第八十二話 救援部隊の到着と速攻で帰させられた兄
いよいよケイマス直轄領に王都から派遣された軍の部隊が到着する日になり、僕たちも朝から出迎えの準備をしていた。
スラちゃんたちは引き続きそれぞれの役目をしてもらうことになったが、治療は合体魔法が必要な人以外は殆ど終えたという。
とはいえ、新たに病気になったりする人もいるので、頑張って治療すると触手を振っていた。
すると、軍の部隊の到着よりも先に王都から小型魔導船が到着した。
治療兵が荷物を受け取りに王都に向かったのだが、新たにこの人も姿を見せていた。
「ルーカス様!」
「どうやら、部隊の到着よりも早く着いたみたいだな」
ルーカス様が小型魔導船から代官邸にやってきたので、僕はかなりビックリしてしまった。
直ぐに応接室に移動して、ルーカス様はゴードン様とアナザー様から報告を聞いていた。
「ケン君は、本当によくやってくれた。お陰で、多くの人の命を救うことができた。しかし、無茶は駄目だ。お祖母様も母上も、ケン君が何度も倒れたと聞いてかなり心配していたぞ」
ルーカス様も、かなり心配そうに僕に話しかけていた。
無理をしたのを、多くの人が聞いていたんだ。
でも、あの時は目の前の人を救おうと無我夢中だったんだよね。
今はそこまで無茶をしなくても良い状況に好転したし、ここからは多くの兵が助けてくれるはずだ。
「ゴードンとアナザーが立てた計画に沿って、軍も動けば問題ない。ケン君には悪いが、軍の兵が寝られる仮設住宅を作って欲しい」
兵はテント生活でもいいのだが、やはりキチンと寝られるところがあった方がいいという。
そういうことならと、僕も頑張ろうと思ったのだった。
ここで、兵が僕たちに声をかけた。
「失礼します、軍が到着しました」
「そうか。では、行くとしよう。ケン君も迎えに行くように」
ルーカス様の先導で、僕たちは席を立った。
そして代官邸前に到着した軍の前に並んだのだが、ここでいきなり問題が起きてしまった。
「おい、なんでケンが前に並んでいるんだ!」
部隊の後方から、兄がズンズンと僕の方に指を差しながら向かってきたのだ。
新兵はまたかよという表情で、上官は思わず頭が痛いという表情を見せた。
こういう時は偉い人の出番ということで、ルーカス様が一歩前に出た。
「ベンス、下がれ! ケンは、畏れ多くも陛下からの直接の命令を受け、ゴードンと共に小型魔導船で地震発生当日にケイマス直轄領に来たのだぞ。そして、毎日倒れるまで治療をしたのだ!」
「ぐっ……」
流石に王子であるルーカス様には勝てず、兄はすごすごと元の場所に戻った。
ようやく、上官も安心して僕たちに敬礼した。
「軍の救援部隊、ただいま到着しました!」
「うむ、遥々遠くから大義であった。休憩を取り、直ぐに活動に入るように」
「はっ、畏まりました」
到着関連の対応はこれで終わったのだが、こんなに直ぐに終わるのに兄のせいで貴重な時間が無駄になってしまった。
直ぐに代官邸で荷下ろしをし、怪我人などはシロちゃんとレモンちゃんが治療していた。
僕も兵のための仮設住宅を作らないと思い、直ぐに護衛の兵と共に行動を始めた。
因みに、兄が馬鹿なことをしたのもあり護衛の兵が三人に増えていた。
みんな忙しいのに、本当に申し訳ないと思ってしまった。
シュイン、ズゴゴゴゴ。
「ふう、これで人数分の仮設住宅ができました。土魔法製ですけど、三段ベッドも置いてあります」
「とても助かります。これなら、今夜から寝ることができます」
兵は全員寝袋を持ってきているので、雨風がしのげれば問題ないという。
トイレやお風呂に炊事場も完備したし、生活面も困らないはずだ。
直ぐ近くにある被災者向けの仮設住宅では内装工事が始まっており、トンカチなどを使う音も聞こえた。
因みに、敢えて兵の仮設住宅も近くに作っていた。
これは、兵が近くにいることによる治安維持対策も含んでいた。
ここから先は兵が対応するので、僕は一旦代官邸に戻った。
すると、兄がとんでもないトラブルを引き起こしていたのだ。
「何で、俺が瓦礫の撤去をしないといけないんだ! もっと楽な仕事に就けさせろ! あと、俺は貴族なのだから代官邸に泊まらせろ!」
「貴様、いい加減にしろ! 貴族だろうが、関係ないだろうが。しかも、貴様は貴族としての権限を殆ど停止になっているだろうが!」
「うるせー!」
兄が上官にたてついているのだが、なんというか言い訳がまるっきり子どもみたいだ。
上官がどんな説明をしても、兄は全く聞く耳を持たなかった。
興奮すると、兄は周囲のことなどどうでもよくなるんだよなあ。
すると、兄は僕を見つけるとズンズンと歩いてきたのだ。
「ケン、貴様魔導船で来たってな! 俺がこんなに苦労してやってきたのに、貴様はノコノコと魔導船で来やがって。それに大した仕事をしていないくせして、みんなにちやほやされやがって。死んで詫びろ!」
出た、兄お得意の「死んで詫びろ」が。
もはや対応が幼稚すぎて、僕もかなり呆れていた。
そして、忘れてはならない。
僕の側には、護衛の兵がいることを。
シュッ、ドサッ。
「ぐっ、何をする!?」
兄は兵によってあっという間に地面に抑えられ、縄で後ろ手に拘束された。
兄が屈強な兵に敵うはずもなく、文句を言うだけでされるがままだった。
実は、兄が僕に危害を加える行動をとったら直ぐに拘束するようにと命令が出ていたのだ。
そして、この兄の狼藉を見ていたものがいた。
「ベンス、貴様の行動は全て王都に連絡した。これより、武装解除して魔導船で王都に送る。厳しい取り調べがあると、覚悟することだ!」
「なっ!?」
ルーカス様をはじめとする偉い人たちを前にすると、やはりというか兄は大人しくなった。
兄は、そのまま小型魔導船へ連行された。
「皆さん、兄が大変申し訳ありません」
僕は、直ぐにルーカス様たちに頭を下げた。
もう、父親や兄のことで何回頭を下げたことだろうか。
「ケン君、頭を上げてくれ。とはいえ、こういうやり取りも何回目だろうか。奴は、明確な軍の命令違反な上に、父上の命令でやってきた協力者を侮辱したのだ。特殊訓練行きは免れないだろう」
ルーカス様も、思わず溜息をつきながら説明してくれた。
強制教育を受けるにしても、兄が理解できるかとても怪しかった。
因みに、特殊訓練に送られている父親は勉強がさっぱりできず、特殊訓練から抜けられる見込みが全く立っていないという。
僕としては、父親が表舞台に立たないでくれる方がとてもありがたかった。
「ケン君は、少し休んでくれ。後で、部隊が発見した街道の修復を行ってもらいたい」
僕には、まだやらないといけないことがたくさんあるんだ。
ルーカス様に言われ、改めて気持ちを切り替えたのだった。
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