第八十四話 謁見と宮廷魔導師
ケイマス直轄領から王都に戻ってきて、僕は一週間ゆっくりと……できなかった。
毎朝の訓練と勉強をしてゆっくり過ごそうかなと思ったら、シンシアお姉様やクリスちゃんが監視名目で遊びに来たりしていた。
更に王太后様や王妃様からもお茶に誘われ、ケイマス直轄領で何をしていたのかと聞かれた。
とはいえ、普段よりはゆっくりできたし、ハンナおばさんをはじめとする屋敷の使用人も僕の顔を見てホッとしていた。
そして、予定通り一週間後の謁見の日になった。
僕たちは、身支度を整えて王城へと向かった。
公式行事の際はいつもはスラちゃんだけ連れて行くのだが、今回はチビスライムたちも連れてきて良いといわれた。
間違いなく、チビスライムたちもケイマス直轄領での震災復旧で活躍したもんね。
僕たちは、ゴードン様と一緒に後から呼ばれて謁見の間に入ることになった。
「謁見が終われば、またいつもの日常に戻りますね」
「とはいえ、ルーカス様の結婚式も近い。暫くは行事も続くことになるだろう」
謁見の間の前でゴードン様と雑談していたが、ルーカス様の結婚式があるのをすっかり忘れていた。
ケイマス直轄領にいた時は、目の前で苦しんでいる人を助けるのに必死だった。
なお、軍の救援部隊による作業は順調に進んでおり、住民もとても感謝しているという。
「ゴードン司令官、並びにアスター男爵の入場です」
おっと、僕たちの名前が呼ばれた。
姿勢を正して、ゴードン様の後について謁見の間に入った。
僕の足元でスラちゃんたちがぴょんぴょんと跳ねながらついてきて、一部の貴族からの視線を浴びていた。
そして、絨毯の切れ目で膝をついた。
「一同、面を上げよ」
陛下の声で、僕たちは一斉に顔を上げた。
陛下は、僕とゴードン様の顔を見てから話を始めた。
「皆も知っていると思うが、王国直轄領ケイマスにて地震による災害が発生した。多数の住宅が倒壊し、多くの領民の命が危機に晒された。そんな中、危険を顧みず魔導船で現地に向かったのがゴードン司令官とアスター男爵だ。ゴードン司令官は周辺駐留軍からの派遣部隊を良くまとめ、アスター男爵は帝国との戦争でも発揮された類稀なる回復魔法で多くの怪我人を治療した」
陛下が僕とゴードン司令官の功績を伝えると、多くの貴族から感嘆の声があがった。
しかし、どうやら僕とゴードン様の活躍を苦々しく思っている貴族もいるようだ。
僕は何となく気配で分かったが、ゴードン様も陛下もその貴族の事を把握していた。
「元々ゴードンは帝国との戦争時の功績もあり、アスター男爵もスラム街での奉仕活動並びに犯罪者の摘発の功績がある。ゴードンは法衣男爵とし、アスター男爵は宮廷魔導師の一員とする」
「「承りました」」
ゴードン様と一緒に返事をしたけど、宮廷魔導師ってことはオーフレア様やローリー様みたいな存在になるってことなのかな。
いきなり言われたので、僕は状況を上手く把握できなかった。
周りの貴族も拍手をする中、なんと僕たちに敵意の視線を向けていたものの一人が前に進み出たのだ。
良く見ると、新年の夜会で僕を囲んで無理矢理縁を結ぼうとした横に大きい貴族だ。
前に出た貴族は、一瞬僕を睨みつけてから陛下に物申した。
「陛下、この件につきまして反対いたします。きっとアスター男爵は、その魔力で大きな地震をわざと起こしたに違いありません。ゴードン司令官もアスター男爵と仲が良いので、内通してい……」
「黙れ!」
陛下の一喝に、前に出た貴族だけでなくこの場にいる全ての人が静まり返った。
そして、陛下だけでなく全ての王族と閣僚が前に出た貴族を軽蔑の視線で見ていた。
「地震発生時、ゴードン司令官とアスター男爵は王城裏手で行われていた新型魔導船のお披露目式に参加していた。アーサー、ルーカス、閣僚、もちろん余もだ」
「あっ……」
陛下の見下すような視線を浴び、前に出た貴族は一瞬にして顔面蒼白となった。
しかし、既に時遅し。
陛下は、尚も冷静ながら冷たい声で話した。
「地震発生直後、お披露目式に参加した全てのものが会議室に集まり対策会議をしている。そして、アスター男爵は自ら危険を顧みず治療に行くと申している。余は、貴族当主としてアスター男爵に対策を命じた。この事は、全て公式記録として残っている」
「あ、あっ……」
この辺りの話は、調べれば直ぐに分かるレベルだ。
前に出た貴族は、僕と縁を結べなかった腹いせに適当なことを言ったのだろう。
カッとなって言ったのだと思うが、今は謁見の最中だ。
「アスター男爵と縁を結べずにいた腹いせだろうが、国の決定に対して横槍を入れた事になる。捕縛して、詳しく調べるように」
「「「「「はっ」」」」」
「あぁ……」
陛下の命を受けた近衛騎士は、直ぐに顔面蒼白で汗だくの貴族を連行した。
この結果を受け、僕に敵意の視線を向けた他の貴族も黙るしかなかった。
「余計なことを言ってきた馬鹿者がいたが、特にアスター男爵は何日も魔力切れを起こして気絶するまで治療していた。そして、王都に帰る際は多くの領民から惜別の声をかけられた。それが全てだ」
陛下の説明に、多くの貴族が耳を傾けた。
そして、再び大きな拍手が起きたのだった。
こうして謁見は終わり、僕とゴードン様は応接室に呼ばれた。
「やはりというか、貴族主義の連中は強引な手を打ってきた。ケンが台頭した事により、貴族主義勢力は大幅に勢力を削られている。だからこそ、無理矢理ケンと縁を結ぼうとしたり、ケンへの褒賞に口を出したのだ。全て裏目に出たがな」
陛下は、お菓子をもしゃもしゃと食べながら裏話をしていた。
僕もなんとなく想像がついたが、とにかく強引に色々としてきた。
当人は、失敗した時のことを全く考えていないようだけど。
「ケンを宮廷魔導師に推薦する声は、実は前からあった。今回のは良い機会だと言えよう」
「あの、僕はまだ魔法の訓練を受けている最中ですけど……」
「オーフレアより話を聞いている。既に普通の魔法兵では、逆立ちしても相手にならないとな」
僕の知らないところで、既に色々なことが決まっていたんだ。
ある意味、流石としか言えなかった。
すると、今度は王太后様と王妃様が僕に話しかけてきた。
「ふふ、この後はケン君の体の採寸を確認しないといけないわ。とっても楽しみだわ」
「ケン君に似合う、宮廷魔導師の服を作らないといけないわね。綺麗な髪の毛の色と、回復魔法のイメージが必要ね」
お二人ともニコリとしているけど、僕はお二人のやる気に気圧されていた。
更にメアリーさんとシーリアさんまで加わり、僕は衣装部屋に連れて行かれた。
そして、謁見よりも遥かに長い時間をかけて、四人の女性の着せ替え人形となったのだった。
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