第九話 僕が欲しい物
王太后様と王妃様とのお喋りを楽しんでいたら、かなりの時間が経過した。
そして、僕はあることに気がついてしまった。
「今夜、どこで寝ればいいんだろう……」
実家から追い出されてしまったし、お金もないので宿にも泊まれない。
軍の宿舎を借りられないかなと思ったら、既に話が色々と進んでいることを知った。
「あら、ケン君は息子が国境に出発するまで王城で寝泊まりするわ。何せ、ケン君は戦費として出されたのだから、国がキチンと面倒を見ないとね」
ニコニコ顔の王妃様にこう言われてしまうと、僕は何も言い返せなかった。
ちょうど夕食の時間らしく、僕は王太后様、王妃様と共に食堂に向かった。
「おお、リリアーナとケン……」
ちょうど陛下も食事を取ろうとしていたようだが、王太后様の姿を見るなり席に座る途中で固まってしまった。
陛下は、「えっ?」っていう面白い表情をしていますね。
「ふふ、ケン君に治療してもらったら、普通に歩くこともできるようになったわ」
「流石にスタスタと母上が歩いているのを見て、思考が止まってしまいました」
再起動した陛下は、僕をチラッと見てから何とか席に座っていた。
王太后様の病気は確かに重そうだったし、長い間病気だったのだと直ぐに分かった。
「ケンには、改めて礼をしないとならない。宮廷医でも、現在の状態を維持するので精一杯だった」
「わわわ、僕は王太后様が元気になってくれれば良いと思ったので……」
「そうだな、ケンは純粋な気持ちで母上を治療したのだ。とはいえ、何か褒美を考えないといけない」
な、何だか話が大きくなってしまった。
本当に、褒美とか全く考えていなかったのは事実だ。
そして、この兄弟の登場によって更に話が大きくなった。
「「ふう……えっ?」」
今度は王太子様とルーカス殿下が、ニコリと微笑む王太后様を見て固まってしまったのだ。
陛下が僕のことを指さすと、まさかという表情をしていた。
そして、王太子様とルーカス殿下が席に着くと、ようやく落ち着いてくれた。
「ケンの回復魔法の凄さは叔父上の回復を見れば分かるが、また凄いところを見てしまった」
「お祖母様は最近体調が悪く、食事も自室で取られていた。まさか、こうして一緒に食事を食べる日が来るとは思わなかった」
王太子様とルーカス殿下の反応を見れば、王太后様の今までの苦労が直ぐに分かった。
そして、ルーカス殿下は僕にあることを言ってきた。
「ケン、いやケン君、私に『殿下』とつけなくていい。兄上のように、『様』でいい。そして、ケン君に質問がある。いま、ケン君が一番望むものは何か?」
ルーカス殿下もといルーカス様は、真剣な眼差しで僕のことを見ていた。
僕が欲しいもの、うーん難しい……
こんなものでもいいのかな?
「あの、変かもしれないですけど『自由』がいいなと。その、今までほぼ外にも出れない生活が続いて、家の者にも虐待を受けていたので……」
何というか、ものやお金が欲しい訳じゃなかった。
今まで父親と兄によって全く自由を与えられなかったので、やっぱり自由がいいなとふと思ってしまった。
そんな僕の回答を、王家の方々は真剣に聞いていたのです。
「小さな子どもが【自由】を欲するとは、何とも嘆かわしいことだ」
「そうですわね。屋敷の外に出るのも、ほぼ三年ぶりらしいですわ」
陛下と王妃様も、かなり深刻にとらえてしまった。
そう考えると、僕は何とか暮らすのに精一杯で余計なことは考えられなかった。
「ケン君の願いは分かった。今は目の前の戦争に集中しないとならないが、必ずケン君の願いを叶えるように対応をする」
ルーカス様は、とても真剣な表情で返事をしてくれた。
王家の方々も、ルーカス様の返事に頷いた。
先ずは王国が帝国に勝てるように、僕も頑張ってサポートしないと。
「では、夕食とするか。食べなければ、力がでないからな」
陛下がこの場を盛り上げようと、努めて明るい表情で話した。
そして、僕の目の前にはとても豪華な食事が出てきた。
うわぁ、テーブルマナーってどうやればいいんだっけ。
ナイフとフォークの使い方は何となく分かるので、後は他の人のやっているのを真似しよう。
こういう時、マナーを気にせずに食事をするスラちゃんがちょっと羨ましい。
緊張し過ぎて、味もよく分からなかった。
しかし、食事を切り抜けてもまだ難関が待っていた。
ガチャ。
「こちらの部屋になります」
食堂から使用人に案内されたのは、とても豪華な客室だった。
僕のことを考慮して小さめの部屋を用意してくれたらしいが、それでも今まで寝ていた狭い倉庫みたいな部屋と比べれば雲泥の差だった。
何よりも、どーんと置かれている大きなベッドに目がいった。
しかも、魔導具でお湯が出るお風呂もあり、トイレも魔導具完備だった。
「うわあ、お風呂に入るなんて殆ど記憶になかったなあ……」
さっそくお風呂に入ったが、いつも生活魔法で体を綺麗にしているのとは気持ちよさが全然違った。
体を洗う気持ちよさも格別だった。
流石に髪の毛は生活魔法で乾かしたけど、気のせいか一緒にお風呂に入ったスラちゃんもいつもよりもピカピカだ。
因みに、用意してくれた寝間着に着替えたが、上質な生地を使っていて肌触りに少し慣れなかった。
そして、恐る恐るベッドに腰掛けた。
もふっ。
「うわっ、ふかふかのベッドだ!」
前世も含めて、これだけの感触を感じたことはなかった。
スラちゃんなんか、ベッドのふかふかに何度もぴょんぴょんと跳ねていた。
とはいえ、明日もルーカス様のお手伝いをしないといけない。
僕とスラちゃんはベッドに潜り込むと、疲れもあってかあっという間に眠くなった。
今日は、本当に激動の一日だった。
でも、間違いなく何かが変わる一日だと感じたのだった。




