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無限ワールド  作者: 水原まき
第4章 宵闇の攻防
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宵闇の攻防5

宵闇の攻防5





「うぉぉい。ゆきがいね~ぞ!」

指示された大量の食べ物を物をすべて買い揃え、別れた場所へと再び舞い戻って来た遠矢は、忽然とその姿を消していた雪乃とアーシェミリアの二人に、ふつふつと湧き上がる怒りを抑えることができなかった。

「あ~い~つぅぅぅぅぅ」

ここで大人しく待っていろ、と念を押したというのに。

両手に食べ物を抱え、もみくちゃにされながら必死に戻った遠矢を出迎えたのは雪乃ではなく、ひゅるり、とした冷ややかな空気で……。

怒りが、こみ上げてこないはずがない。

遠矢は、りんご飴を持った右手をわなわなと震わせる。

「本当に、知らない奴に付いて行ったってことはないだろうな?」

遠矢の一歩、後ろに立っていたカイキが、困惑しながら忙しなく首を左右に動かし雪乃たちを捜す。

だが、いかんせん人が多すぎる。

20分ほどしか経っていないはずだが、先ほどよりも人の流れが激しくなっている。

薄暗い中で捜し出すことは、かなり難易度の高い作業だと思われる。


「お前な~。何でそんな冷静に言えんだよっ。あいつは大人しくしている、って答えておきながら勝手にどっか行ったんだぞっ。少しは怒れよ!」

雪乃の身勝手さを責めず、平然と構えるカイキに腹が立ち、一人地団駄を踏んでいる自分が何故か子どもじみて見え、遠矢はりんご飴をカイキに突き付け、半ば八つ当たりのように叫んだ。

「何を熱くなっているんだ。お前こそ落ち着いたらどうだ?相手はあのユキなんだぞ?」

カイキは呆れたような表情を浮かべ、そこまで怒る理由がわからない、とばかりに言う。

雪乃の突飛な行動に振り回されるのはいつものこと。

いちいち騒ぐほどのことではない、と彼は言外に語っている。 

「そ、それは……まぁ……」

的を射たその指摘に、遠矢は遇の音も出ず、黙り込む。

雪乃の自己中な思考回路や、それにより引き起こされる突発的な行動は、今にはじまったことではない。

確かにカイキの言いたいことはわかる。

だが。

たとえ何百、何千回と雪乃の無茶苦茶な行動によりひどい迷惑をこうむっていたとしても、それが日常化しているとしても、カイキのような温かい心で甘受することは、遠矢には出来ない。

毎回毎回、腹が立つ。

それが子どもっぽい、と言われようとも、無理なものは無理。

どうやっても、腹が立つのだ。


「自力で捜し出すのは、無理そうだな……。遠矢、居場所はすぐにわかるのか?」

カイキが、聞いた。

「当たり前だろ」

「なら、すぐに捜してくれ」

「ふん。わぁってるよ」

言われなくても、そうする。

何だか彼の指示に従っているような流れになってしまい面白くないが、ここで立ち話をしていても仕方がない。

遠矢は深呼吸をひとつして、乱れた心を鎮めに入る。

雑念を取り除き、神経を集中させなければならない。

そうでなければ、雑音や人の気配で溢れている空間から雪乃を見付け出すのは困難だ。

遠矢は、ゆっくりと目を閉じる。

扉を開くような感覚、とでも言おうか。

閉ざしていた力を少しだけ開放し、求めている対象を、強く想う。



――――雪乃。



遠矢の感覚が鋭さを持ち、それまで、周囲を支配していた人々の喧騒や気配が、みるみる小さくなっていく。

そして、入れ替わるようにして、一つの望む気配が水底から浮上するかのごとく、生まれる。

その他大勢の気配とは異なる、異質な気配。



(見つけた!)


遠矢のセンサーが、雪乃をとらえた。

ここより少し離れた、おそらくは神社の裏あたりだろうか?



(ンなところで、何をやってんだ!)

居場所が判明した途端、心の中で叫ぶ。

祭りに浮かれはしゃいでいるのならまだしも、わざわざあんな離れた場所に足を向けるなど……。



もしかして……嫌がらせか?



「おい遠矢、どうした。居場所はわかったのか?」

黙ったまま動かない遠矢に、カイキが痺れを切らし、詰め寄って来る。

遠矢と違い、雪乃の存在を感知できないカイキにとって、この沈黙はさぞかし耐えられないことだろう。

「……………………」

遠矢と彼女の間にある、けして切れることのない絶対的な繋がりの前では、カイキの想いなど、無力。

普段バカにされている分、こういう時に少しだけ優越感を覚える遠矢である。

「……こっちだ。案内する」

けれど、いつまでもそれに浸っているわけにもいかない。

遠矢は自由にならない手の代わりに、くいっと顎をしゃくり進行方向を示し、神社の裏へとつま先を向ける。


「す、すいません。通してくれ」

小さく謝りながら人々の間にある僅かな隙間に入り、遠矢とカイキは歩を進める。

まともに身動きが取れない混雑の中、強引ともとれる遠矢たちの動きに、迷惑そうな視線がいくつも注がれるが、気にしている暇はない。

すいません、と平謝りを繰り返し、両手に下げているビニール袋にも注意を払いつつ、何とか人が通らない屋台の裏側へと移動して、やっとの思いで人ごみから脱出する。

塗装されていない、木の根っこが剥き出しの狭い道だが、ここから走った方が早いだろう。


と。

その時。


「あっ。カズキさん!」

名を、呼ばれた。昔の名を。

ここでそれを使うのは、一人しかいない。

声のした方へ振り向くと、たどたどしい足取りで走って来る少女がいた。

「アーシェミリア?」

一人であると確認し、どうしてここに、と遠矢は目を見開く。

彼女は、雪乃と一緒にいるはずではないのか。

途中ではぐれたのだろうか。

疑問を抱きながらアーシェミリアに近付いて行く遠矢だが、彼女から投げかけられた言葉は、予想だにしないものだった。

「た、たいへん、ですっ……。は、はやく、早く雪乃さんを、たす、助けに行って下さいませ!」

息を乱し、切れ切れと叫んだアーシェミリアは、焦りの滲んだ表情で遠矢の腕を掴んだ。

「助けるって、彼女の身に何か起こったのですかっ」

言葉は、遠矢に向けてのはずだったのだが。

その遠矢を邪魔、とばかりにぐいっ、とアーシェミリアから引き剥がし、カイキが詰め寄る。

「は、はい。わたくしたちがお話しをしていたら、いきなりドーンと木が倒れてきて、でもわたくしは雪乃さんが守って下さったおかげで無事だったのですが、その際、雪乃さんが足をくじいてしまって。お一人では歩けないようなのです!」

瞳を潤ませて、一気にアーシェミリアは説明した。












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