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無限ワールド  作者: 水原まき
第3章 王の憂鬱 王の優喜
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王の憂鬱 王の優喜7

王の憂鬱 王の優喜7





「この『カケラ』を、見て下さいませ」

アーシェミリアがそう切り出して、ポーチの中から小瓶を取り出した。

ガラステーブルの上に置くと、カチン、と高い音が鳴った。

「ん~。何、それ」

雪乃はお盆に乗せ運んで来たコーヒーとケーキをテーブルに並べながら、聞く。

小瓶の中には、淡い桃色をした小さな『カケラ』のような物が十数個、水の中に浸かっていた。

それらは3センチほどの大きさの物から5センチほどの大きさまであり、形も不揃い。

人工的に作った物ではないことは、一目でわかった。

どれどれ、とアーシェミリアの承諾もなく、雪乃は小瓶を手に取って興味深そうに中を覗くその傍で、遠矢はまったく興味を示さずにケーキへと手を伸ばす。

一応、話を聞くという体を示したが、全身から不本意ですオーラを放出しているあたり、遠矢がまともに相手をするかはかなり怪しそうだ。

雪乃はそんな遠矢は相手にせずに、小瓶を掲げ左右に振る。

与えられた衝撃でゆらゆら、と水の中で『カケラ』が泳ぎ、照明の光を反射させキラキラと輝いている。

「へぇ、すっごく綺麗ね。まるで宝石の粒みたい」

雪乃が感嘆の声を上げる。

不揃いな『カケラ』は一切の曇りや傷がなく、色を持ちながらもある程度の透明度を誇っている。

華やかさはないけれど、清楚に輝く『カケラ』から不思議な力を感じた雪乃はしばし魅了される。


「確かに綺麗ですが、空気、と言いますか放つ存在感が異様な感じがしませんか?毒々しいとまでは言いませんが、近寄りがたい気がします」

雪乃の隣で小瓶を眺めていたカイキが、重々しい口調で言った。

「はい。見た目は宝石の破片みたいで美しいですが、この『カケラ』はとても危険な物なのです。あまり長く見続けない方がよろしいですわ……」

カイキの感想に、神妙な面持ちでアーシェミリアは頷いた。

「……ふ~ん。そうなの……」

賛同を得られず、それどころか自分とは異なった意見を聞かされて、雪乃は面白くなさそうに小瓶をテーブルの上へと戻す。

「これは聖水で清められていますので大丈夫だとは思いますが、一応、気を付けた方がよろしいですから」

アーシェミリアが気分を害した雪乃に気が付き、付け足した。

「聖水なの、これ?」

小瓶に入った水の正体を知り、雪乃は目を瞬かせる。

「えっと、はい。…………あの、信じられないかもしれませんが、この『カケラ』は生物の精神を惑わす力があるそうなのです」

アーシェミリアは一度ここで切り、ちらり、と雪乃を一瞥し、小瓶を取りながら話しを続ける。

「これは聖水によって浄化されているので心配はないと思いますが、万が一、ということもありますので」

部外者でしかない雪乃とカイキの前でベラベラと喋っていい内容ではない、という思いがアーシェミリアの唇を重くさせる。

遠矢だけに聞いて欲しい。

その思いは大きいだろうが、退席を願おうものなら遠矢が機嫌を損ねてしまうのは目に見えている。

アーシェミリアが雪乃たちの同席を認めたのは、苦肉の策だろう。

「どうしてそんな怪しい物を、貴女が所有しているのですか?」

カイキが問う。

真っ白で傷一つない綺麗な指先に包まれた『カケラ』が、まさかそんな危険性を帯びているなど誰も思うまい。

「実はこれお母様がとても大切にしている物だったのですが、誤って割ってしまい、しかも割れた破片をうっかりばらまいて、なくされてしまわれたのです。ですから、わたくしが回収しているのです」

「回収、ねぇ……」

アーシェミリアの答えに、雪乃はコーヒーを一口すする。

『聖水』だの『生物の精神を惑わす力』など、普通に聞けば胡散臭いだけの話しなのだが、アーシェミリアの正体を知っているだけに、頭大丈夫?と簡単は言えない。

遠矢は相変わらず興味なさそうだが、聞いた方がいいかもしれない。

「しかし、お一人で回収しているなんて。いくらなんでも危険では?」

カイキの瞳が、心配そうに曇る。

「心配して下さってありがとうございます。十分に気を付けていますから、大丈夫です」

よほど自信があるのか、軽く胸を張り、アーシェミリアはにっこりと笑った。

「ねぇ、アーシェは『カケラ』がどんな物なのかとか、回収する有効な手段とか数がどれくらいあるのかとか、ちゃんとわかってるの?」

雪乃が、聞く。

「いえ、残念ながら詳しい話しは何も仰って下さらなくて……」

答えながらアーシェミリアは困ったような表情を浮かべる。

けれど、特に気にしているようには見えず、雪乃は呆れる。

いくら母親から頼まれたからとはいえ、よくそんな曖昧な情報提示だけで何の疑問も抱かずに動けるものだ。

「『カケラ』を探す方法も、微かに流れる邪気を感知することができるので、地道な探し方ではありますが、あまり苦労はしていないのです」

付け足すように、言った。

「邪気って……。そんなものが出てるの?」

新たに出た情報に、雪乃は聞き返す

「はい。うまく説明できないのですが、本当に変わった気配を持っているのです。ビリビリとしていながら、何故か吸い寄せられるような……怖いくらい不思議な気配。今はこれといった被害は出ていませんが、有害であることは間違いないと思います」


『カケラ』から放出されているという害毒な気配について語るアーシェミリアだが、それを感じたことのない相手にその感覚を伝えるのは難しく、雪乃は首を傾げる。

けれど、彼女の言葉から、一つだけわかったことがあった。

「つまり、早い話しが正体不明の『カケラ』を探す羽目になり、色々と手こずっているから遠矢くんに手伝ってほしいってわけね?」

「えっ……。そ、それはその……」

雪乃の直球な物言いに、アーシェミリアは言葉を濁らせ、目を泳がせた。

「遠矢くんは、便利屋じゃないんだけどね…………。どうする?」

ふぅ、とため息を零し、雪乃は隣りに座る遠矢へと、声をかけた。

「あのさ、その訳もわからない『カケラ』の回収を頼まれたのは君なんだろ。仕事がうまく進まないからって、勝手に俺を巻き込まないでくれるか?」

ケーキを食べ終えフォークを皿に置きながら、ようやくまともに口を開いた遠矢が示したのは、嫌悪感であった。

「わかっています。本来でしたら、わたくし一人がやることだと……。ですが、本当に嫌な感じがするのです。もしかしたら、とても危険な物かもしれません」

冷めた遠矢の態度に、悲しげな眼差しを向けながら訴えるようにアーシェミリアが言う。

「んなこと言われてもな……」

遠矢は軽く頭を掻きながら、目を逸らす。

『カケラ』の情報が少なすぎるのだ。

危険性を含むかもしれない物を放置するのはいかがなものかとも思うが、アーシェミリア側が正しいとは限らない。

知らない間に悪事に加担していた、ともなりかねない。

そもそも、探している本人が詳細を知らないというお粗末ぶり。

そんな怪しい頼み事に首を突っ込むほど、暇ではない。


「俺には、もう関係ないことだ。人手が必要なら、さっさと帰って君の仲間に頼めよな」

遠矢は、そっぽを向いたまま退室を促す。

「……………」

アーシェミリアは、そんな遠矢をしばらくじっと見つめ、やがて無言で立ち上がり、帰ります、と小さな声で言った。

「あの、お話しを聞いてくださって、ありがとうございました……」

彼女は誰にでもなくそう言うと、一礼を残し重い足取りでリビングを出て行った。

やがて、彼女の気配は完全に部屋から消えていく。

「遠矢。少し、冷たすぎじゃないか?」

アーシェミリアの落胆した背中を心配そうに見送ったカイキが、言う。

遠矢の彼女に対する態度があまりにも酷薄すぎで、不満があるようだ。

「そう思うなら、お前が手伝ってやれば?今から追えば、まだ間に合うんじゃねぇの?」

「………それは……」

つっけんどんな口調で言う遠矢に、カイキは口を閉ざす。

異を唱えつつも、いざ自分に降りかかるとなると、雪乃たちを置いてまで手伝いをしようとは思っていない。

「ま。遠矢くんの好きにすればいいよ」

雪乃は遠矢の頭を軽く撫で、立ち上がった。












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