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干渉式使いの幽霊が根を張ったように護っていたクレーターの底には、地下に続く螺旋階段があった。
荷駄ユニット辛うじてが通れる幅でよかったが、角度が急なので少し心配なところである。
『大きい、ですね』
『……二等級は……確実……です……』
そして、あの幽霊が残していった世界晶の品質は良かった。透き通るような青に不純物はなく、ひび割れや目だったクラックもナシ。門衛でアレだったので、今回私は本当に斥候以外の仕事はできそうにないな。
螺旋階段の最下層に達すると、そこは巨大な回廊の群れであった。
広さは計測すると7.49m。広々とした廊下の両脇には道幅を狭めるように棺の群れが等間隔で設置されていて、壁には刳り抜いた穴に亡骸が納められている。
熱源はなし。霊力計も今のところは静かだが、嫌な気配と臭いが立ちこめている。
まいったな、本格的に強大な死霊系エネミーの巣窟だぞコイツは。
『お墓、でしょうか』
『そういった、感じですね』
『何か、入って、ないでしょうか』
「こら! リズ!!」
興味本位で石棺を開けようとした小さな手を叩いて落とした。この手の副葬品が入っていそうな代物には、罠が入っているというのが定石なのだ。少なくとも私が調べる前にイジられては困る。
第一、開けた瞬間に周りの棺が全て連動して、スケルトンやゾンビが大量発生みたいな展開になったら、余波で私が死ぬだろうが。
『でも、宝物が、ありそうです』
「分かった、調べるから少し待ってくれ」
呆れつつ重戦士に下がっているように命じ、私は外骨格にコマンドを発して右手の先からファイバースコープを伸ばした。
髪の毛の細さで稼働もできる、閉所を探るための索敵装備だ。ドローンで入り込むには狭く、密閉されているのに近い室内などの先行偵察に重宝される装備であり、探索者には必須だろうと総務部と激論の末、何とか送ってもらったサードパーティー品である。
現役時代はもっと良い物が使えたのだが、今はこの全長30cmしか伸びない安物でも、圧着されていない空間を探るには丁度良い。石棺の微細な隙間に潜り込ませて、左手の触覚素子に接続される仮想のアナログスティックを操作して中を覗く。
すると、一体の屍が剣を抱いて眠っていた。
白骨死体というよりも、へばり付くように骨と皮が残ったそれはミイラというべきか。手足には宝飾品の腕輪が嵌まっているが、この錆び方からして副葬品に選ばれがちなイミテーションだろう。剣も殆ど朽ちる寸前といった風情で鋸歯のようになっており、切れ味が確保されているとは思えない。
ダンジョンが生成される構造的に、ここが本当に太古の墳墓なのかは分からないが、再現度が高いことだけは確実だ。
「見た目通り死体が保管されてる。それ以外はゴミだ」
『期待外れですね』
率先して墓荒らししたがる神経は分からないが、とりあえず私が許可した物以外は触るなと強く警戒しつつ、どちらに進むかを決めた。
「どうかお願いします!! リリムの姐さん!!」
『あっちから、大きな、気配がします』
ということで、私は頭を下げてフェアルリリムを拝み、外骨格に装備されているセンサーより霊力に関してはよっぽど優れている術師にノータイムで縋り付いた。
餅は餅屋っていうからね。サイコロ転がしてどっちに行くか当てずっぽうで決めるよりずっとずっと良いだろう。
そして、私は頼りになる術師の助けを借りて、五十歩先を行きながら丁寧に罠を探索した。
するとあるわあるわ、感圧版に蜘蛛の糸のようなワイヤー、それから不可視の霊力トラップまでごまんと。天井やら壁やらには仕掛けがないので、これをうっかり機動させた瞬間、回廊に詰まっている大量の死者が起きだして大混乱ってところだろう。
こんな閉所で戦われては叶わないので、私は靴裏の機構を動かして、足跡が発行する塗料を滲ませた。
ダンジョン探索で現地人と一緒に組んで動く一人親方や小規模会社に向けて、サードパーティー会社が作った、足跡を肉眼でも読めるようにするための目印である。基本的に移動経路が分かることなど戦術的にはデメリットでしかないが、この回廊のように踏んだら拙い物が敷き詰められている場所ならば話は違う。
私が踏んだ場所以外は絶対に歩くな。その警告として使うのに、この淡いオレンジ色に闇夜でも発光するインクはとても役立つのだ。
姿勢を低く、地面の一歩先を見るように違和感を探し、同時に気を張り詰める。
「また感圧版……で、避けた先にワイヤーか、ねちっこいな」
一の矢を避ければ二の矢が当たるような構造に、雑なベリアリューズを対応させるよりは、ちょっとアレな手段だが石棺を踏んだ方がマシかと思って蓋に乗り上げて回避。幾つかの石棺には〝少しでもズレたら発動しそうな紋様〟が刻んであったため、ずっと飛び石のように使えなかったのが勿体ないが、神経を削りながら半日ほどで何とか最奥にまで辿り着くことができた。
いや、しんど。これ普通の探索者だったら、道のりだけで心が折れてても不思議じゃないぞ。
「しかし、これは……」
水筒から一服煽りつつ見渡しのは、回廊の先に繋がる広大な空間。
そこには円形の闘技場が聳え立っていた。
二階建てくらいの高さであり、古代の剣闘士が鎬を削る鉄火場という雰囲気が似合う。
罠を疑ってこそこそと忍び込めば、表側から二階に通じる階段がない。恐らく、ダンジョンが作り出したために合理性を考えずに捻り出したせいだろう。
そして、唯一の入り口である門を潜れば、その向こうで一人の剣士が佇んでいた。
豪奢な金色の鎧を纏ったミイラ。地面に切っ先を突き刺して、柄頭に掌を被せて堂々と立っている。
そして、円形の観客席には黙して座る死者の群れ。威圧感はあるのだが、どうやって入ったのかが気になって仕方がない。
まぁ、どうしようもないかと無線で報せれば、アゼリアがやって来た。
そして言う。
『身分が、高い、ようです。ならば、私が、受けるのが、道理、でしょう』
華麗な動作で宝剣を鞘走らせたアゼリアは、歩み寄りながら剣を額に押し抱いた礼をする。すると、悠々と待ち受けていたミイラもまた剣を手に取り、額に添えた。なるほど、ただの傀儡ではなく、きちんと魂と役割を持った死体というわけか。
『手出し、無用に、願います』
『お好きにどうぞ』
『変わった、ことを、しますね……』
互いに礼を交わした彼女は右側へ剣を払った後、右半身になって腰を落とし、刃を下げた。日本刀の脇構えと似ているが、腕を大きく下げたそれは〝提げる構え〟と呼ばれる西方流剣術のそれか。
あっちの剣術って、流派によって門外不出、口伝ならぬ体伝とでもいうのか「痛くなければ覚えませぬ」を地で行くこともあって、剣術書らしいものってないんだよな。
その点、王族であるアゼリアは特別な流派を修めているのだろう。その力量は凄まじく……ぶっちゃけ、私では、というか私の装備では動きを追いきれないのだ。
瞬きによる視界が一瞬の断絶、その刹那に轟音が鳴り響いた。
宝剣と金色の剣が噛み合っていた。
恐らくだが、地面の陥没度合いからしてアゼリアは真っ向から突っ込んだのではなく、左前に跳躍し、一投足の間合いのスレスレを踏んだ後、更に左斜めに跳躍。間合いのギリギリに入り込んで空振りを誘った上、大きく背後に回る形で斬り込んだようだ。
だが、敵は緩い下段に――正式名称はなんだっただろうか――に構えていたこともあって、不意討ちの逆袈裟に対応したようだ。剣を返して刃噛みの状態にならぬようにした後、刃を全身させて切っ先で籠手を着こうとしたようだが、アゼリアはそれを籠手の操作で弾き飛ばしたか。
今は下段から圧し斬ろうとする王女と、刃を捻じ伏せようとするミイラの剣が押し合って大気が軋んでいるような凄まじい音を発していた。
『やりますね、アゼリアが、初撃で、討てないとは』
『相性が、いいようですね』
すっかり観戦モードに入った二人は、手を出すと怒られることを分かっているのだろう。実際、私も騎士として一騎討ちに臨んだ彼女の邪魔をする気は毛頭ない。
眺めていれば、不思議な舞踏が始まる。刃が寝かされて刃噛みの状態を解いたかと思えば、互いの刃が弧を描き金属が薄く触れあう楽器のような音が鳴り響く。
互いの武器が一撃で破壊しきれぬ代物であることを悟り、刃同士を打ち付けるのではなく、ただ紙一重で反らすか弾くかして致命の一撃を入れ合う剣にて舞う踊りに移ったのだ。
しかし、アゼリアのそれは死霊よりも明らかに洗練されていた。握りを変えて間合いを欺瞞し、時に離れ、時に肉薄し、完全に上を行っている。
それから更に数合の後、首が舞った。
無論、ミイラのものだ。
『御美事、でした』
アゼリアは刃を払い、フラフラと首を失って剣を振るのを止めた死体に、剣を額に押し抱いて敬意を示す。すると、死体も答礼した後に斃れ、体は塵のように消えた。
後にはただ、鍔の中央に巨大な世界晶の煌めく宝剣が残った…………。
書き溜めが尽きておりました。じわじわとまた増やしてゆっくり更新して参ります。




