父の命
やあやあ。
書斎の部屋のドアをさっきとは違い、ゆっくりと開ける。
「父さん!」
そこにはぐったりとはしていたが確かに意思を持った目をしている義之がいた。出血量的には夕子と変わらない。しかし、傷の痕は義之の方が遥かに多い。
ほんと、何で生きているか不思議なくらいだ。
「む…。失敬な。」
あ、あり?
「さっきから、声に出ているぞ。馬鹿め。」
義之は言葉を詰まらすことなく話し続ける。
「あ、うん。」
「何やら不思議そうな顔をしているな。」
不思議がる翔に義之が的確な言葉を投げる。
「あー、うん。そんだけ血出てんのに死なねーんだな、みたいな。うん、はい。」
何にも怪我をしていない翔の方がしどろもどろしている。
「そりゃそうだろう。黒神家というのは代々吸血鬼の血を継いでいる。覚醒していなくても怪我の治りは早い。とはいえ、気を抜けば多分死ぬだろう。」
安心したのも束の間。死ぬ宣告なるものを受けた。
「い、いやだっ!死ぬなっ!」
さっき目の前で人の死を見てしまった翔は死に対して過剰に恐怖を抱いている。そのためか、一度はおさまりかけていた目の煌めきが増した。
「やっぱりお前は吸血鬼なんだな…。」
目が光っているぞ。
という言葉と共に頭を「ポンポン」と撫でられた。普段なら嫌がって手を払いのける翔だが
「うっ、うっ、父さん…っ」
と泣き出してしまった。
「そこで提案なんだが、お前の血を俺にくれないか?」
「…?」
意味がわからなかった。
「そ、その。つまりだな。黒神家は吸血鬼の血を継いでいる"だけ"なんだ。だからな、治癒が間に合わない。しかさ、純血の吸血鬼の血ならこんな傷一瞬で治せるだろう、という話なんだ。」
「つまり、俺が父さんに血を入れるってことか…?!」
野郎が野郎にかぶりつくなんてなんと気色悪い図なんだ…。地獄絵図かよ…。
と思っている翔だが、見た目の心配は無用だ。
「別に俺は死んでもいい。夕子も逝ってしまったんだろう?」
という顔には何か言い難い達成感の様なものがあった。というか達観しているようだった。
「やだやだやだ!母さんもいなくなって父さんもいなくなったら俺生きていけない!」
という翔はただの駄々っ子のようだった。
「翔…。」
ゆっくりと翔の頭を撫でていた義之の右手をぐっと引っ張り翔は義之に抱きつく。
「もう、誰も死なせたくない。」
と、ポツリと呟いた後、「がぶり」と義之の首元に噛み付く。
「く…っ」
吸血鬼の噛みつきというのは異性には甘い快感になるが同性には痛いらしい、というのを知っていた義之だったがあまりの痛さに意識を失った。
「父さん!父さん!」
薄っすら意識を取り戻すと誰かが呼んでいることに気付いた。
「翔か。」
「父さん!」
意識を取り戻した義之に嬉しそうに笑う翔。
「お前は夕子にそっくりだな。」
と微笑んでみた。
決してそんな関係では無い。親子だ。




