表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限ワールド  作者: 水原まき
番外編 ②
101/115

永久に輝くスイートアリッサム01

永久に輝くスイートアリッサム01






 

 とある寒い冬の日、セツナとリュードは近くのカフェへと足を踏み入れた。

 自動ドアが開き二人を招き入れたその瞬間に、いらっしゃいませ! という覇気のある若々しい声がセツナとリュードを出迎えた。

 すぐに奥から二十代半ばと思しきウエイトレスが会釈しながら近寄って、

「いらっしゃいませ。二名様、ですか?」

 と人数を聞いてきた。

「いや、あとで一人来るから、三人で」

 にこり、とリュードが爽やかな笑顔と共に首を横に振る。

 すると、不運にもその微笑みを真正面から受け止めてしまったウエイトレスは、パッと頬を赤らめる。

 しかし、すぐに仕事中であることを思い出し、あわてて緩んでいた表情を引き締める。

「こ、こちらへどうぞ」

 まだ少し残る動揺を隠しながら、ウエイトレスは席へと導いていく。

「…………」

 笑みを保ったままそれに続くリュードの後ろ姿を見ながら、セツナは嘆息する。

 この、妙に目立つ男といると、いつもこうだ。

 腰まで伸びるキラキラの金髪が、下の方で一つに結ばれながらも、小さく揺れている。

 長い足が、軽快に歩を刻んでいる。

 濃紺のコートを着こなしている、モデルと見間違えてしまいそうなほどスラリとしていてしなやかな、身長。 

 キュッとした顔立ちの中にある、タレ目なネイビーブルーの瞳。

 たくましさを持ちながら、けれどほどよい十代の未熟さをも宿す彼。

 隙のない身のこなしと所作、それにより自然と全身から漂い流れる、品。

 一目で高貴な生まれだと知れ、周囲の目を奪っていく。

 今も、まばらにいる他の客たちの視線が、チラチラ、と彼に注がれている。

 しかし当の本人は、慣れたもの。

 周りからの視線など気にせず、ウエイトレスの後ろを歩いている。

 そして。

 窓際の四人掛けの席へと、案内された。

 素早くコートを脱ぎセツナが先に席へ座ると、向かいにリュードが腰を下ろした。

 

「ごゆっくり、どうぞ」

「ああ。ありがとう」

 ぺこり、と頭を下げるウエイトレスに、リュードが礼を言い、ひらひらと手を振る。

 するとウエイトレスの顔が再びハニカミ、照れたようにテーブルから去って行く。

「おい。バカみたいに愛想を振りまくの、ヤメろって言ってるだろう。目立つ行動も、もうするなって……」

 マフラーを外しながら、セツナは声をやや抑え注意する。

 席に着いたことにより周囲からの視線はなくなったものの、こちらに興味がまったく無くなったわけではない。

 何かあれば、すぐに熱い視線が向けられるだろう。

 そしてそれは、セツナにとって居心地の悪いものでしかないのだ。

「でもさ~。愛想良くするのだって、俺たちの仕事のうちだろ?」

 何を怒っているんだ、とばかりにリュードは言いながら、隣の席に脱いだコートを置く。

 確かに、公共の場で紳士的に振舞うのは当然のことだ。

 しかも身分が高ければ高いほど、立ち振る舞いの正しさや言動の清さを要求される。

 もちろんそれは人としてごくごく当然のことであり、セツナだってちゃんと理解している。

 けれどリュードの場合はそういう倫理的なことではなく、

「『女性』だから、という理由だけだろう」

 己の欲望を優先しているようにしか見えない。

「え?ダメ?それも立派な理由のひとつだろ?」

 何がおかしい、とリュードは付け足す。

「女性にだらしがない、としか見えないんだけど」

 セツナは、冷ややかな目を向ける。

 社交性があり、誰とでも気取ることなく接することができ、すぐに打ち解けてしまうリュードの性格は、とても好ましく、魅力に繋がるものだとは思うけれど、いかんせん女性関係が緩すぎる。

 『特定』ではなく、複数の彼女に対し同じ愛情を注いでいるリュードを見続けているセツナにとって、彼の態度は『紳士的』ではなく軽薄な男の振る舞いにしか見えないのだ。


「あらら。ナナちゃんはずいぶんと手厳しいですね~」

 おどけるように、肩をすくめる。

「人がせっかく言っているのに……。いつか女性の恨みを買って刺されて死んでも、知らないから」

 ふざけた口調を崩さないリュードに、セツナはムッとする。

 真面目に忠告しているというのに、リュードの態度はあくまでも軽いままだ。

「へぇ、何。俺のこと、心配なんだ?」

 にや、とリュードの口角が持ち上がり、タレ目の双眸が細められた。

 その笑顔が、どこか勝ち誇ったかのように見え、さらにムッとした。

「別に。下らないことに巻き込まれたくないだけ……」

 ふん、と鼻で蹴散らして、セツナはこれ以上の会話は終わり、とばかりにメニューを抜き取った。

 パラパラとめくり、料理を見る。

 時刻は、午後三時過ぎ。

 ガッツリ系を食べるには、お腹的に無理だし、夕食のことを考えると、軽い物を選択した方がいいだろう。

 セツナは、ちらり、とメニューの上からリュードへと視線を向け、

「ルーは、何にするんだ?」

 そう尋ねた。

「ん~。コーヒーかな」

 あまり考えず、言った。

 リュードも、セツナ同様、何かを食べたいワケではないようだ。

「そっか。じゃあ、俺もコーヒーに……」

 しようかな。

 そう言おうとした瞬間、

(コーヒーではなくて、紅茶を頼んでくれるかい?)

 声が、した。

 その、少し高めでいながら落ち着いた声は、外から鼓膜を叩くことなく、セツナの内部へと流れ込んできた。

 ――――ギンイロだった。

 自分の中に存在する、もう一つの意識。

 その意識が、紅茶を要求してきた。


(俺は、コーヒーが飲みたいんだけど……?)

 注文に対し不満を示すギンイロに、セツナは呟きを返した。

(僕は、紅茶の気分なんだ)

 セツナの言葉などお構いなしに、ギンイロは続けた。

 口では(というか、心の中だが)『頼んでくれる?』という如何にもお願をいしています、的なニュアンスを放っておきながら、しかし彼の中に己の要求を取り下げる気などさらさらなく、コーヒーをキャンセルさせる気しか伝わってこなかった。


(ああ、それとフォンダンショコラ。それも美味しそうだから、注文よろしく)

 当然のように、追加した。

 どうやら、しっかりメニューは見ていたようだ。

「………………」

 セツナは、渋い顔で黙り込む。

 ついさっき、何も食べたくはない、と思ったばかりだというのに……。

 何だ、このワガママは……。


「どうした?」

 急に黙り込んでしまったセツナに、リュードが怪訝そうな表情で問うてきた。

 それもそうだろう。

 半ば途中で言葉を切り、沈黙してしまったら、誰だって怪しむに決まっている。

「えと、何でも。やっぱり俺、紅茶とフォンダンショコラを頼もうかな……」

 はははっ、と乾いた笑みを浮かべながらセツナは言った。

 本当は、ギンイロの願いなど叶えたくはない。

 自分はケーキなど、あまり食べたくないのだから。

 けれど、ここで彼を無視しようものなら、一気に機嫌が悪くなる。

 そして機嫌の悪くなったギンイロほど、内に存在してほしくないモノはない。

 もの凄くもの凄く不本意だが、ここは自分が大人になって折れるしか道はないようだ。

「? そうか。なら、注文するぞ?」

 不思議そうにしながらも言うリュードに、セツナは頷く。

 すると、ちょうどウエイトレスが水を運んで来た。

 ナイスタイミング、とリュードは、すぐさま二人分の注文を伝える。

 それを受けたウエイトレスは、少々お待ちください、と満面の笑みでリュードに伝えると、足早に離れて行った。

 


「………………まだ、来ないだろうな」

 二人きりになった瞬間、セツナはポツリと零した。

 何が来ないのか、みなまで言わずともリュードならわかるだろう。

 待っているのは、同じなのだから。

「う~ん、そうか?俺たちが早く来すぎただけじゃないか?」

 リュードは、壁に掛けられている時計へと視線を向ける。

 彼の言う通り、約束している時刻まで、三十分以上もある。

 早めに到着しようとは思っていたのだが、予想以上に早くカフェへと着いてしまった。 

 約束の時間に遅刻するような相手ではないので待たされる心配はしていないのだが、さすがに三十分も前に来るようなことはないだろう。

 さて。

 約束の時間になるまで、どうやって過ごそうか……。

 そう、持て余している時間をどう潰そうかと考えたセツナは、バックの中に本を入れていることを思い出した。 


(来るまで、読書でもするか……)

 セツナは内心で呟いて、バックの中から本を取り出した。


「えっ。ちょっとちょっと!大親友の俺が傍にいるのに、もしかして今からその本読むつもりじゃないよね?」

 本を片手に持つセツナを目に止めて、リュードが驚いた表情で言ってきた。

「……え?」

 読んでは、ダメなのか?

 きょとん、とセツナはリュードを見つめる。

 気を遣う相手でもないので問題はないと思っていたのだが。

「ダメだろうっ。俺と一緒にいるのに、本を選ぶってさぁ。せっかく時間もあるし、色々と話しをしよう、友よ!」

 リュードが、意気込むようにそう言った。

「話すって……何を?」

 セツナは、首を傾げる。

「え……。俺の、武勇伝とか?」

 きらりん、とリュードの目から星が飛び出す。

「え。黙ってて」

「しどい!」

 セツナにあっさりあしらわれて、ガン!とショックを受けたリュードが、テーブルの上に突っ伏した。



「バカなこと言ってる暇があったら、お前も本でも読んでみれば?」

 そう言ってみれば、

「え~。俺って、字ばっかり見てると眠くなっちゃう特殊体質なんだよね~」

 突っ伏したまま、どこか拗ねた様子でリュードは答えた。

 何とも行儀の悪い振る舞いだが、組んだ両手の上に顎を置き、チラチラと上目遣いで見上げてくるその姿は、不思議と不快感を与えない。

 それどころか、伏せられている頭からは、大型犬の耳が生え、しゅん、と垂れているようにすら見えてしまう始末だ。

 おそらくこういう姿が女性の母性を刺激して、モテる要素になっているのだろう。

「ナナちゃんが構ってくれないなら、俺、女の子と話しとかしちゃうぞ~」

 携帯電話をチラつかせ、リュードは唇を尖らせながら言った。

「……どうぞ?」

 セツナは、あっさり承諾する。

 約束の時間がくるまでどう過ごすかは、自由だ。

「え~。そこは『俺がいるのに他の女と話すなんて、ふざけるな』って怒るのが普通だろ~」

 自分で言い出しておきながら、何故か不機嫌そうなリュード。

「え?そう、なのか?」

「そうなの!」

「ふ~ん……」

「『ふ~ん』って……。はぁ、ツレないお言葉……」

 素っ気ないセツナの態度に、リュードは深々とため息を吐き、これ以上何を言っても相手にされない、と諦めたらしく、渋々、といった様子で携帯電話を触りはじめる。

 電話でもしに席を立つのかな、と思いきや彼は無言で指を動かしたまま。

 どうやら、ネットに繋いでいるようだ。



 やっと、静かになった。

 セツナは、再び本へと視線を戻す。

 ページの半分ほどの場所に栞が挟み込まれている本は、家族を殺された主人公が犯人に復讐をする、という内容のものだった。

 最初は怒りに身を任せ、ただただ感情をぶつけるだけだった主人公が、膨れゆく憎悪と殺意に満たされて、いつしか冷酷な微笑みを浮かべるようになり、徐々にその人格を崩壊させていく、そんな話しだ。

 はっきり言って、あまり気持ちのいい内容ではないし、ハッピーエンドなど望めないのは明白だ。

 けれど、どこにでもいる人間が大切な存在を他者の手によって奪われ、憎しみに駆られ自我を狂わせていく、という感情を文字で現していく表現がとてもリアルで、セツナの指は誘われるように、次のページをめくるのだ。



 ズキン。



 頭に、痛みが走った。

「っ…………」

 突然の痛みに、セツナは動かそうとしていた指先を、ピタリと止める。



(ねぇ。僕、その本嫌いなんだよね。そろそろ、読むの止めてくれないかな?)

 再び、ギンイロの声が響いた。

 不機嫌さを孕んだ、声が。

(読むなって、何で急にそんなこと……)

 ズキズキ、と小さな頭痛と共に聞こえてきたギンイロの冷めた言葉に、セツナは痛みを堪えながら心の中で、何故、と問う。

 ギンイロが己を主張してくる際に、痛みが伴ってしまう時がごく稀にある。


 これは、、彼が強く意思を伝えたい時に発生する、痛みだった。

 しかも、とりわけ機嫌が悪い時で、あてつけのように痛みが走り出すのだ。

 その頭痛は、けしてセツナへと大きな負担を与えるものでも、我慢出来ないほどでもないのだけれど、普段感じることのない痛みは、やはり不快で嫌だ。

 頭を押さえ、痛い、と訴える。 


(君がどうしてその本を読んでいるのか、僕にはまったく理解出来ないよ……)

 ギンイロが、やはり不機嫌そうに言ってきた。

 と同時に、ズキズキとしていた頭の痛みが、少しずつ治まっていく。

(君はその主人公が冷酷だ、と思っているようだけど、僕にしてみれば、まだまだツメの甘いお子様だよ。お子様過ぎて、見ててイライラするんだ)

 ギンイロが、吐き捨てた。

(そんなこと、知るかよ。それより、自分が気に入らないからって『読むな』と命令したり、頭を痛くするのは止めてくれないか……)

 子どもじゃないんだから、とセツナは眉根を寄せて、嘆息する。

 確かに、本の内容は気持ちのいいものではないけれど、読むことで感じ取る事の出来る感情や生まれる価値観も、ある。

 それを、気に入らないから、というギンイロの感情だけで邪魔されるのは、面白くない。

 しかも、自分の行動を邪魔されるのは、今日で二回目だ。

 あれは嫌、これは嫌、すぐにやめろ、とくどくど言ってくるのは大概にしてほしい。


(くどくど?君は、僕の適切なアドバイスをそう解釈していたのかい)

 へぇ…とギンイロが冷たい口調で言ってきた。

(アドバイス?単なるワガママを言っているだけだろう……)

 セツナは呆れながらに答える。

 まだ、半分ほどしか読んでいない本。

 これを読破するまで後何日かかるかわからないが、この調子だと、本を開くたびに不機嫌になられそうだ。

 その度に、文句が降ってくるかもしれない。

 そと思うと、セツナの心の中に、理不尽ではないか、という不満が生まれる。

 これは『セツナ・シヴァルツァ・ツェリカ・リンドラント』という意識を宿した身体であって、ギンイロの肉体ではない。

 自分の意思を持っているというのに、それを他者である存在に遮られるというのは、何だか自分の意思が曖昧になっていくかのような、そんな錯覚を感じてならないのだ。



「あれ?どうしたのよ。具合でも悪いのか?」

 それまで携帯画面をいじっていたリュードが、頭を抑えているセツナを見やり声をかけた。

「あ、いや……。ちょっと頭痛がしただけだから」

 大丈夫大丈夫、と同じ言葉を二度繰り返し、セツナはヘラリ、と笑い頭から手を離す。

 原因はギンイロの機嫌が悪いだけなので、心配するような症状ではない。

「頭痛?なら早く言えよ。薬あっから、飲むか?」

 そう言うと、セツナの返事も聞かず、リュードはバックから薬を取り出して、テーブルの上に置いた。

「え。お前、いつも薬なんて持ち歩いているのか?」

 スっと差し出された頭痛薬に、セツナは驚きながらも感心したように聞いた。

「そりゃあ、男として当然だろ。いつ女の子が体調を崩すか、わからないんだからさ」

「……ああ、そういう理由でか……」

 せっかく気がきくな、と感心したというのに。

(彼は、いついかなる時でも『彼』だからね……)

 ギンイロが、ふふふ、と笑う。

(……どういう意味だ?)

 何を言っているのかわからず、セツナは怪訝そうに問う。

(彼の精神は、揺ぎがないってことさ)


「やっぱ女たらしってことか……」

 ギンイロの言葉を受けて、セツナはぼそり、と呟いた。

「はぁ?何だよ、いきなり……」

 独りごちたセツナに、リュードが怪訝そうな表情を浮かべる。

「何でも。それより、せっかく出してくれたのに悪いけど、薬はいいよ。本当に大丈夫だから」

 ありがとう、とセツナは付け加える。

 痛い、と訴えたせいか、はたまたギンイロの機嫌が直ったからなのかは知らないが、すっかり頭痛は治まっている。

 まぁ、そもそも、薬を呑んで治るようなものでもないのだが……。


「そうか?ならいいけどさ……。また痛くなったら、言えよ?」

 遠慮するんじゃないぞ、と続けながら薬を片付けるリュードに、セツナはこくこく、と首を縦に動かす。

 すると、

「あっらら~。ナナちゃんってば、本当に愛されてるねぇ~」

 ウキウキとした、からかい口調の声が飛んできた。







 続く









ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

久々の登場セツナたん。

リュード君の女好きで軽い感じが好きです。笑

本当はもっと早くアップする予定だったのですが、話はまとまらないしタイトルも思いつかないし、で遅れました。


誤字、脱字があったらごめんなさい(;'∀')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ