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真実の唄

少年が語り続ける悲しい事実。

そして青年に襲いかかる、忘れてしまった事実。

二人のノアの真実・・・。

全てを知った時、青年は泣き叫ぶ事も出来なかった。


青年は、俯いた少年に優しく話し掛けた。


「無理に・・・話さなくてもいいんだよ。悲しい出来事は早く忘れた方がいい・・・。」


そう言う青年に、少年は俯いたまま言う。


「そうだね・・・だからアンタは忘れたんだ。悲しみを全て僕に押し付けて・・・。」


「君に?」


不思議そうにする青年であった。

少年は俯いていた顔を上げ、思い出すかの様に話出す。


「パンドラは・・・歌がとても好きな子だった・・・。大人達が居なくなり、皆が悲しんでいる時も歌っていた。兵士達が襲って来た時も・・・歌ってい た・・・。皆パンドラの歌が好きだった。僕も・・・大好きだった・・・。だけど・・・パンドラの歌で・・・皆死んでしまった・・・。」


「歌で?・・・それは、教会に隠れていた時に?」


「そうだよ・・・。教会に隠れるようになってから、僕はパンドラに歌を歌わない様に言い聞かせた。歌声で教会の場所がバレてしまうかもしれないからね。パ ンドラも初めは理解して、歌うのを止めていた。でも・・・パンドラにとって・・・歌は涙の変わりだったんだ・・・。『笑顔が素敵な子』そう周りに言われ続けてたせいかな?幼いながら・・・きっと思ったんだろうね・・・泣いちゃ駄目だって・・・。だからパンドラは・・・泣きたい時に涙ではなく、代わりに歌を流したんだ・・・。今思えば・・・パンドラが歌っていた時は、何時も誰かが泣いていた時の様な気がする・・・。」


「でも・・・僕がパンドラの涙を奪ってしまった・・・。」


青年が続く様に呟くと、少年は無言で頷いた。

そして少年はまた話し出す。


「歌う事で悲しみを表現していたのに、僕はパンドラから、悲しみと言う感情を抑えつけてしまったんだ。抑え込まれた感情は、いつかは破裂してしまう。抑え続けたパンドラの悲しみが・・・破裂したんだ・・・僕の一言で・・・。」


「・・・一言・・・。」


「そう・・・たった一言だけど・・・パンドラにとってはとても重く・・・悲しい一言・・・。」


「何て・・・言ったの・・・?」


青年の問に答えること無く、少年は話続けた。


「満月の夜だった・・・。今みたいに、悲鳴の様な風の音が聞えていた・・・なぁ・・・。パンドラは・・・教会の前で・・・大声で歌った・・・。今まで我慢 していた涙が、滝の様に流れるかのように・・・溜まった悲しみを、まるで箱から全て出すかのように・・・大声で歌い続けたんだ・・・。その歌声で、兵士達 が教会に来た。」


少年は、悲しそうに夜空を見上げた。青年も同じ様に、夜空を見上げ言う。


「教会にいた皆・・・殺されてしまったんだね・・・。」


少年の瞳から、一筋の涙が流れる。


「僕が皆を殺してしまった・・・。パンドラから涙を奪ったせいで・・・僕が・・・皆の命と・・・パンドラの全てを・・・奪ってしまったんだ・・・。」


涙する少年に、青年は優しく言った。


「君のせいじゃないよ・・・。悪いのは兵士達だ。仕方なかった事何だよ・・・。」


そう言う青年に、少年は涙を拭いながら言う。


「このオルゴールの中にはね・・・パンドラが居るんだ・・・。夜になるとこうしてオルゴールを開いて、パンドラを泣かせてあげてるんだ。我慢すること無く、思い切り泣ける様にね・・・。」


そして少年はオルゴールを見つめながら、微かに微笑んだ。


悲鳴の様な風の音が止み、パンドラの歌声がより大きく聴こえる。

とても悲しく・・・とても美しい歌声・・・。


「今・・・パンドラは泣いているんだね・・・。」


青年が呟くと、少年は頷く。

そして少年はオルゴールの蓋を閉め、青年にオルゴールを手渡した。


「・・・僕に?・・・どうして・・・。」


不思議そうに聞く青年に、少年は言った。


「探してたんでしょ?妹・・・。アンタの妹ならこの中だよ。」


そう言う少年に、青年は更に不思議そうに聞く。


「でも・・・その中の歌声は、君の妹のじゃ・・・。」


少年は頷いてから、こう言った。


「僕の妹の歌声だ。だから渡す。アンタは妹を探しにこの町に戻って来ただけで、僕を探しに来たんじゃないんだろ?だったらこのオルゴールだけを待ち帰ればいい。」


ますます困惑する青年は、少年に更に聞く。


「君を探しに?君が言う事は・・・分からない事が多い・・・。何が言いたいんだ?」


青年の問に、少年は穏やかな口調で言った。


「なぁ・・・ノアよ・・・。アンタはさっき、悲しい出来事は早く忘れた方がいいって言ったね?だからアンタは忘れたんだよ・・・。『悲しい出来事』をね・・・。」


「・・・忘れた・・・?」


「あぁ・・・忘れたんだよ・・・。僕はアンタの『悲しい出来事』だよ。アンタがこの町を去る時に、置いて行ったね。だからアンタは覚えていないし、時間がずれてる。」


「何を・・・言って・・・。」


「兵士達に教会を襲われた時にね・・・一人だけ生き残った者がいたんだ・・・。運がいいのか悪いのか・・・その夜に限って眠れなくてね。誰かに呼ばれている気がして・・・教会の奥の森に居たんだ・・・。パンドラの歌声が聞えて、慌てて教会に戻ったけど・・・戻った時にはもう皆死んでた。一番最後に殺されたのは・・・パンドラだったよ・・・。皆が殺され、死んで逝く様を・・・見せられたんだろうね・・・。あいつ等のやりそうな事だ・・・。」


大人の様な口調で言う少年に対し、青年の口調は子供のように脅えていた。


「・・・生き残ったのって・・・。」


「・・・ノアって男の子だよ。ちゃんと分かってるじゃん。」


「・・・ノア・・・僕が・・・生き残り・・・?」


「さあ、ノア。妹を・・・パンドラを連れて帰るがいい。」


少年ノアはそう言うと、立ち上がり、教会の扉を指差した。

青年ノアは、愕然としているだけであった。


また悲鳴の様な風の音が聞こえ始めた時、愕然としていた青年ノアは、ゆっくしと立ち上がり、少年ノアに手を差し伸べる。


「君も・・・連れて帰る。」


差し伸べた手は、微かに震えていた。それを見た少年ノアは、呆れた顔をして言う。


「無理はするモノじゃ無いよ。せっかく忘れた『悲しい出来事』を思い出してしまう・・・。聞くのと見るのじゃ・・・全く違う。アンタは耐えられなかったから、僕を此処に残したんだよ・・・。」


「・・・でも・・・このままパンドラだけ連れて帰ったら、僕はきっと後悔をするだろうし、僕のせいで死んで行った者達の為にも、覚えていなければならない。 きっと・・・忘れちゃいけなかったんだ・・・。僕の役目は・・・この町で起きた真実を伝える事なんだよ・・・。それが、唯一生き残った僕の役目なんだよ・・・きっと・・・。」


涙ながらに言う青年ノアに、少年ノアは優しく微笑んだ。


「君のせいじゃないって言った癖に・・・。今のアンタは耐えられるのかな?・・・でも・・・例え耐えられ無かったとしても・・・もう僕を捨てたら駄目だよ・・・。」


青年ノアは無言で頷いた。

少年ノアは・・・そっと・・・青年ノアの手を取った。

月と雲が重なると同時に、二人のノアも重なる。

離れた一部が・・・抜け落ちた記憶が埋る・・・。



夜も明け、太陽が顔を出し始める頃、教会の床に横たわっていた青年が目を覚ます。

目が開くと同時に、太陽の光が飛び込んで来た。


「・・・屋根・・・教会の屋根・・・無かったんだ・・・。」


まるで巨人が持って行ったかの様に、教会の屋根だけが綺麗に無くなっていた。


「そうか・・・あれからもう・・・十年も経つんだ・・・屋根ぐらい無くて当たり前か・・・。」


横たわるノアの瞳から、涙が流れる。


「・・・ごめんな・・・パンドラ・・・。僕だけ生きていて・・・。僕だけ・・・大人になって・・・。」


ノアは空に向ってそう言うと、また目を閉じた。


「あの時・・・教会中に横たわる沢山の死体の中で・・・僕はパンドラの死体を抱きながら歌っていたんだ・・・。あの子がよく歌っていた歌を・・・。たまたま 通り掛かった味方の兵隊が僕の歌声に気づき・・・僕はその兵隊に保護された・・・。パンドラの歌が皆を殺し・・・僕を助けたんだ・・・。」


閉じたままの目から、止めど無く涙が流れる。

涙を拭い起き上がったノアは、左手に握り締めていたオルゴールを見た。

すると、オルゴールはただの古びた箱に・・・。

ノアはゆっくりと箱の蓋を開けた。

箱の中には小さな骨が一欠けら・・・入っていた。


「パンドラ・・・ただいま・・・。」


そう言うと、ノアは優しく微笑んだ。



此処に寂れた町が在る。

その町を生き返らせようとする青年が・・・此処に一人・・・。


童話と言うジャンルかと言うと難しいかもしれませんが・・・。

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