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無限ワールド  作者: 水原まき
番外編 ②
109/115

グラジオラスの咲く頃に03

グラジオラスの咲く頃に03






 ガタガタガタガタ。

 馬車の走る音が、静かに響く。

 親しい者のみで作られていた緩やかな空間が、突然と起こった初対面の加入によって、微かに空気の流れが変化していた。

 彼らの同乗を快く思っていないリュウセイは、不機嫌な態度こそ取ってはいないものの、無表情を貼り付け、歓迎モードはカケラとして示していない。

 カイキの方は、やはり人当たりのいい爽やかな笑みを浮かべているが、素晴らしいロイヤルスマイルは、時として緊張を呼び込むものだ。


「あ、あの……」

 そんな微妙な空気が漂う中で、沈黙が、破られた。

 破ったのは、女性の方だった。

「私、エミリアと申します。見ず知らずの私たちを乗せて頂いて、ありがとうございます。……実は昨日からずっと歩いてここまで来ていたので、とても疲れていて……。本当に助かりました」

 おずおずと、緊張した面持ちのエミリアが、カイキたちに話しかけた。

 肩を窄ませ小さな声で名を名乗る彼女は、すっかり萎縮してしまっている。

 それは、相乗りをさせてしまった事に対する居心地の悪さからくるもの――――だけでは、むろんない。

 異様に目立つ二人の魔族に、畏怖のようなものを感じているのだ。

 ただでさえ、彼女は人間。

 座っているだけで言いようのない雰囲気を放ってくるカイキたちに身を震わせてしまうのは、仕方がないことだ。

 だから。

 それでも。

 そんな中でも、ちゃんと自ら名を名乗り感謝を示す彼女は、立派だ。

「俺はレインと言います。この度は、ご迷惑をお掛けしてしまって、すみません……」

 男の方が、深々と頭を下げた。

 彼の方も多少は緊張している様子だったが、同じ魔族とあってか、初対面の相手に対するそれに近いようだった。

「いや。俺たちも王都へ戻る所だったし。困っている女性を助けるのは、男として当然だろう。気にするな」

 カイキは彼らの緊張を解かせるように、優しく言った。

「疲れているのなら、少し休むといい。王都に到着するまで、まだ時間はある」

「あ……。すみません。ありがとうございます」

 レインが、驚いたような、意外そうな表情を浮かべて言った。

 無理もない。

 いくら女性だとは言え人間であるエミリアに対して、紳士的な態度を見せる魔族は珍しいのだから。

 カイキの隣に座り、それまで黙って見ていたリュウセイが、やれやれ、とばかりに息を吐く。

 しかしその嘆息は、エミリアたちを嫌悪しているもの、ではない。

 彼にとってのため息は、この展開だ。

 無関係な二人組を相乗りさせたせいで仕事を途中で止めざる負えなくなってしまったのだから、不本意もいいところだろう。

 けれど、カイキが了承してしまっているのだから、どうしようもない。


「あ。こっちの自己紹介がまだだったわね。あたしはユキノ。隣にいるのがカイで、その隣のがリュウセイよ」

「よろしく」

「どうも」

 雪乃が二人の名前を紹介すると、カイキはいつも通り、リュウセイはやはり感情の込められていない薄い声を発する。

「ねぇねぇ。二人とも昨日からずっと歩いて来たって言ってたけど、どこから来たの?」

 雪乃が、聞く。

 ぺちゃくちゃとお話を楽しむような空気ではないのだが、無言で王都まで向かうには、彼らが背負ってしまうプレッシャーが大きすぎるだろう。

 ブレンドリーとまではいかないが、緊張を解くくらいは、ここへ招き入れた者が負うべきだ、と雪乃は思う。

「えと、ローディルっていう、村からです……」

 エミリアが、答えた。

「ローディル……。聞いたことはあるけど、行ったことないなぁ」

 雪乃は首を傾げ、どこにある村だろうか、と頭の中で地理を思い描く。

 この世界に頻繁に足を運ぶようになって、長い月日が経つ。

 すべての地に降りたわけではないが、ある程度の地理は頭に入っている。

 けれどそれはあくまで地図上から得た知識だけであり、詳しいことは何もわからない。

 何となく名前は引っかかっているのだが、これだ!というものが拾えない。

「ローディル……。ここから北に進んだ山を二つほど越えた先にある、村ですね。質のいい魔石が採掘出来る山々に囲まれた、小さいながらもそこそこ栄えている村、です」

 そんなクエスチョンマークを浮かべる雪乃に対し、リュウセイが村の情報を掻い摘んで述べた。

「王都でも、ローディルで採れた魔石は高値で取引されているんだったな」

 とカイキが付け加える。

 そう言えば、城で使われている魔石の一部がローディル産とか何とか、そんな話を聞いたことがあったような気もする。


「自然豊かな、とてもいい場所だと伺っております」

 淡々と、リュウセイは言う。

「……別に、そんないい村でもない」

 レインが、吐き捨てるかのように、言い放った。

「凝り固まった考えかたしか出来ない年寄りばかりの集まる、古臭い、だけど見栄や欲望だけはギラギラたぎらせる、そんな下らない村だ」

「レンくん……」

 眉根にシワを寄せ、心底嫌っているように話すレインに、エミリアは悲しそうに名を呼ぶ。

 そんな二人の様子に、カイキとリュウセイは顔を見合わせる。

 自分の故郷をそんな風に言うのは、なかなかだ。

「なるほど。だから、恋人と一緒に村を出て王都に向かってるってわけね」

 腕を組み、納得した様子で呟いた雪乃の言葉に、

『!』

 二人の表情が強ばった。

 レインの中に警戒心が宿り、エミリアが彼の服をぎゅっと掴む。

「恋人……?」

 リュウセイの瞳の中に、はじめて不審の色が浮かぶ。

 マジマジと、二人を眺める。

 魔族の男と、人間の女。

 レインとエミリアが、恋人同士――――。

 雪乃からもたらされた言葉に、リュウセイは少なからず動揺しているようだった。

 己の主と雪乃の関係性もあって、この手の話には敏感なのだろう。

「どう見ても恋人でしょ」

 眉根を寄せるリュウセイに、本人たちではなく、雪乃が断言する。

 けれど、それに焦ったのは、レインだった。

「ち、違いますっ。俺たちはそんなんじゃないですっ。ただの、知り合いです!」

 ぶんぶんと首を横に振り、全力で否定する。

「今回だって、ちょっと王都が見たくて、何となく一緒にいるだけで……。恋人なんて、とんでもない!」

「………………」

 焦りを滲ませ喋る彼に、その隣で聞いているエミリアは黙って俯く。

 その姿が、項垂れる蕾のようで。

「えっと、そんな必死に否定しなくても……。別にそこを突いて批判とか、するつもりないから」

 シュンとするエミリアが可哀想に思え、、雪乃は困ったような表情で言った。

 まさか自分の発言が、ここまで相手を刺激してしまうとは想定外だった。

 どうやら、魔族と人間の『恋愛』というものは、思っている以上に問題視されているようだ。

 否定しないと、とんでもないことに繋がってしまうほどに。


「それにさ、仮に二人が恋人同士だったとして、それをネタに蔑むような馬鹿な奴は、この馬車には乗っていないから。安心して」

 そう断言し、ね?と隣に座る二人に振る。

「えぇ。もちろん」

 にっこり、と即座にカイキは頷く。

「………。まぁ、誰を好きになるかは、個人の自由ですし……」

 少しの間を置いて、リュウセイが言った。

 微妙な間を空けたのは、雪乃とカイキのことを考えていたから、だろうか?

「えっ……?」

 驚いたように、エミリアが顔を上げる。

 真意を探るような、そんな瞳で雪乃たちを見回す。

 それはレインも同様だったようで、目をパチパチと瞬かせている。

「ほ、本当にそう思っているのですか……?」

「思ってるけど?」

「愛する人がいるなんて、素晴らしいことじゃないか。魔族とか人間とか、そんなことは些細なことだ」

「うんうん。その通りその通り」

「…………」

「…………」

 口々に喋る雪乃とカイキに、二人は信じられない、とでも言いたげな視線を注ぐ。

「そんな風に言われたの、はじめてです……」

 レインが、ぼそり、と呟く。

「ウチのバカな主も、どこかの騒がしい人間の娘にウツツを抜かしている一人なもんで……」

 はぁぁぁ、心底困り果てた、と言わんばかりにリュウセイが、ここ一番の深いため息を吐く。

「おい。バカって言い方は……」

「ちょっと!その騒がしい娘って、まさかあたしのことじゃないわよね!」

 バカ発言に抗議しようとするカイキを遮って、雪乃は身を乗り出してリュウセイへと詰め寄る。

「おっと」

 障害物を乗り越えるかのように、カイキの太ももに手を付いて、その先に座るリュウセイの方へと身を寄せる雪乃に、カイキは彼女の邪魔になってはいけない、とばかりに上半身を引いた。


「ええ。今、まさに騒いでいる人物ですが?」

 白けた目が、雪乃を映す。

「あたしは騒がしいんじゃなくて、太陽のように明るいだけよ」

 身体を竦めるカイキなど眼中にないように、雪乃は言葉を続ける。

「ああ、なるほど。だから、いつも頭がお花畑なんですね」

 冷たかった目が、スっと細められる。

「誰がお花畑ですって?」

 冷めた目に対抗するように、雪乃の目も細められる。

「君ですが?」

「ふん。とか何とか言っちゃって。あんたみたいな根暗は、あたしが眩しいだけじゃないの?神々しすぎて、まともに見られないんじゃなくて?」

「ええ。貴女という存在が痛々しすぎて、まともに見ていられないですね」

 ふん、とリュウセイは鼻で笑った。

「あ゛!あんたのその『ご主人様好き好きオーラ』の方が痛々しいわっ」

「誰がそんな気持ち悪い物を放っているというのですっ」

「あれ、もしかして無自覚なの?だけどあたしのこの目は、ちゃんと捉えているんですからねっ」

 雪乃は、自分の目を指差す。

「ふ。そんな濁りきった黒い目で、何が見えるというのです?医者に診てもらうことをオススメしますね」

「はっ。濁ってる、なんて判断しか出来ないアンタの目の方が、よっぽど濁ってるじゃないのよ。あたしの目はね、何でも見通すんだからね!」

「ユキっ」

 ぎゃあぎゃあと、下らない事で騒ぎ合う二人に見かね、カイキが雪乃の名を呼んだ。







 続く








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