第九十八話 脱走兵
ところが、翌朝王国軍の中でとんでもないことが起きてしまった。
何と、脱走兵が現れたという。
幸いにして直ぐに警備兵に捕縛され、武装解除された。
戦闘中というのもあり、僕は急いで宮廷魔導師の服装に着替えて前線基地の建物の前に移動した。
「やはりお前らか。大きいことを言うだけ言って、最後にはこんな愚かな行為をするとはな!」
「「「「「ぐっ……」」」」」
スラちゃんたちと上級官僚と共に建物の前に着くと、一足先についていたヘルナンデスが縄で拘束されている五人の太った兵を叱りつけていた。
まさかとは思ったが、拘束されていたのは僕の父親たち贅沢派だった。
拘束された際に地面に押さえつけられたのか、体や服はかなり汚れていた。
きっと、捕まらないようにと激しく抵抗したのだろう。
しかし、悔しそうにしていた父親は僕の姿を見るなり目の色を変えた。
「ケン、何だその豪華な恰好は! お前は俺を馬鹿にしているのか! テメーがあの時前線で死ななかったから、俺達はこんな惨めな思いをしているんだ! 死んで詫び……」
「いい加減にしろ!」
「!!!」
ヘルナンデス様の一喝に、父親だけでなく他の捕まった貴族当主も思わずビクッとした。
目の前で怒られている人を無視し、一方的に理不尽な内容で僕を罵倒したのだから仕方ないだろう。
僕はというと、父親がこんな状況で未だにそんな事を言うなんてと呆れてしまっていた。
「ケン君が王国直轄領の復興に貢献して宮廷魔導師になったのは、既に全軍に通達している。貴様は、軍の通達をキチンと聞いていないと自ら証明したものだぞ」
「うっ……」
ヘルナンデス様の厳しい指摘に、父親は全く反論できなかった。
自分の利益にならないことは、全て無視していたのだろう。
そして、ヘルナンデス様は父親を含む脱走兵五人にある通告をした。
「陛下より、貴様ら五人の貴族権限の一切を停止し軍事裁判に掛けるようにとの命令が出た。魔導船に乗せ、即刻王都へと送る。喜べ、人生最後の魔導船乗船だ。存分に楽しむと良い」
「「「「「ヒィィィ……」」」」」
ヘルナンデス様の怒気をはらんだ低い声に、父親たちは怯えて震えが止まらなかった。
こんな時に限って、父親は僕をチラチラと見て何か言えと目で訴えていた。
「僕に戦地で死ねと言って軍の施設に送った時から、あなたは転落する運命になったんです。それに、僕は生きるために努力を重ねました。もう、あなたとは違います!」
「なっ!?」
僕は、敢えて父親のことをあなたと言った。
そして、父親は僕に面と向かって反論されるとは思ってなかったようだ。
血は繋がっているかもしれないが、もはや赤の他人だ。
僕は、父親にされた事を一生許すつもりはなかった。
「直ぐに、麓の軍事基地に送るように。今日中に、王都に向けて護送せよ!」
「「「「「はっ」」」」」
父親たちは、沢山の兵によって連行された。
もしかしたら今生の別れになるかもしれないが、改めて父親を見る気にはなれなかった。
一方、父親たちはガックリと項垂れていた。
このタイミングで、ようやく厳しい処分が待っていることを理解したようだ。
だが、既に時遅し。
それに、軍事体制中の脱走はとても罪が重い。
今までの罪と合わせて、かなりの処罰が待っていることは避けられないだろう。
僕は、連行されていく父親たちの背中を、じっと見ていたのだった。
「ヘルナンデス様、父親の件で謝るのはこれを最後にします。父親が、大変なご迷惑をおかけしました」
「ケン君も、本当に強くなった。昔は、ただ父親の罪を謝罪していただけだった」
深々と頭を下げた僕に対し、ヘルナンデス様はとても満足そうに頷いていた。
そして、ヘルナンデス様は今後の件についても話をしてくれた。
「帝国軍も、改めて今回の軍事作戦を承認していないと連絡があった。そういうことで、王国に対する矛先を収めるのだろう。関係者を捕縛しているそうで、明後日会談を行うことになった」
こういう対応が取れるのも、僕のお陰だとヘルナンデス様は褒めていた。
王国兵の負傷兵は全員治療し、帝国兵も死者はいない。
王国兵の負傷兵が多数だったら、話が全く違ってくるという。
「対応は、私とジーグルトで進める。ケン君たちは、ガルフォース辺境伯領の領都に戻り研修を続けるように。魔導船の帰還も必要だし、勉強する期間としてちょうどいい」
こうして、僕たちは勉強することが改めて決定した。
恐らく帝国と何かをした可能性が高いのだけど、そういうところは僕たちに見せるのはまだ早いと判断したのだろう。
僕たちは、この後やってくる迎えの馬車に乗ってガルフォース辺境伯家に戻ることになった。
念のために、風魔法が得意なリーフちゃんと回復魔法も使えるシロちゃんがヘルナンデス様の護衛として残ることになった。
そして、昼前に国境の前線基地からガルフォース辺境伯家の屋敷へと到着したのだった。
「諸君らの無事の帰還を嬉しく思う。難しい対応というのは、どうしても起きる時がある。きっと、諸君らも遠くない未来に特別な交渉のテーブルにつくことがあるだろう。多くの事情の背景や相手の思惑を知り、どんな最適解を導き出せるのかが今後の課題といえよう。そういう時は、ベストではなくベターな回答となるだろう」
ハーデス様は、僕たちを屋敷の応接室で出迎えてくれた。
ハーデス様も今回の交渉の裏側を知っているようだが、僕たちには教えてくれなかった。
ただ、そういう世界もあるという本当に貴重な経験を積むことができたのは事実だった。
そして、毎日の魔力訓練も間違っていなかったと実感できたのも確かだった。
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