第七十八話 ノーム準男爵家の慶事と地震特別対策
スラム街での奉仕活動は順調に進み、無事に春先までに予定箇所を終える事ができた。
スラム街の教会に勤めているシスターさんのみならず、スラム街の住民からもかなり感謝された。
やはり、スラム街は治療が受けられないので死亡率がとても高いという。
更に、積極的に孤児を保護した事も大きな事だった。
勿論、集められた情報を元に犯罪組織の壊滅を行った。
こうして僕達もホッとしたある日、エレンお祖父様とフリージアお祖母様の家であるノーム準男爵家に慶事があった。
「お腹の中に赤ちゃんがいるんですね」
「そうよ、とても不思議なことね」
シンシアお姉様の兄で、ゴライオンさんの奥さんのセリナさんの妊娠が発覚したのだ。
シンシアお姉様だけでなく、スラちゃんたちもセリナさんのお腹に耳を当てていた。
僕はそんなみんなのことを側で見ていて、僕の質問に答えてくれたフリージアお祖母様もニコリとしていた。
「予定では、秋頃に出産予定よ。無事に元気な赤ちゃんが生まれてくればいいわ」
「僕もとっても楽しみです。スラちゃんも、出産時にフォローすると言っています」
「回復魔法が使えるスラちゃんがいるのは、とってもありがたいことなのよ。出産は、どうしても命がけなのよ」
この世界では、出産時や出産後に亡くなる母子がとても多いという。
前世でも出産時に亡くなる母子がいるのだから、医療が発達していないこの世界だと尚更だろう。
もし何かあっても、スラちゃんならその場で治療できる。
きっと、出産時の大きな戦力になるはずだ。
「僕は王城に行かないといけないので、これで失礼します」
「ケン、またね」
僕たちは、ノーム準男爵家の皆さんに挨拶をして屋敷を後にした。
どうも、新しい魔導具の件で話があるという。
何だろうなと思いつつ、僕は王城に向かった。
すると、王城裏手に案内され、目の前にとんでもないものが現れたのだ。
「こ、これは、もしかして開発していたという魔導船?」
「正解だ。これは、試験的に完成した三人乗りのものだ」
答えてくれたヘルナンデス様だけでなく、陛下、アーサー様、ルーカス様をはじめとする偉い人たちも集まっていた。
飛行船の小型バージョンで、操縦室と搭乗室に分かれていた。
何だか近未来的なデザインで、しかもこの王城裏手まで普通に飛んできたという。
「王国直轄領のケイマスまで、約半日で到着しました。日帰りで王都まで戻ることが可能です」
「うむ、よくやった。ケイマスまで、馬車なら三日かかる。まだ大人数の搭乗となると課題があるが、第一弾はクリアと言えよう」
ルーカス様が父親である陛下に報告していたが、何とルーカス様自ら小型魔導船に乗り込んだという。
安全性能も付いていて、万が一の時は飛行船モードで航行するらしい。
「あの、魔石への魔力充填はどうしているんですか?」
「軍の魔法兵一人で十分なレベルだ。念のために、予備の魔石も積み込んでいる」
ヘルナンデス様は、その辺りもバッチリと対策していると自信満々だった。
サンプルで話を聞いたところ、例えばチビスライムのリーフちゃん一匹で十回は航行できるらしい。
「安全面を考えると、過剰なスピードは出せないかと。引き続き研究していきます」
「技術革新というのは、積み重ねが大事だ。失敗を恐れず、ドンドンとチャレンジするように」
おお、ルーカス様に言った陛下の言葉がとてもカッコよかった。
失敗は成功のもとということを、陛下はよく理解していた。
そして、王城の裏手から会議室に行って話をしようとした、その時だった。
グラグラグラ、グラグラグラ。
「「「「「地震!?」」」」」
そんなに大きくないけど、突然地震が起きたのだ。
みんなで何が起きたのかと思ったが、被害状況を確認するために改めて会議室に向かった。
「報告します。ケイマス周辺で大きな被害が出ているとの連絡がありました。負傷者多数のため、代官より救援要請がありました」
「ケイマスでは、建物の半分近くが倒壊しているとの連絡を受けております。また、余震活動も活発です」
会議室を対策本部とし、次々と報告が上がってきた。
先程話に出てきた、ケイマス直轄領が被害の中心らしい。
ケイマスは街道沿いにある交易都市で、王都へも中継地として多くの荷物を運んでいるという。
地震による直接の被害も心配だし、交易が途絶えることにより発生する物資不足の二次被害も心配だ。
「既に直轄領駐留軍は、総出で被害の救援にあたっております。しかし、圧倒的に人手不足です」
「直ぐに軍に出動をかけろ。物資も、できるだけ運べ」
直ぐに、陛下も指示を出した。
迅速に物資を運び、多くの人を救わなくてはならない。
「陛下、僕も行きます。あの、小型魔導船に乗れば直ぐに現地に行けます。スラちゃんたちと一緒に治療できますし、魔法袋もあるので一度に沢山の物資も運べます」
「いや、確かにそうだが……」
僕のお願いを聞き、陛下は少し考え込んだ。
そして、目を瞑って真剣に悩んでから僕に命令を下した。
「やむを得ない。貴族当主のアスター男爵に、特殊作戦参加の命令を下す。できるだけの物資を、ケンに持っていかせるのだ」
僕は未成年でまだ上級官僚としても働いていないため、陛下は僕に貴族当主として命令を下した。
そして、多くの人が一気に忙しく動き始めた。
準備に時間がかかるので、僕たちは一旦屋敷に戻って出発の準備を整えることにした。
「できるだけの荷物を準備しております。簡易テントや寝袋などもありますが、本当にお気をつけて下さい」
ハンナおばさんをはじめとする屋敷の使用人たちが、色々な準備を整えてくれた。
大変な現場に行くのでみんなからかなり心配されたが、今は頑張らないといけないという思いだった。
手早く荷物を魔法袋に入れて、僕たちは再び馬車に乗って王城に向かった。
王城に着いて直ぐに裏手に停まっていた魔導船の側に行くと、沢山の荷物が積まれていた。
僕は、手早く魔法袋に荷物を収納した。
すると、この人が僕に声をかけてきた。
「部隊の指揮もあるから、流石にケンだけ現地に行かせられない。それに、ケイマスに知り合いもいるのでな」
荷物を整えていたのは、ゴードン様だった。
確かに、追加部隊の指揮も必要だし、ゴードン様なら適任かもしれない。
それに、ゴードン様は通信用魔導具の携帯を許可されているし、素早く連絡を取ることができる。
更に、この人たちも僕たちのところにやってきた。
「ケン君、本当に気をつけてね。私たちも、王都でできる限りのことをするわ」
「毎日必ず連絡を寄越すのよ。そして、元気に帰ってくることよ」
王太后様と王妃様は、僕のことを心配そうに抱きしめた。
確かに、元気に帰ってくるまでが特殊作戦だね。
「では、陛下行ってきます」
「行ってきます」
「二人とも、頼んだぞ」
見送りに来た陛下に敬礼し、僕たちは魔導船に乗り込んだ。
そして、搭乗室の席に座ると、直ぐに魔導船が浮かび上がった。
「出発します。揺れますのでご注意下さい」
キィーン、シュドーン。
アナウンスと共に、魔導具の推進力が上がった。
魔導船の初作戦に搭乗することになったが、僕の意識は既に被害地域のことでいっぱいだった。
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