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大体の問題は、自衛軍時代に使っていた豊発製15mmバトルライフルか、C7の山が解決してくれると私は考えていた。
機甲科の友人なら140mm滑腔砲で解決できない問題はないと胸を張っただろうし、砲兵の友人ならば300mm重多目的砲の前に全ての問題は無に帰するにと答えただろう。
我々は、それだけ命を預けている装備への信奉が強い。
ただ、それでもどうにもならない問題はあると改めて知ってしまった。
「碌な依頼がないなぁ……」
私はアゼリアが外せない用事とやらで出かけているので、お遣いでギルドに来ていたのだが、高難易度の依頼を記載した帳簿に端末を翳しながらぼやいた。
良さそうなのは軒並み〝着手中〟の判子が捺されているか〝解決済み〟とデカデカ押印されており、私達が潜ってやりがいを感じるようなダンジョンがなかった。
開拓最前線だけあって深度ⅠやⅡの募集は普段と変わらないだけあるのだが、そういった雑な仕事はギルドの募集版にべたりと貼り付けてあるだけで、我々のような大深度ダンジョンに潜れる一党向けではない。
危険が伴う大深度ダンジョン、もしくは危険性が高そうな等級不明ダンジョンの依頼は専用帳簿に纏められており、窓口で貸し出して貰って中身を確認する形式になっているのだけれど、それが軒並み唾がついているか終わっているというのは由々しき事態だ。
我々が潜るのに適したダンジョンがない。つまりお飯の食い上げというわけだ。
それに、軍を挙げるのを面倒くさがった領主が探索者に投げる、これもお前達の仕事の内だろうと言わんばかりの雑用にも良い物が見当たらなかった。
這い出してきた異形や、この世界由来の怪物討伐は小粒なのしかないし、札付きの悪は大体〝確保済み〟と判子が捺してあって、殴り甲斐のある相手すらいないのだ。
「……いや、待てよ? 平和でいいのか」
口にしておいてなんだが、ふと冷静になった自分が、戦争屋が飯の種を欲したら終わりだろうと囁く。
そうだ、考えて見れば私達なんて人種は必要ないか、無駄飯ぐらいでいる方が世間は幸せなのだ。そもそもリーダーのアゼリアは世界を平和にし、民の生活を安堵するために立ったのだから、こんなことを聞かれたらお説教では済むまいて。
「……いや、だが、仕事を先に取られているという状態はな」
だがしかし、この状況はダンジョンが減って自然的に訪れた平和ではない。
商売敵、列島からの刺客、暗黒メガコーポが遂にアルテンハイムへ目を付けたのが原因だ。
列島は資源確保のために世界晶を集めており、これは資源弱国である故国にとって食料と並ぶ問題だ。何より転移前の国家を回していた石油が断たれて久しい現在、発電源であり燃料でもある世界晶は指先ほどの大きさでも需要がある。
具体的に言うと異形小人から採れるような、我々が無視する五等級の屑石でも原付なら二年、軽自動車なら一年は平気で走れるし、準二等級レベルならば原発並みの電源を供給できる。
それを備蓄するために政府は形振り構ってられないと大量の補助金を出し続けていることもあって、ダンジョンが豊富な地域、かつ列島が近い東方はメガコーポの草刈場となっており、逆に西方のように未だに現地人が頑張っている場所は、中小企業にとっては穴場なのだ。
しかし、体力が有り余っている大企業の中には、レッドオーシャンで殴り合うより、新たなブルーオーシャンを探して、自分達で使うために大規模な部隊を派遣しようという動きもある。
これは恐らく、昨年の暮れくらいに話題になった、コーポの子会社同士が小競り合いからドンパチを始めてしまった事件が一般に流出してしまったせいだろう。
いや、別に珍しくないんだけどさ、ダンジョンを巡って気の短いオペレーター共の殴り合いが起こることくらい。
ただ、それは企業法務部や広報部の頑張りもあって、今まで大きく取り立たされることはなかった。
とはいえ、運がなかったね鈴菱さんと重電通信も。そこまで遠距離じゃない町外れでコトを起こしちゃった上、よもや観光客じゃなくて〝戦場カメラマン〟に出くわしちゃうなんて。
まード派手に、そして大袈裟にマスコミが取り立ててしまったせいで民間からのバッシングは酷く、株価の乱高下を外野から指さして笑っていたのを覚えているよ。しかし、その時に気付くべきだったね。
他人事ではないと。
馬鹿が馬鹿やったせいで、今大企業は挙って大手の唾が付いていない、つまり下手をして殴り合うような相手がいない辺境に手を伸ばしつつあるという。
言うまでもなくクリーンな会社のイメージを保ち、株主にアピールするためだ。
自社利益のために、現地人が巻き込まれるかもしれないところで殴り合いをするコーポです、なんて思われて良い印象を持たれるはずがないからな。
とはいえ、手が伸びるのが早い……去年末から今年の春で部隊を動かすとか、どれだけ瞬発力と企業体力があるってんだ。
「ぐぬぬ、トヨハツめ……」
列島三大のコングロマリットの一角、トヨハツ・コーポレートは大きな物から小さな物まで何でも造る巨大企業連合で、造船と軍事にも絡んでいるため大量の世界晶を欲している。
高炉を動かすのにも船を走らせるのにも高品質な世界晶は無尽蔵に必要なため、コストカットを果たすべく、自分達の製品で武装した自分達の探索者集団を作って自給自足しているのだ。
そして、この間の打ち上げで出会った七人は、そのトヨハツが新規に立ち上げた傘下企業、キヨミズ・ゼネラル・セキュリティーの企業探索者だったというオチである。
くそ、私を書類で弾いた憎き暗黒メガコーポめ、仕事まで持っていくとは何の恨みがあるのだ。しかも中隊規模の冒険者を支援部隊随伴でまで寄越すとか、金持ってる所はやっぱり違うな。
安い外骨格とトレーラーハウスをポンと置いて、補助金をほじょほじょしている防人組みたいな中小企業とは大違いだ。
ぐぬぬと歯噛みして帳簿を閉じ、特に行きたい所はありませんでしたと窓口に返却する。まいったな、これを見て困っている村落がないかを探すのがアゼリアの日課なのだが、ここしばらく妙に神妙な表情を保っている彼女に朗報を運べないとは。
というか、アレから三人とも態度が妙なんだよな。
リズは矢鱈と飲みに誘ってくるし――その割に金を持っていないから何度奢ったか――リリムは話しかけてきたと思ったら翻訳AIがエラーを吐くほど専門的な話ばっかりしてくるし。
……同じ列島人だから追い出しにかかってる、とかじゃないよな。
いやいや、ないない、私達の絆を思い出せ。何度死線を共に……共に……。
「……いや割と役立たずな場面多かったな私」
公衆の面前でなければ頭を抱えたくなることを思い出して、内心うわぁぁぁと叫んでいると、開こうと手をかけたギルドの扉が先に開いた。
「おっと、失礼……」
「失敬。む……」
うおデッカ……。
何がデカイかというと、見上げた背だ。鉢合わせした壮年男性の声を発する強化外骨格は、体高3m近い大型級であり、前職でも最前線でドつき合う普通科が使うような代物だ。
そして、肩の清らかな滝をモチーフにした社章ペイントは見覚えがある。ダンジョンPMC向けの新聞で、大々的に宣伝されていた新規立ち上げのPMCにして、打ち上げの場で見たそれ。
紛れもない、先程呪詛を送ったキヨミズ・ゼネラル・セキュリティーの物。
「ああ、この間、亘理と仲よさそうにしていた海兵隊か」
ヘルメットの正面バイザーが上がり、見覚えのある、何ともおっかねぇ面が顔を出した。
角張った輪郭、厳めしい金壺眼に秀でた額、そして口元から鼻にかけて走った傷が何とも言えない威圧感を放つ彼は部長と呼ばれていたっけ。後ろには一戦終えてきたと思しき配下が揃っているのだが……。
何とも羨ましいことに、全員が装備している強化外骨格は、トヨハツ重工が軍に卸しているものの民生用モデル、その最新式たるレクシアMk-Ⅲ! 去年のパラミリタリー装備ショーで初お目見えになった最新版じゃないか!
その性能は同社製軍用外骨格のセンチュリアMk-Ⅳと遜色なく、軽歩兵の軽妙さに前線で殴り合える堅牢さを併せ持つ至高の逸品!
それこそ、一機調達するだけで私のM2現代軽甲冑が分隊規模で、オマケに予備部品と整備器機一式まで揃えて買えてしまうお値段。
動きの素晴らしさ、隔絶した性能、そしてトヨハツに阿るサードパーティー共が展開する、対応したアタッチメントの量! この凄絶といってまでいい仕上がりは、推しである零様の企業案件動画を舐めるように何度も再生したことがあり、今でも網膜に焼け付くようだ。
ぐぬぬ、ブルジョア、ブルジョアジー。唐突に鎌とハンマーが欲しくなってきた。
「たしか予備役陸曹だったな」
「株式会社防人組所属、有明予備役一等陸曹であります」
「そうか。俺はキヨミズ・ゼネラル・セキュリティー特殊流通部部長の守本だ。予備役ではなく退役三佐なので、畏まることはないぞ」
さ、三佐!? 幹部じゃねぇか。しかも記憶が確かなら、カラス組の中でも一等優れた金カラスのメンコを付けていた化物じゃねーか。
のみならず、戦車も乗れるとかいう多用途戦術兵器みたいな徽章の付け方してたよな。おお、なんつうエリート。どうやって引っこ抜いてきたんだよトヨハツさんは。あれか、札束の詰まったアタッシュケースでぶん殴りでもしたのか?
「あれっ、パイセンじゃないっすか」
「あ、ああ、ありあか」
「きぐーっすね!!」
うわー、大学行きたさに奨学金が貰える条件の四年間を従軍しただけの私と違って、ガチのマジのエリートだと震えてていると、後ろからひょっこりとありあが顔を出した。当然、彼女も同じくレクシアMk-Ⅲ外骨格を着込んでいる。
てか、よく見ると全員が個々人の役割に合わせてカスタムしてるじゃねぇか。逆さに振ったら金が湧いてくるツボでも持ってるのかよ。
「って、ありあ、君はポイントマン……?」
「そっすよ! 4ゲージ弾で解決できない問題は殆どないっすから!」
よくよくみれば、アリアはポイントマン、突撃前衛装備だった。
レクシアMk-Ⅲには、発売間もないというのに「絶対売れるからバリエーション作ってやろう」というトヨハツの傲慢さが滲む、多彩にして多用途な発展機がリリース時に同時展開されている。
彼女のそれはレクシアMk-Ⅲの軽量突撃戦モデルではないか。
軍では電撃戦仕様とも呼ばれる、装甲を削りに削り、サブアームを廃した代わりに小型ジェットパックを増設したカスタムの外骨格。たしかカタログスペックにおける水平移動で瞬間最大時速120km、最大45mは跳躍して敵陣に斬り込んで掻き回す最前線の住人。
しかも、軍用でも最大の弾丸を使うショットガンがフルオート仕様でドラムマガジンが刺さっている上、バヨネットラッチには透き通った刀身を晒す炭素結合銃剣が装備してある。
うわ、マジモンだよ、この子。頭の大事な螺旋が最初から二、三本抜けてないとやれてないって言われるポジションを熟せるとか、修羅道の出身者だわ。
「あれ? どしたんすかパイセン」
「いや……なんか……書類で弾かれたのも納得かなって……」
書類? と首をかしげるありあに忘れてくれと言い、仕事終わりだろうからお暇しようとすると肩を掴まれた。
「えっと、少佐?」
「折角だ、これから依頼達成の報告を終えたら打ち上げをやる。ウチの亘理も気に入っているようだし、寄っていかないか?」
「いえ、お邪魔では……? 自分も陸ですが、海兵隊ですよ?」
「半魚人だろうと関係ない。同郷人と話をするのも仕事だ。我々最大の武器は集合知。だろう?」
こちらの冒険者は横の連帯が薄い。基本的に没交渉というか、知識を独占してあまり知られないようにする中世的な色合いが濃いのだ。
アゼリアは広く知られた方が生還率が上がって良いと考えているのか気前よく話してしまうが、対価が貰えることは殆どないくらいにノウハウを皆が秘匿したがる。
一方で列島人の我々は、固体固体の戦闘能力が弱いことから、何があっても知識を継承して生き抜く方針を採ってきた。
それは広域編集可能なダンジョン指南Wikiが――そもそもWikiという言語の元が忘れられて久しいが――国主導で作られているくらいだ。
こっちに派遣されて同郷がいないからすっかり忘れていたが、こういうコミュニケーションは大事だったよな。
「それに、これもある」
クイッと指を上げる仕草。それは、架空の猪口を持ち上げるそれ。
そして、猪口を使ってのむ酒を言ったら……。
「えっ、米酒が……?」
「焼酎もあるぞ。勿論、南方州製で芋も米もある。補給品の標準パッケージに入ってるんだ。ホームシック防止策とかでな」
ナニソレ羨ましい!! 輸入品しかないから馬鹿みたいな値段がするので、私はもう何年も飲んでないのに! 比較的手に入りやすい、ウイスキーですら安いので我慢してるんだぞ!?
「で、来るか? ケチケチした飲み方をせず“海兵隊式”でかまわんぞ」
「いきまぁす!!」
気が付いたら、故郷の味が恋しくて恋しくて、私は元気よく手を上げていた…………。
いつもコメントありがとうございます。面白いと褒めてくださるのは勿論、考察とか色々と楽しませて貰っております。コメントは作家の水にして栄養剤。ちょろっとサボテンに霧吹きをかけるくらいの気持ちでしてやってください。
そして、遂に進出してきた暗黒メガコーポ! 木っ端補助金目当ての防人組はどうなるのか!




