囁く、もうひとりたち15
囁く、もうひとりたち15
急いでいない体を装いながら、足早に雑木林の方へと向かった遠矢を見送って、10分ほど経っただろうか。
雪乃とカイキは、ベンチに座ったままソフトクリームを食べていた。
「ん~。暑い日にはアイスが一番だよね!生き返る~」
上に乗っていたアイスを食べ終え、容器でもあるコーンをサクサクと食べはじめていた雪乃はソフトクリームの美味しさに酔いしれていた。
テレビでも何度か紹介されているらしい店のソフトクリームは、濃厚なミルクの味となめらかな舌触りが広がっている。
(あ~~。もう少しでなくなっちゃうよっ)
残り、半分。
あっという間に、ここまできた。
間近に迫る完食に、名残惜しさから、食べるスピードが落ちる。
そこでふと、自分へと注がれる視線に気が付いてた。
横に首を巡らせ、視線の主であるカイキを見つめる。
何か言いたげな瞳が、そこにはあった。
「何?」
「いえ……。本当に遠矢たちの手伝いをしないのだなぁ、と思いまして……」
同じく、コーンをかじっていたカイキが、注ぐ視線の真意を口にした。
遠矢たちと同行していながら、まったく手を出さず助言すら雪乃の行動に対し、意外性を感じているようだった。
確かにいつもの雪乃ならば、率先して『カケラ』探しに協力するだろう。
一応、裏では動いてはいるのだが、それを知る由もないカイキにとって、平然と構えているだけにしか見えない雪乃は、珍しいものといか映らないに違いない。
「アーシェが『カケラ』探しを頼んだのは、あたしじゃなくて遠矢くんだもん。あたしが口を出さなくても、うまくやれるでしょ?」
「ですが……ユキはあまり二人きりにさせたくないのでは?」
カイキの問に、
「まぁね。遠矢くんとの間にあるいざこざ、まだ解決してないもんねぇ……」
雪乃は、肩を竦ませた。
いくら言葉で決別した、と言い放っても、傷ついた感情というものはなかなか完治しないもので、心を納得させるのは難しい。
けれど、仕事に私情を持ち込み平常心を失ってしまうほど、遠矢は子どもではない。
「それに本気でヤバイと思ったら、助けを呼ぶでしょ。遠矢くんのためなら、あたしはどこへだって助けに行くんだから」
たとえどんなに離れていても、遠矢が助けを求めるのなら、どこへだって飛んで行く。
そして、必ず助ける――――。
何ともロマンチックで夢みがちな発言なのだろう――――。
だが。
それが可能なことを、雪乃も遠矢も、カイキすらもわかっている。
「つまり、無駄な労働はしたくない、ということですね」
身も蓋もないカイキの分析に、
「………………っち。バレたか」
必ずしも外れているとは言い切れず、雪乃が、面白くなさそうに舌を打つ。
「では『カケラ』のことはどうです?あれは一体、何なのでしょう……。ユキは、ご存知ですか?」
『カケラ』の正体について、カイキが怪訝そうに言葉を紡ぐ。
アーシェミリアからは、とても危険な物、としか説明を受けてはおらず、集めることが世界のため、だと語っていた。
けれど『カケラ』の正体も知らされず一方的に協力を求めてくる彼女に、それが本当に正しい事なのかどうかイマイチ判断出来ず、カイキは一抹の不安を抱いているようだった。
アーシェミリアを信じていないわけではないが、疑念は残る。
そういう思いが生まれるのは、当然だろう。
「う~ん。……一応、知ってるけど……」
果たして、伝えていいものか。
一瞬だけ迷いが生まれたが、すべてを語らなければ構わないだろう、と雪乃は口を開いた。
「では、黙認していても問題ない、とユキは考えているわけですね?」
「今のところは、ね」
「……………………」
「『カケラ』は、この世界にとってとても大切なものなの」
「この世界にとって、ですか?」
目を見開き、カイキが問い返す。
『世界にとって』という言葉に、驚いている。
これはアーシェミリアが使った『世界』とは、また違った意味があり、どちらがより重大な意味が含まれているのか……わざわざ質問するべくもなく、カイキは理解する。
「『カケラ』が大切なのはわかりましたが……そんなものを彼女が所有しても、大丈夫なのです?」
詳細は掴めないものの、なんとなく『カケラ』の重要性を把握したカイキは、さらなる別の問題があることに気が付いて、やや顔を曇らせる。
人間ではないものの、一人の少女の手に持たせるには、あまりにも無謀過ぎるのではないだろうか……?
「危ないかもね」
「そんな呑気な……」
危惧するセリフとは対照的に、しれっと、雪乃は言った。
カイキが懸念するように、仮面男という第三者の存在もあり、アーシェミリアに持たせていることは安全面で言えばかなり不安はある。
けれど、こちらが保管しておく、と申し出たところで、素直に従うとは思えない。
「大丈夫。なんとかなるよ!」
雪乃は何の根拠もない自信を見せると、残りのコーンをすべて口に放り込んだ。
モグモグ、と頬をいっぱいに膨らませ、噛み砕く。
「またソフトクリーム買いに行くけど、食べる?」
すくっと立ち上がり、雪乃が聞いた。
「えぇ!まだ食べる気ですかっ」
まさかのおかわり宣言に、カイキは声を上げる。
いくら暑いからとはいえ、食べ過ぎでは……。
「今度はチョコを食べる!」
雪乃は、満面の笑みでぐっと拳を握る。
チョコ大好きな雪乃にとって、チョコのソフトクリームを食べないことなど、ありえない。
今食べた普通のソフトクリームは、いわば前菜。
メインは、これからだ。
「お腹壊しても、知りませんよ……」
呆れながらも、カイキは立ち上がる。
どうやら、付き合ってくれるらしい。
「ここで待っててもいいのに……」
ソフトクリームを売っている店は、すぐそこだ。
わざわざ付いてこなくてもいいのだが。
「いえ。せっかくのデートですからね。付き合います。もちろん、代金も私が払います」
「マメだねぇ…………」
感心したような呆れたような、そんな声で雪乃は言う。
「マメな男性は、お嫌いですか?」
「嫌いじゃないけど、こっちでお金使ってるとさ、あんたの後ろに国民の姿がチラつくのよね……」
雪乃が苦笑しながら答えると、カイキは驚いた表情を浮かべる。
根っからのフェミニストであるカイキは、基本、女性にお金を払わせるようなことはしない。
こちらへと来る際は、換金したお金を使っている。
今回のように『デート』となると、かかるお金はすべてカイキが支払ってくれる。
金額はそう大きなものではないのだが、塵も積もれば何とやらで、パラパラと消えていく紙幣を眺めていると、こっちで動かしていいお金なのだろうか、という疑問が生まれてしまう。
「ユキが、そんなことを気にしているなんて思いませんでした」
「意外で悪かったわね」
「いいえ。それだけ、国のことを想ってくれているんですよね。ありがとうございます」
カイキは首を横に振り、嬉しそうに微笑んだ。
「お礼を言われても困るんだけどなぁ…………」
何だか、むず痒くなってきた。
雪乃は、照れ隠しのように視線を外す。
すると――――
「にゃ~ん……」
足元で、猫の鳴き声がした。
ふと、声のした方へ首を巡らせ視線を落とせば、真っ白な子猫がこちらを見上げしっぽを振っていた。
「な~ん……」
まだ生まれて間もないとわかる小さな子猫は、そのビー玉のような瞳でじっと雪乃を見つめ頼りない甘い声を発した。
遠矢たちが『カケラ』探しをしているその裏で、実はこんなことやってました!の回。
書いていて、アイスが食べたくなりました……。




