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無限ワールド  作者: 水原まき
第1章 はじまりの音
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はじまりの音1

無限に広がる世界を監視し管理する立場にある『管理者』。

その肩書きを持ちながら、ぐーたら生活を送る主人公。わがまま放題好き放題な言動や行動に、周囲はいつも振り回されてます。






はじまりの音1







ガタンゴトン、ガタンゴトン。




帰宅するため乗車した電車の中は意識しなければ気にならないほど聞き慣れ音が、小さな振動とともに耳へと流れ込んでくる。

急速に目の前を通りすぎていく夜景。

家々から漏れる柔らかな生活の明かりや、ライトの当てられている巨大な看板、強烈な色を使い宣伝文句を流している電光掲示板の群れが延々と続いている。

次々と押し寄せては流れる眩い光の粒は時として容赦なく双眼に牙を剥き、軽い眩暈さえをも引き起こす。

人工的に作り出された光は地上に満ち溢れ、時間に縛られることのない喧騒に、いつしか世界は静寂を忘れてしまっている。

まるで、すべての闇を呑み込まんとしているかのようだ。


けれど、ふと上空を見上げてみれば、夜空の中にひっそりと仄かに輝く朧月や、金平糖のように小さく瞬く美しい星々が確かにそこにはあって、それはひどく安堵感呼び寄せる。

目的地の駅に到着するまでの間、やることもなく電車に揺られるがまま夜景を眺めていた少女、雪乃だったが、それにも飽き、ふと車内へと視線を移動させた。




最終電車ともあり、乗り合わせている客の大半が普通の状態ではなかった。

酒に酔い、うつらうつらと船を漕ぎはじめているサラリーマンや、疲労感を滲み出し項垂れているOLたちが、ぽつりぽつりと座っている。

天井からはイベントを告知するポスターや週刊誌の誇大広告がひらひらと揺れ、雪乃の黒曜石の瞳に映り込む。


緩やかな曲線美を持つ輪郭が、女性的な柔らかさを放ち、大人へと成長しつつある顔立ちの中に一粒の幼さを残している。

ごく平均的な身長に、少々華奢な体躯。

キメ細やかな白皙の肌はいささか病的な印象を与えるが、それを補うように内側から漲る溌剌とした強い存在感が、弱々しさを払拭させている。

腰をすぎるまで伸ばされている緑の黒髪は、迷うことなく先端をソファの上に泳がせている。

雪乃は乱れる横髪を耳へとかける。

戯れるように滑り込んだ右手の薬指には、唐草模様の金の指輪が輝いていた。

歳は十八。

どことなく日本人形を連想させる容姿の少女である。






「ん~。今日もいっぱい遊んだ~。そして疲れた~」

お世辞にも心地のいいとは言えない座席で伸びをして、雪乃は疲労を匂わせる言葉を呟いた。

思い起こすは、今日一日のスケジュールだ。

学生でも、ましてや社会人でもない雪乃は時間に縛られることなく自由に使うことができ、一日中遊び回っても誰からも文句を言われない立場にある。

そうなると、ついつい制御がきかず羽目を外してしまう。

今日とて、十時には家を出発し近所のショッピングモールへ直行。

夏物の洋服などを物色、購入し、ゲームセンターでゲーム三昧。

遅めの昼食を済ませた後は、雑貨や日用品の購入に走り、そのまま映画館へ。

映画が終わるとカラオケ店へ入店し、ほぼ一人で3時間ほど歌い続けた。

そして晩ご飯をファミレスで済ませ、今に至る。

「あれだけ好き放題動き回って暴れたら疲れるに決まってるだろ。おれをも巻き込みやがって。頼むから、もう少し大人しくしてくれ」


だらしなく身体を緩める雪乃の耳に、不満の声が届いた。

ゆっくり首を横へと動かし隣を一瞥すると、意志の強さを匂わせる生意気そうな黒い瞳とぶつかった。




目鼻立ちの整った、端整な顔立ち。

十代特有の猛々しさと子どもっぽさを宿し拭えない少年の多感さを感じさせながら、青年へと繋がる大人の空気をも纏う彼。

ほどよく焼けた健康的な肌。

モデル並みのスラリとしたスレンダーな身体を白と黒のラインが入ったTシャツとダメージジーンズが包んでいる。

無造作に切られている前髪は瞳に影を落とすほど伸び、その奥には黒のフレームメガネがかけられている。




名を、遠矢。

歳は十七。




彼は唇を不機嫌そうに歪め眉根にシワを刻み、両足を前に投げ出した体勢で座席にしなだれかかっている。


「巻き込むなって何よ~。デートしながら買い物しただけじゃない」

今日一日、雪乃の都合であちこち連れ回されて、疲れているのだろう。

小学生でもあるまいに。

疲労を理由にすっかり不貞腐れている遠矢の様子に、雪乃は呆れる。

「今日のどこが『デート』だ。がっつり自分だけの買い物じゃねぇか。俺は完全にただの荷物持ち扱いだろっ」

遠矢はイライラした様子で言い放ち、座席にずらりと並んだ紙袋を指差した。



数は、四袋。

ぎっしり物が詰まっている。

これらすべてを一人で持たされ歩き回されたのだから『デート』という理由で連れ出されたことに対し、遠矢は非常に不満を抱いているようだった。

「あんたの服とかも一緒に買ってあげたし、ご飯も奢ったじゃない。文句言わないの」

「買ってあげたって、全部俺の意見を無視して押し付けた、お前好みの服じゃねぇかよ。この無意味なメガネだって……」

うんざりした様子で言いながら遠矢はメガネに手をかけて、そのままスっと外した。瞬間。

「ゴラァ!取るんじゃないっ!」

「つっ!」

一連の動きを素早くとらえた雪乃は反射的にそう叫び、弾丸のように手を伸ばすと、遠矢の手首を掴んだ。

振り払われないようにグっと力を込めると、手首に走る力に驚いたのか遠矢は眉をひそませ小さく呻いた。

「メガネを取るんじゃないのっ。あたしがメガネ萌なこと知ってるでしょっ!」

嫌がっている遠矢を無視し、雪乃は言った。

「知るかっ。メガネくらいでそこまで必死になることないだろっ」

「あたしは遠矢くんのメガネ姿が好きなのっ。いいって言うまで絶対に外しちゃだめ!」

雪乃は、教え込むように言う。

「~~す、好きって……」

真面目な表情から繰り出された『好き』発言に動揺したのか、遠矢の頬が引きつって、目ががかすかに泳ぐ。




「ああ、もう!わかったわかった。付けてりゃいいんだろっ。付けてりゃ!」

遠矢はぶっきらぼうな態度でそう言うと、仕方がない、といった様子でメガネをかけ直し視線を逸らした。

「おんや。もしかして、照れてる?」

嫌な素振りを見せながらも従う素直さと、気恥かしそうに顔を背ける遠矢の反応に、雪乃がにんまりと笑う。

それはまるで新たなおもちゃを見つけ、いたずら心に火を点した子どものようで、それを見た遠矢の表情が照れから焦りに一変する。

「バカじゃねぇのっ。誰が照れるか!メガネ萌えとかわかんねぇこと言われて面倒くさいだけだっつの!」

「ん~。わかったわかった。そーいうことにしときましょ」

「ちっ。何かムカつく」

にまにま、と笑を崩さない雪乃の緩みきった表情に遠矢は頭をかきながら舌打ちするが、それ以上発言したところで不毛なやり取りが続くだけ、と思ったらしく沈黙を作り出す。

雪乃の方も別段、他に会話したい内容があるわけでもなく、その沈黙に身を委ねる。

人工的な音がなくなると、ゴトンゴトン、と電車の騒音と振動が際立ってくる。





(あ、やば。何か眠たくなってきた……)

五感に響くほどよい刺激をうけて、奥に潜んでいた眠気が蠢きはじめる。

幸い、遠矢がいるので眠ったとしても、駅に着けば起こしてくれるはずで、その余裕がさらなる眠気を誘う。

雪乃は隣りに座る遠矢の方に身体を傾け、彼の肩に頭を預ける。

「眠いのか?」

「ん。眠い」

擦り寄ってきた雪乃の様子から、遠矢が小さな声で聞いてきた。

「起こしてやるから、寝てれば?」

ぽんぽん、と頭を叩かれて雪乃は目を閉じる。

「ん~。そう?じゃあ……」

遠矢の言葉を受けて、寝る、とそう続けようとした矢先、リィィィン、というかすかな音が聞こえた。




(お?)


鈴の音のようなその澄んだ音は、外部からではなく頭の奥に直接流れ込んできたもので、それまでたゆたっていた睡魔が一気に払われる。

まるで遠くの方から呼ばれているような感覚に、雪乃は目を開け立ち上がる。

それは、一瞬であった。

まるで雪乃の動きを合図にするかのように、風景が一変した。



「……あら?」


ぐらり、と風景が歪んだかと思うと、何故か倉庫のような一室に、立っていた。

乗っていたはずの電車も遠矢も消え、見知らぬ場所にぽつん、と雪乃だけが存在していた。























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