第九十六話 国境への移動と突如としての帝国の奇襲
翌日、僕たちは早朝から身支度を整え、馬車に乗って国境に向かった。
馬車の窓から辺境伯領の町並みを眺めながら、段々と国境へと近づいていった。
町中を通過した際には町の人々からとても活気のある声が聞こえてきて、商店に並ぶ品物もたくさん揃っていた。
「辺境伯領は、交易の中心でもある。周辺領地から辺境伯領に品物が集まり、更に辺境伯領から各地に品物が送られる。交易都市としての性質も持っているぞ」
ヘルナンデス様は、同乗した僕や上級官僚に色々と説明した。
やはり、人々に活気があるのはとてもいい事だ。
時間があれば、クリスちゃんやシンシアお姉様、ハンナおばさんたちにお土産を買って帰ろう。
そんな活気ある町中を抜け、僕たちを乗せた馬車は無事に国境の前線基地に到着した。
「「「「「ここが、国境の前線基地……」」」」」
馬車から降りた上級官僚たちは、立派な前線基地にビックリしていた。
更に遠くに見える帝国側の陣地を見て、厳戒態勢の現場を見て、ここが帝国との国境だと改めて知ったのだった。
「うーん、前回の戦争時と同じくらいの兵がいますね」
「帝国側が、怪しい動きを見せた対策だ。逆に言うと、王国もこうして直ぐに人員を揃えられるようになったのだ」
魔法袋から取り出した双眼鏡で見た僕の呟きに、ヘルナンデス様が直ぐに答えた。
やはり、帝国の陣地や麓の町でいつもと違った動きがあった影響だろう。
体制の見直しを行い、贅沢派を前線から一掃した効果が出ていた。
「まあ、そういうことだ。ケンは、真面目に勉強していればいいさ」
「そうそう。俺達も、前とは違うって訳だ」
「ケンが頭を使う分、俺達は体を使わないとな」
たまたま顔見知りの兵がいて、僕に話しかけてきた。
何かあったら、一時間以内に麓の軍事施設から応援が来るという。
僕たちは前線基地に入って司令官から話を聞くのだが、スラちゃんはチビスライムたちに前線基地を紹介するという。
ということで、僕たちは兵の案内で司令官室に向かった。
「ようこそ、前線基地へ。司令官のジーグルトだ。諸君らの来訪を歓迎しよう」
僕たちを出迎えてくれたのは、ゴードン様の後任のジーグルト様だ。
軍人なので体を鍛えているのだが、紫髪の短髪に眼鏡をかけた知的な人だった。
僕たちが席に着くと、直ぐにジーグルト様の話が始まった。
「知っての通り、前線基地は国防の最前線といえよう。しかし、昔帝国と通商を行っていた際には平原の真ん中に関所を設けて交流していた。今はその痕跡すら残っていないが、上級官僚の諸君らは受験時に勉強しただろう」
王国の歴史も試験科目の一つで、その中に過去の帝国との関わりもあった。
確かに帝国の陣地との間にある平原にも行ったことがあるが、本当にただの原っぱしかなかった。
「現在も講和条約締結になっておらず、一旦戦争が落ち着いている状態だ。前回の戦争時に帝国は奇襲を行ったが、現在はお互い守りを固めている。王国に領土的野心はないが、未だに帝国軍の中や貴族には王国への領土的野心を持っているものがいる。王国だけでは、国境の問題は解決しない」
ジーグルト様が更に言葉を続けたが、この辺の事情は僕も前回の戦争時に実際に体験したことだった。
もちろん帝国側にも状況を適切に把握している人はいるが、暴走気味に動く人もいるのも確かだ。
「王国としてはたまったものではないが、それでも我々は粛々と対応しなければならない。そういう厳しい現場に国の未来を背負う諸君らが来たことは、今後の大きな参考になるだろう」
ジーグルト様は、僕たちに向けてメッセージを送った。
国境の町ガルフォース辺境伯領で学んだこともとても意味があるし、僕も改めて現状を知れて良かったと思った。
その後は、食堂に移動して昼食を食べることになった。
「おばちゃん、こんにちは。久しぶりです」
「あら、ケン君じゃない。体も大きくなったね」
食堂のおばちゃんとも久し振りにあったが、以前と変わらずニコリと対応してくれた。
そして、しっかりとした食事が出てきたことに上級官僚も驚いていた。
「食事をしっかりと食べ、いつでも動ける体にすることはとても大切だ。それに、訓練もとても厳しく行われる。体調管理も、大切な仕事だ」
ヘルナンデス様の説明に、上級官僚たちは成程と納得していた。
動く時に動けないと、意味ないもんね。
兵も交代で昼食を食べていて、僕のことを知っている兵が声をかけてきた。
そういえば前線基地の見学をしているスラちゃんたちが食堂に来るのが遅いなと思った、その時だった。
シュイーン、ズドーン、ズドーン!
「「「「「えっ!?」」」」」
突如として、食堂の外から大きな爆発音が聞こえてきたのだ。
食堂にいた全員が、一斉に音のした方を向いた。
すると、ちょうど前線基地の防壁がある辺りから煙っぽいものが見えたのだ。
ウィーーーン!
それと共に、大きなサイレンが聞こえてきた。
どうやら、緊急を伝える指示は鐘からサイレンに変わったようだ。
そして、僕たちのところに慌てた様子の兵が駆け込んできた。
「し、司令官、報告いたします。帝国側から、突如として魔法による遠距離攻撃が行われました。ケン様の連れているスライムによって、帝国側から放たれた魔法は全て迎撃されました」
「やはり、帝国は攻撃をしてきたか。第一戦闘配備を敷く。この魔法攻撃が陽動かもしれない、全方向に注意を傾けよ」
「はっ」
兵は、ジーグルト様に敬礼して走り出した。
それと共に、食堂にいた兵全員もそれぞれの持ち場に移動した。
その間に、僕は訓練を経て覚えたある魔法を使った。
シュイン、ぴかー!
「な、何だこの魔法は……」
僕の魔法を初めて見たジーグルト様は、僕を中心に多数現れた魔法陣にかなり驚いていた。
そこそこの魔力を使ったため、食堂の中も眩しく光り輝いていた。
そして、僕は直ぐに魔法を使った結果を報告した。
「ジーグルト様、ヘルナンデス様、前線基地の南側に複数の反応があります。更に、帝国側の陣地からも大軍が押し寄せてきました。チビスライムたちが基地の南側に向かっていき、スラちゃんが防壁の守りについています」
「ちっ、やはり陽動か。しかし、ケン君の魔法は相変わらずとんでもないな」
ヘルナンデス様も、苦笑しながらも直ぐに状況を把握してくれた。
僕が使った魔法は超広範囲探索魔法で、身近な人たちは体の中にある微かな魔力で判別することもできる。
魔力が大きいスラちゃんたちなら、正確にその場所を把握することが可能だ。
「奇襲となると、敷地内で戦闘が起きる可能性がある。上級官僚たちは、一旦基地内で待機するように」
「「「「「はい!」」」」」
この状況だと、逆にガルフォース辺境伯領の町に逃げる方が危ない。
上級官僚たちはジーグルト様の指示に返事をしたが、基地内での手伝いをすると意気込んでいた。
「じゃあ、僕はまた建物前に移動して治療を行います」
「頼む……いや、治療の前にこれをやってくれ」
ヘルナンデス様は、僕にあることを頼んできた。
その依頼は食堂ではできないため、僕たちは急いで建物の前に出た。
「えっと、あれですね」
「やってきたか。ケン君、魔法の準備を」
ヘルナンデス様が指示した先には、帝国側の陣地から出てきた多数の兵がいた。
僕は細心の注意を払いながら、魔力を溜め始めた。
シュイン、シュイン、シュイン。
僕の周りに魔法が現れ、それと同時に無数の聖属性の魔力弾が出現した。
数にして五十を超え、僕の近くにいる兵も何が起こるのかと興味津々だった。
「ヘルナンデス様、準備出来ました!」
「よし、派手にやってくれ」
シュイン、ズドドドドーン。
ヘルナンデス様の指示を受け、僕は魔力弾を全弾放った。
狙いは突撃してきた帝国兵の周囲、それに陣地周囲だ。
ホーリーバレットが兵に直撃しないように、僕は細心の注意を払った。
ズドドドド、ズドドドドーン。
「「「「「ぐはぁ!」」」」」
魔力弾は全弾地面に着弾し、帝国兵を爆風と土の塊が襲った。
更に、帝国軍の陣地にも爆風や無数の振動が襲った。
土煙が止むと、数多くの帝国兵が地面に倒れていた。
しかし、僕の魔法攻撃はこれで終わりではない。
シュイン、シュイン、シュイン。
今度は、百を超える雷属性のサンダーバレットを出現させた。
ただ、威力は弱めにして、痺れて動けない程度にしてある。
「ヘルナンデス様、二回目の準備完了しました」
「うむ、直ぐにやってくれ」
シュイン、ズドドドド、ズドドドドーン!
ヘルナンデス様の指示を受け、僕は再び魔力弾を放った。
今度は、まだ元気な帝国兵を直接狙った。
バリバリバリバリ!
「「「「「ギャー!」」」」」
流石に、百を超える魔力弾を制御するのは大変だった。
超広範囲探索魔法で帝国兵を確認していたため、魔力弾は上手く帝国兵に命中しその場で動けなくした。
更に、帝国陣地内にも魔力弾は飛んでいき、複数の兵を昏倒させた。
以前に帝国の陣地に入った経験が、まさかここで生かされるとは思わなかった。
しかしサンダーバレットによる攻撃はあと二回続き、その度に土煙などが起きたのだった。
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