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トンネル(?)を抜けたら異世界でした

 光の玉に目の前に迫ったとき視界に入ってきたのは真っ白な光だった。視界が端から端まで真っ白に染まってまったく何も見えない。


 一幅おいて自身が宙に浮く感触を感じた。浮かんでいるのか飛んでいるのか落下しているのか、少なくとも地に足はついていないなということぐらいしか俺には判らない。俺は半ば混乱、いや恐慌状態に陥った。


――こわい、コワイ、怖い、恐い


 恐怖と閃光でまぶたが硬く閉じられ辺りの様子は伺えない。だがいつまでも目を閉じてもいられない。何故なら、何も判らない方がもっと怖い。


 圭の第六感とでも言うべき物が告げているのだ。ここはオカシイ、今まで体感した事がない場所だと。圭は今まで霊感だとか第六感などを実感したことなどない。だがそんな圭でもこの肌に刺さるような異質な「気配」が異常だと全身全霊で感じ取る事ができる。

 空気を超越して襲ってくるこの毛穴が逆立つ感覚、全身の皮膚で察知するある種の超越した気配。今なら自信をもって言える人間にはきっと五感以外の何かで感ずる力があることを。


 圭はついに恐怖に打ち負け瞼を開けた。そこには想像を絶する未知の光景が広がっていた。


 そこは光と闇と”名称できない何か”によって彩られた場所だった。まるで宇宙空間に膜が掛かった様な、巨大な歪んだ万華鏡の中に閉じ込められたような言葉で表現できない未知の空間。そこには星々があった、火山があった、恐竜がいた、人間がいた、それら全てが触れるほど近くにあるのと同時に湖中の月をつかむが如くまったく届かない。

 理解を超えた光景から圭は何も考えずに思わず腕を突きだしてみた。すると突き出した腕は間接から先がぐにゃりと歪み何とも表現できない姿へと変わった。だがしかし痛みはまったく感じない、それどころか目の前の光景とは異なり五指が問題なく動く感覚がある。突き出した腕を引き抜くと歪んだ腕はさきほどのそれが幻であったが如く元に戻った。


「あ……」


 理解が追いつかない。自分の目で見たものが信じられない。それは現実感の喪失、これは夢か幻か、これはどこからどこまでが幻影? どこまでが真実? 人間は反射した光を眼球で受け取め物を見る。だがしかし光は果たして外と同じような動きをしているのだろうか。


 世界を渡るということ、それは次元を超えるということ。そこが宇宙の別の星であるというなら光の速さで移動すればいずれは着けるだろう。だがそこが【異世界(………)であるならば三次元、縦・横・高さのどの方向に動いたとしても辿り着けない。ならば歪んでいるのは空間なのかそれとも光なのか。果たして目の前の光景は何時の何処の光景なのか。


「あ、あ、あ、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 圭の目の前の空間がぐにゃりと曲がり亀裂を走しる。圭はそこに吸い寄せられ未知の空間から別れを告げた。



――


―――



 視界が暗転する。瞳に移り迫るのは眩しいばかりの蒼穹と翠緑の枝葉。頭を働かす暇すらない場面転換。瞬き一つする間もなく圭は顔面から大地へと着地した。


「うがああああああああ!! 首が! 首が!」


 圭は野山で、草の上で首を押さえてのたうちまわった。たぶん幻聴だったと思うが地面との接触の瞬間、何やら鈍い音がしたような気がしたりしなかったり。のたうちまわった後しばらくして痛みが引いてきた圭はおそらく幻聴だろう、そうに違いないと自分に言い聞かせた。


「痛ってて、何が起こったんだよ」


 交通事故みたいにむちうちになったりなんかしないだろなとブツブツと呟きながらもようやく落ち着いた圭は周りを見渡し始めた。”驚くべきことに”どうやら辺りは明るいようだった。ただ明るいのではない、どうみても昼間だった。しかも気温が暖かい、まるで夏のようだ。言うまでもないがさっきまで圭がいたところは冬の真夜中だったはずで明らかに日時がおかしい。時刻も季節もありえない状況だった。


「……おい、嘘だろ。何がおこったってんだよ」


 俺は慌てて周りを見渡した。そうすると自身の後ろに先ほど見つけたのと同じ光の玉があった。サイズも浮いている高さもまったく同じ。ただ周りの状況だけが違っている。


「ひぃ」


 目の前の光の玉を見た瞬間、圭は先ほどまでの未知の体験がフラッシュバックし本能的に距離を置くべく後ろに下がろうとした。しかし後ろに引いた足は”何か”に足を取られてしまいそのまま圭はぐらりと転けるように枝葉で敷き詰められた土の上へと倒れこむ。


「うわぁ」


 幸い倒れた先の草木がクッションになったので圭は傷一つない。圭はさっきから何遍倒れればいいんだと悪態をつきながら自分の足をひっかけた物を確認すべく足元を見た。



 そこにはぐったりと横たわった未悠の姿があった。頭部に傷があるのか頭から血が流がし、その顔は普段と比べ明らかに青い。



「未悠、未悠、未悠、未悠!!」


 ――まさか、まさか、まさか、まさかそんなことあるはずが……!


 一瞬、頭の中に不穏な考えで一杯になる。


「未悠っ!?」


 とっさに未悠の肩を揺らそうとしたが以前に頭に外傷を受けた場合は頭を無闇に揺らしてはいけないと聞いたことを思い出し肩に伸ばそうとした手を引っ込める。


 圭はとりあえず未悠の体を仰向けにし傍で膝をつくと呼吸を確認すべく未悠の口元に手をかざした。口や鼻からか細いが確かな呼吸の手ごたえを手の平に感じる。――生きている。そう確認がとれた圭は気が抜けたように腰を下ろした。


「なんだよ心配させんなよ、まったく」


 気が抜けた圭は耳元で声をかけ未悠を起こそうとするが眠りが深いのか、それとも頭を強く打っているのかまったく起きる気配が無い。仕方なしに圭は一人で処置をすることとした。ハンカチをミネラルウォータで濡らし傷を拭きリュックの中に入れていた包帯を巻く。幼馴染とはいえ意識を失った異性を触るのはいささか障りがあるが今は仕方が無いと目を瞑る事とする。圭自身はまったく怪我らしきものはないので未悠一人が怪我をした状況はまったく理不尽なものだなと圭は感じた。


「さて、問題はこれからだな」


 目の前で浮かぶ光の玉を目にしながら圭は呟く。


「正直、あれにはもう金輪際関わりたくねーが、このままあれを放置して下山するのが正しいかどうか」


 冬の夜から一瞬で夏の昼に移動したのだ。これがもし同じ地球上で行われた現象だというのなら自分達は地球の反対側、それも南半球にいるということになる。具体的にはブラジルとか。


「だが外国にしては周りの植物が日本と似通いすぎな気がするんだよな。まあ海外になんて行った事ないから適当にいっているんだけど」


 辺りを見てみれば”大体”は日本と植生も変わりない様子だった。なのでもし肌を照りつける真夏の太陽が無ければ人の手があまり入っていない原生林に突然飛ばされて一晩意識を失っていたと思い込むことも不可能ではなかった。時々見かける見慣れない植物はただ単にいままでじっくりと観察してこなかっただけで実際には何度も山々で見てきた植物であるのやもしれないとも考える事ができる。

 実際の所は日本に自生している植物に混じって地球では新種と報告されるべき植物も目の前に生えているのだが植物学者でもない圭にそのことはわからなかった。


「まさか冬から夏に時間移動したなんてあるわけないしなぁ」


 はははっはと圭は乾いた笑いを浮かべる。自分で自分を騙しきれていない。瞬間移動が起こったのなら時間移動だってあっても不思議ではないではないかと頭の奥では考えている。瞬間移動と時間移動の難易度の違いは学術的には色々あるのだろうが一般学生でしかない圭にはどちらも似たようなものだ。


 圭は手近にある木の幹に手で触れた。それは夢の中で障るようなあやふやな触感ではなくごつごつして現実的な本物の木の感触だった。圭は木の幹に座り一息つく。


「ふぅー」


 頭の後ろのつむじがちくちくする。――ここに居てはいけない。ここは自身の居た所と別の場所だとなぜか本能が訴えかけている。元の場所に帰るのならばもう一度さっきと同じように光の玉を通るしかない。


 だが、もう一度あの空間に飛び込めるのか?



「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………行くしかないか」


 かなりの長考の後、圭はもう一度光の玉に入る事を決意した。本能的恐怖があれに近づくことを拒否しているが現在地の判らない山奥を下山するよりも元の場所に戻る事に賭けたのだ。よしんば元の場所ではない別の場所に出たとしてもどのみち今も未知の土地にいるのは代わらない。ならばもう一度試しても構わないだろう。危険性の問題もあるが少なくとも前回の通過の際は中に入って溶けるなどということはなかったわけだし多分問題も無いだろう。それに早急に元に戻らなければならない事情もある。


「たぶん大丈夫だと思うんだけどこいつを医者に見せなきゃいけないしな」


 圭はそう言いながらいとおしげに未悠の頭を撫でた。素人目には大丈夫に見えるが頭を打った人間を医者以外が軽々しく大丈夫だなどと口にしていいはずがない。最悪、このまま目を覚まさずに眠るように死んでいく可能性もあるのだ。


 圭は未悠を肩に担いで立ち上がり、そしてその光の玉に向かった。

 元の場所に帰るのならばもう一度さっきと同じように光の玉を通ればいいはずだ。元へ、元いた場所へ帰るのだそう思い、圭は目の前の光の玉にもう一度触れようとした。


 最初、圭はまず玉の中に手のひらを入れた。するとまるで台風でも突然襲ってきたかのような力が圭を襲ってきた。その力は圭が玉の奥に進むにつれ玉がだんだんとそのサイズを大きくすればするほど力が強くなる。

 それはまるで強風で傘をあおられながら風上へと進んでいるかのようだった。


「こなくそおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 だが強風であおられた傘の宿命は決まっている。下半身で地面を力いっぱい踏みしめジリジリと半歩半歩先へと進んでいた圭だったが「飛んだ」と思うが早いか圭の体は凧のように宙に浮いた。

 その一瞬の後に感じたのは先ほどと同じ宙を飛ぶ感触。圭は咄嗟に肩に担いでいた未悠を突き飛ばした。その直後、目の端に写る周りの木々が高速に流れ移り変わる。


 「げふぉっ!?」


 背中が地面に打ち付けられる衝撃と共に胸から空気が飛び出る。圭は激しく咳き込みながらしばらくのた打ち回った。

 その後、圭は痛みをこらえながらも薄目で自身を飛ばした光の玉の方を見た。


「な、な、な、な」


 だがしかしさっきまであったはずの光の玉は目の前から消えて無くなっていた。


「何がどうなってんだよぉ!!!!!!」



 わけがわからない状況に巻き込まれた圭にできたのはただ喚き散らすことだけだった。



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