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知らない間にメンバーから激重感情を抱かれて帰れないダンジョン探索録  作者: Schuld


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1/4

1-1

 ダンジョンには、私が憧れている全てがあると思っていた。


 金銀財宝や栄誉を欲してではない。


 心躍る冒険、強敵との血湧き肉躍る戦い、艱難辛苦を乗り越えた先の感動。


 敵に立ち向かうために乏しい資金を集めて用意した装備から、死闘を重ね必死に集めたお金や、迷宮に眠っていたキラキラした鎧や宝剣を手に入れて挑む、世界を救うような偉業。


 そして、それを乗り越えて仲間達と育む貴い友情、分かち難い絆、それから一生涯忘れられない出会いと別れ。


 冒険そのものが、私にとっては煌びやかで、遙かなる憧れであるのだ。


 私はそれをレトロなRPGから学んで、憧れに憧れて探索者になった。


 そして今、目の前に、その物語で戦って来た代名詞たるドラゴンが寝ている。


 だが、手にあるのは竜を葬り去るべく鍛造されたブルーメタルの名剣でも、オリハルコンのハンマーでもなく、角形に梱包されたコンポジット7。シクロトリメチレントリニトラミンを主成分とした混合爆薬であり、マジックアイテムでもなんでもない、味気のない軍用工業品。


 その表面に刻まれた日輪化成の表記、製造工場に基づくロット番号が益々私の浪漫を冷ましていく。


 そして、身に纏っているのはドワーフが鍛えたミスリルの鎧ではなく、工場ラインから吐き出される軽量展性チタン合金製の斥候(スカウト)向けカスタムが施された(ライト)強化外骨格(エグゾスカル)


 ユキノシタ・ヘヴィ・インダストリ製のM(モデル)2現代軽甲冑。


 気密性を持たせた特殊戦仕様で便利ではあるし、パラミリ(準軍事)分野における強化外骨格の傑作機五十選に選ばれる名機ではあるものの、理想にはどこまでも遠い。


 更に、ドラゴンがいるからといって、真正面から戦えるはずもなし。やっていることは正々堂々から程遠い、寝込みの襲いだ。


 体高3m、尾長を抜いた大きさは8mといったところか。重量で言えば20トンは下らない怪物を前にすれば、今積み上げた〝七つのC7〟ですら、どれだけのダメージを与えられるか。


 まぁ、仕方がない。私は英雄でも伝説の勇者でもなく、数百年前に馬鹿な事故を起こして〝列島ごと異世界に飛ばされてきた〟極東人の末裔。


 現地人とのスペック差は比べるべくもなく、子供にも腕相撲で負けるほどに生物としての強度が違う。


 だから、戦うにしても、こうやってコソコソやるしかないのだ。


 設置を終えて信管をブスブス突き刺していき、あとは爆破するだけというところで理想と現実の差に溜息が出た。


 それが悪くなかったのだろうか。


 低く、ぐるぐると猫が喉を鳴らす音を千倍にしたような寝息が一瞬途切れる。


 気密性を保ちフィルターによって匂いなどを除去したはずの外骨格内でも感じられる、生臭い吐息も止まった。


 それから、目が合った。黄色く、縦に割れた瞳孔と。


「やっべ」


 竜が目を覚ましたのだ。


 この土壇場でなんて運のないと呆れながら、私は体を跳ねさせていた。


 そうすると四肢に仕込まれた流体モーターが全力で駆動し、スペック通りの瞬間最大加速60km/hでのバックステップを可能とし、本能的に繰り出された一本一本の牙が短刀ほどもあろう顎からの襲撃から体を逃してくれる。


 南無三、私は祈りながら管制AIに命じて信管を機動させた。


 世界が爆ぜる。視覚素子が焼き付くのを阻止するためセンサーにシャッターを下ろし、HUDは真っ暗に。そして、化学反応によって生まれた膨大な熱と光、それに伴う衝撃波が体を木っ端の如く回せた。


 警告灯が灯り、耐ショック姿勢を推奨と表示されるが、言われなくても分かってるんだよ。私が大学に行く費用を稼ぐため、何年海兵隊でべこんぼこんにされたと思ってやがる。


 センサーの測距計は、コマのような回転の中ではアテにならない。鍛えた三半規管に従って天地を認識しつつ、横回転する体から手を伸ばして地面を弾き、高度を稼いで大きな岩との直撃を回避。


 飛距離を稼ぎながら回転の減衰を待って――クソ、このモデルにスラスタ(推進器)が搭載されていたらずっと簡単だったのに――地面に肩から落着。そのまま背を触れさせて衝撃を逃すと同時、何度も転がって余勢を殺す。


 これで自分が仕掛けた爆弾に巻き込まれての爆死なんて、笑えもしない最期からは逃れられた。


 衝撃が去ったことを確認し終えた視覚素子のシャッターが上がるより早く、HUDに大写しで警告が灯った。


『状況、ガス』


 やばい。赤い鱗を持った竜、彼等が生来持ち合わせる火炎袋に貯め込んだ、可燃性のガスを吹きかけてきている。


 次の瞬間には火打ち石の役割をなす顎が打ち鳴らされ、この空間は二千度の炎に舐められる。


 M2の耐熱生存保証温度は1,200度まで。このままでは蒸し殺される。


 そう覚悟した瞬間、私の周囲に青い膜が球形に張り巡らされ、炎の波濤を凌いでくれた。


 体表温度計は正常値。熱波も爆裂の衝撃をも隔絶してくれた障壁は、言うまでもないが外骨格に備わった機能などではない。


 〝干渉式〟この世界の法則を恣意的にねじ曲げることによって、物理的・非物理的現象を引き起こす、我々極東人で言うところの〝魔法〟の壁だ。


「縺?♂繧翫c縺√=縺√=縺√=!!」


 炎が大気を漕がす音に混じって、聴覚素子が極東人の可聴域外にある音を多分に含んだ絶叫を拾った。


 それから少し遅れ、外骨格に搭載された管制AIの補助機能が機能し、言語が翻訳されポップアップされた。


「絶叫:発声者・リズ」


 続き、世界が揺れたと錯覚するような轟音が響く。


 割れ鐘が響くような音に混じって、硝子の破片がジャラジャラと美しく舞うような合唱は〝ドラゴンの装甲〟が弾け飛ぶ音色だ。


 炎の向こうにあったのは、正に私が憧れたような光景。


 身長150cmに届くか届かないかであろう、ゴシックロリータの意匠によく似た甲冑を纏った小柄な少女が桃色ツインテールを靡かせながら、自分の身の丈よりも巨大な戦槌を振り抜いて、重量比でいえば何百倍はあるのかという竜の頭を弾き飛ばしているではないか。


 極東の物理学においては、有り得ない光景だ。質量差は勿論、あれだけのものをよろけさせる打擲を行ったならば、反作用によって数百メートルは吹き飛ばされていなければ、明らかにおかしな矮躯が、空中で蜻蛉を切って美事な着地を決めている。


 頭部を手酷く打擲された竜はめまいを起こしたのだろう。火炎を噴き出しながら頭を左右に振れば、雨の如く可燃性ガスに引火した業火が降り注ぐものの、それはあろうことか吹き出した〝口〟へと向かって収束していく。


「蒸し暑いのは好きではありません:発声者・リリム」


 翻訳AIのポップアップは、別の〝仲間〟が干渉式を振るったことを教えてくれていた。


 見れば、杖を抱えた長身の美女がつば広の帽子を風に揺らしながら立っていた。


 オフショルダーので足に深いスリットが入った、漆黒に染め上げたワンピースは正に魔法使いといった風情であり、切れ長の瞳、目元を彩る干渉式を補助する緋色のアイラインや、八角形の直線的な杖と相まって、正に熟練の魔法使いといった風貌だ。


 熱波に揺れる艶やかな栗色の髪。世界の法則を見るという空色の瞳が煌めく。


 彼女は空間を歪曲させることによって炎をかき集め、ドラゴンの口元へ戻していき、空間を清浄に戻してみせたのである。


 私は命の危機を脱したことを悟り、体に本能レベルになるまで叩き込まれた動作を行う。背部マウントに固定していた〝50口径汎用小銃〟をサブアームで取りだし、構えてFCSと連携。即座に竜の二対六個備わった眼球に向かってフルオートで射撃を行う。


 しかし、悲しいかな、しょせんは斥候が装備する銃。対異形用大口径弾(.50BMG)を装填していたところで、強膜に弾かれて瞬きを数度させるに過ぎない。


 クソッタレ、せめて30mm砲か155mm榴弾があればと思うが、どちらも国防軍で使われているものなので、民間には絶対流れてこないため仕方がない。


 ただ、ここまで自分が無力なのかと思い知らされると泣きたくなる。爆薬も発破する前に頭を上げられてしまって、前足の爪を数本吹き飛ばすのが精々であったようだし、あの程度の傷ならば、竜は溢れんばかりの賦活力によってすぐに再生してしまう。


 ただ、これは一対一での戦闘ではない。


 重戦士のリズが隙を作り、魔法使いのリリムが最大の脅威であるブレスを無効化したならば、次は必殺の一撃を放つ要員の出番となるのが道理だ。


「絶叫:発声者・アゼリア」


 ポップアップに従い、音源が作適用装備の充実した外骨格の機能に従い、ミニマップ上に光点で強調された。


 そこには、輝く剣を振り上げた少女がいた。


 刀身長140cmを超える、特大両手剣という名でさえ尚足りぬ剣は、我々の科学力では検知も解明も不能な原理で仄白い光を放っており、センサーを向ければ「熱量:計測不能」の一言が返って来る。


 体高3mを超える竜が首を擡げている高度よりも高く翔び、刃を振り下ろすのは短距離飛翔用のスラスターを装備した外骨格でなければ不可能だが、彼女は違う。生来の足、そして鍛え上げた身体能力のみによってそれをなす。


 そして、直径80cmは下らないであろう首に刃が触れ、そのまま沈み込み……抜けた。


 地に触れる寸前で急制動をかけられた刀身には、血の一滴、脂の一つも浮いておらず、肉と骨を断ったとは思えない煌めきを放っていた。


 しかし、竜の動きは止まっている。


 数秒の沈黙。


 それからやっと、断面が今になって斬られたことに気付いたが如く滑り、ずんと転がった。


 竜を殺す方法は限られている。この世界においても最強の個体とされる竜種は、その存在骨子たる神経塊、つまるところ脳を破壊するだけでは死なない。


 生得的に〝干渉式〟を操る演算装置にして炉心でもある心臓と脳を切り離す、あるいは同時に破壊することによってのみ、殺害が可能となるのだ。


 どちらも難易度は怖ろしく高い。


 しかし、彼女はやってみせた。


 アゼリア――フルネームは長すぎて覚えていない――高貴なる王統家の連枝でありながら、七女という立場を〝民のために使う〟として立った気高き乙女は、その精神性に見合った神秘的に美しい姿をしている。


 歳は今年で17。故郷だと高校生とは思えない凜とした立ち姿は、正に貴族の見本だ。


 面長で上品な輪郭に、すっと通った鼻筋。大粒のガーネットを思わせる石の強そうな目と、金糸を束ねたような艶やかな髪。


 ドレスに装甲を貼り付けた甲冑は、正に女騎士や姫騎士という称号がよく似合った。


「こんなものでしょうか」


 リズが――正式にはベリアリューズと舌がこんがらがりそうな名前をしている――戦槌を担ぎながら、竜が本当にくたばったかを確認するように鼻面を蹴った。


 管制AIは熱源の急速な低下を報せている。首筋から血と筋繊維が微かに伸びて首に縋り付こうとしていたが、距離がありすぎて届いていない。そして、それもやがて力を喪って萎れた。


「今回は、コウヅキのおかげで、楽でしたね」


 杖を小脇に挟んだ魔法使い、彼女も愛称でリリムと呼んでいるが、正しくはフェアルリリムと愛らしい名の割りに――といっても、本質が解析不能に近い言語に音を当てているだけなので、正しいものなのか分かった物ではないが――凜々しい美貌を崩さず言う。


「ええ、気を引いてくれて助かりましたよ、コウヅキ。おかげで絶好のポジションで攻撃できました」


 アゼリアは拭う必要もなかろうに、懐紙を取りだして刀身を拭ったあと、優美に納刀して語りかけてくれる。


 しかし、まぁ私がやったことといえば、足手まといと息をする弾除けの中間。ダンジョンの最奥に辿り着くまでの雑務や斥候を熟したが、ダンジョンハックの華ともいえる戦闘では何の役にも立てなかった。


 それもそうだ。私は脆い極東人。相転移発電理論の実験に失敗してきて、この異世界に飛ばされた阿呆な民族の末裔であって、どこまでも肉体を鍛えようがRPGの勇者にはなりようがない。


「グッドジョブ」


 小さく呟いて、親指を上げておく。このサインは我々が来てからこちらに浸透したようで、皆も分かって返してくれた。


 ダンジョンには、私が憧れている全てがあると思っていた。


 それは事実だ。


 どうやって斃せばいいのか頭を悩ませる難敵。太古に忘れ去られた文明の残滓。遺失技術によって作られた鎧や剣。


 しかし、そこに私だけが見合っていない。


 〝世界晶〟


 そう呼ばれる、あらゆる熱量に変換可能な資源を求めて列島は探索者を送り込み、確保するために大量の補助金を投じたことによって民間探査企業が数多生まれた。


 私はその中でも株式会社防人組という泡沫中小企業に潜り込んで、淡い夢を諦めきれずにしがみついている三流探索者。


 ドラゴンスレイヤーの誉れ名には遠く、かつてモニタ越しに夢見た冒険の英雄にはなれていない。


 それに、この世界では体にため込める干渉式の力の問題で、女性の方が圧倒的に強い。社会制度も家父長制ならぬ〝家母長制〟というべき状況であり、男女の価値観さえ違う。


 これだけの齟齬があれば、私の理想なんて叶うはずもないのだ。


 それでも、私は諦めきれずにダンジョンにいた


 さて、どうしてこんなことになっているんだけかね…………。


 

ネトコンに殴り込んでみようと思って、大昔に書き溜めるだけ書き溜めて放置していた作品を発掘してきました。

コメント、ブクマ、評価いただけると大変嬉しく存じます。

対戦ヨロシクオネガイシマス。

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