表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

【以降修正】 俺が死んだ日

トリップだけではなく転生要素を入れたいと思い、以降書き直します。

変更前の分をお読みになった皆様はもうしわけありません。

 川に辿り着いてから翌日、未悠がようやく目を覚ました。


 目を覚ました当初は、体がシャンとしているとは言いがたかったが、それでも、今までのような意識不明よりも百万倍良い。俺は彼女に肩を貸し、ひたすら川を下っていった。


――それから数日後。



「うわぁ、なんだか凄い……」

「……石像だよな。モアイみたいな」


 川を下った先にはモアイのような石像があった。もちろん川原に立っているわけではない。川沿いを歩いていた際に近くの丘の上に鎮座されているそれを偶然発見したのだ。それは苔に覆われだいぶ森に飲み込まれつつあり、俺達がそれを発見できたのはたまたま見た角度がよかったからだった。本当に偶然の発見といえよう。


「うーむ、明らかに人工物だよな」

「ということは、人間がいるんだね」

「だろうな」


 人間なんだろうか? 俺は「だろうな」などと肯定しつつも、これを作ったのが人間だと内心では断言できづにいた。これを作ったのは知的生命体ではあると断言できるがヒューマンであるとは断言できない。


 ここには俺達が見慣れた動物もいる。だが、この数日で俺達はあきらかに元の地球では見たこともない、または既に絶滅したであろう生物に遭遇もしていたのだ。極めつけに俺達を絶望させたのは月の動きだった。大きさ、光度、共に元いた地球と変わりなかったが、月の満ち欠けの動きが俺達の知っているものと違っていた。なんと横から満ち欠けするのではなく上から下に斜めに満ち欠けしていたのだ。


 少なくともここは俺達が生きていた地球とは別物だろう。


「……だがこれ、恐らく放置されてから何十年も経っているっぽいな。人里に近づいているのは確かだろうが、この近くにはもう人は住んでいないかもしれん」

「けれど、この近くにいる可能性も結構ありそうだし、今日からここを拠点として探索しようか?」


 確かに、ここを拠点として人里を探した方がいいかもしれない。適当に進んでもまったくの反対に移動する可能性もあるので、ひとまずここに留まって人間の痕跡を探すべきだろう。


「では、この辺りで狩りをして食料を確保しながら探索といきますか」

「幸い、大きな肉食獣にもいままで出会わなかったしね。狼ぐらいはいるかと思っていたのだけど。ひょっとして実はここそんなに大きくない島の山地だったりするのかな。島だと大型の肉食獣とか生きて行けないとか聞いたことあるし」

「安全性の意味ではそうだといいが、人間の探索という意味だと島だと色々絶望的だから、どっちも痛し痒しだなぁ……」


 かといってこのままここでじっとしてても進展ないし。なんか出てきたらそれはそん時考えとしよう。賢者然とした振る舞いなんて犬に食わせちまえ。どの道、飢えて体力が無くなったら動くことすらできんのだ。


「とりあえず武装だけはして注意はしておこう」


 俺は剣鉈を木の棒にくくりつけて作った即席の槍を見せるけるように前に突き出す。


「まあ、真正面から襲ってきてくれればなんとかなるさ」

「先手をとられて奇襲されたらお陀仏なのね」


 そう言うと我が相棒は目の前で溜め息をついた。「全然安心できないじゃない」と少々お冠である。それに対して俺はあたぼうよと答えておく。こちとら唯の一般市民だぜ、たとえいくら非常識な危機的状況に巻き込まれたからって性能は変わらん。いきなりスーパーな超人になれますかいな。


「では行ってきますか」

「……いつになったら帰れるんだろね」



――その後、俺達は廃墟となった集落を発見しそこを拠点とすることなる。だが、俺達はその時気づくべきだったのだ。何故、元の住人達がその集落を捨てたのかを。



◆◆◆


 ハンティングで仕留めた獲物は十分にあった。だが、帰り道、俺は視界の端でウサギを発見しそれを追いかけていた。まわりは似通った木ばかりで正直、あまりに集落という野営地から離れると帰り道が判らなくなりそうだ。

 周りに生えているのは変わり映えしない原生林の森ばかりで目印となるものは少ないと、遭難したとき同じところをぐるぐる回ってしまうというのはよく聞く話だ。なので、集落で獣避けに燃やしている焚き火の煙が見える範囲の中で動くしかない。


「煙が見える範囲外まで逃げてくれるなよ、ウサギちゃん」


 その見える範囲内で獲物を仕留められればいいのだが。まあ仕留められなければ、集落に帰るだけである。ウサギが逃げる。俺はウサギを小高い丘の上に追い詰める。


「さぁ、袋の鼠ならぬ兎だ」


 追い詰められたウサギは俺に仕留められるか丘の上から飛び降りかするしかない。そして丘の上から飛び降りでただで済むわけがなく、またそのような見晴らしのいい場所はハンターにとって最高の狙撃ポイントだ。そうウサギの命運は尽きた。

 響く銃声。俺は見事、ウサギを仕留めることができたのだった。


「よっし! このウサギは燻して保存食だな」


 ホクホク顔でウサギをビニール袋に入れる俺。その際、丘の上で俺は何気なしに辺りを見渡した。


――そして、俺は終わりの始まりの鐘の音を”見る”ことになる。


「うん? あれはなんだ?」


 何やら大きな生き物が木々の隙間を通った気がした。


 その何かが進むと思われる進行方向へと目を凝らす。その結果、目が捕らえたのは二足歩行で走る鹿程の大きさのトカゲのような何か。……ううむ、どうやら物体が遠すぎて物体を誤認したようだ。そうに違いない。たぶん、必ず、絶対に。


「……夢だ、…夢だ、夢だ夢だ夢だ!」


 え、何、ここって白亜紀なの? それにしちゃあまり暑くないような気が。あれか冬だからか、夏だと思ったらこの暑さで冬だとかか。


「ひょっとしたら、あの集落の主って恐竜人だったのやもしれんな。……あ~~、未悠にどう話そう」


 絶対泣くよな、普通泣くよな。つうか俺が今泣きそうです。


「……ひょっとして、前の住人が集落を捨てたのってアレが原因だったりするんだろうか」


 どうしよう。今更だが、今後、森の中に入るのが怖くなってきた。なにせ生憎とこちとら多少世間一般から見てマイナーな趣味を持ってはいてもまごうことなき一般人である。よって当然だがいくら体格が小さかろうと鹿サイズの恐竜など倒せない。


 えっ? 銃あるだろって?


 馬鹿こくでねぇとですよ。こちとら狩猟用といっても空気銃しか持ち合わせてないだよ。頑張っても中型獣が精々だよ。熊みたいな大型獣の相手なんか無理ってもんです。ただの空気銃なんかじゃ熊や鹿に太刀打ちできません。熊とか鹿サイズの獲物を狩りたかったら猟友会の方が熊殺しに使う散弾銃、または大口径狙撃ライフル、またまた同じく海外で使われてる超大口径の空気銃を用意してきなさい、以上。男気だけじゃ太刀打ちできんもんはあるのです。


「……ん、まさか」


 まさか、あいつら集落の方に向かってないか。


「ちっ! 俺達の臭いでも嗅ぎつけたか!」


 未悠が危ない! 直ぐ、帰らなくては!

 俺は手に持っていたウサギを捨てて集落へと走った。


◆◆◆


 つま先で地面を叩きつけ、俺は住処としている集落にあった廃屋へと駆け込む。


「未悠! 今すぐ逃げるぞ!」

「えっ、何よ藪から棒に。そもそも逃げるって何処へ?」

「……っ」


 そうだ、何処に逃げようと言うのだ。無防備な姿を晒し、森の中を突っ切るとでも?

 馬鹿な自殺行為だ。少なくとも今、向かっている奴等をなんとか切り抜けなければ逃げる事もできない。


 戦うしかないっ!


「……畜生、やってやろうじゃねえか。未悠、銃の準備をしろ。応戦の準備をするぞ!」

「だからなんなのよ!」

「恐竜の群れが襲ってきるんだよ! ジェラシックパークなんだよ!」


 俺は絶句する未悠を無視しエアライフルに限界いっぱいまで空気を入れ直す。威嚇だけ、上手くいけば威嚇だけで事態は進展するやもしれない。大丈夫だ、物語とかなら主人公は序盤では死なないはず。こんなフィクション染みた展開の連続なんだから今回もそれに準じた事になるだろう。そう現実逃避する以外に道はない。


「家に篭ってれば大丈夫じゃないの!」

「こんなボロ屋なんぞ、突進されたら一撃で崩壊だ。」


 元々、長年放置された廃屋なだけに小屋はかなりガタガタな上に、そもそも作り自体も頑丈なものではない。本当に雨風を防ぐだけ、そんな最低限の用件だけを満たしただけの建物なのだ。


「……銃をいつでも撃てるように準備して、ひたすら息を潜めるんだ。上手くいけばやり過ごせる」

「……っ!」


 俺の言に対して、未悠は涙目になりながら、息を殺して首を縦に振った。


 それから俺達は出入り口の扉の前にありったけの荷物を置きバリケードとした後、身動きせずに息を殺し、奴等の襲撃に備える。一秒が一分にも感じられるその緊張の中、胃の引き締める緊張が続く。なんの物音も聞こえない。ひょっとして単にこの集落の方角に進んでいただけでこちらを襲おうとしていなかったのでは、そんな考えが浮かんでいたその時、


――ばぁんっ!


 外にある、集落を囲む柵に何か大きな物が当たった音が響いた。その後に耳に届いたのは、何か大きな生き物が歩く足音。そしてその足音は俺達がいる建物前まで近づいてきて。



――グギャーーッ!



 開戦の口切の如き嘶きを上げたのだった。


「……っ」

「畜生め!」


 ダンダンと建物に突進してくる音が聞こえる。ドアがミシリミシリと泣き喚き、その寿命を聞かれてもいないのに俺達に自己申告してくる。


 俺は銃を構えた。


(逃げてくれよ、逃げろよ、逃げろ、逃げろ)


 俺はスコープを越しに破れつつある扉を見つめる。そして、これの銃声で相手が逃げ去る事を祈った。銃声に怯える動物は少なくない。この人のみが行える威嚇を前に逃走してくれれば最高なのだが。


 鈍い音とともに扉が破られた、それと同時に俺と未悠は銃の引き金を引く。それと同時に口内より無意識と自然に音が漏れた。


「あああああああぁぁッ!」


 否、漏れ出すなどという可愛げのある大きさではない。それは唸りをあげるというべき大きさ。俺の口内、そして銃口から奴等に向け、俺の敵意が威嚇として大合唱される。銃口から鉄が飛び出す。

 同時に「バァーーン」という音が二つ重なり二挺のエアライフルより弾が奴等の元に飛び出した。それは過たず、だが狙い外れ、奴等の内の一匹へと着弾した。


 目の前の恐竜は悲鳴をあげた。しかし、だがそれだけだった。仲間を撃たれ嘶き怒るも奴等は逃げる気配を見せない。奴等はその長い首をこちらに伸ばし俺達の事をうかがい始める。そう、奴等はこちらのことを認識した。


「ちっ、大して利いてねえ!」


 俺の銃の残数4。未悠の銃は単発式なので未悠は急いで次の銃に弾詰め込んでいる。


「グギャアーッ!」


 奴等は一際大きくその耳障りな鳴き声を上げた。その後、怒りもあらわにこちらに突進しようとしてきた。だが、バリケードがあるために”まだ”それはできない


 俺は再度狙いを付け始める。だがやはり銃の威力も玉の数もそもそも奴等の相手をするには荷が勝ちすぎだ。さきほども言ったがそもそもこの銃は大きくともタヌキやキツネを狩るのが限度であり鹿サイズの獲物などよっほどラッキーショットがなければ仕留め切れない。

まあ時折武勇伝としてエアライフルで鹿を仕留めたなどという話を聞くこともあるにはあるが有体に言ってこの銃であのサイズを仕留めるのは無理ではないが無茶な部類である。


 さきほどは一番手前のちょうど横を向いていた一匹の心臓を狙った。何故そこを狙ったかというと硬い頭蓋骨に守られた脳を狙うよりも肋骨の隙間を狙えるやも知れない心臓の方が勝算がありそうな気がしたからだ。頭部を狙ってあわよくば脳震盪よりも心臓を狙ってあわよくばショック死、そういう算段だったのだ。


 俺は無我夢中で奴等に対して銃を撃ちまくる。悲鳴を上げる恐竜達。だが銃に撃たれ逃げ出す奴もいることにはいるが、逃げた奴が去ってできた隙間に別の恐竜が割り込んでくるので、ほとんど意味はない。


「だぁーッ、畜生、やっぱりヘッドショット狙ったほうがいいか?」


 だがしかし、この切羽詰った状況で確実にヘッドショットを決める自信はない。眼球に関しては言わずものがなである。完全に止まっている獲物ならともかく動いている獲物を狙い撃つのは難易度が高い。それもこちらに向かってきている大きな獲物である。


 平静でいられるはずもない。いつも通りにこなせるはずもない。


「ちっ、所詮は絵に描いた餅、食えんかっ!」


 奴等に向けて続けざまに撃つ。周囲に「バァーーン」という高い音が耳に響く。そして目の前にはまったく怯まずにこちらに突進してくる奴等。まったく普通野生動物って奴は未知の物にもっと怯えるもんじゃないのか。


 やつ等はこちらから銃を向けられてもまったく怯える気配がない。日本の山の獣さえ銃を向けられたら大急ぎで逃げ去るというのに。鳥撃ちの際はわざわざ銃にカバーをかけてフォルムを誤魔化して鳥がこちらを警戒しないようにすることもあるのに。


 恐らくこいつらは今の今まで銃など見たこともないのだろう。だから銃の怖さを知らない、判らない。そして腹立たしいことにこいつらの選択は結果的に間違いではない。このままこちらに来られたら俺は負ける。食われて終わる。脳裏によぎるのは某恐竜映画の中で襲われ食われる犠牲者達。


「だぁーー、空気銃じゃなくて散弾銃を買っとくべきだった! さもなきゃエアの口径に制限をつける政府が悪い! 海外じゃ、大型獣をも仕留める大口径エアライフルなんてものもあるのですよーーーッ! 恨むぞ規制した政府!!」


 繰り返し響く銃声。その顔形が視認できるほどの距離まで近づいてきた奴等。涎をしたたらせた、その鋭い犬歯が俺の視界に写る。


――カチ、カチ、カチ


 いつのまにか全弾撃ちつくしていたようだ。こうなっては銃はただの鉄の塊だ。もう弾を補充する間もエアをいれる時間もない。奴等が俺に迫る。ああ、騎馬に蹴散らされる戦国時代の鉄砲足軽の気持ちとはこういったものだったのだろうか。


「ひっ」


 口内から声にならない悲鳴が漏れた。足ががくがく震え始める。


「来るんじゃねえ。飯が欲しいならくれてやる。だからこっちくんな!」


 俺は泡を吹きながら、周りにある物を投げつける。取り置きしていた干し肉やジャガイモ、玉ねぎなどなんでもだ。


(俺はこんなところで死ぬのか。こいつらに食い散らされて。何でこんなことになったのか訳も判らずに)


 駄目だ。もうおしまいだ。生きる道筋が見えてこない。



 迫りくる恐竜達の動きがまるでスローモーションのように目に映る。


 そんな跳ね上がる土粒さえも視認できるのではと思えるようなゆっくりと停滞した時の中で、俺は一人溺れているかのように口は空気を求め、心臓の音がバクバク聞いている。


 脳が余分な仕事を放棄した結果、俺の世界から色が消え、辺りから音が消えた。心音しか聴こえない世界の中、俺の脳裏は脈絡もない無秩序な映像が流れる。


 走馬灯、という奴なのだろうか。過去の思い出が脳裏を駆け巡っている。


 物心ついてから今まで体験してきた楽しかったこと悲しかったこと、それらが走馬灯のように駆け巡る、そんな中でふいに脳裏に何よりも強く思い出せる顔が横切った。


 こちらに着てから能天気なペースを崩さなかったアイツ。だがときおり浮かべていた不安げな顔を俺は見逃さなかった。なのに未悠はあからさまな作り笑顔を浮かべ続けた。それは危機的現状に虚勢を張る儚い笑顔。


 当たり前だ、こんなわけのわからない人跡未踏の地に投げ出されて普通にしてられるわけがない。取り乱さないだけ奇跡、存外の気丈さだ。


 そしてこんな事態にあいつを巻き込んだのは誰だ。それは俺だ。あの時、あの光の玉を未悠は見えなかった。ならばあの場に俺がいなかったのならこんな事態に巻き込まれることなどなかったのだろう。こんな事態は俺一人で抱えればよかったのだ。


 だと言うのに俺は内心一人でここに飛ばされなかった事を喜んで……。


「駄目だ。死ねない」


 このまま無駄死にするなんてできない。死を覚悟したこそ、ここで無駄死にすることが許せない。


 憤怒によって恐怖を押し殺した裂帛の気合がフリーズしかけたパソコンのようだった世界を動かした。自分の不甲斐なさに腹が立った。そして何より気に入らなかったのは、こんな手段しか思い浮かばない、俺自身への不甲斐なさだった。


「このまま死ねるかあああぁぁぁっ!」


 俺は腰のホルスターに手を当てた。

 そしてそこからスプレーを取り出すと迫りくる恐竜に向けて一気にそれを噴射した。


「グギャァァァーーッ!? 」


 これは護身用に常備していた熊撃退用のカプサイシン配合の特殊スプレー。

 なんだカプサイシン、つまり唐辛子かと馬鹿にしてはいけない。このスプレーは目や鼻などだけでなく脇の下などの皮膚からさえ効果を発揮する。その効果は人であれば浴びてから半日は悶え苦しみ、誤って部屋で発射しようならしばらくは立ち入り禁止の仕儀となる。当然、熊でさえ悲鳴を上げて退散させられるに十分な威力。


 つまり、一言で言うとこれは凄く強力な催涙スプレーなのだ。


 スプレーからその催涙ガスが飛び出す。その射程、なんと約9M。家庭用殺虫剤など比較にもならない高出力。だがしかし、それでも怒涛の如く走り寄ってくる猛獣に効果的に当てるのはそれなりにコツがいるらしい。そして俺はこれをろくに使ったことはない。


 なので今回のこの成果はまったくのまぐれだった。偶々、奇跡的にスプレーから噴き出す催涙ガスの噴出範囲に奴らがそろって飛び出てきたのだ。奇跡的な最大効率でスプレーの一撃は奴等を襲ったのだ。


「グルルルゥ……グォオオ……ギシャアァ……!?」


 悶え苦しみ無軌道に暴れまわる恐竜共。あるものはただ近場の物にぶつかり続け、あるものは側の木の幹に目や鼻を掻き毟るように擦りあげている。ほとんどの者は行動不能。無事なのはほんの数体。


 そして俺はそのほんの数体の前に、扉を出て飛び出す。即席の槍を振り回し大立ち周りをやって抜けようとする。


「いけえええええええっ! 未悠っ! 今のうちに走って逃げろおおお!!」

「そんな! 圭ちゃんは!!」

「俺もお前が逃げたら直ぐに別方向に逃げる! だから先に行け!!」

「馬鹿言わないでよ、置いていけるわけないじゃない!」


 俺が引き付けているうちに逃げろと言っているのに、あの馬鹿は逃げようとしない。なので俺は怒鳴った。心の底から怒鳴った。


「馬鹿野郎! 俺の方が足が速いんだよ! なのに一緒に走ったら完全にお前置いてけぼりでお前がオトリじゃねえか!! 何か? 俺にお前に合わせてペースを落として走れってか!」

「……っ!」

「コレが一番フェアなやり方なんだよ! 別に犠牲になろうとか思ってねえ、だからさっさと逃げろ。俺を殺すきか!!」

「……わかった。でも直ぐに逃げよね」

「……おう」


 あばよ、未悠。ちゃんと逃げ延びて人里探せよ。……ひょっとしたら生き延びる方が過酷かもしれんがな。


「さあ、お前等、これからずっと俺の相手をしてもらおうか」



 逃げるつもりなんて初めからなかった。


 そして、俺はその日、命を落とした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ