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無限ワールド  作者: 水原まき
第4章 宵闇の攻防
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宵闇の攻防2

宵闇の攻防2





「遠矢くん。カイキと一緒に、焼そばとたこ焼とから揚げとやきとり、それとクレープにりんご飴。あと飲み物、今すぐに買って来て」

自らの意思でアーシェミリアを離すことが出来ない遠矢に、雪乃はびしっと指を差して、言った。

「はあ?何でこいつと買いに行かなきゃなんねぇんだ!」

だがしかし、遠矢はあからさまに顔をしかめる。

これが雪乃なりの助け舟だとは分かっているらしいが『カイキと一緒に』という部分が気に食わないらしい。

「さすがにその量を一人では持ちきれないだろう?」

「何をお前はあっさり聞き入れてんだよ」

「別に俺は構わないが?」

カイキは、渋がる遠矢を不思議そうに、見る。

こうやって雪乃にこき使われるのには、慣れているのだ。

「おれは構うんだよっ」

「何故?」

「パシリみたいだろーが!」

遠矢が叫ぶようにそう言うと、

「いまさら?」

カイキの適切な指摘が入り、

「うぐっ」

言葉を詰まらせた。

「では、ゆき。私たちは行ってきますね。すぐに戻って来ますから、大人しくここで待っていて下さいね」

放たれた一撃ですっかり黙り込んでしまった遠矢に、これ以上の反論はないだろうと解釈し、雪乃へと向き直りながらカイキが言った。

「だから、あたしは小学生か!」

「あと、知らない人にも着いて行ってはだめですからね。食べ物でつられても、だめですよ?」

睨み付けながら言い放つ雪乃に、しかしカイキは耳に入っていません、とばかりにさらなる注意を入れてくる。

「…………。あ~はいはい、わかったわかった。怖いおにーさんには十分気を付けま~す」

雪乃は子ども扱いに一抹の鬱陶しさを感じうんざりした口調で返し、ヒラヒラと手を振って、早く行け、と促す。

カイキは小さな笑を零すと、人ごみの中に迷いなく紛れ込んで行った。



「……遠矢くん」

雪乃はひんやりとした声で、一歩も動かない遠矢の名を呼ぶ。

「…………。へいへい。行くよ。行けばいいんだろっ!」

雪乃の責めるような視線に押され、遠矢は渋々と答えながら絡んでいたアーシェミリアの腕に触れ、やんわりと解く。

「…………あ。」

残念そうなアーシェミリアの声が漏れるが、遠矢は気にせず歩き出す。

「いってきま~す……」

やる気のない声と足取りで、遠矢もカイキの後を追う。

「いってらっしゃーい♪」

思い通りの展開に、雪乃は満足げな笑みを浮かべながら遠矢の背中を見送る。

しかし彼の姿が人ごみの中に消えた瞬間、ぴたりと浮かべていた笑みを消し、アーシェミリアに向き直る。

「さて、と……。ねぇ、アーシェ。邪魔者も追い払ったとこだし。ちょっと大事な話しがあるから、移動しない?」

雪乃はそう言って、親指で脇道を差した。









*****       *****









人の波から逃れるように、雪乃とアーシェミリアは神社の裏手にある小さな、迷いはしないがちょっとした探索が楽しめる林のような場所に辿り着いた。

頭上には空を覆い隠すように樹木から伸びる葉が生い茂り、時折吹く風に梢を揺らしている。

祭りの喧噪が遠くの方から音楽に乗って流れてくるが、会話に支障が出るほどではない。

少し離れただけだというのに、周囲に人気はなく、ずいぶんここは静かだ。

ここならば誰にも邪魔されず、じっくり話しができるだろう。

雪乃は近くに倒れていた巨木の幹に腰かけた。

「あの、本当に何も伝えず来てしまいましたけど、よろしかったのでしょうか?」

言われるがまま付いて来たアーシェミリアが、心配そうに問うてきた。

カイキと交わした、大人しくしている、という約束をいとも簡単に破ってしまったことを気にしているようだ。


「大丈夫。遠矢くんなら、あたしの居場所くらい愛の力で捜し出せるはずだしね」

けれど、破った当人は遠矢たちのことなどまったく気にせずにケロリと答え、途中で購入した缶ジュースの封を切る。

かしゅっ、と内側の空気が弾け、乾いた音が鳴る。

「あの、それで……わたくしにお話したい大事なことと言うのは、一体どのような用件なのですか?」

ぽつん、と立ったまま、雪乃と適度な距離を保ち、アーシェミリアが緊張した面持ちで尋ねた。

雪乃はジュースを飲みながら、よそよそしくも姿勢よく佇むアーシェミリアを直視する。

「あんたと遠矢くんって、昔あんたの母親が勝手に決めた婚約者同士、だったのよね?」

「え、はい。そうですが?」

突然の質問に、それが何か、とアーシェミリアは当惑した表情を浮かべる。


『婚約者』。

それが、過去、二人の間に合った関係性だ。


「どのくらい婚約してたのかは知らないけど、それなりの付き合いはあったんでしょ?昔の遠矢くんを知るあんたが、今の遠矢くんを見て、何か思うところはないの?」

言いながら雪乃はこれまでの二人のやり取りを思い出す。

満面の笑みで遠矢と接するアーシェミリアは、恋人と再会し、嬉しくて仕方がない、と全身で表現している。

それに引きかえ、アーシェミリアとどう対話していいのかわからず、結果、流されるままの遠矢。

口では完全に断ち切っていると示しながら、その態度は今一つ過去と決別できていない。

冷たくあしらっているようで、あしらえきれていない。

最後の最後で罪悪感が胸を占め、言葉と言動を鈍らせているのだ。

優柔不断にも問題はあるのだが、遠矢の心を知っている雪乃は、彼の覚悟を土足で踏み荒らそうとしているアーシェミリアに対し、どうしても不満を抱いてしまう。

そして一度感じてしまった嫌悪は、彼女が無垢な笑みを遠矢へ向けるにしたがい増幅し、心にわだかまる。

いっそのこと、自分が間に入り込んで完全に断絶してやろうかと思うほど、彼らの曖昧な関係に苛立つ時がある。

我ながら、なかなかに子どもっぽい感情だ、とも思うのだけど、自分のものを勝手に荒らされるのは我慢ならないのだ。


「何を、仰っているのです?」

ぱちくり、とアーシェミリアは目を丸くする。

「あんたの軽薄すぎる言動や行動がどれだけあいつを傷付けているのか、わかっていないでしょ?」

ぽかんとしたアーシェミリアに、雪乃は呆れながら言った。

「でしたら、雪乃さんはカズキさんのことを理解しているのですか?」

雪乃の言い草に、さすがのアーシェミリアも気分を害した様だ。

一歩、前に出る。

「当たり前でしょ。あいつのすべてを理解しているのは、世界でこのあたしだけだもん」

「そんなこと、ありません」

断言する雪乃に、ムッとした表情で、否定が入る。

「未練たらたらなのはわかるけど、あいつはあんたの物じゃないんだから、そろそろ自由にしてあげたら?」

「わたくしは、物扱いなどしておりませんっ。それに物扱いしていらっしゃるのは、雪乃さん、貴女の方ではありませんか?」

キッ、と雪乃を真正面から見据え、挑むように言い返す。

そこには、今までの『お淑やかなお嬢様』からは想像できないほどの苛立ちが立ち込めた、『女』がいた。


雪乃は、くすり、と笑う。


「あたしはいいのよ。だって遠矢くんはあたしの所有物だから」

目を細め、勝ち誇ったように言った。

「違いますっ!」

当然のように返した雪乃に、アーシェミリアは悲鳴に近い声を上げた。

「彼は貴女の物ではありませんっ。貴女とどういう経緯があってご一緒にいるのかは存じませんが、長く続くわけがありません。いいえ、あってはならないことです。だって、彼は仰って下さいました。わたくしと共に、ずっと生きてくださると!」

「あのバカ。深く考えもしないで、軽がるしくそんなことを……」

雪乃は、遠矢の口軽さに呆れた。

『婚約者』という立場上、言わざる負えなかったのだろうが、よくそんな恥ずかしいセリフを言えたものだ。

今の遠矢を思うと、気持ち悪さしか感じない。



過去、遠矢と彼女の間にあったいざこざに雪乃は関わっていない。

それは雪乃と出会う前に起きた出来事だからである。

『カズキ』が死に、『遠矢』が生まれるキッカケとなった出来事――――。


遠矢は今でもあまり昔のことは話したがらず、雪乃も掻い摘んでの説明しか受けていないため詳細はわからないけれど、だいたいの予想は付いている。

当時の彼がどういった立ち振る舞いをしていたかは知らないが、今の彼を見ればアーシェミリアの傍にいなければならない現実は、窮屈の何者でもなかったに違いない。

おそらくは、積もりに積もったモノが、爆発したのだろう。


だがそのことを、アーシェミリアは知る由もない。

遠矢は必死に己を隠し、演じていたのだろう。

アーシェミリアにとって耳心地のいい言葉を送りながら……。


しかしその結果、彼女は遠矢の言葉に囚われ、それを今日に至るまで糧としているのだ。

必ず応えてくれる、と。

たとえ何の気持ちも込められていないお飾りな言葉だったとしても、純真な恋心が邪魔をして、未だに現実を見抜けないでいる。

恋する乙女が陥りそうな一途さかもしれないが、別れを告げてなお、離れられないほど信じ込ませてしまった遠矢にも、やはり責任はある。


「これはわたくしと彼の問題です。こういう言い方はあまり好きではありませんが、貴女は関係ない方ですから」

付き合いの長さを絶対の自信としているのか、アーシェミリアは雪乃の関与を拒絶する。

「あの方は昔からとても優しくて、強い人なのです。今は別々でも、きっとまたいつか一緒にいられる日が来ると、わたくしは信じています」

アーシェミリアは胸の前で指を絡ませ、想いを馳せる。

今の彼ではなく、大昔の彼に。

もはや違う道を選び、新たな人生を歩んでいるなど、露とて思ってはいない。

今の遠矢のどこをどう見たら、そういう結論に結び付くのだろうか。

雪乃には、それ不思議でたまらなかった。













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