第七十四話 奉仕活動で大事件勃発
翌日、僕はスラちゃんたちと共に身支度を整えて屋敷から大教会に向かった。
大教会に到着すると、いつもと違うあることに気がついたのだ。
「うーん、なんだろう。いつも以上に、貴族令嬢が沢山いるね」
僕の腕の中にいるスラちゃんたちも、なんだろうって不思議そうに思っていた。
ザワザワとしていて、誰かを探しているみたいだ。
グルッ。
すると、初めて見た貴族令嬢たちが僕のことを一斉に見たのです。
しかも、ジリジリとなんとも言えない笑みを浮かべながら僕に近づいてきた。
正直言うとかなり怖い……
「ケン、おはよー!」
「ケン君、おはよう!」
ここで、シンシアお姉様とクリスちゃんが僕に挨拶をしてきた。
重苦しい空気が一瞬にして軽くなり、僕たちはホッと胸を撫でおろした。
すると、クリスちゃんが僕の頭の上に乗っているレモンちゃんに気が付いた。
「ケン君、頭の上にいる小さいスライムは?」
「レモンちゃんっていって、聖魔法が使えるんだよ。屋敷の池にいるスライムだよ」
「わあ、そうなんだ。そういえば、ケン君の屋敷には沢山の小さなスライムがいるもんね」
レモンちゃんは、触手をふりふりとしながらクリスちゃんとシンシアお姉様に挨拶していた。
すると、僕たちを見ていた多くの貴族令嬢が微笑ましいものを見たと、ほっこりしていたのだ。
本当に何だろうと思っていたら、新たに姿を現した人が答えを教えてくれた。
「ああ、これはケン君の噂を聞いてやってきた貴族令嬢ね。ケン君がアーサー様とメアリーさんの結婚式でとても素晴らしいことをしたと、貴族の間で噂になっているのよ。流石は【蒼の治癒師】ね」
僕の頭をポンポンと撫でたシーリアさん曰く、大教会を綺麗にした件と騎馬隊と一緒に馬に乗った件が凄いことになっているという。
もう何回も同じ話を聞いたけど、まさかここまで凄いことになっているとは思わなかった。
「それに、大教会を綺麗にしたのは僕が魔法の範囲を間違えちゃったことだし、騎馬隊の件も父親が落馬しなければなかったことです」
「確かに、事実を深堀りすればそういうことにもなるわ。でも、貴族は娯楽に飢えているのよ。帝国から王国を救った【蒼の治癒師】が、また奇跡を起こしたのよ。一目見ようと、普段来ない奉仕活動に来たって訳ね」
シーリアさんが僕から後ろの方に視線を向けると、貴族令嬢は少し顔を赤くしてサッと視線をそらした。
シーリアさん、わざと大きな声で話しましたね。
でも、今のところ悪い感じの人はいないし、僕としては治療の邪魔をしてくれなければ良いなと思った。
「ふふ、大丈夫ですわよ。これを機に、奉仕活動を手伝ってくれればいいのですわ」
メアリーさんも僕の側に来て、そしてにこやかに周囲を見回した。
とはいえ、王太子妃様が言った言葉は意外と重いかもしれない。
実際に、すすすっと視界からフェードアウトした貴族令嬢もいた。
「さあ、奉仕活動を始めましょう。今日は、私も治療に参加するわ」
メアリーさんの声で、多くの人が動き出した。
今日は他の王族は参加せず、メアリーさんが炊き出しを仕切ることになった。
スラちゃんはメアリーさん、シロちゃんがシンシアお姉様、レモンちゃんがクリスちゃんのところにいった。
スラちゃんなら、治療しながらメアリーさんのことを守ることができる。
念の為に、アクアちゃんがメアリーさんに、そしてリーフちゃんがシーリアさんについたのだった。
シュイン、ぴかー!
「おばあ様、お加減は如何でしょうか?」
「おやまあ、胸の痛みがすっかり無くなったよ。ありがとうね」
スラちゃんの治療は抜群なので、メアリーさんと一緒にどんどんと治療を行った。
騎馬隊のパレードでメアリーさんを見たという人も多く、とても美しかったと絶賛していた。
「おじいちゃん、怪我は治ったよ!」
「おお、小さいのによく頑張るのう」
クリスちゃんとレモンちゃんのコンビも、中々良い感じで治療を行っていた。
レモンちゃんは、毎日屋敷で魔法の訓練を行っていた成果を発揮していた。
シンシアお姉様とシロちゃんも、良い感じに治療していた。
シュイン、ぴかー!
「これで、腰の痛みは良くなりましたよ」
「おお、流石は【蒼の治癒師】だ。手際よい治療だ」
そして、今日一番忙しかったのは間違いなく僕だった。
元々大教会で奉仕活動していて顔も覚えられていたところに、先日のアーサー様とメアリーさんの結婚式のことがあった。
王都で話題の「蒼の治癒師」に会えて嬉しいと、僕に握手を求める人もいた。
でも治療に訪れた人が怪我や病気を負っていたのは間違いなく、僕は治って欲しいと治療を行っていた。
しかし、遂に事件が起こってしまった。
「きゃあ、あの有名なケン君ね。握手して下さい! わあ、とっても可愛いわね」
「あの、治療……あっ、悪いところは全くないです」
「そんなの関係ないじゃない。私は、ケン君に会いに来たのよ。うーん、抱きしめてあげたいわ」
なんと、もの凄く化粧に気合を入れたおばさんに、無理矢理抱き着かれてしまったのです。
しかもかなり力が強く、強引に頬ずりまでしてきたのです。
香水の匂いもかなりきつく、気持ち悪くて力が抜けてきてしまった。
「ちょっと、あなた何をしているの。二人を引き離しなさい!」
「「「はっ」」」
すぐさまシーリアさんが兵に命じて僕とおばさんを引き離そうとした。
しかし、おばさんもただでは転ばなかった。
「ちょっと、ケン君を堪能しているのに何をするのよ!」
「ぐはっ」
「縄を、縄を持ってこい!」
何と、おばさんは僕を引き離した兵を殴ったのです。
もの凄い大捕り物になり、その間に手を床につけている僕の背中をシーリアさんが撫でてくれた。
シュイン、ぴかー!
「ケン君、大丈夫?」
気持ち悪いのが良くなったと思ったら、クリスちゃんが心配そうな表情で僕を見ていた。
どうやら、レモンちゃんが僕に回復魔法をかけてくれたようだ。
そして、遂にこの人の怒りに火が着いてしまったのです。
「貴方は、いったい何をしているのですか? ケン君に羨望を抱いたとしても、迷惑をかけてはいけないわ。そんなことも分からずに、盲目的に動く事はケン君を馬鹿にしている事なのよ」
「お、王太子妃様!」
いつも朗らかに対応しているメアリーさんなのに、初めてもの凄く怒っていたのだ。
クリスちゃん、シンシアお姉様、シーリアさんもかなり怒っていて、僕に抱きついたおばさんは今更ながらヤバい事をしたのだと理解した。
しかし、既に時遅し。
メアリーさんは、怒りを含んだ声で兵に指示を出した。
「アスター男爵への暴行で、この女性を連行するように」
「「「「「はっ」」」」」
「いやあああ!」
おばさんは逮捕された事実に再び大暴れしたが、屈強な兵から逃れることはなかった。
その間に、治療に並んだ列から結構な数の女性が逃げるように列から離れていった。
更に、多く来ていた貴族令嬢も半分姿を消したのだった。
「ケン君、大丈夫かしら?」
「レモンちゃんが回復魔法をかけてくれたので、もう大丈夫です」
「これは、今日奉仕活動を仕切っている私の責任ね。今日は、念の為に兵をケン君の両脇につけるわ」
メアリーさんの申し訳なさそうな声に、僕の方が逆に申し訳なかった。
僕の両脇についてくれた兵は顔見知りで、僕もかなり安心した。
この一件以降、極端に僕に接する人は殆どいなくなった。
そして、メアリーさんは優しいだけでなく時には毅然とした態度で対応すると評価をあげたのだった。
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