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無限ワールド  作者: 水原まき
番外編 ②
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弾けろ!ツキミソウ01

弾けろ!ツキミソウ01







 エルリオンは、小高い丘の上にある図書館で過ごすのが、好きだった。

 利用者も人の出入りも多いけれど、図書館という、有無を許さず静寂を求められるそのルールによって作り出される独特の空気感が、とても好きだった。

 一階と二階にわかれた、大きな図書館。

 各階へと向かうために設置されている、階段とエレベーター。

 中央には円盤状の吹き抜けが作られ、ふと見上げればガラス張りとなっている天井から外の天気を確認することが出来た。

 空調により管理された、心地の良い温度。

 あちこちにある大きな窓が設けられ、本日は生憎の天候で外から注がれる自然光はないけれど、晴天時の室内は、とても明るく吹き抜けもあることが手伝って、開放感に溢れていた。

 梁や柱には重厚感のある材木が使われ、観葉植物なんかも置いてある。 

 二メートル以上はあると思しき本棚が全体の壁を覆うようにして置かれ、ゆったりとした通路を作りつつも、図書館内は何十台もの本棚が空間を占拠していた。

 そしてその本棚には、人気作家はもちろん、無名作家の書く小説から小難しい様々な専門書、料理本、雑誌類が並べられ、日々、新たな書物が加えられている。

 その他にも、新聞なども毎日配達されるために、それを目的として訪れる年配も多いようで、近くのソファーには六十代以上と思われる人たちが、ずらり、と座っている。

 科学が発展し、書物は主流であった紙媒体から電子媒体へと移行した。

 その歳月は、けして浅くはない。

 しかし人は未だに、紙から離れられずにいる。

 いくら世界が便利になろうとも、所詮、人間というものは『物』の形や重さ、触感で、その存在をより深く認識するのだろう。

 電子新聞や電子諸説が増えようとも、人は自然と紙を求めるようだ。

 少し離れた場所には子供専用エリアが設置され、そこにもやはり目を瞠るほどの児童書やティーンズ向けの本に溢れ、元気よく子供達が通っているのをよく見かける。

 テクノロジーに敏感でそれらを駆使している子供たちも、積極的に本に触れるのだ。


 かくいうエルリオンも、電子書籍よりも紙媒体の方が好きだった。

 中には、アナログだ、古臭すぎる、と最先端に触れて悦に入っている連中から、揶揄めいた言葉を送られたりするのだが、それでもやはり、紙に触れてページをめくり次の文字を追うという動作が、エルリオンは好きだった。 

 時間があれば図書館へと足を運ぶのが、エルリオンの日課であった。

 その中でもこの図書館は帝都内で一番規模の大きな施設で、ゆったりと読書を楽しめるスペースが数多く設置されている。

 頻繁に訪れる、お気に入りの場所だ。

 外の景色を楽しみながら寛げるソファーや、寝そべって読書を出来るエリア、椅子とテーブルが置かれ端末の使用を許可されているエリアに学生を主とした勉強の出来るエリア、利用者の用途にあった使い方の可能な場所が、ここにはあった。

 エルリオンが今いる場所は、椅子とテーブルが揃っているエリアだった。

 簡単なパーテーションにより、ある程度の個室感を作り上げている席は、周囲からの人の気配や視線を遮断させ、けれど時折届くほどよい雑音が、集中力を高めてくれる。

 読書するには、最適な空間だ。


 長く、男らしい指がページをめくると、カサッと擦れる音が鳴った。

 男の名は、エルリオン・オーガスタ。 

 彼はスっと流れるような、無駄な肉が一切付いていない滑らかな輪郭を持つ、整った顔立ちの美男子だった。

 歳は、二十三。

 柔らかな眼差しを宿したすみれ色の二重の瞳が、ゆっくりと文字を追っている。

 通った鼻筋と、その下にある薄くも熱くもない唇は固く閉ざされ微動だにしておらず、無表情に近い状態のままだが、全身から人あたりの良さそうな温和な雰囲気が溢れているために、近寄りがたい空気はない。

 艶やかでストレートの美しい髪はスカイブルーに染まり、長めの前髪がすみれ色に被さっている。

 長い脚を組み、ゆったりと本を読んでいるその様からは優美さが流れ出し、何かスポーツでもしているのか、と問いたくなってくるほど、適度に鍛えられ引き締まっている体躯はとても健康的で、男らしさに満ちている。

 紺のジャケットと黒パンツで包まれ、落ち着いた物腰を放っているものの、鮮やかな髪色のせいかひどく目立った印象を受ける。



「………………」

 真剣さを帯びた目と指先が、ただひたすらに静かに動く。

 今、エルリオンが読んでいる物は、魔法に関しての本だった。


 ――――この世界には、魔法が存在している。

 テクノロジーの進化していながら、それに並行するようにして、この世界は魔法で溢れている。

 火、水、風、光、闇といった自然の力の中に、己が秘める魔力を編み込み、魔法として発動させる。

 その他にも精神に影響を及ぼす魔法や、身体能力を飛躍的に向上させる魔法がある。

 威力としては、そう対したものではないものの、やはりそれは魔法だ。

 使い方によっては巨大な攻撃魔法となり、対象物に多大なるダメージを与えることが可能となる。

 さらに、操る魔法の威力は術者の能力によって、かなり異なってくる。

 己が持つ魔力が高ければ高いほど、威力のある魔法が操れるのだ。

 そしてそれは潜在的に持つ力であり、生まれた瞬間に、ある程度の実力は決まってしまう。

 努力に努力を重ねたからといって、それに見合った結果が出る、という簡単な仕組みではない。

 まったく魔法を操れない人間も存在するために、強い魔力を有する者は貴重であり、社会からとても優遇される。

 帝都内には魔法を学ぶための学校がいくつもあり、数多くの学生たちが在籍している。

 そしてエルリオンもまた、魔法学校を卒業した身であり、卒業後は魔法に関わる職に就いている。



「…………ふぅ」

 本を読み終わり、エルリオンは小さく息を吐く。

 魔法の専門書は、小難しい構成や言い回しが多くて、正直ずっと読んでいるとかなり疲れがたまる。

 しかも、魔法関連の本はこれで三冊目。

 エルリオンは瞳を閉じて、目元を押さえる。

 こうすれば、いくばくかの目の疲れが薄れるような、そんな気がするのだ。


「調べ物は、もう終わったのですか?」

 俯き疲れを紛らわしていると、可愛らしい声がした。

 図書館内が故に囁くような声だったが、目を閉じていてもわかるその主は――――


 エルリオンは、ゆっくりと瞼を持ち上げ、視線を上げる。

 そこには、エルリオンに似た容姿を持つ、美少女が微笑み立っていた。

 エルリオンと同じスカイブルーの柔らかな髪が、腰を過ぎるまで緩やかに流れている。

 頭にはリボンの髪留めが飾られ、丸みを帯びた頬を隠すように横の髪が肌に触れている。

 星が瞬くように煌めいている大きな双眸は眩しいほど純真さに溢れ、スっと長い眉も、ちょこん、と乗っている小さな鼻もピンク色した笑みの刻まれている唇も、とても愛らしい。

 黒を基調としたフリルとレースの飾られた少しだけゴシック色の強い服を、品良く着こなしている成長期真っ只中の少女。

 歳は十四。

 名を、リーナマリア・オーガスタ。

 エルリオンの、妹である。


「ん~。まぁ、一応は……」

 言いながら、エルリオンは座ったままで伸びをする。

 両足を床に、両手を天井へと思い切り投げ出せば、いつの間にか身体に溜まっていた気だるさのようなものが、一気にほどけていく。

「随分と熱心に読んでいらしたようですが……魔法関係の調べ物ですか?」

 少し身を屈め本のタイトルを確認したリーナマリアは、とても兄相手に話しているとは思えないほど丁寧な語り口調で、問いかける。

「ああ。魔法石の持続時間をもっと長く出来ないものか、と思ってさ……」

「魔法石、ですか?」

 ぱちくり、とリーナマリアが目を瞬かせる。

 ――――魔法石。

 魔法石とは発動した『魔法』の効果を長時間持続させるために要する、石のことである。

 自然界で採れる微量な魔力を宿した特殊な石に、人の加工が入り、魔法を込めることで『魔法石』へと進化するそれは、主に光を生み出す簡単な魔法を宿すことに利用され、帝都ではとても重宝されている。

 基本的に殺傷能力があるような、高度な魔法が吸収されることはなく、

 質の善し悪しはあるけれど、ふと視線を向ければ至るところに『魔法石』が見受けられ、雑貨屋などで簡単に購入出来るアイテムだった。

 けれど、石に込めた魔法の持続時間は、二、三時間程度。

 長いと言えば長いが、短いと言えば短い時間が故に、利用範囲はかなり絞られてしまうのが難点で、持続時間の延長が今後の課題とされている。

「それで、何かいい方法は見つかりました?」

 少しだけ興味を持ったのか、リーナマリアが隣に腰かけながら質問を寄越す。

「いいや、まったく…………」

 肩をすくめ、お手上げだ、とばかりにエルリオンは答える。

 『魔法石』は、言わば熱した鍋と同じだ。

 外部からの炎によって熱を帯びるが、けして自ら熱を生み出すことは叶わず、時間が経てば熱は失われてしまう。

 もちろん再度、熱を加えれば再びの利用は可能なので使い捨てられることはないが、やはり時間が問題とされている。

「どんなに質のいい石に強力な魔法を宿しても、ほぼ時間に変化はないんだよな……」

 エルリオンは天井を仰ぎ、呟いた。

 どんなに高価な魔法石を使ってみても、加算される持続時間はせいぜい二、三分ほど。

 とてもじゃないが、『延びた』とは言えない。

 どうやら時間を延ばすためには、質や量を向上させると言ったことでは、解決出来そうにないらしい。

「そうなのですか……。でも、何故急に魔法石の持続時間を延そう、などと?」

「前々からどうにかならないかなぁ、とは思っていたんだよ……。まぁ、結局、難しすぎて俺にはどうしようもない、っていうことくらいしか分からなかったけどさ」

 エルリオンは、自嘲気味に笑って見せた。

 魔法の知識はあっても、所詮、魔法石の知識は皆無。

 本を読んだ程度で手に入れた情報では素人に毛が生えたくらいにしかならず、専門家が悪先駆問している問題の解決に至りそうな、そんな重大な発見が望めるはずもない。

「興味本位で手を出すシロモノじゃないってことだな」

 やはり、プロに任せるのが一番の近道のようだ。 

「あ~。普段使わない頭をフルに使ったってのに、結局収穫なしか~。マジ疲れるわ……」

 気だるげに言いながら、首を左右に振り溜まったコリをほぐす。

「ふふ。では、閉館の時間も近いことですし、そろそろ帰りますか?お兄様」

 愚痴のようなものを零す兄に、リーナマリアは口元に手を当てて小さく笑いながら、言った。

  閉館時間。

 その言葉を聞き、エルリオンはハッとする。

 急いで時刻を確認すると、壁に掛けられている時計の針は午後五時半を過ぎていた。

 

「げ。もうこんな時間だったのか……」

 針の位置に、エルリオンは目を見開く。

 図書館に来たのが、四時前。

 集中していたとは言え、二時間近くも没頭していたことになる。

 これは少々、長居し過ぎだ。

 自分一人での行動ならまだしも、今日は妹も一緒だったのだ。


「リーナ、暇じゃなかったか?もっと早くに声をかけてくれても、よかったんだぞ?」

 ずっと待たせていたのかもしれないと思い、エルリオンがすまなさそうに言うと、

「いいえ。実は私も読みたい本がいっぱいあって、ついつい時間を忘れて読み耽っていたのです」

 首を横に振り、楽しそうに笑う。

「そうか?ならいいが……」

 気にした風もないリーナマリアに、エルリオンはホッと安堵する。

 その口調や態度に、気を使って言っている様子はない。

 自分と同じく本好きな妹故に、本当に時間を忘れて集中していたようだ。

 エルリオンは椅子から立ち上がり、読んでいた本を手に取る。


「本日は、何かお借りになるのですか?」

 聞いていてとても心地の良い声と綺麗な言葉使いで、リーナマリアが兄を見上げる。

「いや。もう読んでるしな。返してくる」

 だから先に行っててくれ、とエルリオンが続けようとした瞬間、

「では、私もご一緒します」

 リーナマリアの声がその考えを遮った。

「ん?別にそれは……」

 本を元の場所に戻すだけなので、わざわざ一緒に来る必要性はない。

 改めて先に行くように促そうとしたエルリオンは、

 にこにこ。

 相変わらず天使のような微笑みを浮かべているリーナマリアの顔を、視界いっぱいに捉えた。

 断固、考えを変えない、という意思を宿した微笑みを。

「……あ~。えっと、じゃあ一緒に行くか……」

 リーナマリアの無言の要望に、エルリオンは言葉の行き先を変えた。

 少しだけ苦笑を滲ませ呟くと、やおらバックを持ち上げる。

「はい。では、参りましょう」

 満足そうに頷くと、リーナマリアはくるりと背を向ける。

 それに続くようにして、エルリオンも足を踏み出す。

 エルリオンの隣にリーナマリアがぴたり、と付き添って、二人は通路を進む。

 閉館時間が迫っているせいか、いつの間にか行き来していた人の気配は格段に減っており、静寂がより濃いものへとなっていた。

 だからだろうか。

 微かに零される人の声が、よく届いた。







続く








ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

新キャラの登場です。

兄弟のいるキャラは他にもいますが、なかなか兄妹揃って登場させるということがなかったので、仲のいい二人を書いていくのはとっても楽しいです。

兄弟は大切な片割れですからね。


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