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無限ワールド  作者: 水原まき
第3章 王の憂鬱 王の優喜
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王の憂鬱 王の優喜6

王の憂鬱 王の優喜6





バタン!

勢いよく、ドアが開かれた。


「遠矢くんのドアホっ。いつまで黙り込んでんのっ。そこで最後の一撃をビシッとズバッと決めて再起不能にしなきゃダメでしょっ。ほんっとにここぞって時に押しが弱いんだから!そんなんだから、ヘタレワンコなんて言われるのよっ!」

ドアの中から飛び込んで来た人物は、鋭い視線を遠矢に向けて弾丸のごとく言いたいことをまくし立てた。

漆黒の髪を揺らし、仁王立つ彼女は……。


「ゆ、雪乃さん!」

家主のご帰還にいち早く反応したのは、遠矢ではなくアーシェミリアだった。

「はぁい、アーシェ。コンニチワ」

ピキン、と硬直したまま動かない遠矢とは対象的に、目を見開き驚いた様子を示すアーシェミリアへと、雪乃は挨拶を送る。

「こ、こんにちは」

しずしずとアーシェミリアは返す。

「ユキ。何も、そんなに大声で叫びながら入ることもないでしょう?ご近所迷惑ですよ」

雪乃の行動を諌めながら、一拍遅れたカイキがリビングへ入って来た。

「まぁ、カイキさんもいらしたんですね。お久しぶりです。今日は、お邪魔しています」

ぺこり、とアーシェミリアが礼儀正しく頭を下げた。

「あははは。ホントだね」

雪乃は作り笑顔とわかるそれを浮かべ、カウンターの上に白い箱を置く。

「……ユキ」

「ぶぅ。だって~」

後ろから寄こされたカイキの窘める声に、雪乃はムっと頬を膨らませる。

「お久しぶりです、アーシェミリアさん。お元気そうですね」

子どものように拗ねる雪乃をそのままに、カイキが柔らかく笑む。

「はい。カイキさんもお変わりなくお元気そうで」

つられるように微笑んで、アーシェミリアは会釈する。

笑みを浮かべ話す二人の周囲が、気のせいかほんわかと和んだように見える。

基本フェミニストであるカイキは女性に対する口調が男性相手のそれとは異なり、呆れるほど慇懃さを持つ。

そのため、おっとしとした口調のアーシェミリアとカイキの会話はとても品よく聞こえ、育ちのよさを伺わせる。


「って、おいこらっ。人が固まってる傍で、のほほんと平和に喋ってんじゃねぇぞっ!」  

目の前で繰り広げられる会話の応酬に、完全に参加するタイミングを逃してしまい、一人蚊帳の外をくらっていた遠矢がようやく思考を回復させて、ソファから立ち上がった。

「ゆきっ。てめぇいつ帰って来た!」

何くわぬ顔で帰宅を果たし、何くわぬ顔でカイキを招き、何くわぬ顔で会話をはじめた雪乃の態度に、遠矢はドスドスと大股で詰め寄りながら不満をぶつける。

「つか、人の話し聞いてたよな?どっから聞いてたんだ?」

仏頂面のまま問う遠矢に、

「ん~?『俺の居場所は、もうあいつの傍だけなんだ』の辺りから?」

「んなっ……なな!」

素直に雪乃が答えると、瞬間、カァと頬に朱が走る。

自分が発した言葉なはずなのに、狂おしいほどの羞恥心が溢れ、唇が震えた。

顔から火が出るほどの体温の上昇を感じる。

「んふふ。遠矢くんったら、思ってた以上にあたしのこと好きなのね」

雪乃は浮かべていた意地の悪い笑みをさらに深くして、からかい口調で言った。

「ううう、うるさい黙れっ。それ以上俺をからかうなら出てけっ。だいたい、帰ってんならさっさと入って来いよっ!こそこそ盗み聞きなんて、悪趣味にもほどがあるぞ!」

火照る頬の熱を蹴散らすように、一気にまくし立てる。

「そんなこと言ったって、遠矢くんたちが面白そうな話しをしてたから邪魔するのも悪いかな~と思って、気を遣ってやったんでしょ~?」

「どこをどう解釈すれば気を遣った、になるんだっ。完璧に盗み聞きじゃねぇか!」

心外だ、とばかりの表情を浮かべ肩をすくめる雪乃に、遠矢は声を荒らげる。

「んじゃ聞くけど、遠矢くんはあたしに聞かれたらマズイ話しを、二人きりなことをいいことに、アーシェとじ~っくりとするつもりだったわけ?」

ずいっ、と一歩滲みより、雪乃は胡乱な目付きで問う。

それはまるで彼氏の浮気を疑う彼女のようで、雪乃の行動を批難していたはずの遠矢は、二人きりで会っていた負い目から、たじろぐ。

「いや、別に聞かれて悪いことはないけどさぁ……」

「だったら、あたしが立ち聞きしてても何も問題ないわね!」

「う~ん。そーいうもんかぁ?」

にっこり笑を浮かべ返す雪乃に、遠矢は当惑しながらもそれ以上の言葉が見つからないのか、小さく唸り、首を傾げる。

「相変わらず、無茶苦茶ですね……」

「そんなことないも~ん」

二人のやり取りを見ていたカイキが苦笑交じりに呟くが、雪乃はそしらぬ顔で聞き流し、エプロンに手を伸ばす。


(あ、やっぱ無茶苦茶だったのか……)

カイキの言葉を受けて、遠矢は心の中で呟く。


「さて、と。今からご飯の準備で忙しくなるから、悪いけど、アーシェそろそろ帰ってくれる?」

「え?」

ふいに投げかけられた言葉に、アーシェミリアの目が点となる。

「ああ、そー言えば、俺に会うのが目的だったんだよな?もう会ったんだから、用事は済んだよな?」

帰宅を促す雪乃の発言に、遠矢も便乗する。

それに焦ったのは、アーシェミリアだった。

「あ、あの待って下さいませ。実はお願いしたいことがあるんです。差し支えなければ、わたくしのお話しを、聞いて頂けないでしょうかっ」

「差し支えあるから、帰りなよ」

頭を下げるアーシェミリアに、雪乃の冷めた言葉が注がれる。

「聞いて頂けるだけで構いません!」

しかしアーシェミリアはお願いします、と食い下がり、遠矢の服の端を掴み懇願する。

切なそうな表情を浮ばせて必死に見上げてくるアーシェミリアの姿に、遠矢は自らでは突き放すことができず逃れるように雪乃を見た。

どうすればいい、と無言で助けを求めると、彼女は冷めた視線を向けた後、仏頂面をプイっと背けた。

突き放す態度に、ムッとした。










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