あの頃に戻れるはずだった
久しぶりに5人全員で公園に集まっていた。
「ねぇ、ちょっとこのゲームのここ難しいんだけどさ、どうやるのか教えてくれない?」
恒一がまた悠人のことを頼っていた。悠人の返事には、少し間があった。
「わかった、えーっと、ここはこうするんだよ」
悠人が解説をし始めるが、なぜか、その間が気になった。
でも、それが何かはまだわからなかった。
「お、そのゲームやってんの?今どこまで行ってる?」
大樹が2人の間に割り込み、明るく話しかけた。
「今はこのステージまで行ってる。ここ結構難しいんだよね~」
「あー確かにな。そこ結構きついよなぁ」
二人はそのままゲームの話で盛り上がり始めた。
「あれ、まだ解説終わってないのに…」
悠人がそうボソッと呟いた。
明るく言っていたはずなのに、どこか空っぽに聞こえた。
「瑛太はこのゲームやってるか?」
大樹が瑛太にそう尋ねた。瑛太は間を置かずに答えた。
「う、うん、このゲームやってるよ。楽しいよね」
瑛太が軽く笑顔を作るが、口元は少し硬かった。
「おぉ、瑛太はどれくらい進んでるん?」
「えーっと、ちょっと待ってて」
瑛太はスマホを見るふりをして視線を逸らした。
「そういや、晃はこのゲームやってる?」
「僕は、やってないよ」
「あーそっかぁ、じゃあ他にはどのようなのやってる?」
「最近あんま覚えてないかも」
「オッケー」
大樹が別の人のところへ行った。
うまく混ざれない感覚だけが残った。
「ちょっと僕は帰るね」
そう言って僕は早歩きでその場から離れた。
翌日の昼休み、恒一が悠人のことをまた頼っていたところを目撃した。
「ちょっとこれ重いから一緒に運んでくれない?」
恒一は軽くそう言った。まるで当然だと思っているかのように。
「わかった、これのこと?」
「そうそう、これ重いんだよ」
僕はまた何かが引っかかった。昨日の感覚と似ていた。
そこでようやく、昨日の違和感と繋がった気がした。きっと、恒一は悠人のことを利用しているのかもしれないと思った。
悠人が恒一の手伝いをし終わった後、僕は話しかけた。
「ねぇ、恒一って、悠人のこと利用してるんじゃない?」
「え?なんで?」
悠人が不思議そうに言った。
「だって、なんか頼み方が軽すぎるじゃん。礼を言いながらも、もう別の話を始めてたことだってあるし。」
「恒一は元々そういう感じだよ」
「じゃあ最初から利用する気だったんだよ」
「…いや、違う、きっと違うはず…」
悠人はそう言った。声の終わりだけが、静かに沈んだ。
「もうそろそろ授業あるし、教室に戻るね」
悠人がそう言い、教室へ向かった。
まだチャイムまでは時間があった。
放課後、公園に来た。まだ悠人と僕しか来ていなかった。
「なんか大樹最近あんまり来ないしグループLineもほぼ返してこないよね」
僕がそう言うと、悠人はいつもより早く答えた。
「わかる。実際来たとしても大体すぐ帰るもんね」
「うん。僕らに関心ないのかな」
「それはやだな、関心持ってほしいな」
悠人の声は震えていた。
「確かに、関心ないって悲しいよね」
「うん、離れさせないように今日は色々と話題振らないと」
色々話していると、大樹が来た。
「ごめんちょっと遅れたわ」
「全然いいよ~」
「なんか今日機嫌いい?」
「んー、まあ、多分いいよ」
曖昧な返答だった。悠人は、いつもより少し無理に笑っているように見えた。
でも、どこか違和感を感じた。
「そういえば俺そろそろ予定あるからあんまり長くここにいれない」
「そうなんだ、いつ頃に帰るの?」
「6時くらいかな。ちょっとあの遊具で遊びたいからあっち行ってくる」
そう言って大樹はあの遊具に向かって走っていった。
「やっぱ、大樹僕たちに関心持ってなさそうだよね」
「来たばっかりなのに、もう帰る話してたし…」
「そうだよね。やっぱ不自然に見えるよね」
「でも正直、実は僕ちょっと大樹のこと苦手なんだよね」
悠人が少し不安そうな声で言った。
「どうして?」
「明るくていい人なんだけど、ずっと話しかけてくるから、ちょっと疲れちゃうんだよね」
「あー、僕もそれはわかるかも」
「でも、最近あんまり来なくなったら、それはそれで嫌なんだよね」
悠人は少し視線を落とした。
「ちょっと苦手なのに、なんでだろうね」
悠人がそう言って苦笑いした。
「あれ、大樹いなくなってるね」
「本当だ、まだ5時半なのに」
「僕たちももう帰る?悠人だって塾の宿題あるんだよね」
「あーそうだね。じゃあいったん帰るか~」
そうして帰ることになった。ふと悠人のほうを振り向いてみると、悠人の足取りは少し震えているように見えた。
翌日の休み時間、悠人と恒一と瑛太がいた。
「あ、それ重そうだね。手伝おっか?」
「いや、大丈夫」
「いや遠慮しなくて大丈夫だって。ほら」
「え?ま、まあありがとう」
「全然大丈夫だって。これくらい当然でしょ?」
少し間が空いた。恒一は少し困ったような表情をしている。
「う、うん、そうだね」
この悠人と恒一の会話は、いつもとかどこか違うような気がした。
「じ、自分も手伝おうか?」
瑛太が近寄り、そう声をかける。
「2人で運べるから大丈夫だよ」
悠人がそう言って笑った。でもぎこちなかった。
「あ、わかった」
瑛太がそう言ってその場から離れ、
「無駄なお世話だったかな…」
と呟いていた。
戻ってきた二人は、そのまま話し始めた。
「なんか悠人協力的になったね」
「まあ、友達として当然でしょ?」
「悠人がそういうこと言うの初めてな気がするな」
「ん?そう?」
「少なくとも俺からはそう見える」
また間が空き、恒一は一瞬だけ視線を逸らした。
「ま、まあ、僕は元からそうだよ」
「本当か?今までと様子違うぞ」
「…大丈夫だって。そんなことより、恒一は僕らのこと大事に思ってる?」
「え?どうしたのいきなり」
悠人は答えず、恒一の顔をじっと見ていた。
「ま、まあ、大事だよ」
「信じてるからね?」
悠人が笑みを浮かべる。その笑みは不自然でもないのに、どこか怖かった。
恒一はもう何も言わなかった。ただ不安そうな表情をしていた。
そうしてチャイムが鳴り響いた
「あ、そろそろ授業だから教室に戻るね」
恒一は逃げるかのように走って教室に戻った。
放課後、僕は悠人に公園に呼び出された。
「大樹も呼んだのに来なかったな、やっぱ捨てられたのかな…」
悠人が心配気にそう言う。
「そうかもね、捨てられたのかな」
「晃は、僕らのこと捨てないでくれるよね?」
「まあ、多分ね」
「多分…か。僕はもう友達を失いたくないよ、いつもはすぐ返信くるのに恒一から全然Lineが帰ってこない。普通友達ならすぐに返すものだろう?恒一からも捨てられた、裏切られた…!」
「そんなことあったんだ…」
「頼むぞ、残ってるのは晃と瑛太だけなんだよ。僕のこと捨てるなよ」
「わ、わかった…」
急に肩が重くなったような気がした。同時に、悠人のことを不気味にも感じた。
なぜかわからないけど、なんだか不安だ。
「そうだ、瑛太にも確認しよう…」
悠人がそう言ってスマホを触りだした。
「瑛太にも捨てないでくれるか聞くの?」
「うん、そうだよ。だって不安で仕方なくて…」
公園の音だけが妙に大きく聞こえた。これ以上深堀りする気にもならなかった。気になるのにも関わらず。
そして約10分後、瑛太が来た。そして悠人が確認し始めた。
僕は、そっとその場を離れた。
帰ろうとした時、ふと後ろが気になった。
振り返ると、まだ二人は話していた。
気づけば僕は、公園の端からその様子を見ていた。
「…晃も、何も言わずに帰っちゃったな。また、僕は裏切られたのか」
悠人が低い声で言った。
「瑛太、君だけは俺の本当の友達だよ。君も裏切らないでくれるよね」
「うん。裏切ったりはしないよ。自分は、友達がいれば、それで十分だよ」
瑛太はそう言った。まるで、自分に言い聞かせているみたいだった。
「ありがとう…やっぱ瑛太だけは、本当に気が合うね。この数日の間で、みんな離れていった。なんかもう、誰を信じればいいのかわからなくなりそう…」
「そっか、大変だったんだね…」
僕はお互いに慰め合うことはいいことだと思ったけど、胸の奥がじわじわ重くなった。
僕が悠人を壊してしまった感覚が、胸に刺さった。
この2人、うまくやっていけそうだけど、大丈夫かな…
なんとなくそういう感覚があった。なぜかはわからなかった。
「…戻りたい…あの頃に…たくさん遊んだあの頃に…いや、きっと戻れる…戻れるはずだ…」
悠人はそう呟きながら、どこか遠くを見るように視線を落としていた。
「そ、そうだね、きっと戻れるよ」
「だよね…何が悪かったんだ?なんでみんな離れちゃったの?」
「わからないよ。でも、友達がいればそれで十分だよ」
瑛太が笑顔を作るが、どこか引きつっていた。
「そうだよね、裏切るようなやつと無理に友達にならなくてもいいか…うん、きっとそうだ…」
悠人が手を握り締める。でも、その手は震えていた。
「やっぱ僕は、瑛太がいればもうそれでいいや。離れないでよね」
「うん。ねぇ、ちょ、ちょっと重くない?」
瑛太がハッとして少し焦ったような表情を浮かべた。
「…は?」
空気が固まったような感じがした。
「別にいいだろ?僕は大事にしてただけなのに。離れないって言ったじゃん。裏切らないって言ったじゃん。なぁ、何か言えよ」
「あ、ごめん…じょ、冗談だよ。一緒にいよ?す、捨てないから…悠人のこと大事に思ってるから…」
瑛太は笑顔さえも作っておらず、何度も視線を泳がせていた。
「よかった、冗談で。でもそういう冗談はやめてほしいかも」
「ご、ごめん…」
僕は止めた方がいい気がした。でも、入るのが怖かった。入れるわけがなかった。
僕は、悠人をここまで追い詰めてしまったのかも…
その場にいるだけで苦しかった。もう僕はここにいられず、その場から離れた。
ふと振り向いてみると、二人は笑っていた。でも、その笑顔はどこか不自然に見えた気がした。
まるで、お互いを安心させるためだけに笑っているみたいだった。




