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無限ワールド  作者: 水原まき
第6章 囁く、もうひとりたち
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囁く、もうひとりたち14

囁く、もうひとりたち14






「カズキさん…………」

 アーシェミリアの、困った声がする。

「仕方ないだろ。あのままだったら変に絡まれて『カケラ』探しなんて出来ないだろ」

「それは、そうですが……」

 だからと言って暴力を振るうのはいかがなものか……。

 アーシェミリアの瞳が、そう語っている。


「手加減してっから、大丈夫だよ。それより、早く中に入って探すぞ」

 気絶させたとはいえ、いつ目を覚ますかわからない。

 『カケラ』がすぐ見つかるかもわからない以上、あまりペラペラと喋っている暇はない。


「……はい。わかりました」

 アーシェミリアも、無駄話しをしているほど時間が余っていないことくらいは、理解している。

 白のミュールで雑草の茂る足場の悪い地面を歩きにくそうに進みながら、彼女は男のテントに入って行く。

 いっさいの躊躇を見せず堂々と侵入していくアーシェミリアに、遠矢は軽く頭をかいて、後を追う。


 やや腰を曲げ頭を下げた状態で、ブルーシートで作られたテントに入る。

 中は、以外にも整理整頓されていた。

 ダンボールでできた床の上には小汚いほつれた毛布が敷かれ、ぽつりと置かれた棚の中には日用品が並び、テレビまで置かれていた。

 他にもラジオやゲーム機、使えるのか怪しい古びたパソコンまであり、こんな環境とは縁のない遠矢は物珍しさから沸き立つ興味を抑えきれず、『カケラ』探しをしている体で、キョロキョロと視線をあちらこちらに飛ばす。

 あの男は見た目によらず読書が好きなのか、ボロボロの本棚の中には本や雑誌がぎっりしと詰め込まれ、読み用なのか実用品なのか、はたまた両方か、新聞もいっぱい積み上がっている。


 天井からぶら下がる電球は、今時珍しい裸電球。

 ちょっと前にはよく見かけた家電製品や何に使われているいるのはよくわからない部品が、ゴロゴロと転がっている。

 奥の方には寝床らしき毛布を敷いただけの場所があり、しかし周囲には汚れた皿やペットボトルが散らばり、あちらに行くことだけは避けたい、そんな気持ちにさせる空間となっている。



「あ、ありましたっ」

 遠矢が、相変わらずジロジロ観察しているその後ろで、アーシェミリアの弾んだ声が『カケラ』の発見を告げた。

 意外と、早く見つかるものだ。

 こっちはほとんど何もしていないというのに。

 遠矢は、思いのほか早く終わった『カケラ』探しにホッとしながら、振り返る。

 アーシェミリアは、掌に被せたハンカチの上に『カケラ』を乗せていた。


「カズキさんのおかげで、無事に見つかりましたわね」

 『カケラ』を発見し、アーシェミリアはふわり、と微笑む。

 ブルーシートで作られたのテント内には似つかわしくないほど上品で、優しい笑み。

 遠矢はその綺麗な微笑みに、つと視線を外す。

「見つけたんなら早く出た方がいい。次もあるんだろ?」

 ぶっきらぼうに言い放ち、遠矢は本棚から離れる。

「はい。そうですね!」

 不自然な遠矢の態度に、しかしアーシェミリアは嬉しそうに大きく頷き、小瓶の中に『カケラ』を落とし込む。

 『次』という今後の予定に繋がる言葉が、笑顔を誘ったらしい。

 アーシェミリアはテントから抜け出すと、地図を取り出し場所を確認する。

「次は、ここから少し離れた場所にある動物園の中、ですわ。早く向かいましょう」

 次なる『カケラ』を求め告げられた場所は、とんでもない名を持つ施設だった。

「はぁっ!動物園って何をバカなこっ……」

 アーシェミリアのセリフに驚き大声を上げた遠矢だが、気絶中の男の存在を思い出し、あわてて口を閉じた。

 今、起きられてはマズイ。

 遠矢はざわつく心を鎮め、アーシェミリアをじっと見つめる。


(動物園、だと……?)

 本気で、言っているのだろうか……。

 

 只今の時刻は、午後3時すぎ。

 平日とはいえ、夕方へと向かいつつある、時間。

 今から動物園に向かい、大勢の人間が出入りする園内での『カケラ』を探すなど、かなり困難だと思われる。

 この公園も広い方だとは思うけれど、動物園の賑わいや混雑に比べれば何倍も探しやすい。

 これから広大な園内を歩き回らなければならぬと想像し、その途端、どっしりとした疲労感のような物がのしかかり、遠矢は己の発言の迂闊さを呪う。


 もともとやる気など米粒ほどしか持っていなかったが、その米粒すらもお粥のようにフニャフニャになってしまいそうだ。



「……動物園のどこにあるのか、もちろんわかってるんだよな?」

 一番大事なことを、訪ねた。

 もしわからない、と答えたら本気で帰るぞ―――― 



 遠矢が心の中で呟きアーシェミリアの返答を待つ体勢に入った直後、返って来たものは、


「それはすでに回収した」

 男の、声だった。

 同時に生まれる何者かの気配と、視界を舞う白いコート。

「!」

 遠矢は、その白にハッとする。。

 しかし――――

「きゃあ!」

 忽然と姿を現した仮面男は、こちらが反応するよりも早く身を動かして、アーシェミリアの腕を掴んだ。

 『カケラ』の小瓶が入った方の手を……。



「アーシェ!」

「っ……」

 がっしりと仮面男に腕を掴まれ、アーシェミリアが顔を歪める。

 逃れようと力を込めて抵抗しているが、びくともしない。

 いつから――――。

 一体、いつからいたのだ。

 まったく、気付かなかった。

 仮面男はこちらが『カケラ』を見つけテントから出てくるのを、待ち構えていたのだ。


 雪乃からも注意されていたというのに…………。

 迂闊だった。

 遠矢は、己の警戒のなさに、奥歯を噛み締める。


 今、アーシェミリアは動きを封じられ、完全に人質となっている。

 相手の力量はわからないけれど、アーシェミリアの細い身体を簡単に折ってしまうほどの力があることくらいは、わかる。

 下手に動くことは出来ない。


「これは返してもらう」

 仮面越しから言葉を落とすと、仮面男はアーシェミリアの手から小瓶を奪い取る。

「だ、ダメですそれだけは。返して下さい!お願いします!」

 アーシェミリアの悲痛な叫びに、けれど仮面男はコートのポケットに小瓶を仕舞う。

 やはり、目的は『カケラ』か。

 『カケラ』を渡しさえすれば、アーシェミリアには用はないはずだ。


 マンションでの一件に続き、すべての『カケラ』を奪われるのは癪だが、アーシェミリアの安全を優先しなければならない。


「彼女を離せ。もう、俺たちに用はないだろう……。それとも、俺とやり合うつもりか?」

 遠矢は仮面男を睨みつけ、構える。

 雪乃から関わるな、と忠告を受け、こちらとしても関わりたくはないのだが、こうなってしまった以上、逃げるわけにもいかない。

 何とか、言葉だけで乗り切りたい。


「……………いいだろう」

 短く言うと、アーシェミリアを突き飛ばした。

「きゃあ!」

 背中に受けた衝撃で、アーシェミリアの身体は容易に前へと飛ばされた。

「アーシェミリア!」

 遠矢が、つんのめるアーシェミリアの身体を、受け止める。


「大丈夫かっ」

「はい。ありがとうございます。わたくしは、平気ですわ……」

 遠矢に支えられながらも、力なく微笑む。

 取り敢えず、無事で一安心だ。

 


「あの男はっ…………いない、か……」

 急いで視線を戻すと、すでに男の姿はない。

 当然だろう。

 むしろ、大人しく去ってくれたことに、感謝すべきかもしれない。

「カズキさん……『カケラ』をすべて奪われてしまいました……」

 今にも泣き出してしまいそうな、震える声でアーシェミリアが呟き、遠矢の服をぎゅっと握り締める。


 奪われた。

 これまで集めてきたすべての『カケラ』を――――。


「……………………」



 それが一体、何を意味するのか…………。

 『カケラ』の正体をまったく知らない遠矢は、肩を震わせるアーシェミリアを、だた黙って見つめることしか出来なかった…………。










結局、抵抗もできずすべての『カケラ』を奪われました。

遠矢視点が多い割に、あまり活躍できてない……。

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