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無限ワールド  作者: 水原まき
番外編 ②
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華麗なるタイムの冒険05

華麗なるタイムの冒険05







 五分ほど、歩いただろうか。

 公園の入口へ繋がる階段を下りながら、エルリオンは周囲を見渡す。

 真横には階段と沿うように水の流れがあり、小さな滝が棚田のように下まで続いている噴水がある。

 階段を降りきった先にはちょっとしたスペースがあり、ベンチや動物の像なども飾られているため、ここで寛いでいる人も多い。

 脇の方には駐車場やバス停も設けられているため、人の流れも多い。

 そして。

 駐車場へと続く方に、クレープを販売する車が止まっていた。

 若い男女が、二人でクレープを売っていた。

 メニューの書かれたプレートを目立つ場所に置き、テーブルが二つ用意されている。

 ここまで来る道中で、ちらほらとクレープを食べながら歩いている人たちの姿を見かけてはいたが、どうやらここで購入した物のようだ。

 ベンチに座る数人の女性の手にも、クレープが握られている。

 二つしかないテーブルも、すでに埋まり、一方は家族連れ。

 もう一方には、男が一人座っていた。

 一人で食べきれるとは思えないほどの、大量のクレープとともに。


「……………………」

 とても、嫌な予感がした。

 早くクライアントを探さなければならないと言うのに、何故かその大量のクレープを一人で食べ続けている男がひどく気になり、尚かつ嫌な予感を覚えた。


 太陽のように眩い金髪の、やや癖のある髪が、フワフワと微かな風で揺れていた。

 真っ白な、傷ひとつない肌。

 少しだけもちっとした顔の中に、円らな瞳と小さな鼻、小さな唇が収まっている。

 何がそんなに楽しいのか分からないが、ニコニコ満面の笑みを浮かべ、テーブルの上いっぱいに置かれているクレープを、上品に口へと運んでいる。

 その所作は、雑さや無駄と言ったものが一つもなく、流れるように綺麗だった。

 キラキラ、している。

 安っぽい椅子に腰掛けているはずなのに、スっと姿勢よく座る彼からは品が滲み出し、公園の一角であるということを、忘れさせる。

 決して太っているワケではないが、ほどよく、ふにっと感も宿している、どこかキャラクターのような可愛らしさを持った、そんな容姿をしていた。

 そんな彼が着ている服は、桃色のシャツと刺繍の施されている黒のパンツという、至ってシンプルなものだった。

 だが。

 それ故に、一見、見逃してしまいそうになるのだが、使われている生地は間違いなく一級品だとわかった。

 履いている靴もブランドの物で……。

 つまり、全身をブランド品で包み込んでいた。

 マリアベルは言った。

 『絵に描いたようなボンボン』である、と――――――――


 

 そんな、まるで芝居か何かの衣装のような出で立ちも手伝ってか、説明では二十代前半、と聞いてはいたけれど、正直それより若く見えた。

 それにあれは……。

「……………………」

 エルリオンの中で、これ以上、前には進みたくない、という思いが生まれる。

 一応、念のため、と。

 エルリオンはすぐには動かず、さらに目を凝らし、周囲へと視線を飛ばす。

 ベンチに座っている人。

 じっと立ち尽くし、何かを待っているような人。

 通り過ぎる人。

 友達とお喋りしている人。

 ペットと遊ぶ、子どもたち。

 意味もなく、無関係な人までも観察する。

 彼らは、いたって普通だった。  

 この中でマリアベルの言っていた普通じゃない容姿を持っているのは、やはり彼だけだった。


(は~。マジか~)

 あれが、そうなのか。

 エルリオンは、動かさなければならない足を動かすことが出来ず、立ち尽くす。

 思っていた以上に『絵に描いたようなボンボン』だった。

 幸い、少し距離が空いているために、相手はこちらに気付いてはいないようで、もくもくとクレープを食べている。

 甘い物から、そうでないものまで。

 テーブルの上には、一人では食べきれないほどのクレープが並べられている。

(仕方ない。行くか……)

 もはや、彼がクライアントで間違いないだろう。

 そう確信したエルリオンは止めていた足を動かして、彼が座るテーブルへと歩き出した。

 ツカツカツカ、と足早に近付いて行き、彼の前に立つ。

 クレープの上にエルリオンの影が出来上がったことで、ようやくエイダーと思しき男の意識がこちらを認識し視線が持ち上がる。

 視線が、交錯した。

「あんたが、クライアントの『エイダー』さん?」

 エルリオンは、言った。

 が。

「………………」

 口の中いっぱいにクレープを頬張っていたらしい彼は、まともに声を発することが出来ないのうで、しばらく咀嚼を繰り返しながら、じっとエルリオンを見続ける。

 上から下まで。

 瞬きを交えながら、観察するようにエルリオンを直視する。

 そして。

 こくん、という嚥下をした後で、

「やぁ。もしかして君が……えっと。エリオンくん……かな?」

 こて、と首を傾げた。

「エルリオンです」 

「ああ、そうそう『エルリオン』くんだっ。ごめんごめん。長いし言いにくいから、間違えてしまったよ!」

 あははは、と彼は人当たりの良さそうな笑みを浮かべ笑った。

「いや。あんたの方がだいぶ長いから……」

 ラフィアレスタ・エイダー。

 果たしてそれが本名なのかは怪しいが、かなり長くて珍しい、なかなか噛み具合のある名前だ。

「あはは。そうなんだね~。僕の名前って、ホント無駄に長いよね。安っぽい貴族みたいだろう~?」

 嫌になるよ、と掌を上下に揺らしながら、やはりケラケラと軽く笑う。

 キリアとはまた違った、何とも掴みどころのなさそうな人物のようだ。

「えっと。エルリオン・オーガスタです」

 改めて自己紹介をして、軽く会釈する。

「ラフィアレスタ・エイダーだ。面倒な名前だから、ラフィアで結構だよ」

 言って、クレープを一口。

「あ~いや、一応クライアントなんでさすがにそれは馴れ馴れしいかと……」

 せっかくの申し出だったが、仕事相手をいきなり友達感覚で呼ぶわけにもいかない。

 口調は、かなり砕けてはいるのだが……。

「ふむ。意外と真面目なのだな、君は。まぁ、いいか。よろしく、エルリオンくん」

 少しだけ感心したような、そんな表情を浮かべたのち、ラフィアレスタは頷いた。

「それと、あん……じゃない。エイダーさん、一昨日、図書館で会ったよな?」

 言いにくそうに、エルリオンは切り出した。

 そう。

 彼を見た途端に帰りたくなったのは、クライアントが初対面ではないと気付いてしまったからだ。

 一昨日、閉館間近の図書館で騒いでいた男――――それが、彼だ。

 一悶着、というほどの騒ぎではないけれど、初対面の時の会話が会話だけに、お互い、あまりいい印象で終わってはいないはずだ。

 まさか、こんな形で再会を果たしてしまうとは。

「うん?確かに図書館には行ったが……その時に君と?」

 だが。

 気まずそうにするエルリオンとは逆に、ラフィアレスタはきょとん、とした表情で目を瞬かせる。

 まったく記憶にない。

 そんな様子だった。

「う~ん。よく覚えてないなぁ……」

 エルリオンの顔をジロジロと見つめ、記憶を呼び起こすかのような仕草を見せるものの、ピンとくる記憶を引き出せなかったようで、首を傾げる。

 一昨日という、忘れるにはやや早い気もするが海馬に眠っていないのならば、仕方がない。

「ま、覚えているほど熱烈な出会いでもなかったしな」

 エルリオンは、苦笑した。

 忘れられた事に対する、不満はない。

 ただ、自分の投げた微妙な感情を、ポイッと、紙切れのように横へと捨てられた、そんな気分にちょっとだけなっただけだ。

「えっと、じゃあさっそく依頼の話なんだけど……」

 エルリオンは気を取り直し、本題へと移行する。

 本当は、何故、こんな所で待ち合わせを無視してまで、のんびりとクレープを食べているのか、とか、そういう身勝手な行動はどうかと思うぞ、など色々と問いただしたいのは山々だったのだが、ぐだぐだと、よく分からない会話を長々していても仕方がない。

 ただでさえ、待ち合わせの時間が押しているのだ。巻きでいかなくては。

 エルリオンは空いている椅子を引き、どかり、と座った。

「依頼の内容は『帝都を案内』ということ合ってるよな。具体的にどういった場所をご希望で?観光っ訳でもないんだろ?」

 エルリオンは、問うた。

 マリアベルから受けた掻い摘んだ説明では、仕事の全体像は把握しきれない。

 帝都の何処を案内して欲しいのか、希望の場所があるのか。

 聞かなければならないことは、たくさんある。

 が。

「ちょっと待ってくれるかい?」

 仕事を始めようとするエルリオンを、クライアントである本人がそれを遮り、止めた。

「なにか?」

 エルリオンは聞く。

「こ~れ♪」

 にこにこ。

 ラフィアレスタは笑顔を浮かべ、テーブルの上に広がるクレープの一団をツンツン、と指差す。

「はい?」

 それが何を意味するのか、いまいち理解出来ず、エルリオンは困惑気に眉を寄せる。

「実は僕、こうやって外でクレープを買って食べるのが昔からの夢だったんだ。だから、今日その夢がついに叶うのか、と思ってついつい色々と注文してしまって、気付けばこんな状態になってしまってね。…でも、僕はあまり食が太い方ではないので、とても一人では食べきれないんだ。依頼の話をする前に、一緒にこれを片付けてくれ」

 にこにこ。

 無邪気な笑顔を浮かべたままで、けれどその表情とは裏腹に、絶対に拒絶を許さない、と言わんばかりの口調でのたまった。

「え~~~」

 その言葉に、エルリオンは本気で嫌そうな顔をした。







 続く








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