表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

二個目のビックリ箱

 夢を見ている。

 いつもの夢だ。嫌な夢、かつての現実。


 夢の中の俺に重い、とてつもなく重いモノがズシリと俺に圧し掛かっている。俺の体を地面へと押し付けられている。


 耳に聞こえるのはぐちゅりとした咀嚼音。目蓋に写るのは俺を中心に放射状に広がった真紅の絨毯。だがその鮮やかな朱色もだんだんと色を失いモノクロとなってきている。日が落ちるにはまだ早すぎる時間だというのに、宵闇は直ぐそこまで迫っていた。


 体がとても寒い。先ほどまでは悲鳴と共にとてつもない『熱』を感じていたというのに。今となっては先ほどまでの、喉をかきむしりたくなるほどの熱が懐かしい。まあ、喉もと過ぎればなんとやらなのだが。


――寒い、寒い、寒い、寒い。


 嘆き声を上げようと口を開いたが、出てきたのは音ではなくただの血の塊だった。喉からはもはや息もほとんどでない。さきほどまではヒュー、ヒューと喧しいほどだったのに。


 ああ、世界が闇に沈む。

 だが、夢の中の俺はその暗闇にさして恐怖はしていなかった。なぜならそれ以上に気に掛かっていたことがあったから。


――ああ、彼女はちゃんと逃げ延びただろうか。それだけが心残りで、


 幻聴が聞こえる。生きる力がほどほど抜けた体に鈍い音が響く。そして懐かしき声色。


「■■■■■■■!?」


 俺の意識が闇に落ちる寸前、俺は愛しい人の声の幻聴が聞こえたような気がした。



◆◆◆





『■■■ケイティ、ダイジョウブ?』



 奈落の底の先には女の巨人が待っていた。

 いや、寝ぼけるな俺。アレは”二人目の実の母”だ。……ああ、うなされていたのか。


『ママ、ダイジョウブ、ブジ、ブジ』


 俺は片言ながらようやく喋れるようになった、こちらの言語で体調に問題があるわけではない事を話す。発音も怪しいし、相手の言葉も半分も理解できないが初期に比べれば格段の進歩だ。


 その言葉に納得したのか”母”は俺の元を離れ、元の作業に戻る。俺がうなされるのは何時もの事であるし、いつまでも子供一人に関わっていられるほど暇ではないのだ。


「はぁ、いいかげん適応してもいい頃だと思うが未だにまともに喋れないんだよな」


 辞書も教科書もなしに言葉を覚えるってどうやればいいんだよ。相手に単語などを教えてもらおうにも質問するということ自体ができないので聞きようがない。現状では俺が彼等に意思を伝える方法は首を縦に振るか横に振るかでYES、NOを伝えるしかないのだ。


 まあ発音自体はそんなに難しくはないんだけどね。幸いここの人達の言語というか発音ってなんか日本語と非常に良く似てるんじゃないかと思うのだよ。例えば巻き舌な言葉って使わないし。なんというか彼等の言葉って中国語や英語みたいな音の高低が激しいタイプではなく、日本語や韓国語みたいな音の高低差の緩やかなイントネーションな感じだよな。



「事実は小説より奇なりとはいいますが、いきなり異世界への字空間移動から転生のコンボをくらうとは正直、今でも現実を受け止め切れんとですよ」


 いやー、俺の人生、特大のビックリ箱やでぇ。……こんな嬉しくないビックリ箱も滅多にないだろうが。というか、この人生は二度目であるのだから、貰った人生という名のビックリ箱は二つ目である。


 誰 が お 代 わ り を 要 求 し た ! !


 まったく異世界移動・時間移動ならクローゼットなり机の引き出しなりとギミックをちゃんと用意しとかなきゃいかんとですがね。4.21ジゴワットのデロリアンでも構わんぞ。または冷蔵庫でも可。あれ、企画段階では車でなく冷蔵庫を改造したものになる予定だったと映画のDVDのコメンタリーで言ってたとです。


 まあそんな事より現状の説明だ。現在俺の年齢は2~3才。なんで自分の年齢もはっきり判らないのかと言うと、0の概念があるか判らんので数えかどうか判らんのよ。それについて質問しようにも現在、言葉も拙いし、語彙も豊富じゃないしな。

 例えるなら中学二年レベルの英会話力で深く突っ込んだ質問ができるか? つまりそういう事だ。むしろ一からここまで言葉を覚えられた自分を褒めてやりたい。なにせ自意識を取り戻してまだたぶん一年ぐらいじゃないかと思うし。


 赤ん坊の頃の記憶? おぼろげにしかないな。つうか、赤ん坊の頭ではまともに思考がでなかったという話なのだろう。少なくとも物心(……)付くまでの記憶はあいまいだ。俺の経験から一番近い表現を厳選すると酒の飲みすぎて意識んだ朝、倒れる寸前の記憶が曖昧だったりしたケースが一番よく似ているか。


 まあ、そもそも赤ん坊なんて一日の大半は寝ているんだから始終寝ぼけているようなもんなのかもな。幼児に進化した俺も未だに直ぐ眠くなるし。まったく、整然と比べて面倒この上ない。もっとも、生前だって昔はそうだったんだろうけど。


 家族は父、母、俺の三人構成の核家族+家畜等が少々。見たところ今の時代は結構古そうだというのに核家族ってどうよとも思ったが、時折、祖父母らしき男女が訪れたりするので、単に両親(祖父母)は兄夫婦が養って弟夫婦は自立した家を建てたというところなのだろう。末子相続な文化があるのなら兄弟逆になるだろうが。


 ああ、そうそう。たぶんここの文明レベルは古代レベルだと俺は思っている。


 何故かって言うと、周りを見渡しても電気が通ってない。あと素焼きの土器を使っている。ただし水甕は素焼きでないっぽいが。生活基盤としては農耕+狩猟っぽく木製、又は石器農具を使っているところを何度か目撃している。なお石はたぶん黒曜石だろう。別に石に詳しくないが光沢があって真っ黒だからそうじゃないかなーと思っている。


 極めつけはTシャツを着ていない。これで確定。ドキュメンタリー番組とか見たことあれば判るだろうけど今時、よっぼどの僻地じゃないかぎり後進国でも化学繊維でできた服を着ている。今着ている服はたぶん麻の一種なんだろうけど、粗末だけど天然物なので逆にTシャツより買おうと思ったら高価かもしれん。よって、少なくとも科学文明はなさそう。


 夜に月を見上げれば、生前の世界、地球で見た月とは違った満ち欠けをする月が浮いていた。なんで上下に満ち欠けするんですかねぇ! ……どうやら地球の過去ではないらしい。いったい、俺が死んでから何年経っているのだろう。最低数年、最大はまったく想定不可能。


 家の外に出てみると周りは畑と森、そして結構離れて別の民家が見える。散居な村のようだ。あまり集団で作業とかしないのかね? そこらへんはよくわからん。他の人間の事はよくわからない。何分、あっちからこちらに尋ねてくる人間にしかあったことがないのだ。あんまり家から離れたら怒られるし。というか縄で柱に犬のように縛られるのは辞めてもらいたい。まあ、何度も勝手に離れようとした俺も悪かったが。


「■■■、ケイティ」


 あ、何か呼ばれてる。何だろう。

 何言ってるのか半分ぐらいしか判らないんだよな。


 因みに俺の名前はケイティと言うらしい。


 え、女性名? ケイティが男の名前で何が悪いってんだ! 俺は男だよ!! いやはや、まじ今世では性別変わったかと焦ったわ。どうやら、こっちではケイティは男にも使う名前らしい。……男だけど女の名前を付けたとかはやーよ? そこは、ここの両親はそんなDQNでないことを祈るのみである。


 とりあえず、言葉を覚えなきゃ駄目か。現状、子供じゃ何もできることはないし。それに、


「未悠が生きているなら探なきゃいけないしな」


 あれから数百年とかでなければ会えるかもしれない


余談ですが、琉球弁、いや琉球語は言語学的にみると日本語と系統が同じ唯一の言語とみなされているらしいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ