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無限ワールド  作者: 水原まき
第5章 それぞれの微雨
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それぞれの微雨2

それぞれの微雨2





「確か、この先にメイドさんたちがいたよね?」

 ユウキはここに案内される道すがら目撃していたメイドの姿を、思い出す。

 彼女たちは魔族で、楽しそうに談笑しながら仕事をこなしていた。

 二人でふらついているところを見られたら、どんな因縁をつけられるかわからない。

「そうだな。下らん連中に付き合っている暇はない。まずは……」

「貴方たち、コソコソと何をしているの!」

 ツバキの言葉を、声高な叱責が遮った。

「!」

 びくり。

 突然の声に、ユウキの肩が驚きで震えた。

「ちっ」

 忌々しそうなツバキの舌打ちを聞きながら、ユウキは声のした方を見る。

 そこには、二人のメイドたちがいた。

 彼女たちは、柱の裏に隠れるように立っていた二人に、不審な眼差しを注いでいる。


「あの、すみません。実は私たち、仕事中に迷ってしまって……」

 先に動いたのは、ユウキだった。

 ユウキは疑いを持たれないように、へら、とわざとバカっぽい笑みを浮かべ、パタパタと彼女たちへと近付く。

 しかし、ユウキが相手との距離を縮めると、彼女たちの瞳に宿る嫌悪感をはっきりと読み取ることができてしまった。

「大声で廊下をバタバタと走るなんて、はしたないわね」

 メイドの一人が、ユウキの行動を諌めた。

 それを皮切りに、中傷がはじまる。

「まったくだわ。どういった教育を受けているのかしら」

「仕方がないわ。私たちとは育った環境が違うのだもの。品なんて求めても無駄よ」

「ああ、確かに。身度ほども知らないで平然とお城で働くだなんて、あたしなら絶対にできないわ。恥ずかしくてたまらないもの。悪いけど、あまり近付かないでくれる?」

 これみよがしに、ぷっ、と吹き出す。

「…………」

 蔑みと嘲笑の交えた言葉を続けられ、ユウキは不快感を覚え沈黙する。

 よくもまぁ、恥ずかしげもなくこんな言葉が出るものである。

 一体、どちらの方が品がないのだろう……。

 言い返したいが、ここは魔族の城。

 四面楚歌。

 下手に問題を起こせば、たとえこちらに否がなくとも批判されるのは確実に人間である自分たちだ。

 それに、自分たちには目的がある。

 今は、ぐっと、堪えるしかない。

「あのっ。私たち、掃除道具を探しているんです。どこに行けば手に入りますか?」

 感情を理性で抑え付け、得意の作り笑いをさらに強化させ、ユウキは聞いた。

「掃除道具?置き場所も知らないで仕事しているの?あっちにあるキッチンの納戸に一式揃っているわ」

 呆れた様子で言いながら、廊下の先を指さす。

「使うのは仕方ないとして、綺麗に使って下さいね。あと、使い終わったら必ず元の場所に戻すこと」

「掃除道具とは言え使われている素材は一級品だから、くれぐれも懐に入れようなんて不埒なことは考えないようにね」

 などと冷やかな視線とともに言い、彼女たちはツン、とした態度で去って行く。

「……。ありがとうございました」

 ぴくぴく、と神経が反応する。

 だが、ここで喧嘩するわけにもいかない。

 騒ぐ胸の動悸を奥に秘め、ズカズカ、と乱暴な足取りで踵を返す。



「どうやら怪しまれず、捲いたようだな」

 静かに観察していたツバキが満足そうに呟いた。

 しかし、ユウキの耳にそれは届いていなかった。

(何でこうも躾のなってない魔族たちが多いのっ。人をバカにするのもいい加減にしなさいよっ。こんなんだからいつまで経ってもまともにならないのよ!)

 ふつふつ、と己の中で怒りが沸騰するのを感じる。

 思いっきり外に感情を発散したいが、それも叶わず、燃焼できない感情に、自然と眉根にシワが寄る。

 毎日毎日、飽きもせず、進歩もせず……。

 人をいびることに快感を覚え溺れる連中には、つくづく呆れ果てる。

「おい。何をボーッとしている。行くぞ」

「あ、は、はい!」

 一人、ムカムカと苛立ちを募らせていたユウキを促す、ツバキの声。

 あわてて、指示に従う。

「ねぇ、今日はどこを調べるの?」

 とてとて、と隣りを歩きながら、聞く。

 潜入してみて改めて思ったのだが、やはり王城はえげつないほど広い。

 さらに、城の中は大まかに三区間で分けられているということも、発見した。




1、来客を受け入れ、比較的誰でも自由に使う事の出来る応接室や客間が数多く存在している空間。

2、貴族や王族が公務で利用する空間。

3、王族のプライベート空間。



 ユウキたちが仕事を任されているのは主に1番で、すでにツバキが調べ終えている場所があるとはいえ、宝石で彩られた広い廊下は延々と続き、ドアは無限に並んでいる。

 気を抜いてしまえば迷子間違いなしの、迷宮だ。

 さらに、ちょっと外にでれば目の前には息を呑むほど美しく広大な庭園があり、林や森まであるのだ。

 地道に調べていくしか手はないことくらいわかっていいるが、ちまちまと動いていたらいつ事件の真相に辿り着けるかわからない。

「まだ調べていない奥の客間を調べる予定だ」

「客間?そんな場所調べて、何か見つかるの?」

 ユウキは、訝しげに問う。

 重大な物を隠すとなると、もっと城の奥や一目に付かない場所だと思うのだが。

 そんなユウキの疑問に、ツバキは首を横に振る。


「いや、奥に行けば行くほど貴族や王族の目が光っている。誰が関係者かは知らないがヤバイ物を隠すと すれば、人の出入りの多い方が逆に隠し易く動きやすい」

「な、なるほど……」

 そういうものなのか。

 その推測が正しいのかイマイチよく分からないユウキだが、ツバキが言うのだから信じるしかない。

「以前、お前に見せた本があっただろう。あれも、こちらの地下にある部屋のゴミ箱でたまたま発見したものだ」

「ゴミ箱っ」

 ユウキは、目をみはる。

 『本』というのは古代文字で書かれていた、人のプロフィール帳のことだ。

 まさかあんな物を、人通りのある地下で見つけていたなど……。

 だとすると、いくらなんでも油断し過ぎではないだろうか?

 危機意識というものを相手は持っていないのだろうか?

 否、たとえ見つかったとしてもたいした問題ではない、と思っているのかもしれない。

 ユウキは魔族の脇の甘さに苦笑しながら、歩を進める。

 ほどなく歩くと、客間が密集する空間へと到着した。


「この先にある客間は約50室ほどだ。今日すべて調べるのはさすがに無理だろうが、一室でも多く調べたい。怠けずテキパキと手を動かせよ」

「50もあるの!」

 ありすぎだろう!

 ユウキは、悲鳴にも近い声を上げた。

 怪し物がよくわからない状況で、怪しい物を捜索する。

 隅々まで見ていかなければならないとなると、一体、いつまでかかってしまうのか……。

 ツバキの後を着いていきながら、ユウキは肩を落とす。

「よし。ここからは二手に分かれて調べる。怪し物があれば、すぐに俺を呼べ。絶対にヘマはするなよ」

 そう言い残し、ツバキは客間の扉を開くとさっさと中へと姿を消した。





 ――――はぁ…………。



 一人になり、ユウキはため息を付いた。

 囮役だとは言え、頼られて嬉しかったのだ。

 それが、いざ行動をともにすれば『勝手に動くな』『ドジを踏むな』『テキパキと動け』『ヘマはするな』。

 他にも、様々な言葉を投げ付けられている。

(あたしって、そんなに信用されてないのかなぁ……)

 自分なりに頑張っているのだけれど……。

 ここまでないがしろにされると、さすがに悲しくなってくる。



 ――――はぁ…………。



 ユウキはため息を繰り返しながら、客間の扉を開けた。

 中に入ると、そこはツインルームであった。

 真正面には緑溢れる庭園が望める大きな窓があり、そこから溢れんばかりに太陽の光が差し込んでいる。

 細工の施されているテーブルとソファが置かれ、アンティークの棚の上にはこれまた年代物の壺や皿が飾られ、壁には絵画がかけられている。

 割とシンプルな客間ではあるけれど、置かれている物はすべて一級品。

 壺一つの値段であっても、ユウキの年収をはるかに超えるのだろう。

(一つや二つ売り飛ばしたって、きっとバレやしないだろうなぁ……)

 なんて、邪な思いが頭をよぎる。

(いけないいけない!ちゃんと調べなきゃっ)

 ユウキは頭を軽く振り、捜索をはじめる。

 まず、全体的の空気を観察する。

 どこかに『術』的な物が仕掛けられていないか、探知するためだ。

 けれど、部屋には澄んだ空気が流れ異常は何一つ見当たらない。

 棚の扉を開け、ベッドの下を覗き、クローゼットも開く。

 なにも、なし。

 一応、と両開きの窓も開けてみる。

 ガチャ、と小さな音をたて開いた窓の向こうから、風に乗り緑の香りが運ばれる。

 一面を芝生に覆われ、多目的ホールのようなスペースが広がるはるか前方に青々と生い茂る木々が見える。

 チチチチ、と鳥の囀りが聞こえ、他に音はなく、静かな空気が流れている。

「……………………。」

 ここにテーブルと椅子を出し、お茶をしたらどれだけ気持ちがいいのだろうか。

 などと、叶わない思いを抱きながら、ユウキはそっと窓を閉めた。

「一発目で見つかるわけないですよねぇ~」

 落胆の色を滲ませながら、ユウキはベッドにバフン、と座り込んだ。

 スプリングの効いたベッドには、ふんわりと触り心地のいい布団が敷かれ、いい香りが漂ってきた。

「うぅ……。なんていいベッドなの!」

 ユウキは、奥歯を噛み締める。

 自分が使っている固いベッドと使い古された布団とは、衝撃を覚えるほど雲泥の差だった。

 こんなにも、違うのか。

 どこを見ても、どこを開けても、触っても。

 何もかもが、違う。

 ユウキは、改めて待遇の悪さを痛感する。

「これ以上ここにいたら、悲しくなる……」

 煌びやかに流れる城の時間は、己が存在する世界の時間とは、かなりかけ離れている。

 ユウキはよろよろと立ち上がり、客間を出た。

 廊下に出ると、そこにツバキの姿はなかった。

 もう別の部屋を調べているのかもしれない。

 ユウキは、隣りの客間へと入っていく。

 こちらもツインルームで家具も配置もすべてが同じだった。

 一通り見回しても、特に変なものはない。

 ユウキは、部屋を出た。

 と。

 丁度、斜め向かいからツバキが出てきた。

「ツバキくん、何か見つけた?」

 何もなだろう、とは思ってはいたが、声をかけてみた。

「いや。お前は?」

「うん。こっちも特に変わった物は……」


 ない。

 そう続けようとしたのだが、ふと感じた微量な魔力の気配に、ユウキは唇を止めた。

 奥の方から、魔力がくすぶりが感じられた。

「おい、どうした?」

 ツバキの怪訝そうな声。

 どうやら、彼は気付いてないようだ。

「…………」

 ユウキは無言で足を進め、術の気配漂う部屋の前へと近付いて行く。

 これまでくぐった扉より、やや豪華なドアだった。

 ドア一枚を隔て、中を窺う。

 室内に、気配はない。

 ユウキは迷わずノブを回す。

 鍵のかけられていないドアは、易々とユウキの侵入を許す。

「ここは……」

 客間には間違いなさそうだったが、備えられている家具や調度品のランクが一目でワンランク上になっているのが分かった。

 床にはフカフカの絨毯が敷かれ、窓の外には広い池と花畑が見える。

 どうやら、奥に行けば行くほど豪華な作りになっているようだ。

「何だ、この感じは」

 ユウキの後に続き部屋へと入って来たツバキも違和感に気が付いて、ぽつりと漏らした。

 空気の中に微かな魔術の気配が残っている。

 ユウキは今にも溶け消えそうなそれを逃がすまい、と神経を尖らせ、出所を探す。

 視線が、本棚で止まる。

「あそこ、だな」

「うん。何か、あそこだけ変」

 歪みのような、ユラユラと揺らめく『何か』がある。

「お前、よく気づいたな」

「え?そ、そう?何となくだよ。何となく」

 えへへへ、と笑いながら、ユウキは足早に本棚へと近付いていく。

 天井まで続く本棚の中には、誰が読むのか難しい本や専門書がずらりと並べられている。

「よし。ツバキくん、ちょっと調べてみようよ!」

 ユウキはそう意気込むと躊躇することなくがしっ、と本を掴み、物色をはじめる。

「おい。むやみに触るなっ。何か起きたらどうする!」

 ちっ、とツバキは舌打ちし、ユウキへ近付く。

「え、あごめん……。でも、何もない感じだよ?」

 己の安易すぎる行動にハッとして、ユウキは急いで手を引きながら謝る。

 本を出し、棚を見てみても、何もない。

 取り出した本をパラパラとめくっても、何もない。

 魔力の気配は確かにするのだが、ふわふわと雲や綿菓子に触れているような曖昧で不安定さが肌を刺激して『術』そのものが掴めない。



「俺が調べる。お前はもう、下がっていろ」

 イライラした様子でツバキはそう言うと、ユウキの腕を掴み強引に後ろへと下がらせる。

「う、うん。頑張って……」

 なんて言いながら、ユウキは邪魔にならないように移動する。

「攻撃性のある『術』ではなさそうだな……」

 ツバキが確信を持って呟きながら調べはじめる。

 すると、青白い光の輪がユウキたちを包んだ。

「!」

「きゃっ」

 驚いて、ユウキは思わずしゃがみ込んだ。















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