った。
「え、顔?……顔なの?」
予想外の返答だったのか、サクラが唖然と呟いた。
「当たり前じゃないですか!あの鮮麗された顔は、奇跡に近いとあたしは思うのですっ」
「そう、ね。女のわたしから見ても、羨ましく思う時はあるわ」
サクラは、大きく頷く。
「ですよね!ツバキくんの顔は、もう反則物です!あのカッコよくて美しい顔だからこそ、彼の冷徹さや非道さが『魅力』の一つに変わるんですよ。あの美貌にこそ、彼のすべての価値があるんです!」
ユウキは、カウンターに身を乗り出し、きらりん、とメガネを光らせながら興奮ぎみに、まくし立てた。
いつもより早い口調で力説する彼女は、一見本気で彼に好意を寄せいているようにも思えるが、ユウキは『顔がイイから、すべてが許される』と言っているようなものだ。
「ユウキちゃん、顔しか褒めてないけど……?」
「あは☆もちろん、すっごく強い所も大好きですよ」
しまった、と言いたげに、付け足す。
「…………ユウキちゃんって、本当にツバキちゃんのこと……好きなの?」
サクラの率直な疑問に、
「はい。もちろん大好きです」
ユウキはメガネの奥で瞳を細め、にっこり笑った。
終わり
ユウキはとってもイケメン好きで、強い人が好きなんです。笑。
スノーフレークの花言葉は「純粋」「汚れなき心」「慈愛」「美を好む」……他。




