~そして、光の中へ~
何かが手に触れた様な気がして……
セラフィナイトは薄っすらと目を開けた。
空を見上げると、白い雪が舞い落ちるのが見える。
(雪が……降って、いる? この、ノンマルタスの都で……!?)
驚きのあまりセラフィナイトは、痛む身体を引き摺るようにして立ち上がった。
都の天候は地上のそれと変わらない。
ただ、雪だけは降らなかった。
雪は毎夜降っていたから――
ドームから垣間見える海の雪は“マリン・スノー”と呼ばれていた。
だからこそ、古の人々は都に雪を降らせなかったのかもしれない。
(何故、雪が……?)
そう思ったが、何かがおかしい。
この雪は冷たくはない。
肌に触れた瞬間……
解けるように雪は消えていくのだが、伝わる感触は“冷たさ”ではなく“温かさ”
セラフィナイトを包み込むように降る雪は、どこまでも彼に優しかった。
この数ヶ月感じたことのない安らぎを覚える。
傷の痛みさえ和らいでいくような、そんな気がした。
このまま、ずっとこうして居たい……
そんな想いに浸っていたセラフィナイトは、誰かに呼ばれたような気がしてふと我に返った。
遠くの方で微かに自分を呼ぶ声が聞こえる。
懐かしい声……
その声の主がセラフィナイトに気づいて、微笑みながら話しかけた。
「なんだ、そんなところに居たのか? こっちへ来い」
柔らかい光の中で、シェルが穏やかに微笑んでいた。
「シェル……タイト様! そちらに行っても宜しいのですか?」
「何を言ってるんだ? 当たり前だろう! 早く来い! おいて行くぞ!!」
そう言いながらシェルはセラフィナイトに手を差し伸べた。
戸惑いながら、その手に向かって恐るおそる手を伸ばす……
触れれば消えてしまうのではないか?
……そんな気がして、思わず躊躇ってしまう。
そんなセラフィナイトの心を察したかのように、シェルは手を伸ばしてセラフィナイトの手を握り締めた。
温かい手の感触に思わずセラフィナイトの瞳から涙が零れ落ちた。
「どうした? ……泣いてるのか?」
「いいえ、何でもありません」
そう答えるのが精一杯。
止めようと思っても涙は後から後から……零れ落ちて来る。
柔らかい銀の光の中……
二人の姿は何処へともなく消えて行く。
それはノンマルタスの都に夜明けが訪れる、少し前の事だった――




