第九十話 下心のある贈り物
ノーム準男爵家に赤ちゃんが生まれて一週間が経った。
ルートちゃんと名付けられた赤ちゃんは、とても元気いっぱいだった。
直ぐにどんな感情かを泣いて表してくれるので、フリージアお祖母様曰くとても子育てがやりやすいという。
そして、実はチビスライムたちはある理由で毎日交代でノーム準男爵家に行っていた。
「今日も、赤ちゃんの誕生祝いが来ていますね」
「準男爵家の出産祝いとしては、かなり多いといえよう。息子の時と、全然違う」
エレンお祖父様も、思わず溜息が出るレベルだった。
もちろん、純粋に赤ちゃんが生まれたのを祝ってくれる貴族もいた。
ありがたいことに、ルーカス様や王太后様からも出産祝いが届いた。
また、母親に世話になったと言って出産祝いを贈ってくれた貴族や聖職者もいた。
だが、ここまでは何もなく逆にとてもありがたかった。
「えーっと、これとこれは貴族主義勢力のものだな。はあ、また軍に報告しなければならない」
実は、僕に縁を繋ぎたくて出産祝いを贈る貴族がいた。
しかも、変なぬいぐるみなどを贈ってきたのだからたまらない。
怪しいものもあり、チェックのためにチビスライムたちがノーム準男爵家に行っていたのだ。
そして、怪しい贈り物が見つかったら、即座に軍に送るようにとルーカス様から指示があった。
エレンお祖父様も、また溜息をつきながら使用人に指示を出した。
「その、ごめんなさい……」
「いや、ケン君が謝ることではない。そもそも、欲深い貴族は周囲が指摘しても無駄だ。利益のためになんでもやってくる」
エレンお祖父様は問題ないと言ってくれたが、僕は本当に申し訳ないと思った。
実際に僕が赤ちゃんの様子を見に来た際に貴族主義勢力のものと会ってしまい、僕にゴマすりをしてきたのでエレンお祖父様が激怒して一喝した。
とはいえ、特に男爵以上の貴族家なら色々な手を使って縁を繋ごうとしてくるはずだ。
そのため、最近はこの人が物凄く不機嫌だった。
「ふふふ、あなた、ケン君、お客様よ」
「「はい……」」
また僕たちと縁を結ぼうとする貴族がやってきて、フリージアお祖母様がとても良い表情で呼んできたのだ。
でも、フリージアお祖母様の目の奥はとても冷たかった。
僕とエレンお祖父様は、黙って応接室に向かうしかなかったのだった。
「いやあ、この度はお孫様が生まれてとてもめでたいですな。しかも男の子だということで、二重にめでたいですな」
「「は、はあ……」」
僕たちの目の前には恰幅の良い男爵が座っており、さっきから商人みたいに僕たちをひたすら持ち上げていた。
僕とエレンお祖父様はかなり呆れていたが、フリージアお祖母様からまるで吹雪のような物凄い怒気と殺気が垂れ流されていた。
そして、揉み手で話をする男爵の一言で、一気に事態が急転した。
「実は、我が家にも一歳の娘がいるのですよ。是非とも、ルート様のお相手に……」
ダン。
「生まれて僅か一週間の孫に嫁ですか。それは、とても結構な話ですわね。しかし、生まれたての赤ん坊というものはとても弱い存在です。先ずは、健やかな成長を祈るのが先ではないでしょうか?」
「は、はひ……」
テーブルを叩いて立ち上がったフリージアお祖母様の迫力に、男爵は椅子から転げ落ちそうになりそうな程驚いた。
フリージアお祖母様の怒気に、今更ながら気がついたようだ。
そして、男爵は逃げるようにノーム準男爵家を後にした。
「全く、生まれたての赤ん坊に嫁なんて非常識にも程がありますわ!」
「「ははは……」」
プリプリしているフリージアお祖母様に、僕とエレンお祖父様は苦笑するしかなかった。
この場はエレンお祖父様に任せ、僕は逃げるように赤ちゃんのところに向かった。
「ふふ、ちっちゃな指で一生懸命握っているわ」
「ルートちゃん、とっても可愛いの」
ベビーベッドの周りでは、スラちゃんたちとシンシアお姉様とクリスちゃんが赤ちゃんにメロメロになっていた。
すると、セリナさんが疲れている僕に気がついた。
「ケン君、だいぶお疲れね」
「まさか、ルートちゃんに嫁を勧めてくるとは思いませんでした。可能なら、魔法で吹き飛ばしたいと思ったほどです……」
「うーん、それは流石に私でも嫌だわ。信頼できる貴族ならともかくとして、初対面の下心のある貴族だなんて」
セリナさんも、僕の話を聞いてかなり戸惑っていた。
やっぱり、普通はこういう反応だよね。
すると、ここで立ち上がった人がいた。
「ここは、ルートちゃんのお姉ちゃんの出番ね。ふふふ、変な貴族は追い返されないと」
シンシアお姉様が立ち上がり、エレンお祖父様とフリージアお祖母様のところに勇んで向かったのだ。
大丈夫かなと思ったが、意外とシンシアお姉様は活躍していた。
ルートちゃんが可愛い姉を上手く演じ、下心のある貴族をタジタジにしていたという。
更に僕が軍や教会で下心のある貴族がたくさん来て辟易していると言うと、多くの人によって一気に広まった。
その結果、ノーム準男爵家に押しかける貴族は激減し、押しかけた貴族は問題があるという認識になったのだった。
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